町山智浩『イット・フォローズ』『ババドック』とホラー映画を語る

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町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でホラー映画『イット・フォローズ』と『ババドック 暗闇の魔物』を紹介。さらにホラー映画の本質について話していました。



(町山智浩)今日はですね、新年早々非常に申し訳ないんですが、今週末、1月8日から公開の映画がありまして。それをちょっと推薦したいので。ホラー映画の話にさせてください。

(赤江珠緒)そうなんですよね。

(町山智浩)すいません、はい(笑)。1月8日から公開の映画で『イット・フォローズ』という映画を紹介します。はい。『イット・フォローズ』ってこれ、タイトルが辛いんですけども。日本語に訳すとですね、『それが追いかけてくる』という意味です。

(赤江珠緒)ほう。

(町山智浩)これはですね、2015年。去年のアメリカでのホラー映画の最大のヒットというか、いちばん評価されている映画です。

(赤江珠緒)へー!うんうん。

2015年 アメリカのホラー映画最大のヒット

(町山智浩)で、ですね、これはどういう話かっていうとですね、主人公が女の子がいまして。19才で、大学に入ったばっかりなんですね。ジェイというかわいい子なんですが。ムチッとした子ですが。その子がデトロイトに暮らしていて。ボーイフレンドができてデートに行くんですけども。で、そのボーイフレンドといわゆる、なんて言うか・・・『いわゆる』ってことはないですが、エッチをするんですよ。

(赤江珠緒)なんでそこ、『いわゆる』をつけるんですか?(笑)。

(町山智浩)『いわゆる』じゃないですね(笑)。言いづらいんでね。昼間のラジオなんで。ごめんなさい(笑)。したらですね、彼女は要するに彼が本当に好きになって。すごくロマンチックな気分に浸っているんですけど。すると、彼がこう言うんですよ。『ごめん。僕がいま君とエッチをしたのは、君を愛しているからじゃないんだ』と。

(赤江珠緒)ええっ!?ひどいじゃないですか。

(町山智浩)『あるものを君にうつすためなんだ』って言うんですよ。『僕も、人からうつされたんだ。これにかかると、あるもの(イット・それ)が君を追ってくるだろう。どこにいても追っかけてくるんだ。それは、君が死ぬか、誰かとまたエッチをしてそれをうつさない限り、ずーっと追ってくるんだ。君を殺すまで』って言われるんですよ。

(赤江珠緒)ええーっ!?

(町山智浩)不幸の手紙みたいなエッチだったんですね。

(山里亮太)すごい斬新な設定だ。

(町山智浩)もう、それでたいへんなことになっていくっていうホラー映画がこの『イット・フォローズ』なんですね。『それが追ってくる』っていうタイトルの映画なんですけども。これがすごい低予算で作られてですね。デトロイトっていうのは前もちょっとお話したんですが、もうほとんど廃墟になっているんですね。街が。そこで撮影されているんで、ものすごく安いんですよ。制作費が。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)デトロイトっていうんは自動車産業でもってどんどん都市が巨大化して、その後、自動車産業がダメになった時に、巨大化した都市が巨大化したままどんどん人がいなくなっちゃって廃墟になったんで。まあ、撮影はしやすいんですよね。人がいないから。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)それですごく怖い感じになりますね。やっぱりね。

(赤江珠緒)怖いですね。それね。廃墟はやっぱり怖いな。

(町山智浩)そうなんですよ。で、しかもそこで撮影する時に市が協力してくれるんで、お金とかも安くて。たった2億円で作らえているんですよ。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)これ、2億円っていうのはアメリカ映画ではものすごい低予算レベルです。

(赤江珠緒)そうですよね。桁がぜんぜん違いますよね。

(町山智浩)はい。日本では3億円とか4億円で普通の映画ですけども。アメリカでは2億円だとものすごい低予算映画ってことになります。はい。で、これがですね、10倍以上の収益をあげているんですよ。で、『これ、怖い!怖い!イット・フォローズ、怖い!』ってことでもって、すごい若者たちの間で、ネットを中心に盛り上がって。みんな見に行ってですね、見たんですけども。もうひとつの話題があって。この映画。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)『よくわからない』って言われてるんですよ。

(赤江珠緒)えっ?

(町山智浩)『見たんだけど、いったい何が何なのかわからない』っていうことで、さらに、『じゃあもう1回見よう。もう1回見よう』ってことでもって、ずーっと人気が続いているんですよ。

(赤江珠緒)ええっ?まず、やっぱり町山さん、怖いは怖いんですか?

(町山智浩)怖いのは怖いです。っていうかね、カメラがものすごくね、美しいんですよ。映像的には非常に美しくて。しかもじーっと撮っているんで。見ている間、ずーっと何が起こるだろう?っていうものすごい恐怖にとらわれていくんですよ。

(赤江珠緒)うわー・・・

(町山智浩)ただ、画面では実際に何も起こらないんです。

(赤江珠緒)ええっ?

(町山智浩)何も起こらない時がいちばん怖いでしょ?

(赤江珠緒)はいはい。

(町山智浩)夜、目が覚めてしまって、突然、足元の方にある部屋のドアかなんかが開いているとするじゃないですか。それ、じーっと見ている時って、いちばん怖くないですか?

(山里亮太)怖いです。なんか勝手に見えてきちゃったりするの。なんか。

(町山智浩)なんか見えてくるような気がするでしょ?したら、廊下の方でなんかガサッて音がして。誰かいるの!?みたいな時。いちばん怖いじゃないですか。何も起こってない時がいちばん怖いですよね。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)そういう感じが画面全体にずーっと満ち満ちていて。特撮もほとんど使っていないです。何も、実際のものは出てこないんですよ。

(赤江珠緒)あ、そうなんですか。ええ。

(町山智浩)でも、非常に画面が美しくて、音楽も非常に変わった音楽なんですけど。見ている間、全く飽きないで常に怖い状態が続いているんですよ。

(赤江珠緒)うわー、常に何かが起きそうで。

(町山智浩)そう。何かが追ってくるんですよ。たとえば、学校でその女の子が勉強をしてるんですけど。そうすると、窓から学校の校庭が見えるんですね。大学ですけど。すると、向こうの方からですね、どうも大学にいるはずがない、病院に入院している人が着ているみたいな、エプロンみたいな服、あるじゃないですか。手術の時に着る。あれを着たおばあさんがずーっとこっちに向かって、じっと彼女を見て、歩いて向かってくるんですよ。こっちに向かって。ゆっくり、ゆっくり。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)それは、彼女に病気をうつした彼が行っていた、『それは、ものすごくゆっくりと襲ってくる。でも、確実に君を捕まえるんだ』って言っている通りなんですよ。

(赤江珠緒)ええっ?

(町山智浩)それはもう、ただ本当におばあさんが近寄ってくるだけなんですけど、ものすごく怖いんですよ。っていう映画が『イット・フォローズ』なんですけども。ただね、いったいこの映画が何を言おうとしてるんだ?ってことでもって、ネットでいろんな論議が巻き起こって。しかも、クエンティン・タランティーノっていう映画監督がいるんですね。

(赤江珠緒)はいはい。

(町山智浩)で、その人は『この映画は素晴らしい』って言いながら、『でも、この映画、ちょっと違う。もうちょっと直したら良くなる』みたいなことを意見したんですね。雑誌のインタビューで。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)ところがそれが、どうも読み違えていたみたいで。この映画の『イット・フォローズ』の監督のデヴィッド・ロバート・ミッチェルっていう人がちょっと反論したりしてるんですよ。Twitterで。

(赤江珠緒)ええ、ええ。

映画の内容に関する議論が盛り上がる

(町山智浩)あと、この映画に関して、『実はこうなんじゃないか?』っていう論議があまりにも盛り上がったために、この監督自身がインタビューで、『いや、それはちょっと違う』とか言わざるを得なくなったりとかして、常に盛り上がり続けている映画がこの『イット・フォローズ』なんですね。

(赤江珠緒)へー。そんな議論が巻き起こるような感じ?

(町山智浩)映画なんですよ。でね、この映画は2015年のベストなんですけども、参考までにですね、2014年のベスト映画がやっと日本でも9月ぐらいにDVDが出たばっかりなんで。その話をしたいんです。ちょっと。『イット・フォローズ』の間に。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)それはね、『ババドック』っていうすごいタイトルです。『ババドック 暗闇の魔物』っていう映画なんですね。これは、お母さんが1人で子供を育てているんですけど。子供は6才ぐらいで。ある日、絵本を夜、寝る間際に読んであげようとしたら、買ったことのない絵本が出てくるんですよ。

2014年ベストホラー映画『ババドッグ 暗闇の魔物』



(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)それは飛び出す絵本で、『ババドック』っていう黒い怪物が夜に寝ている子供を襲ってくるっていう内容の絵本だったんです。で、そんな本、買うわけがないんですけども。それでもって子供はどんどん、『ババドックが襲ってくる!ババドックが襲ってくる!』っつって、『怖い!怖い!』ってもう寝なくなっちゃうんですよ。

(赤江珠緒)うーん。

(町山智浩)それが『ババドック 暗闇の魔物』っていう映画で。これは寝、2014年のアメリカとか全世界の映画ファンとか映画批評家の間で、ホラー映画のベストって言われた映画なんですね。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)で、とにかくめちゃめちゃ怖いんですよ。こっちも。

(赤江珠緒)これ、なんか表紙の・・・プログラムかな?これを見るだけでも。はい。

(町山智浩)ただね、この映画ね、怖いっていうのはいわゆるお化けが出て怖いっていうのともっと違う。もっと嫌な嫌な嫌な怖さなんですよ。これはね、まず、このお母さんは交通事故で夫を失っちゃうんですね。で、夫を失ったトラウマがぜんぜん癒えないのに、子供を1人で育てていかなきゃいけないんですよ。

(赤江珠緒)ああー。

(町山智浩)それで彼女は夫婦でいる時は、物書きになろうとしていたんですけど。その夢を諦めて、老人ホームで介護の仕事をしてるんですね。ところが、子供を預けたりするお金がないんですよ。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)で、その育児と仕事と両立させようとして一生懸命がんばるんですけども。寝ないで働くわけですね。

(赤江珠緒)ええ。

(町山智浩)どんどん疲れていくんですよ。

(赤江珠緒)シングルマザーのね。どんどんたいへんになっていってる状態。

(町山智浩)たいへんなんですね。お金がないから。それで、自分の妹にもたのんだりするんですけど。子供を預けたりするんですけど。それもだんだん上手くいかなくなって。しかも、その彼女の苦労っていうのは周りの人がわかってくれないんですよ。だから、周りの人にも当たり散らすようになって、どんどん関係が悪くなって、どんどん孤立していくんです。

(赤江珠緒)はあー・・・

(町山智浩)で、子供はこのお化けの本『ババドック』のせいで眠れなくなるから、仕事でもミスをするようになっていくんですよ。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、もう疲れ果てて、いつも眠い状態なんで、家事もだんだん疎かになっていって、子供にご飯も作れなくなっていくんですよ。で、子供はもちろんそういう精神的なお母さんの状態っていうものをすごく敏感に写しとるから、学校とか友達関係でもトラブルを起こすようになるんですよ。

(赤江珠緒)どんどん悪循環が。

(町山智浩)どんどん悪循環で、最悪の状況になっていくんです。それで、自分はこの子をちゃんと育てられないんじゃないか?ってことで、どんどんどんどん、『じゃあもう死んじゃおうか?この子を殺しちゃおうか?』ってことになっていくんですよ。

(赤江珠緒)ええー・・・

(町山智浩)で、子供に対しても『あんたのせいよ!』って虐待をするようになるんですよ。

(赤江珠緒)ああー・・・

(山里亮太)もうホラーっていう感じじゃないですね。

(町山智浩)もう聞いているだけで、地獄が百個ぐらいのしかかってくる感じなんですよ。で、このお母さん自体、ぜったいに悪い人じゃないんですよ。全く。一生懸命やっているんですけど。もうどうしようもないわけですね。で、この『ババドック』っていう映画はものすごく怖いですね。こんなに嫌な映画っていうのはないですよ。滅多に。

(赤江珠緒)ええーっ・・・

(山里亮太)嫌な怖さですね。たしかに。お化けのウワーッ!とか、ギャーッ!っていうのじゃなくて、人間の・・・

(町山智浩)そうなんですよ。で、こういう映画っていうのはホラーとかそういうののいちばん基本にある怖さで。『シャイニング』っていう非常に有名なホラー小説と映画があるんですけども。それは、売れない作家。物書きがですね、だんだんおかしくなって自分の奥さんと子供を殺そうとする話なんですよ。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)それは、その小説を書いたスティーブン・キングっていう人が本当に売れなくて。で、おかしくなっていって、自分がそんなことをするんじゃないか?っていう風なことを、ものすごく怖くなったんですね。そのことを書いたものなんです。『シャイニング』っていうのは。だからすごいリアルだし、すごくいやーな感じなんですよ。

(赤江珠緒)そうですね。追い詰められた人間の中にあるわけですもんね。

(町山智浩)そうなんですよ。だからお化けがどうこうっていうことに一応してるんですけど。どの話も。でも、そのお化けっていうのは、それぞれの人の心の中にあるものなんですよ。

(赤江珠緒)ねえ。怖いわー。

(町山智浩)だから単にお化けが出て怖いよっていうんじゃなくて、あなたにも起こりますっていうことなんですよね。

(山里亮太)ああー、その怖さなんだ。

(町山智浩)その怖さなんですよ。たとえば、この『ババドック』では旦那さんが交通事故で死んでいるんですけども。交通事故で死ななくても、シングルマザーになった人っていうのは、離婚とかでやっぱり愛する人を失っているっていう点では同じですよね。で、トラウマは同じなんですけど、子供を1人で育てていかなきゃならないっていう、誰よりも重いこの重荷を背負うわけじゃないですか。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、誰にもわかってもらえないわけですよ。どんどん孤立していくわけですよね。だからこれはすごくて。この『ババドック』っていう映画は監督はジェニファー・ケントさんっていう女性で。シナリオも彼女が書いてるんですけど。その、女性の立場からですね、非常に主人公に共感を込めて書いていて。しかも、そういうシングルマザーの映画っていっぱいあるでしょ?

(赤江珠緒)そうですね。うん。

(町山智浩)小説でも、あるじゃないですか。でも、どんなシングルマザーの映画よりも、このホラー映画の方が、ホラー映画にすることでもって、本当にこれが大変なことなんだ!ってことが男にも、子供を持っていない人にも、それこそ子供にも、全部伝わってくるようになっているんですよ。

(赤江珠緒)そうなんだ!ドキュメンタリー映画とかよりも、このホラー映画にすることで。

(町山智浩)そうそう。ホラー映画にすることで、これは地獄なんだよ!っていうことをみんな、わかってあげようよ!ってことで、すごく効果があるようになっていますね。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)はい。だからホラー映画っていうのは一見お化けの話のようで、そうじゃないわけですよ。で、本当に怖いホラー映画と怖くないホラー映画の差はそこにあるんですね。本当の嫌なこととか、みんなが怖がっていることをホラーの形で見せていくっていうことをやっているかどうか?なんですよ。

(赤江珠緒)ああー、そうか。

(町山智浩)だから、『変な沼地にお化けがいて怖いよ』っていうのはぜんぜん怖くないわけですよ。『そんなもん、ないし』みたいな。

(赤江・山里)ああー!

(町山智浩)だからもっと言っちゃうと、お化けって存在しないじゃないですか。実際は。

(赤江珠緒)そっか。じゃあ現実世界の不安から生み出されたものじゃないと。なるほど。

『イット・フォローズ』が描くもの

(町山智浩)そうなんですよ。本当に怖いことっていうものを描いている場合、本当に怖くなるんですよね。で、この『イット・フォローズ』の話に戻ると、この映画はあまりにも怖いし、みんながすごく見ていて本当に怖いから、『この映画は実は現実の何かを描いているんじゃないのか?』っていう話になっていったんです。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)で、そういう時、映画評論家とか一般の人たち、ジャーナリストとかはこういう風に、ほとんどの人が批評をしたんですよ。『このイットっていうセックスによって感染していく呪いみたいなものは、これは性病を意味しているんじゃないだろうか?』と。要するに、エイズとかね。

(赤江珠緒)はー。まあ、現象だけを表面的に見ると、たしかに。うん。

(町山智浩)で、この女の子はよくない男とエッチしてしまったために。しかもそれをいっぱいうつしていくってことで、いっぱいセックスをしなきゃならないわけですよ。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)だからこれは、要するに身持ちの悪い娘というかですね、いい加減なエッチとかをすると死ぬ目にあうよ、ひどいことになるよっていうような、一種の教訓みたいなものをね、描いた映画じゃないだろうか?って言われていたんですよ。公開された当時。

(赤江珠緒)ええ、ええ。

(町山智浩)で、クエンティン・タランティーノ監督は『これは一種の女性嫌悪によって作られた映画なんだ』ってことを言ってるんですね。

(山里亮太)女性嫌悪?

(町山智浩)女性嫌悪。女性を憎む気持ち。っていうのは、タランティーノ自身がそういうホラー映画を1本、撮っているんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)『デス・プルーフ』っていう映画なんですが。それは、カート・ラッセル扮するおっさんの元スタントマンが、バーで女の子たちをナンパしようとするんですね。で、女の子たちがすごいセクシーな格好をして、セクシーな会話で彼をその気にさせるんだけども、結局おっさんだから、『あんた、歳とりすぎてるから恋愛の相手にならないわ』って振られちゃうんですよ。そのスタントマンのおじさんが。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)そうすると、彼はそれでもって女の子たちを皆殺しにしちゃうんですよ。

(赤江珠緒)え・・・ええー・・・

(町山智浩)スタント用の車を使って。っていう、タランティーノ、お前、何かあったのか!?って言いたくなるような映画が『デス・プルーフ』っていう映画だったんですね(笑)。

(山里亮太)たしかに(笑)。その恨みを全て映画に(笑)。

(町山智浩)そう。でも、そういうものがホラー映画には多くて。ホラー映画ってほら、セクシーな女の子とかエッチしている女の子ってすぐ殺されるじゃないですか。

(赤江珠緒)ああー、そうですね。うん。

(町山智浩)真っ先に殺される。『エルム街の悪夢』とか『13日の金曜日』とか、みんなそうなんですよね。だからこの『イット・フォローズ』もそういう映画じゃないか?ってタランティーノは思ったみたいで、そういうのを言っちゃってるんですけども。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)そういった評判に対して、この監督はとうとうインタビューで『そうじゃないよ』って言わざるを得ないところまで追い込まれちゃったんですよ。

(赤江珠緒)ええー?

(町山智浩)デヴィッド・ロバート・ミッチェルは、『この映画は性病についての映画だと思われるかもしれないけれども、そうじゃないし、自分はそれを狙っていないし。セックスをすると怖いことになるよって、セックスを戒めるような。若い女の子たちに「セックスをすると怖いよ」っていうような教訓の映画でもないんだ』ってインタビューで言っているんですよ。

(赤江珠緒)ほう。違うと。うん。

(町山智浩)『違うんだ』と。じゃあ、そうじゃなくて、じゃあ何の映画か?っていうと、『はっきりとは説明しないけれども・・・』と言いながらも、こう言ってるんですね。『生と死と愛についての映画なんだ』っていう風に言ってるんです。

(赤江珠緒)ほう。難しいな。生と死と愛。はい。

愛と生と死の映画

(町山智浩)『生と死と愛についての映画なんだ』って言ってるんですよ。で、これはね、たぶん『イット・フォローズ』って配給会社の方の説明にもそう書いてないし、ほとんどの日本のマスコミはそうは説明していないし。たぶん見た人も、見終わった後でもそうだってことを気づかない人は多いと思います。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)でも、これは実は愛の物語なんですよ。

(赤江珠緒)ええーっ!?

(町山智浩)僕もね、この映画を見た時にすごく引っかかるところがあったんで考えたんですけど、この映画は普通のホラー映画で、怖いよ怖いよっていう映画とちょっと違うんですね。『イット・フォローズ』っていうのは。2ヶ所、すごい文学作品の引用が出てくるんですよ。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)ひとつはですね、詩人のT・S・エリオットっていう人が若い頃に書いた誌ですけども。『J・アルフレッド・プルーフロックの恋歌』っていう詩があるんですが。それが朗読されるっていうシーンが出てきます。

(赤江珠緒)ええ、ええ。

(町山智浩)それともうひとつ、朗読シーンがあって。もうひとつの方はドストエフスキーの小説で『白痴』という小説ですね。その中から、ドストエフスキー自身が死刑になりそうになった時の体験の部分が朗読されるんですよ。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)ここがすごい重要な意味を持っているんですよ。そういう映画なんですよ。『イット・フォローズ』っていうのは。

(赤江珠緒)ええっ!?

(町山智浩)ただの怖い怖いホラー映画とちょっと違うものなんですよ。

(赤江珠緒)いまのあらすじから、急にこんな朗読が入るシチュエーションっていうのは、なんか・・・

(山里亮太)想像がつかない。

(町山智浩)そうなんです。まあこれは見てもらわないとわからないんですけども。特に、前半の方で両方ともね、出てくるんですけど。引用に関してはね。実はこの、最初に紹介した『ババドック』と『イット・フォローズ』っていうのは実はものすごい怖くて、普通のホラー映画よりももっとはるかに怖い演出になっています。けれども、最後に見終わった後に残る気持ちは正確にその映画をきっちり見ていれば、見終わった後に残る気持ちはものすごくあったかいものなんですよ。

(山里亮太)ええっ!?

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)あったかい、感動が残るんです。で、このふたつはいわゆる襲ってくるもの、怖いものっていうものが、要するにホラー映画だと悪人だったり、邪悪な霊だったりしますけども。そういったものっていうものは、決して完全にかき消すことはできないんだっていうテーマなんですよ。

(山里亮太)ふんふんふん。

(町山智浩)決してそれから逃れることはできないと。たとえば、心の傷であるとか、不安だとか。たとえば死ぬってことからも人間はぜったいに逃れられないですよね。ぜったいに死にますよね。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)でも、それでも生きていこうねっていう話なんですよ。ふたつとも。

(赤江珠緒)えらく深い話だったんですね。へー!

(町山智浩)そうなんですよ。だからすごく、作り手側のメッセージをちゃんと受け取ると、すごく前向きな話で。しかも、あたたかい愛の映画なんですよね。感動的な。

(赤江珠緒)へー!

(山里亮太)でもな、僕、とにかくホラーが苦手なんですよね。だから・・・怖くて・・・

(町山智浩)あのね、ホラーが苦手な人にはこの2本は強烈です。はっきり言って。ホラー度がものすごく高いんですよ。

(赤江珠緒)へー!いや、でもそれだけね、怖がらせて、あたたかい気持ちになるってこれ、作品としてはすごいですね。

(町山智浩)我慢して見ると、そう。非常にいい話なんですよ。

(赤江珠緒)へー!

(山里亮太)できるかな?我慢・・・

(町山智浩)はい。で、まあ見てない人のためにこれ以上説明はしませんが。いつか説明する時が来ると思いますけども。解説できればと思いますが。まあ、ご覧になっていただきたいと思います。

(赤江珠緒)いや、でもすごくこれね、興味出てきましたよ。

(山里亮太)まず『ババドック』から見て、練習しようかな?家で。

(町山智浩)『ババドック』ね、DVDで出てますからね。はい。ぜひ。お正月からこれを見るのか?っていう問題もありますが。はい(笑)。

(山里亮太)たしかに(笑)。ちょっとがんばってみようかな?

(赤江珠緒)生と死と愛という。

(町山智浩)この、2つの映画の監督はたぶん大物になりますよ。

(山里亮太)へえ!まだ若いんですね。

(赤江珠緒)そうですか。

(町山智浩)『ババドック』の方の監督はたぶん『ワンダーウーマン』の劇場版を作るんじゃないか?って言われてますね。もうハリウッドから2人とも引きぬかれて。次はデカい映画を撮るみたいですけどね。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)ということで、お正月早々ホラーですいませんでした。

(赤江珠緒)いえいえ。でも、『イット・フォローズ』はすぐに見れますから。今週金曜日に公開となります。町山さん、ありがとうございました。

(山里亮太)ありがとうございました。

(町山智浩)どもでした。

<書き起こしおわり>

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