町山智浩『ヘイル、シーザー!』『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』を語る

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町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で映画『ヘイル、シーザー!』と『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』を紹介。奥の方でつながっているこの2本の作品を解説していました。



(町山智浩)じゃあ、映画の話をします。今日はですね、ハリウッドの1950年前後を描いた2本の映画で、『ヘイル、シーザー!』っていう映画と『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』っていうタイトルの2本の映画を紹介します。この映画はね、奥の方でつながっている映画なんですけど。まず、『ヘイル、シーザー!』が5月13日に日本で封切られるんですけど。その後に『トランボ』の方が7月に封切られるんですが。これ、両方見ないとよくわからないっていうところなんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)で、まず『ヘイル、シーザー!』の方からお話しますと、これは監督はコーエン兄弟というですね、『ファーゴ』とか『ノーカントリー』とかでアカデミー賞をとっている監督なんですけども。すごく怖いバイオレンスものの映画と、ふざけたいい加減な映画と、2つの路線があるんですよ。

(赤江珠緒)ええ。

(町山智浩)で、こっちはいい加減な、ふざけた方です。今回の『ヘイル、シーザー!』は。で、舞台は1950年代のハリウッドの映画会社です。主人公は「解決屋」というあだ名の人で。撮影所で起こるトラブルを解決するプロデューサーです。で、マニックスっていうんですけど、これは実在のマニックスっていう、そういう職業をしていたプロデューサーをモデルにしています。はい。で、この『ヘイル、シーザー!』っていう映画は出てくる人たちが全員モデルがいるんですよ。

(赤江珠緒)うん、うん。

1950年代のハリウッドを描く

(町山智浩)だから、その50年代の映画に詳しいと結構面白いんですけど。わからないと、何をネタにしているのかわからないっていう苦しいところがあるんですけどね。で、その頃、すごくモラルが厳しかったんで。スターが浮気していたり、未婚の母になったりすると、それをもみ消さなきゃならないんですよ。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、それをやるのが主人公なんですけども。そこにゴシップライターの女性がいてですね、ハイエナみたいに嗅ぎまわっているんですね。ゴシップを。で、このゴシップライターを演じているのがティルダ・スウィントンっていう女優さんなんですけども。双子の、2人の女性ゴシップライターが出てきます。で、これは実在の人物で。ルエラ・パーソンズっていう人と、ヘッダ・ホッパーという人がモデルになっているんですよ。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、その頃ですね、新聞の力がものすごかったんで、新聞にたくさん連載を持っているゴシップコラムニストが何かを書くと、それだけで映画が当たったりコケたりするっていう状況だったんですよ。

(山里亮太)へー!

(町山智浩)だから、僕は「映画に点数を出すとかそういうのは権力になるからよくない」っていつも言ってるんですけど。まあ、そういう人がいたんですね。で、トラブルを解決していると大事件が起こるんですけど。それがですね、古代ローマが舞台の超大作史劇『ヘイル、シーザー!』っていう映画の撮影中にジョージ・クルーニー扮する大根役者がですね……大根役者だけど、スターなんですね。が、何者かに誘拐されてしまうんですよ。

(赤江珠緒)うん!

(町山智浩)で、その犯人探しをするっていうか、まあそのスターが戻ってこないと映画が撮れないわけだから、なんとか解決しなきゃならないっていうコメディーなんですよ。『ヘイル、シーザー!』っていう映画は。

(赤江珠緒)コメディー? はい。

(町山智浩)コメディーなんですよ。これ、本当もうジョージ・クルーニーがただの大根役者で、セリフを全然覚えていないとか、そういうギャグばっかりなんですけど。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)ただね、この映画ね、すっごく肝心の大事なポイントのところで、いまの若いお客さんがみるとなんだかわからないっていうシーンが出てくるんですよ。

(赤江珠緒)なんでしょう?

(町山智浩)で、それはですね、10人ぐらいのハリウッドの脚本家がいて、集まっていて。共産主義について語っているっていうシーンなんですよ。で、それがすごく重要なんです。この映画の中では。ただ、この10人ぐらいのハリウッドの脚本家が共産主義を語るっていうのの意味がたぶんわからないと思うんですよ。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、その意味がわかるのは、もう1本、今回紹介する映画の『トランボ』っていう映画なんですね。で、その10人のうちの1人の、実在の人物であるダルトン・トランボの伝記映画です。

(赤江珠緒)そうなんですか。えっ、たまたま同じ時期に?

(町山智浩)そうなんですよ。ダルトン・トランボにそっくりな人も出てきます。『ヘイル、シーザー!』の方に。で、その当時ですね、1940年代の終わりぐらいから50年代のはじめにかけて、アメリカでは「赤狩り」というのがあったんですね。で、赤狩りっていうのはマッカーシー上院議員っていう共和党の上院議員が、「アメリカ国内にソ連のスパイがいる。だからそれを狩り出すんだ!」ということで、議会に一人ひとり呼んでですね。で、ラジオとかテレビでそれを中継しながら「あなたは共産主義者か? ソ連のスパイか?」っていうことを一人ひとり断罪する。まあ、はっきり言って晒し者にするということが行われたんですね。

(赤江珠緒)そうですね。うん。

赤狩り

(町山智浩)それでハリウッドも対象になりまして。ハリウッドは弱き者が強き者に立ち向かっていく映画ばかり作っていたから、それは共産主義者だ。共産主義者のプロパガンダであるっていうことで、次々と議会に喚問されたんですけど。その中にトランボがいたんですが。トランボの前に何人も議会に呼ばれるんですね。で、有名な人だと、エリア・カザンという『エデンの東』の監督。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)が、元共産党員だってことで追求されて。「仲間の名前を言え。あんたの知っている共産党員でハリウッドで働いているやつの名前を言え」って言わされるという。要するに、仲間を売らせることによってその人の心をくじいて、ハリウッドの左翼勢力を潰そうということだったんですね。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)あと、エドワード・G・ロビンソンというギャングのボス役で有名な俳優さんも共産党員だったんですけど。彼も結局仲間を売ってしまってトランボが出てくるんですよ。ところが、ダルトン・トランボは決して仲間を売らなかったんですね。議会に呼ばれても、誰の名前も白状しなかったんですね。それで、議会侮辱罪で刑務所に入れられちゃうんですよ。っていうあたりが緻密に描かれるんですけど、これ、ダルトン・トランボっていう脚本家を演じるのがですね、ブライアン・クランストンっていう俳優さんで。この人は、アカデミー主演男優賞候補になりましたね。この演技で。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)この人ね、『ブレイキング・バッド』の化学の先生ですよ。

(山里亮太)ああっ! あの人。あ、本当だ!

(町山智浩)はい。まあすごくいい、なんて言うか飄々とした演技なんですよ。あれも、覚醒剤を密造する化学の先生なんですけど。で、ものすごいことをしながら、なんとなくユーモアがあって。肩の力の抜けた演技をする人なんですね。で、このダルトン・トランボの役でも、非常に危機的な状況にあってもヘラヘラとジョークを言う、なんて言うか、食えないオヤジの役なんですよ。

(赤江珠緒)ふーん。でも、すごいですね。

(町山智浩)いくら叩いてもジョークで返すっていう役で、なかなかいい感じなんですね。

(赤江珠緒)仲間を売らなかった。

(町山智浩)そうなんです。それが10人いたんですよ。白状しなかった人たちが。脚本家なんですけど。それで、ハリウッドで仕事ができなくなっちゃってイギリスに逃げた人もいますし。かなり多くの人、チャップリンなんかもこれでイギリスに逃げたんですけども。で、その10人の脚本家たちっていうのは、その『ヘイル、シーザー!』の方に出てくる脚本家たちなんですね。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)はい。で、この『トランボ』っていう映画はそこから始まるんですよ。その刑務所を出た後に大変なことになって。要するに、脚本家として仕事ができないんですよ。ハリウッドで干されちゃって。で、ハリウッドの映画協会が「白状しなかった人たちはもう仕事をさせない」っていう約束をしちゃうんですね。で、宣言をしちゃうし、しかも、仕事をするようなことがないように監視する人たちっていうのが出てくるんですよ。

(赤江珠緒)ええーっ?

(町山智浩)で、そのトップに立っていたのが、ジョン・ウエインなんですね。

(赤江珠緒)えっ、ジョン・ウエイン?

(町山智浩)はい。ジョン・ウエインは西部劇の大スターですけども、ものすごく政治的な人でですね、いろんな映画を妨害したりしてるんですよ。この人。有名な話だと、『真昼の決闘』っていう映画はハリウッド・テンの中の1人の脚本家が書いた作品なんで。これがアカデミー賞をとらないようにって、妨害工作とかをしている人なんですね。

(赤江珠緒)そうだったんだ!

(町山智浩)そうなんですよ。だから、このダルトン・トランボに対しても、直接この映画の中に出てきて。「お前はアカだ。お前はなんか追い出してやる!」とか言ったりして、徹底的にいじめるっていう役で出てきます。ジョン・ウエインが。

(赤江珠緒)へー。

(町山智浩)で、あとロナルド・レーガンです。

(山里亮太)あ、レーガン大統領。

(町山智浩)レーガンはもともとは左の側だったんですよ。この人。ハリウッド俳優組合だったんですね。だから、ハリウッド俳優を守らなきゃならない立場だったんですよ。権力側の圧力から。思想弾圧から。ところが、彼はそれをやらなかったんですよ。逆に、その権力側のトップに立ったのは後に大統領になったニクソンなんですけど。ニクソンのハリウッド弾圧に対して協力したんですよ。レーガンは。

(赤江珠緒)なんと! ええっ、立場的にはちょっと卑怯な立ち位置じゃないですか?

(町山智浩)立ち位置なんですけど。その理由っていうのは、おそらくいま言われているのはナンシーさんっていう奥さんがその頃、間違ってブラックリストの共産主義者リストに入っちゃったんですね。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、ナンシーさんから「なんとか助けてほしいの」ってレーガンは言われて。で、なんかいろいろやっているうちに恋に落ちちゃったんですね。まあ、ちょっと結婚してたりするんですけど(笑)。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)で、愛のために右に移ったんじゃないか?っていう説もありますね。いろんな説があります。ナンシーさんはハリウッド女優さんなんですよ。で、同名の女の人が共産主義者だったんで、間違って一緒に名前が入っちゃったんで。それでレーガンは逆に弾圧の側に入ったんですよ。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)まあ、その前からそっち側に入って。それでもう、完全に民主党から共和党に移ったんですね。レーガンはそれで。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)で、あと追っかけまわしてスパイをやって、探偵みたいなことをやって、共産主義者がハリウッドで仕事をしないように見張っているのはヘッダ・ホッパーっていうさっきのゴシップのコラムニストなんですよ。で、この映画の中ではヘレン・ミレンさんがその役を演じて。トランボが仕事をしないようにって嗅ぎまわっているっていう話ですね。

(赤江珠緒)ああー。

(町山智浩)それでもね、書きたいわけですよ。彼はシナリオライターだから、物語を書きたくてしょうがないんですね。で、なにをするか?っていうと、子供も抱えているから食わなきゃならないし。で、ゲテモノ映画のシナリオを書く、シナリオのドクターっていうのをやるようになるんですよ。書き直しを。

(赤江珠緒)うんうんうん。

(町山智浩)で、それを山ほどやっていくんですけど。外出して打ち合わせしたりも、なかなかできないんですよ。見張られているから。

(赤江珠緒)えっ、そんなゲテモノ映画でも?

干されても書き続けるトランボ

(町山智浩)この映画の中では、そうなんですよ。だから、いかにして隠れてこっそりとシナリオを書いたか?っていうのがこの映画のキモになっています。『トランボ』っていう映画の。ほとんど部屋を出ないで書き続けて。で、子供。娘とか息子を使って打ち合わせとかを手伝わせたり、原稿運びを手伝わせたりとか。そういうのがずっと出てくるんですね。はい。だから、なんかヤバいブツを運んでるみたいにして原稿を運んだりする場面とか出てくるんですけどね。

(山里亮太)はー!

(町山智浩)そのへんも面白いんですが。で、あとゲテモノ映画のプロデューサーが「俺んところは別に思想とかはどうでもいいんだ。共産主義者だろうとなんだろうと、面白いシナリオだったらなんでもいい!」っつって、どんどんどんどんトランボにシナリオを送ったりとかね。そういうところも面白いんですけど。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)この映画でね、いちばんの盛り上がってくるところは彼、ダルトン・トランボが『ローマの休日』のシナリオを書くところなんですよ。

(赤江珠緒)えっ、『ローマの休日』のシナリオって、この方?

(町山智浩)そうなんですよ。ダルトン・トランボが書いているんですよ。ただ、匿名っていうか、他の人の名前を使っているんですよ。仕事をしちゃいけないことになったから。で、1953年に『ローマの休日』を書いて、それでアカデミー脚本賞をとっちゃうんですよ。

(赤江珠緒)ええーっ?

(町山智浩)でも、トランボが書いたってことは秘密だから、オスカーは関係ない、名前を借りた人が受け取るんですね。っていうあたりがすごく面白いんですけど。この映画を見た後、トランボについて知った後に『ローマの休日』を見るとね、やっぱりトランボ的なところがあって。ローマでほら、オードリー・ヘップバーン扮するお姫様が普通の子のふりをして、アメリカの新聞記者のグレゴリー・ペックとデートするじゃないですか。

(赤江珠緒)ええ。

(町山智浩)で、そこで真実の口っていう石像があって。そこの口に手を突っ込んで何かを言って、それが嘘だと手を噛むっていうイタズラをするところがありますよね。

(赤江珠緒)ありますね。

(町山智浩)あれは、彼自身が議会で宣誓させられたっていうことですよね。

(赤江珠緒)えっ、そういうこと?

(町山智浩)トランボ自身が議会で宣誓させられて「真実を言え」って言われて、それを拒否して刑務所にブチ込まれたっていう経験が入っているでしょうね。

(赤江珠緒)ええーっ?

(町山智浩)で、あと最後に「2人が出会って恋をしたことは誰にも言わない」っていうことになって。それを知っているもう1人の記者かなんかも、それを言わないって決意して。そのお姫様と新聞記者の恋を心に秘めたまま、話が終わるじゃないですか。あのへんもトランボの「絶対に言わない」っていうことなんでしょうね。

(赤江珠緒)はー! そういうことですか。

(町山智浩)だからトランボがわかると、トランボの作品がわかってくるところがあるんで。この映画はすごく重要だなと思うんですよ。で、あとトランボはその後にですね、赤狩りの後に脚本家として名前を出してもらったのがカーク・ダグラスっていう大スターがいて。筋肉スターがいたんですね。で、その人が「赤狩りなんて関係ないから、あんた、書いてくれ」ってシナリオを書かせたのが、『スパルタカス』っていう超大作なんですけども。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)それは、古代ローマで奴隷が反乱して。その奴隷のリーダーがスパルタカスなんですね。で、反乱して、でもやっぱりローマ軍に囲まれて、負けたんですよ。反乱軍は。そこでローマ軍が「我々はお前たち全員を殺そうとは思っていない。リーダーであるスパルタカスだけを差し出せば、お前らを許してやる」って言うんですね。反乱を起こした奴隷たちに。したら、誰も仲間を売らなかったんですよ。奴隷たちは「私がスパルタカスです」「いや、私がスパルタカスです」って。全員が次々と、「私がスパルタカスだ。私を殺してくれ」って言うんですよ。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)かばって。そこは、実際は赤狩りの時は名前を売られちゃっているわけですけど。彼はね。まあ本当はハリウッドはそこで戦うべきだったんだっていうことを表現したかったんでしょうね。

(赤江珠緒)ああー! つながりますね。たしかに、いまのお話をうかがって、そのストーリーを聞くとね。はー。

(町山智浩)ただね、この『トランボ』っていう映画は、アメリカで秋に公開されてものすごく叩かれたんですよ。

(赤江珠緒)えっ、そうなんですか?

『トランボ』に対する批判

(町山智浩)まあ、いわゆる保守系メディアとかからすごく叩かれたんですけど。「トランボが弾圧されたっていうことよりも、トランボが信じていた思想に問題はないのか?」って言われたんですね。トランボはその頃、共産主義を信じていただけではなくて、その頃の共産党っていうのは完全にソ連の支配下に置かれていたんですよ。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)で、彼はソ連を擁護するっていうか、ソ連を理想として信じるっていうことをしていたんですね。トランボは、当時の共産党に対して。それが正しかったのかどうか?っていうことを検証してないだろう、この映画はと。

(赤江珠緒)ああー。

(町山智浩)で、この映画の中では、「お腹がすいている人がいたら、食べ物を分け与えるのが共産主義だよ」っていう、すごく幼稚な子供っぽい考えしか出てこないんですね。トランボが説明するんですよ。そうやって、共産主義とは何かについて。でも、実際その頃、ソ連ではスターリンが独裁して、大虐殺をしていたわけですよ。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)で、トランボはアメリカ政府と権力に対して言論の自由と思想の自由を掲げて戦ったんですけど。その頃のソ連には言論の自由も、思想の自由もないわけですよね。だからその矛盾が描かれていないって、この『トランボ』っていう映画はすごく批難されたんですよ。だからね、そういう点では『ヘイル、シーザー!』を見ると、『ヘイル、シーザー!』の方は実は彼らのすごく子供っぽい共産主義に対する憧れがものすごくバカにされて茶化されて描かれているんですよ。

(赤江珠緒)はー、なるほどね。

(町山智浩)だから両方見た方がいいかなと。

(赤江珠緒)そうですね。

(町山智浩)バランスを取る感じみたいな。

(赤江珠緒)うん。アメリカで共産主義のそういう、いろんな複雑な部分が描かれていないだろうっていう意見もたしかにそうだし。で、一方でアメリカは自由だって言っていたのに、ハリウッドでそれだけ、いろんな思想で弾圧があったっていうところもね。お互いにいろんな矛盾がありますもんね。

(町山智浩)そうなんですよ。ただね、トランボ自身は反省していたっていうか、悔やんでいたところがあってですね。彼の最後の作品が『パピヨン』っていう映画なんですね。73年の。で、その中で主人公がやっぱり刑務所にブチ込まれるんですよ。スティーブ・マックイーンで。で、脱獄不可能って言われた刑務所から何度も脱獄しようとして、戦い続ける男の話なんですけど。そこもまた、トランボ節なんですが。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)その中で、彼が夢の中でですね……『パピヨン』の音楽、かかるかな? 彼が裁判にかけられるシーンがあるんですよ。



(町山智浩)これですね。主人公のパピヨンが裁判にかけられて。「お前がなぜ有罪かと言えば、お前の一度しかない大事な人生を無駄にしてしまったことだ」って言われるんですね。それはたぶん、トランボ自身の共産主義で失敗したっていう経験みたいなものを悔やんで、それを書いていると思うんですよ。

(赤江珠緒)うーん。

(町山智浩)ただ、この『パピヨン』っていう映画は彼自身の最後の作品で、最後の彼の書いたセリフっていうのは、「ざまあみろ! 俺は生きてるぜ」っていうセリフで終わるんですよ。この映画は。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)「俺は最終的には戦いに勝ったんだ」って終わるんですね。この『パピヨン』っていう映画は。で、それが彼のセリフだったんでね、まあ『パピヨン』も見ていただきたいなと思いますね。

(山里亮太)3つ見ると、より面白くなると。相乗効果で。

(町山智浩)はい。

(赤江珠緒)なんか、思想って本来、人を幸せにするもののはずが……複雑ですね。

(町山智浩)まあ、誰でも間違っていて。日本でも、それこそゴールデン街で昔飲んでいたような人たちは、みんな共産主義を語っていたりしましたよね。

(赤江珠緒)ねえ。行ったり来たり、しますもんね。

(町山智浩)ねえ。でも、サルトルもゴダールも共産主義にハマッていましたけど。ただ、アメリカのように刑務所にブチ込まれたリしないですよ。それで。で、映画界で干されたりなんか、全然してなかったわけで。やっぱりその頃のアメリカっていうのは思想で人を弾圧するっていう、ソ連と同じことをやっていたんですね。だから、そういうことも含めて、この2本の映画は互いに補い合ってひとつの物語になるところあるので。

(赤江珠緒)いろいろセットで見ると、その時代が見えてくるということですね。

(町山智浩)そういうことです。

(赤江珠緒)はい。今日は映画『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』と『ヘイル、シーザー!』のお話でした。来週はスペシャルウィークということで、町山さんがご紹介してくださるのは、佐村河内氏のゴーストライター騒動を映画化したドキュメンタリー映画『FAKE』だそうです。

(町山智浩)はい。これもすごかったですよ! 佐村河内さんがあの事件があった後、どうしていたか?っていうのをずっと密着して。彼の自宅で撮り続けたものなんですよ。

(山里亮太)そっか。佐村河内さん側って、あんまり届けられてないですもんね。だいたい、新垣さんの方だけだから。

(町山智浩)そう。あの後、佐村河内さんがどうしていたか?っていうのが、はじめてわかるすごい映画を来週、紹介します。

(赤江珠緒)それは興味深いですね。では町山さん、また来週。ありがとうございました。

(町山智浩)はい。

<書き起こしおわり>

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