町山智浩 映画『ブルックリン』を語る

町山智浩 映画『ブルックリン』を語る たまむすび

町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で1950年代にアメリカに渡ったアイルランド系の移民女性を描いた映画『ブルックリン』を紹介していました。

(赤江珠緒)さあ、そして今日はどんな映画でしょうか?

(町山智浩)はい。今日は全然いままでと雰囲気が違う映画ですけど、『ブルックリン』っていう映画ですね。

(赤江珠緒)はい。アカデミー賞でね……

(町山智浩)アカデミー賞で作品賞、主演女優賞、脚色賞にノミネートされていたんですけども。しっとりとした、本当に女性も男性も子供も大人も楽しめるロマンティックな映画です。俺、自分で言っていて、なんか言い慣れてない言葉だから舌を噛みそうになりましたよ(笑)。

(山里亮太)『デッドプール』の説明はあんなに流暢なのに!

(町山智浩)『デッドプール』はもう自分のノリで好き勝手にしゃべれるんですけど。はい(笑)。で、この『ブルックリン』っていうのはですね、ニューヨークの……ニューヨークっていうのはマンハッタンの方はみんなご存知なんですけど、このポスターに映っている橋を渡った向こう岸の町なんですね。

(山里亮太)はい。

(町山智浩)で、ここは移民の町で。昔からユダヤ系の人とかロシア系の人、アイルランド系の人、イタリア系の人がそこにまず住んで。まあ、狭いアパートがいっぱいあって。そこから、一生懸命勉強して外に出て行くという、移民の町なんですね。ブルックリンって。で、そこに1950年代に移民してきた1人のアイルランド系の女の子。ハタチになったばっかりの女の子の物語なんですよ。

(山里亮太)はい。

(町山智浩)で、たとえば『キャプテン・アメリカ』。『シビルウォー』ってご覧になりました?

(山里亮太)ああ、まだ見れてないです。

(町山智浩)見てないですか?『キャプテン・アメリカ』っていうのはブルックリンの生まれなんですよ。で、『スパイダーマン』も原作だとブルックリンで、最近はクイーンズっていう隣町になっているんですけど。彼らが「俺たちはブルックリンだ」とか言うのはどういう意味か?っていうと、日本だったら「俺たちは川崎育ちだぜ」って言ってるのに近い。川崎っていうのは沖縄系の人とか朝鮮系の人がいっぱいいる労働者の町じゃないですか。いわゆる移民の人たちが。

(赤江珠緒)うん。

「ブルックリン出身」の意味

(町山智浩)そういうところなんですよ。だから「ブルックリンだ!」っていうと、「俺たちは下町の移民の二世・三世なんだ!」っていう意味を裏に隠しているんですよね。映画の中で「ブルックリンだ!」っていうと。それと、貧しいんだけどもすごく荒っぽくて、でも男らしくて……みたいな。そういうところを誇る言葉なんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)ただ、これは女性の映画なんですけど。主人公を演じるのは、この人はアカデミー賞にノミネートされたシアーシャ・ローナンっていう女優さんなんですが。この人のね、名前のつづりがこれね、このつづり(Saoirse Ronan)なんですね。

(赤江珠緒)サオリーセ?

(町山智浩)「サオリース」としか読めないんですよ。これ、「シアーシャ」って読むんですよ。これはどうしてか?っていうと、これはいわゆるゲール語源と言われているもので。アイルランド系の先住民の言葉なんですよ。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)でね、このシアーシャ・ローナンさんもインタビューとかで、「私の名前をアメリカ人でそのまま読める人ってほとんどいないわね」って言ってますね。

(赤江珠緒)ああ、そうなんですか。

(町山智浩)で、イギリスとかに行かれると、たとえばロンドンとかに行くとテムズ川ってあるじゃないですか。テムズ川ってすごい変なスペリングで。「Thames」とか、そういうつづりで。テムズってどうしてこれで読むの?って思うんですけど、これもゲール語なんですね。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)で、まずこの映画でポイントになるのはゲールっていうか、ケルト文化が基本になっているんですよ。で、もともとイギリスってアイルランドとスコットランドとイングランドとウェールズっていうところがあるんですけど。もともと全土にケルト人っていう人たちが住んでいたんですね。

(赤江珠緒)ふんふん。

(町山智浩)で、いま我々が知っているアングロサクソンとかブリテン人とか言われている、いまのイギリス人っていうのはゲルマン系でドイツ系で。ヨーロッパから後から来て、イングランドの真ん中へんを侵略して。それがイングランドになったんですよ。

(赤江珠緒)ああー、そうだ。世界史の昔の方にケルト人みたいなのが出てくるの、ありますもんね。

(町山智浩)はい。そうなんです。だから日本だとね、縄文人に近い。日本にはもともと縄文人が住んでいて。それで大陸の方から弥生人が来て。真ん中へんは弥生人に支配されて。でも、九州とか北海道とかの方には縄文系の人が残っているというのに近くて。それがアイルランド系とかスコットランド系とかウェールズ系のケルト人を祖先に持つ人々なんですよ。だから、文化がすごく違うんですよ。

(赤江珠緒)いまでもそうやって、名前とかも違うのがあるんですね。

(町山智浩)いまでも違います。で、アイルランドはずっとイギリスに占領されていたんで。その間、アイルランド語っていうのは潰されちゃったんですけど。ゲール語源の。でもいまはね、完全に復活して教科書で教えていて。しゃべれるようになってきているみたいですね。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)で、そのケルトとかアイルランドの文化でいちばん重要なのはね、色なんですよ。色。緑色。国の色なんです。緑色が。

(赤江珠緒)へー!

緑色はアイルランドの国の色

(町山智浩)でね、この『ブルックリン』っていう映画はとにかく何が美しいってね、その緑色が美しいんですよ。

(赤江珠緒)画像の中の色彩の緑が?

(町山智浩)そう。かならず緑が映っているの。画面の中に。で、このポスターでヒロインの彼女が着ているカーディガンが緑色なんですよね。で、コートとかを着ていても緑色で。いつも緑色を身につけているんです。ニューヨークに住んでも。

(赤江珠緒)ふーん。

(町山智浩)それは、自分の国を身に着けているわけですよ。いつも。で、あとね、髪の毛が赤いんですよね。アイルランド系の人って赤毛の人が多いんですよ。で、赤と緑ですごい素晴らしいコントラストになっているんですよね。それがだんだん、アメリカの中で他の色に溶け込んでいくっていうのを色で表現するという。

(赤江珠緒)そういう意味があるんですか。

(町山智浩)そうなんです。

(赤江珠緒)やたら緑が好きだなと思っている場合じゃないんですね(笑)。

(町山智浩)そうじゃないんですよ。だから彼女は最初、緑色のものをわざと、いつも身につけていて。故郷を忘れないようにと思っているんですね。1人きりで移民としてニューヨークで揉まれていくから。でも、だんだんアメリカに慣れていくに従って、その緑色を別の色を着てみたりするわけですよ。

(赤江珠緒)はー!

(山里亮太)じゃあ服を変えたことが結構メッセージとして汲み取らないといけないんだ。

(町山智浩)そうなんですよ。すごくそういう点で美しい映画ですね。で、物語はアイルランドの南の方の田舎町に住んでいた女の子が、すごく意地悪なんですよ。その田舎の町が。やっぱり田舎独特の閉鎖的な感じとか、村社会で。すごく嫌で、「これは、いられないわ」と思っていたら、「1人優秀な子を移民にしたいんだ。デパートに職があるし、大学に行って簿記の勉強とかもできるから、来ないか?」って誘われて、たった1人で。病気のお母さんとかもいるんですけども、勇気を出して、まだハタチなのに行くわけですね。ブルックリンに。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)で、そこに行くとアイルランド系だから英語は通じるんですけど。でもやっぱり文化が違うんで、すごく最初、苦労するんですよ。で、たとえばアイルランド系の人たちってすごく厳しくて。いまもそうだと思うんですけど、離婚した女性とかはもう居場所がなくなるんですよ。

(赤江珠緒)えっ、いまでも?

(町山智浩)いまでも、結構居場所がない。だんだんそれは改善されていったんですけど。それとか、未婚の母になっちゃうと、もうほとんど人権剥奪されてしまうという。で、下手をすると精神病院みたいなところに入れられちゃうんですよね。

(赤江珠緒)はー!

(町山智浩)そのような閉鎖的なところから、アメリカの自由のところに出て行くっていう話になっているんですよ。でもやっぱりね、最初は辛くてね。彼女の名前、エイリシュっていうんですけど。これもアイルランド語系の名前で。つづりを見ると、どうしてこれがエイリシュって読むの?ってわからない名前なんですけどね。はい。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、どんどんどんどん、ニューヨークで1年ぐらい働いていくんですけど、厳しいんですよ。友達もなかなかできないし。そこでですね、アイルランド系のカトリックの教会に行って……「クリスマスだからホームレスの人たちに食べ物を配るボランティアをやらないか?」って言われて、そこに手伝いに行くんですけども。そうすると、もうすごい数のホームレスのおじさんたちが並んでいるんですね。で、彼らに食べ物をあげていくと、彼らは「じゃあ、お礼に歌を歌います」ってね、この歌を聞かせてくれるんですけど。

(町山智浩)何語か、わからないでしょ?

(赤江珠緒)本当だ。わからない。

(町山智浩)これ、アイルランド語なんですね。スコットランドとかウェールズもこういう言葉なんですけど。これ、本当に「ええっ?」っていうぐらい、全く聞いたことがない言葉ですね。で、これでずっと歌っているのを聞いて、このエイリシュから涙がツーッと、頬をつたうんですね。で、これは懐かしいアイルランドの歌なんですけども。この歌はね、歌詞が日本語で公開する時に出るかどうかわからないんですけども。これ、すごく有名な民謡で。WB・イェイツっていうアイルランドの詩人が本に書いているんですけど、「縄ない」っていう内容なんですね。

(赤江珠緒)縄ない?

(町山智浩)縄をね、なう。で、藁を1本1本取っていって、縄になっていくんですけど。で、ある男が好きな女の子のところに求婚しに行ったら、そこのお母さんが「ちょっと縄をなうから、端を持っていてくれ」って言われて、持たされるんですよ。で、縄をどんどんなっていくと、縄がどんどん長くなっていくじゃないですか。で、どんどんどんどん長くなって、でもずーっと引っ張っていなくちゃいけないから、後ろに下がっていくわけですよ。すると、ドアがあるわけですよ。それで、ドアの向こうに出ちゃうわけですよ。縄がどんどん長くなって。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)で、ドアの向こうに男が出たところで、ドアをバタン! と閉められて、二度と開けてもらえなかったっていう……(笑)。情けない。

(赤江珠緒)なんちゅう話なんですか、それ!

(山里亮太)素敵な話かと思いきや。

(町山智浩)そう(笑)。

(赤江珠緒)もっと普通に断ってくれよ! みたいな(笑)。

(町山智浩)そうそう。「好きだ」って言ったらそういうひどい目にあって家を追い出されちゃったよっていう悲しい歌なんですけども。だからこれをなぜそこで歌うかっていうと、この人はホームレスで、国を捨ててきてアイルランドにも居場所がなくなったし、ニューヨークにも誰もたよる人がいなくなっちゃったっていうことをこの歌に込めて歌っているんですよ。

(赤江珠緒)はー、そうか。

(町山智浩)それを聞いて、ヒロインが思わず、「私もこんな風になっちゃう」っていう感じで泣くんですけど。その時、神父さんが言うんですね。「彼はいま、どこにも帰る場所がなくて、いまホームレスをやっているけども、彼がアメリカを作ったんだよ」って言うんですよ。

(赤江珠緒)ええっ?

移民がアメリカを作った

(町山智浩)「彼は50年前にアメリカに来た」と。1900年ごろですね。だから、20世紀の始まりにアメリカに来たんですけど。その時、アメリカって大量の移民を引き受けているんですよ。ギリシャとかイタリアとかロシアとかから。で、アメリカのいまの高速道路であるとか、道路、橋、高層ビル。そういったものは、その移民たちが作ったんですよ。で、「いまのアメリカの豊かさっていうものを作ったのは彼らなんだ」。でも、それが全部建設し終わった後、仕事がなくなっちゃったんですよ。

(赤江珠緒)で、居場所がなくなってしまった。

(町山智浩)「居場所がなくなったんだ」っていうことをポロッと言うんですけど。これってものすごく大きな問題なんですよ。

(赤江珠緒)そうですよね。

(町山智浩)これ、公共事業の問題なんですね。公共事業って1900年代から1950年ぐらいまで続くんですけども。その後、アメリカ全土にフリーウェイっていうのを作ってまた公共事業に入るんですけど。公共事業って1980年以降は全く止まっているんですよ。アメリカって。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)もう全然橋も作られなければ、道路も作られないっていう。要するに、削減、削減で。レーガン政権以降。で、そういうことをやる時、アメリカっていうのは「公共事業やるよ! 移民、おいで!」っつって移民が来たら、「終わりー!」っていう(笑)。「仕事、ないよ!」っていう。

(赤江珠緒)使うだけ使ったら。

(町山智浩)そう。そういうことをやっているから、いまこの映画が公開されてすごく面白いなと思って。いま、ドナルド・トランプを支援している白人のブルーカラーの人たちっていうのは、まあサイレント・マジョリティって言われているような人たちなんですけども。その人たちはみんな、結構こういう人たちなんですよね。ブルーカラーとしてアメリカに入ってきて、教育を受けないまま、肉体労働とか工場労働をしてきたんだけども、気がついたらもうそういう世の中ではなかったと。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)農業や工業の世の中ではない。で、居場所がない。ただ、人口だけは多いわけですよ。で、この人たちはさっき言ったみたいに、カトリックとロシア正教の人が多いんですね。1900年代に来た人たちは、プロテスタントはいないんですよ。あんまり。この人たちが大量に住んでいるところが、五大湖周辺。シカゴとかデトロイトの周辺と、ペンシルバニアなんですね。このへんがいちばん選挙で重要なところなんですよ。

(赤江・山里)はー!

(赤江珠緒)じゃあそこは、トランプさんが強いんですか?

(町山智浩)トランプはだから、「労働者の味方をする」と言っているんで。で、「日本の車に税金をかける」って言うじゃないですか。そうすると、工業がまた戻るかもしれないっていうことで、彼らの期待を背負っているんですよ。

(赤江珠緒)あっ、そういう期待をね。

(町山智浩)で、もうひとつは逆に言うと、トランプは「移民を追い出せ」っつってるんですよ。

(赤江珠緒)そうそう。そっちが印象的だから、なんで?って思っちゃう。

(町山智浩)でも、アメリカは移民の国じゃないかっていうことも考えさせられるんですよね。

(赤江珠緒)その人たちも移民で来たけど、そこはいいんですか?

(町山智浩)そうでしょう? トランプっていっぱい建築しているじゃないですか。トランプタワーとか。あれ、みんな移民で建築しているんですよ。80年代って、建築ブームが全然なくなっちゃった時にトランプが「建築ブームを起こすんだ!」っつって、ニューヨークでいっぱい建築したんですけども。その時に使った人たちって、ポーランド系の人とかなんですよ。

(赤江珠緒)はー!

(町山智浩)それなのに、いま「移民を追い出せ」っつっていてね。なんだろう?っていうね(笑)。

(赤江珠緒)なんかそこがね。

(町山智浩)よくわからないんですよ。

(山里亮太)でもその、移民系の人たちに支持されているって……

(赤江珠緒)矛盾してるんだよね。

(町山智浩)そう。だからね、移民の人たちで僕、いちばん嫌な思いをしたのはね、ニューヨークを歩いている時に、建築現場で働いている人がいたんですよ。で、白いTシャツを着ていて。背中に書いてあるんですよ。「俺たちは移民だった。でももうアメリカは移民でいっぱいだ。もう、来ないでくれ」って書いてあるんですよ。

(赤江珠緒)うわー……

(町山智浩)自分たちはOKで。

(赤江珠緒)そうですか……

(町山智浩)そう。だからね、こういうことはね、やっぱりすごくアメリカっていうのは面白いなと思いますよね。

(山里亮太)モロにトランプの支持になりますよね。

(町山智浩)そうなんですよ。

(赤江珠緒)『蜘蛛の糸』のカンダタを思い出しました。

(町山智浩)そうそうそう! カンダタね。

(赤江珠緒)「お前たちは登ってくるんじゃない!」っていう。

(町山智浩)そう。カンダタですよね。だから、面白いなと思いましたよ。ベトナム戦争の時も、ベトナム戦争を支持したのはほとんどが東ヨーロッパから来た移民たちだったんですよ。自分たちの国は共産圏になっちゃったもんだから。共産主義と戦うんだ!っつって、みんな軍隊に入っていったんですよ。で、そういう人たちはいちばん右寄りなんですよ。ロシア系とかチェコ系のアメリカ人がいちばん右寄りなんですよ。

(赤江珠緒)はー! そうかー。

(町山智浩)そういうことをいろいろね、面白いなと思ってね。だからこの映画、最初はすごく辛いんですけど。だんだんだんだん、アメリカの良さに触れてきて。いちばん面白いのは、イタリア人の彼氏ができて、スパゲッティを初めて食べるっていうシーンがあって。スパゲッティの食べ方、最初わからなくて特訓するんですよ。

(赤江珠緒)えっ?

(町山智浩)イタリア人もアイルランド人と同じで1900年代以降、アメリカに来たから。その頃、スパゲッティっていうのはアメリカ人は知らなかったんですよ。

(赤江珠緒)はー。

(町山智浩)まだイタリア人独特の食べ物だったんですよ。だから『わんわん物語』って1950年の映画ですけど。あれでコッカー・スパニエルのレディはスパゲッティを初めて食べるんですよ。この映画の中でもそうで。その後で初めて、イタリアの食べ物っていうのを普通の人が食べるようになっていったんですよ。

(赤江珠緒)ああ、そうなんですか。へー!

(山里亮太)練習しなきゃいけないんだ。なんか感覚でいけそうな感じもするけど(笑)。

(赤江珠緒)いや、でも最初はそうなんじゃない? 戸惑うよ。

(町山智浩)そう。最初はね、ニンニクがすごかったんで。イギリス系の人たちは、イタリア人をすごく差別したんですよ。「ニンニク臭い」って。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)そう。だから日本でも同じですよ。日本と全く同じ。

(赤江珠緒)いろんなことで区別や差別になりますね。

(町山智浩)そうそう。でも、その一方で、原作を読むとわかるんですけども。彼女の学校の先生はユダヤ系なんだけども、奥さんとか子供をホロコーストで虐殺されているとか。あと、「デパートに初めて黒人のお客さんをこれから入れることにします」って言うんですよ。それまでは黒人のお客さんをデパートは断っていたんですよ。

(赤江珠緒)ああー。

(町山智浩)そしたら、「これから私のデパートでは黒人のお客さんをとることにしたのよ」って言うと、他の女の子たちは、「黒人が来るデパートなんか行かないわ」とか言ったりするんですよ。

(赤江珠緒)うわー……

(町山智浩)だからそういう軋轢とかも、原作の方には書いてあって。映画の方は端折ってますけども。非常にいろんなことが背景にあって。ただの女の子が1人で移民して……っていうラブストーリー。恋人を見つけて……っていうだけではなくて、母国と移民した国との間で引き裂かれていく。縄ないのように、引き裂かれていくんですね。いろんなものを象徴している、非常に素晴らしい映画でした。

(赤江珠緒)はー!

(町山智浩)今日は、真面目でした。はい。

(山里亮太)今日はヌード情報は、ない?

(町山智浩)ヌード情報はないですけども。はい。すいませんでした(笑)。

(赤江珠緒)謝る必要はないですね。全然(笑)。

(町山智浩)『ブルックリン』っていう映画でね。だから、映画の中だけじゃわからないことがいっぱい隠されている映画なんで。背景をいろいろ調べると面白いと思いますね。

(赤江珠緒)そうですね。

(山里亮太)服の1枚1枚にも意味があるっていうね。

(町山智浩)あるんですよ。はい。

(赤江珠緒)でも、アメリカのそういう、ねえ。

(町山智浩)あと、「イタリア人の彼氏と付き合っているの」って言うと、上司がね、「どうせママの話ばっかりするんでしょ?」って言うんですよ。

(赤江珠緒)ああ、そうですね。マザコンの人が多いって聞きますけどね。

(山里亮太)そういうジョークも。文化を知らないとわからないんだ。

(町山智浩)「僕のママはね……僕のママはね……」って彼女に言うっていう。それは最悪だよなって思いますけども(笑)。

(赤江珠緒)でも、それはイタリアでは普通なことですよね。

(町山智浩)でも、それはステレオタイプだから。だから、それに対して、「いや、そうじゃないわ」って言うと、「イタリア人でママの話をしない男っていうのはものすごく大事だから、大事にしなさいよ!」って言われたりするっていうね。そういうところも、ステレオタイプがわからないと面白くないんで。ステレオタイプだけども、それがわかると面白いっていうところがありますね。

(赤江珠緒)はい。今日は日本で7月1日から公開される映画『ブルックリン』を紹介していただきました。町山さん、ありがとうございます。

(町山智浩)どうもでした。

<書き起こしおわり>

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