菊地成孔 HIPHOP楽曲の作り方を語る『HIPHOPはジャズの孫』

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菊地成孔さんがTBSラジオ『粋な夜電波』で大谷能生さんとのHIPHOPチームJAZZ DOMMUNISTERSのアルバム制作話をしていました。『XXL』という曲をベースに、どのようにHIPHOPの楽曲を作るのか?という解説をしています。


(菊地成孔)先ほどお聞きいただいた『XXL』というのはね・・・っていうか、HIPHOPってどんな風に作るんだろう?とか、みなさんご存知ないでしょうね。逆に、もう作られている、リスナーの方でね、自分もやっているという方は、ほとんどの方がもう作っている方だと思うんですよ。70年代のね、フォークに似ていますね。もうギターを持って歌っている方はやってる人なの。わかんないかな?今のたとえ、わかんないでしょ(笑)。『聞くだけでやらない』っていう率がすごい少ない音楽なんですよ。『聞くし、やってるよ』っていう人が多い音楽ですよね。フォーク以来だと思います。あの、打ち込みが発達して発表する場もいっぱいありますから。

なので、そんなの知ってるよ!っていう方も多いと思います。関係ない人には全然関係ないんでね。まずはカラオケみたいなのが来るんですよ。たとえばさっきの曲(『XXL』)だったら、こういうのが来るの。



(菊地成孔)これ、なんにも乗っかってないわけ。すっぴんのが来るんですね。ビートメイカー、これ、私の生徒の田中くんっていうね。田中ちゃんじゃないですよ。韓流最高会議に出てくる田中ちゃん(田中教順)じゃないです。田中くんですからね。田中ちゃんは田中ちゃん。田中くんは田中くんなんで、これから・・・あと、田中角栄は田中角栄なんで。そのへんはよろしくお願いしたいと思うんですけども。

田中くんっていう若い男の子、天才トラッカーで。いくつか『先生、こういうの作ってるんですけど』って来る。こんな感じになってるんですよ。で、まず『このギターの音抜いて』って言って、抜かせて柔らかくしてですね。それでスタジオですごい聞くの。もう100回ぐらい聞くんです。本当に。そうすると、その曲のテーマっていうか。HIPHOPには、このへんね、この番組では微妙なんですけど。ジャズファンの方で聞いてる方、いっぱいいると思いますよね。お父さま方とかでも。

ジャズとすごい似てるんですよね。まあ、ジャズの孫だと私、思いますけど。ジャズがおじいちゃんで、息子がファンク・R&Bで、孫がHIPHOPだと思うんですよ。で、この話、番組でも何回もしましたけどね。孫はかわいいですよね。おじいちゃんから見ると。お父さんから見ると、息子はウザい(笑)。まあ、仲がいい親子もありますけど。その、2代離れちゃうとね。『テーマ』っていうの。ラッパーにね、カラオケ、トラック配りますよね。ビートを。そうすると、みんな。(SIMI LAB)OMSB’eatsもMariaも、みんながみんな『菊地さん、これテーマはなんですか?』って言うの。

ジャズっぽいでしょ?ジャズもテーマがないと始まんないですよね。で、テーマ。ジャズで言うテーマ。英語だと『theme』ってい言いますけど。ジャズだと演奏のアドリブが始まる前に、『♪♪♪』(メロディーを口ずさむ)とかやるわけですよ。『♪♪♪』『じゃあ、あれね。終わったらひとりずつソロだ』『♪♪♪』終わったら次。『♪♪♪』。これ、マイクが回ってくるわけですね。これ、HIPHOPと全く同じ。で、テーマを決めないといけない。リーダーっていうか、プロデュースする人が。で、どうしようかな?うーん?っつって。これなんかは聞いていて・・・

(曲のトラックを流す)

(菊地成孔)こう、わかんないの。あれにしようかな?これにしようかな?っつって。それである時、やっぱりこれもね、なんて言うかクリエイトの真髄と言いましょうか。やっぱり何十回、何百回って聞いて夢の中に出てくるって状態になった時にね、ある日ハッと気がつくんですね。あ、これはレズビアンの話だ!って。これ、ヒラヒラヒラッて上でヒラヒラヒラッて音がね。年配の方には懐かしき、思い出深い百合族っぽいヒラヒラヒラッて感じがレズビアンじゃないかな?っていう。それで最初はXXLじゃなくて『L』っていうタイトルだったんですね。

それで、Mariaさんに『ちょっとテーマ、レズだけど大丈夫ですか?』って打診したら『OKOK』って。Mariaさんはまあ、結構想像力豊かな方っていうか。まあ実際のMariaさんのセクシャリティー、私知りませんよ。全然。Mariaさんってラッパー。最初に出てくる女性ラッパーですけど。ほいでもって、今回このアルバムにMoe and ghostsっていうフィメールラッパーのMoeさんっていう方のチームから、はじめて他人のグループにフィーチャリングされるっていうんで。Moeさんに参加してもらったんですけど。

Moeさんを見出したの、大谷(能生)くんって事になってるんですけど(笑)。そのことをMoeさんに言うと苦い顔をするんですけどね(笑)。まあ、それはいいんですけど。そのMoeさんが参加してくださると。で、Moeさんにもたのんだの。これ、やっぱり相手がいて、2人のイチャつきを聞かせないと話にならないんで。Moeさんに『相手やってくれませんか?』っつったら、まあ気軽に言ったんですよ。断られるのも覚悟でね。そしたら、Moeさんすごい誠実な方で。ものすごい恐縮。まず電話かかってきて。滅多に私、ミュージシャンと携帯で話したりしないんですけど。

『お話したいことがあります』って電話がかかってきてですね。『えええー、怒られちゃうのかな?』って思って電話出たらすごい丁寧な口調で、とにかく自分はフィメールラッパーのポリシーとしてジェンダーとセクシャリティーには触れないって決めているんで、大変この企画はいいと思いますし、参加させていただくのは・・・まあ、わかりませんけどね。想像ね。ものすごい丁寧な辞退の言葉が来て。そんなに丁寧にしなくていいですよ。ちょっと出来ねーからやらねーってので十分なんですけどっていうぐらいなのが来まして。

それで、どうしようかな?っつって、市川愛さんっていうジャズボーカルの方が今回、ガヤだったりコーラスだったり参加してくださって。市川愛さんって方に、『ちょっと友達にそういうことやってくれる人、いないか?』ってね。お前、なにいい年してデーモン閣下みたいなこと言ってんだ?って話なんですけど(笑)。一応、キャラ設定ですよね。市川愛さんっていう方に、『友達にそういうことやってくれる方、いないか?』っつったら、『いるよ。日本語できないけど、いい?』って。で、ICIっていう友達がやって来てですね。まあ、ICIっていうのは、『ICHIKAWA AI』っていうのをアルファベットで書いたのを抜いただけですけどね。

まあ、だいたいそういう話なんですけど。で、いま新人フィメールラッパーのICIが誕生したって顛末なんですよね。だからラップソングっていうのは作詞家がいないんですよ。全部共作なんです。あの、テーマ決めたら全員が勝手にやってくるの。ジャズのアドリブと全く同じですよね。なんで、ポップみたいに統一作詞家がいないんですけども。これはICIが歌っているラップの部分は私が書いて、私が見本っていうか入れたのをICIがそのままなぞってる。できない日本語でね。なぞっているだけなんで、ちょっとカタコトっぽいんですよね。

(中略)

(菊地成孔)そうやってトラックに入れ込んでいくんですよ。テーマを。テーマをあげないとラッパーは書いてきてくれないんで。まあまあ、『ノーテーマで』ってこともあります。その場合は、これもね、ジャズと同じですよね。ジャズも『ノーテーマで』って、これはもう百鬼夜行ですよ。あの、どんな演奏になるかわかったもんじゃないっていう感じで。やっぱりテーマがその曲を統括して、律してるんですね。だから、そこを決めて渡してあげると帰ってくるっていう感じですね。で、まあビートメイカーが作ったものに関しては、プロデューサーである私が考えるっていうね。

(中略)

(菊地成孔)リリックに関してはですね、最近はインナースリーブに全くリリックを載せないっていう。公式サイトで全部ダウンロードしてくれっていう人も増えてたりしてるんですけども。今回はポップスみたいに全部印刷して中にね、入れ込みますので。楽しんでいただきたい。読みながら、普通のロックやポップスみたいにね。全部目で追いながら聞けるっていう。目で追いながら聞くとまた一興ですけどね。

とは言えですね、これがもうなんて言うか。やっぱりスゴいですよ。全員ラッパーたちはもちろんラッピングの技術もいちばんそれが大切ですけど。全員がだってシンガーソングライターですからね。誰かラップの歌詞だけ書いて、起用な人に歌ってもらうっていう仕事がやがて出てくると思いますけど、いまのところ、まだないですね。ちゃんとやっている限りはね。だからもう内容とか、ヤバいんですよ。読んでくと。サーッと過ぎちゃいますけどね。気持よくね。

私は結構ね、リアリズムでやっています。やっぱりHIPHOPはリアルが命ですので。『おいらなんか母ちゃんが2人いる上に もし生きてたなら姉ちゃんも2人いた』っていうのも本当ですし。『同一性障害とベッドインした時は目眩したぜ』って同一性障害の人を差別してるかのようなね。NO差別ですよ、本当に。この番組のリスナーの方ならご存知の通りね。目眩がしたってだけのことですからね。目眩するほどのことだったってことですけども。まあ、リアリズムですよ。リアルにやっています。全部。『XXL』はね、PVをいま製作中ですので、お楽しみにって感じですけども。

<書き起こしおわり>