町山智浩 『この世界の片隅に』徹底解説

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町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』で映画『この世界の片隅に』を徹底解説。すでにこの映画を見た赤江珠緒さん、山里亮太さんとその素晴らしさや隠された意味について話していました。



(町山智浩)で、今日はですね、本年度のレコード大賞……じゃなかった。間違えた(笑)。町山大賞の発表です!

(赤江珠緒)町山大賞? わー!

(町山智浩)『この世界の片隅に』! アニメーション映画ですね。

(赤江珠緒)ここに来て、来ましたね!

(町山智浩)はい。もう、これは1億円もらっても、これにあげたいという。よくわからないですけど。

(赤江珠緒)うわーっ(笑)。

(山里亮太)どういうシステムか、わからないですけども。

2016年 町山大賞受賞作品

(町山智浩)そういうシステムなんですけども(笑)。で、これはどういう映画か? といいますと、こうの史代さんという人の漫画の映画化なんですが。ざっと説明すると、第二次大戦中の広島を舞台に……こうのさん自身が広島の方なんですね。で、呉にお嫁に行った18才の女の子、すずちゃんの日常の物語です。ただですね、この映画がすごいのはまずですね、普通のファンの人によって作られた映画なんですよ。『この世界の片隅に』って。

(山里亮太)はい。

(町山智浩)これ、監督が片渕須直という監督なんですか。この前に作った映画が『マイマイ新子と千年の魔法』というアニメーションで。で、そちらの方もね、ほとんどメディアで取り上げられなくてひっそりと公開されたんですが、口コミで「いいよ! いいよ!」という感じで話題がひろがっていって、最終的にはカルトヒットで、かなりロングランになったというアニメーションで。で、今回、『この世界の片隅に』もインターネットで「この映画を見たいという人、お金を寄付してください」っていうクラウドファンディングでお金を集めて。で、そのお金を使って短い短編のテストフィルム――パイロットっていうんですが――を作って。で、それを出資してくれる人に見せて、出資を募ったと。

(赤江珠緒)あ、そうなんですね。じゃあ本当に草の根というか。

(町山智浩)草の根で作られた、本当に手作り映画なんですけども。TBSラジオもその時に、パイロットを見て出資しているんですね。で、この映画は本当にすごいんです。

(山里亮太)いやー、僕らも……

(町山智浩)ご覧になりました?

(山里亮太)はい。見ました。むっちゃくちゃよかったです!

(赤江珠緒)よかった。本当によかった。

(町山智浩)涙ボロボロでした?

(赤江珠緒)はい。もう泣きました。

(町山智浩)ねえ。本当に素晴らしい映画なんでね。で、町山大賞ってなんの権威もないです(笑)。

(赤江珠緒)(笑)。なんて言うんだろう? やっぱり戦争を題材にした映画とかアニメとか、いろいろとありますけども。ちょっとまた、一味違うというかね。

(町山智浩)違うんですよ。普通に生きていた女の子の目から見ているんですね。で、この映画、見てたぶんいちばんみんな気がついたのは、ものすごいテンポがいいんです。

(山里亮太)そう!

(町山智浩)パッパッパッパッて進んでいくんですよ。『マッドマックス 怒りのデス・ロード』タイプの編集ですよね。で、いままでだったらゆったりゆったり行くと思うんですけど、すごいスピードで話が進んでいくんですけど……ゆったりしているんです。

(赤江珠緒)そう。

(山里亮太)なんでなんですかね? あれね。

(赤江珠緒)ねえ。登場人物のすずちゃんがちょっとおっとりしててね。

(町山智浩)おっとりした、本当にトロい……「トロくせえな、このアマ」っていう感じの女の子なんですけども(笑)。

(赤江珠緒)そこまで言わんでも(笑)。

(山里亮太)いや、それがまたいいのよ!

(赤江珠緒)ちょっと夢見がちなね、すずちゃん。

(町山智浩)ホワーっとして、ふんわかしててね。ふんわりと、笑っているんですよね。

(山里亮太)その子がね、時折っていうか、パッと見せるすごいところとかが、もう……

(町山智浩)そうなんです。で、失敗するじゃないですか。このすずちゃんが。失敗する時、「ありゃ~」って顔をするでしょう? あの「ありゃ~」顔! 僕、いま絵に描けるんですが……

(山里亮太)絵に描いてますよ!

(町山智浩)絵に描けるんですけども。この顔! 「ありゃ~」顔! これ、テレビじゃなくてすいません。全くラジオで意味のない……

「ありゃ~」顔


(赤江珠緒)(笑)

(町山智浩)「ありゃ~」顔がもうかわいいんですよ。このすずちゃんの。ねえ。で、このフワフワの女の子の声を吹き替えているのが、能年玲奈ちゃん……いま、「能年玲奈」ちゃんって言っちゃいけない。

(赤江珠緒)改め、のんちゃんですね。

(町山智浩)そう。『千と千尋(の神隠し)』状態になっていますけども。

(赤江・山里)(笑)

(町山智浩)もう本当に一体となっているんですよ。2人が。

(赤江珠緒)そうそうそう!

(山里亮太)ぴったり!

(町山智浩)ぴったり! 本人が出ているような感じですよ。本当に。

(赤江珠緒)で、言葉も広島弁なんだけど、すっごくお上手で。

(町山智浩)すごく自然。ホワホワ、フワフワしたね(笑)。

(赤江珠緒)柔らかい感じのね。

(町山智浩)で、すごく困ることがあっても、「困ったなあ~」って言って笑っているんですよね(笑)。それがまた、いいんです。まあ、第一の魅力は声の魅力ですね。これね、魅力がいっぱいある映画で、それを順番に言っていきますと……

(山里亮太)はい。

(町山智浩)まず、そのすずちゃんは15才の時。1941年に太平洋戦争が始まるんですよ。で、1944年に18才になって、会ったこともない男の子と結婚をすることになるんですね。

(赤江珠緒)見初められて。

(町山智浩)見初められて。自分は覚えていないんですけど、「一目惚れした」っていう男の子のところへ。それが、広島からちょっと離れたところにある街で、呉市にお嫁入りに行くんですけど。またこの子、すずちゃんがもう本当にボケてて。自分が嫁入りする嫁入り先の名字も覚えていない(笑)。自分がどこの家にお嫁に行くのかがわかっていないっていう(笑)。

(赤江珠緒)そうそう(笑)。住所も「ええと、こちらのお宅は住所、なんでしたっけ?」みたいな。

(町山智浩)そうそうそう。で、自分が誰に結婚を申し込まれているかもわかっていないのに、行くんですよ。とにかく逆らわないんですよ。状況に。で、ニコニコと「はは~」とか言いながら。「困ったなあ~」って言いながら、どんどん状況に流されていく子なんですけども。それで、呉っていうところがね、海軍の街なんですよね。で、海軍の基地もあるし、工場があって、軍港もあって、戦艦大和もそこで作ったところなんですね。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)で、そこで旦那さんが働いているんですね。で、その呉と瀬戸内……この女の子は広島出身なんですよ。で、最初に住んでいる広島の海とか、もう瀬戸内の風景がすっごいきれい。

(赤江珠緒)そうですね!

(町山智浩)この映画の魅力のふたつ目は風景の美しさです。

(山里亮太)表現の仕方がいいんですよね! また景色の。

(赤江珠緒)当時の広島ってこんな感じなんだっていうのが。

(町山智浩)そうそう。デパートがあって、サンタさんがいて、おもちゃがあって、お菓子があって。本当にいまと全く変わらない広島なんですよね。戦前の広島はね。で、それもきれいだし。そうそう。広島の街とか呉の街は実際に写真を撮ったものを元にしただけじゃなくて、そこに住んでいた人とかにインタビューをしていって、全部本当にあった通りに再現しているらしいんですよ。監督が。

(赤江珠緒)やっぱり広島は焼けたものがほとんどだから、写真とかもなかなか残っていない中で、いろんな方の話を聞きながら再現されたそうですね。

(町山智浩)あのね、道を普通に歩いている人とかも全部、特定しているらしいんですよ。

(赤江珠緒)あ、このお店にこういう人たちがいて……って?

(町山智浩)そうなんですよ。存命している人たちにインタビューしてきて。ただのモブじゃない、群衆じゃないらしいんですよ。

(山里亮太)へー!

(町山智浩)これはまあ、片渕監督がすごいこだわりの人なんで。で、またその風景がすごくきれいなのは、すずちゃんは水彩画を描くのが大好きなんですよ。絵を描くのが大好きで。で、彼女が瀬戸内の風景を書いた絵のまんまのような風景なんですね。この映画の風景が。水彩画のようなね。で、それがまたほんわかと、淡い色で。で、線も柔らかいですね。人の体の。

(赤江珠緒)そうですね。

(町山智浩)で、その柔らかい、淡い感じがすごいきれいなんですよ。

(赤江珠緒)でね、瀬戸内――私も兵庫県なんで、瀬戸内の方ですけど――瀬戸内の海の色合いってあんな感じなんですよ。夕焼けとか夕陽がかかると、あのあたりはやっぱり穏やかなので、同じ海でも全然違って。あの色合いなんですよ。本当に。

(町山智浩)ああー。あれ、でも濃い青ですよね? かなりね。

(赤江珠緒)うん。で、そこにオレンジがフワーッとかかったような、あの柔らかい色合いなんですよ。海が。

(町山智浩)ああー。その海と空とね。青い空と白い雲の風景がすごくきれいで。あと、すごく動物とかね……ヒバリが鳴きながら空を飛んでいったり、白鷺がいたり。あと、虫がすごくいっぱい出てきたの、気がつきました?

(山里亮太)あの、アリンコ?

(赤江珠緒)ああ、そうね。アリンコね。

虫の描写の意味

(町山智浩)アリンコのシーンも笑うんですけど。あと、トンボ。ミツバチ。で、チョウチョ。あと、カブトムシとか出てくるんですけど、それがね、全部演出でそのシーンの裏の意味を描いているんですよ。よく見ると。

(山里亮太)ええっ?

(町山智浩)この映画ね、すごいのは僕、3回見直したんですけど、3回ごとに新しい発見があるんですよ。

(赤江珠緒)そうですか!

(町山智浩)たとえば、砂糖がなくなっちゃうシーンがあるんですけど。ネタバレしないように言いますけども。そうすると、その時に甘い木の蜜を吸っているカブトムシが一瞬映るんですよ。カブトムシは甘い蜜を舐めているのに、なぜ人間が砂糖も食べられない状況なの?って。戦争ですけども。

(赤江珠緒)ああーっ! そっかー!

(町山智浩)そう。人間がひどいことをやっていると、楽しくチョウチョとかトンボが飛んでいるんですよ。

(赤江珠緒)あっ、そうだ。そう。で、いま戦争中だけど、夏はきているし。本当に普通の生活っていうか、自然は普通通りにやっているのに……みたいな。

(町山智浩)自然は関係ないよっていうね。まあ、いろんな意味が虫に込められているんで。虫ファンは……違うか(笑)。

(山里亮太)あ、虫ファン、いますよ。ここに。

(赤江珠緒)うん。わかる、わかる。

(町山智浩)で、もうひとつね、魅力はね、これ戦時中の食料が欠乏している生活なんですけども、楽しそうに描いているんですよ。

(赤江珠緒)そうですね。うん。

(山里亮太)笑えるところ、ありますもんね。食事のところで。

(町山智浩)そうそう。もう食べ物は本当になにもないから、途中から道端に生えているタンポポを抜いて、それを料理にしなきゃなんないような状況になるんですけども。でも、その時にすごく楽しそうに工夫して、「どんな料理を作ろうかしら?」って。このすずちゃんは。で、まな板をね、あごの下に入れてバイオリンを弾くようにしてトントントントン……って切って、音楽を奏でているような遊びをしながら切っていくところとか。本当は食べ物は全くなくて、もう飢えているにもかかわらず、そこのところで楽しもうとするんですよ。すずちゃんは。

(赤江珠緒)そうだ。

(山里亮太)戦争を描いているのに、「うわっ、悲しいな。戦争って怖いな」という印象をあんまり、押しつけてこないんですよね。

(町山智浩)それは、キャラクター本人たちがそう思わないようにしているからなんですよ。そう思ったら、おしまいじゃないですか。だから、楽しく生きようとしていて。だってその時に食べているのって、道端のタンポポと、大根の皮と、梅干しの種ですよ。

(山里亮太)そうだ。

(赤江珠緒)で、スミレをお味噌汁に入れて……みたいな。

(町山智浩)そうそう。スミレの花もお味噌汁に入れて、お味噌汁に紫の花が浮かんでいるんですよ。で、考えてみたらこれ、地獄の飢餓状態なんだけども、それを楽しそうに切り抜けようとするんですよ。

(赤江珠緒)そう。だからね、この映画を見ていて、自分のおじいさん、おばあさん。祖父母も、ああ、こういう生活をしていたんだろうな。場所は違えど。あの時代の人たちってこうだったんだなって。

(町山智浩)すごい調べたらしいんですよ。これは原作者のこうのさんが調べたらしいんですけど。ただこれ、『とと姉ちゃん』の中に出てきた『暮しの手帖』で戦時中の暮しの手帖っていうのが出たじゃないですか。いろんな人の声を集めた。たぶん、ああいったものが残っているんで、それがたぶん反映されていると思うんですけども。あと、僕がすごくいちばん泣けたのはね、スイカやキャラメルが要するに贅沢品として禁じられているじゃないですか。

(山里亮太)はい。

(町山智浩)スイカなんてそこらへんに植えればいいのに……要するに、贅沢品だから植えちゃいけないんですよ。だからね、スイカやキャラメルを絵に描くんですよ。すずちゃんが。絵が上手で、絵が大好きなので。彼女はなんでも、辛いことは絵にしていくことでその辛さを乗り越えていくんですよね。それを見るとみんな、「美味しそうだね」ってその絵を見て我慢するっていうところが泣けるんですよ!

(赤江珠緒)ねえ。

(町山智浩)ただ、その絵を描いていると憲兵が「スパイだろ!?」って来るんですよ。

(赤江珠緒)そうそうそう!

(山里亮太)で、その「スパイだろ!?」ってなった後のやり取りも、すごいんですよね。

(町山智浩)そうそう! いいんですよ。まあ、あんまり言えないですが(笑)。で、一生懸命、絵を描くことしか楽しみがないのに、「スパイだろ!?」って来るところとかね、怖いんですけど。ただ、怖いだけじゃなくて……それでNHKの朝ドラだと、「戦争って、いけないんです!」とか言うじゃない? 後知恵で。戦争がいけないっていうことになった後の、戦後民主主義の後知恵で、「戦争っていうのはよくない!」とかってヒロインが言ったりする。「そんなことは、よくないと思います!」とか言ったりするんだけど、それはこの映画では、ない。

(赤江珠緒)ないですね。

(町山智浩)それは、後知恵ですよ。その時はそんなこと、みんな思っていなくて、なんとかその状況を、なんとか生きようとしていたと思うんですよ。だからそれがリアルなんですよ。この映画は。

(赤江珠緒)そうですね。なんとか普段の生活をしようとする。そこですもんね。

(町山智浩)そうそうそう。だからリアルさで言うとね、これね、さっきから聞いている人で、たとえばスタローンの映画とか好きな人は「関係ねえや!」とか。『ガンダム』を好きな人とか「関係ねえや!」って思うかもしれないですけど。この映画は『ガンダム』が好きな人、絶対に見るべき映画なんですよ。『艦これ』見る人も、見るべきなんですよ。『ガルパン』とか好きな人も、見た方がいいですよ。

(山里亮太)ああーっ! 兵器出てきますもんね。

(町山智浩)兵器描写が超リアル! すっごいですよ。

(山里亮太)大和とか、めっちゃくちゃ……

超リアルな兵器描写

(町山智浩)大和とかもリアルだし、すっごいきっちり描き込んである上に描写がリアルで。米軍機が、要するに空襲しに来るんですよね。で、それをこっちから高射砲、高角砲っていうので撃ち落とそうとするんですけども、空中で砲弾が爆発するんですよ。それで、その破片で敵機を落とそうとするんですけど、その破片が地面に降ってくる感じがすっごいリアルで。ピュンピュンピュンピュン!って降ってきて、瓦とかを打ち破ったりとか。あと、米軍のB29爆撃機が飛んでくる時にB29っていうのはものすごい高い空を飛んでくるんですよ。で、あまりにも高すぎて、日本軍はそこまで上がれないんですよ。だからもう、どうしようもないんですけど。すごく高いかららしいんですけど、ターボプロップエンジンっていうエンジンの独特の飛行機雲が出ているんですよ。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)だからあのシーンで、「あれは、初めて見る!」って言うんですよ。

(山里亮太)言ってました! 言ってました!

(赤江珠緒)ああー、そうなんだ。

(町山智浩)すっごいそういうところがすごくて。いちいち、これは監督の片渕さんがもともとそういう人なんですよ。この人は『魔女の宅急便』のスタッフだったし、そういうメルヘンチックな映画も得意なんですけども、その一方で『BLACK LAGOON(ブラック・ラグーン)』っていうものすごいリアルな銃撃戦アニメも監督していて。しかも、『エースコンバット』っていう戦闘機の空中戦ゲームのアニメの監督もしている人で。この人、航空マニアで。すっごいマニアなんですよ。

(赤江珠緒)あっ、そうか!

(町山智浩)だから戦闘シーン、超リアルなんですよ!

(赤江珠緒)たしかに。ねえ。

(町山智浩)機銃掃射のシーンとか、すごくリアルで。甘く見ちゃいけないっていう感じになっているんですよ。

(赤江珠緒)そうか。で、すずさんの義理のお父さんがね、「日本のエンジンがいい」みたいなね。

(町山智浩)あ、そうそう。いま、ネタバレをするのかと思って、俺はすごくビビりましたが(笑)。はい。で、どんどんどんどん戦争がひどくなっていって、追い詰められていくんですね。っていうのは、呉は軍港だから、ものすごい量の爆撃なんですよ。あれを見ると、毎日のように爆撃されて。あの爆撃の日にちとか、空襲の状況は全部事実通りなんですって。天候の状況から、全部。

(赤江珠緒)寝てられないぐらいですもんね。最後の方ね。

(町山智浩)そう。だから、焼夷弾じゃないんですよ。ものすごい何トン級の爆弾をバンバンバンバン打ち込んでくるんですよ。戦艦を壊すためだから。で、もうおかしくなっちゃうわけですよ。それがずーっと続くから。で、こう言われるんですよね。「呉はもうこんなに爆撃されて大変だ。実家のある広島に帰った方がいいよ。8月6日はお祭りだから」って言うんですよ。

(赤江珠緒)そうですね。これがもう、もう……うん。

(町山智浩)8月6日ですよ。

(赤江珠緒)そうなんですよ。いま、わかっている人からしたら、広島……

(町山智浩)ゾッとするんですよ。それを聞いた瞬間に。だからその、能年ちゃんの『あまちゃん』は3月11日に向かって突き進む話だったんですよ。で、この『この世界の片隅に』は8月6日に向かって突き進む話なんですよ。だから、見ていてものすごい……見ている方だけ、サスペンス。本人たちはあまり感じていない。

(赤江珠緒)そうそうそう。当時の人たちはね。「呉は大変だ」っていう話で。

(町山智浩)そう。だからもう、言いたくなりますよ。「すずちゃん、ダメだよ!」って。

(山里亮太)「志村、後ろ!」みたいな感じで。

(町山智浩)そうそうそう(笑)。

(赤江珠緒)そうそう。みんなそうですよね。

(山里亮太)みんな思ってましたもん。「ダメ!」って。

(町山智浩)そうなんです。いろいろね、言いたくなるんですよ。画面を見ていると。たとえば、戦争に行くことになった兵隊さんに対して、みんなが「おめでとう!」って言うんですよね。「バンザイ!」って言うんですよ。「バンザイじゃねえだろ、この野郎!」っていう。「おめでとうじゃねえだろ、お前! 死にに行くんだよ!」っていう。でも、みんなわかっているんですよ。その時。わかっているんだけど、その嘘。インチキの中で生きているんですよね。わかりつつも。逆らったってしょうがない。この映画、人前で泣くシーンがないんですよね。

(赤江珠緒)ああー、そっか。畑で1人で……とかだ。

(町山智浩)泣けないんです。戦争とかで人が死んだ時に泣くっていうことは、反戦だから。人前で泣くことを許さなかったんです。当時は。戦争に反対している。戦争のことを嫌がっているの?って言うことになるから。だから、身内が殺されても、影で、誰もいないところでしか泣けないんですよ。これはひどい……

(山里亮太)そういうリアル。

(町山智浩)あんまりひどいから、すずちゃん、最初はホワーっとしていて、ポワーっとしていたのに、だんだんだんだん、笑顔がなくなっていくんですよ。で、とうとう最後の方で……これは、だからネタバレでもなんでもないから言いますけども。ずーっとほんわか、ポワーっと笑っている子でいたかったよ!って。

(山里亮太)そうだ!

(赤江珠緒)……そうね。そうね! これ、ちょっと見た我々も「ううっ……」ってなりましたよ。そこね。

(町山智浩)もうなんにも逆らわない。世の中に逆らわない子だったのに、「なぜこんな暴力に屈しなきゃいけないの!」って。そこまで、この子に言わせるか!? と。すっごいですよ。これ。で、主題歌、ちょっとオンしてもらえますか?

(赤江珠緒)はい。

(主題歌が流れる)

(赤江珠緒)また、これが泣けるのよ!

コトリンゴ『悲しくてやりきれない』



(町山智浩)これですね、主題歌はコトリンゴさんが歌う『悲しくてやりきれない』という歌なんですけども。この歌は、元歌が1968年のフォーク・クルセダーズっていうフォークバンドが作った歌なんですけども。これ、もともとは最初は『イムジン河』という歌を出すはずだったのが、代わりに作った歌なんですよ。どうしてか?っていうと、『イムジン河』っていうのは北朝鮮の歌なんですよ。で、北朝鮮を流れる川なんですよね。で、その歌詞の中で「誰が祖国を2つにわけてしまったの?」ていう歌詞が出てくるんで、南北朝鮮の分断について歌っているということで、レコード会社が「これは非常に政治的な論争を呼ぶから、危険だから出すのをやめよう」って急遽発売中止にして。すぐその場で曲を作れと言われて。



その時に、フォーク・クルセダーズの人が、その時の気持ちをそのまま歌ったのが『悲しくてやりきれない』。「なんでこんなところで、こんな政治が絡んで来て、歌が歌えないんだ?」という思いを込めて作った歌なんですね。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)で、歌詞の内容をまとめると、「こんなにきれいな空。こんなにきれいな雲。自然はこんなに美しいのに、悲しくてやりきれない。この悔しさ、虚しさに救いはないのか? いつまで続くんだ?」っていう歌詞なんですね。で、これはこの映画のヒロインの心の叫びですよね。

(赤江珠緒)そうですね。

(町山智浩)そう聞くと、まあとんでもない映画のような気がするかもしれないんですけど……「パンドラの箱」という話があるじゃないですか。あらゆる不幸がパンドラの箱から出ていった後に、箱の片隅にちいさな希望が残っているっていう。そういう映画ですよ、この映画は。

(赤江珠緒)そうですね。だからすずちゃんが、タンポポの話がちょっと出てくるじゃないですか。だから、綿毛みたいに、本当に流されてどこに行くかわからないんだけども。

(町山智浩)そう。綿毛みたいな子ですよね。

(赤江珠緒)ねえ。で、最後、でもちゃんとどこか地について、そこで根を張ってちゃんと生きていくっていう……

(町山智浩)だから、『この世界の片隅に』っていうタイトルは、「この世界の片隅で、ほんのちっちゃい居場所があればいいんだよ」と。だけど、その居場所を奪おうとするやつがいっぱい出てくるわけですよ。この『Unfair World』でね。で、彼女はその中で、絵を描ければ幸せだったんですよ。まあ、みんなそうですよね。歌が歌えれば幸せだし、演技ができれば幸せなんだけど。そういうちっちゃい居場所さえ、奪おうとする。そういう映画で、そういうタイトルなんですよ。

(赤江珠緒)そうなんですよね!

(町山智浩)まあいまは、戦時中じゃないんだからね。暴力に屈しちゃいけないと思いますよ。

(赤江珠緒)そうですね。

(山里亮太)また、漫画もいいんだけど、漫画と映画のいいところが見事にこう……

(町山智浩)そう。あと、たぶんね、いまの僕の世代でもギリギリ全部の意味がわかるっていう感じなんですよ。たぶん、わからない人はいっぱいいると思って。妹さんの腕にアザができる意味がわからないっていう人もいるでしょう? たぶん。なんの説明もないですよ。

(赤江珠緒)ああーっ。ない。

(町山智浩)あと、途中で廓。遊郭が出てくるんですよ。あれの意味も、わからないですよね?

(赤江珠緒)説明はしないですよね。

(町山智浩)原作の中では、遊郭の意味はもっと深く出てきます。あと、いっぱいこの映画ね、裏の意味、裏の意味があるんで。何度も何度も見たり、あと世代の違う人と一緒に見て、話し合いをしたりする中でわかってくる映画です。

(赤江珠緒)だって、すずちゃんの夫婦の恋愛観ですら、もう我々世代とは違うんですね。

(町山智浩)だいぶ違うんですよ。

(山里亮太)あのジョークもそうですよね。おばあちゃんが教えたやつが、ちょっとこう……

(町山智浩)あ、そうそうそう(笑)。初夜のたしなみですね。この映画ね、エロチックなんです。もうひとつの売りは、エロチックなんですよ。

(赤江珠緒)そうなんですよね。その恋愛的なところが……旦那さんがまた、「周作、いいな!」みたいになるところがあるんですよ。

(町山智浩)そうそう。あと、初恋の男の子が周作のあの……あの、もう微妙なエロチシズムとかね。すっごいですよ。これ。

(山里亮太)ドキドキしますもんね。

(町山智浩)ドキドキしますよ。あれ、見ているとね。

(山里亮太)「ああああっ!」っていう。

(赤江珠緒)そうですよね。

(町山智浩)そうなんですよ。そういうね、まあすごい映画ですよ。これは。

(赤江珠緒)ふんわりして見えて、人間の生々しさみたいな。

(町山智浩)見えて、実はどんどん深いところがあるんで。まあ、1回見てわからないところは、何回も何回も見るといいと思います。

(赤江珠緒)いやー、これはやっぱり来ましたか。町山賞。

(町山智浩)町山賞。

(山里亮太)受賞、おめでとうございます!

(町山智浩)1億円です! 持っていません!(笑)。

(赤江珠緒)(笑)

(町山智浩)『この世界の片隅に』、11月12日から公開です。

(赤江珠緒)はい。今日は改めて言いますが町山さんに11月12日から全国で公開されるアニメーション映画『この世界の片隅に』、紹介していただきました。本当に、泣きました。

(町山智浩)みなさん、かならず、ご家族で。

(赤江珠緒)見るべき映画。

(町山智浩)素晴らしかった。

(赤江珠緒)町山さん、ありがとうございました。

(町山智浩)どうもでした。

(中略)

(赤江珠緒)午後1時からお送りしてまいりましたTBSラジオ『たまむすび』。町山さんとの話がちょっと尽きない映画ということで。

(山里亮太)そのまま残ってもらいました。

(町山智浩)戦艦大和が出てくる時に、「乗組員が2700人ね」って言うんですけど。それもすっごいショックなんですよ。2700人、死ぬんだっていうことですよ。

(山里亮太)歴史上、大和はそうなるって知っているから。

(赤江珠緒)もう結末がわかっているからね。歴史上のことで。

(町山智浩)そう。でもそこは、なんでもないシーンなんですよ。その映画の中では。

(赤江珠緒)そうなんですよね!

(町山智浩)でも、たぶん知らない人にとってはなんでもないシーンなんですよ。だからこの映画は何度も見て、勉強して。何度も見ると、どんどんどんどん深くなる映画ですね。

(山里亮太)11月12日ですよ、みなさん!

(町山智浩)と、思います。

<書き起こしおわり>
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