尾崎世界観 ゴールデン街マチュカ・バーのオンライン配信を語る

尾崎世界観 ゴールデン街マチュカ・バーのオンライン配信を語る ACTION

尾崎世界観さんが2020年5月19日放送のTBSラジオ『ACTION』の中で新宿ゴールデン街のマチュカ・バーが行ったオンライン配信営業を見て感じたことを話していました。

(尾崎世界観)相変わらず自粛ムードですから、表現者の方もね、いろいろ配信でやってるじゃないですか。いろんなことをね。

(幸坂理加)そうですね。

(尾崎世界観)で、この間、久しぶりにゴールデン街のバーのママから連絡をいただいて。「オンライン営業をするからよろしくお願いします」と。マチュカ・バーっていうね、ゴールデン街のバーなんですけど、連絡をもらって。「興味あるな」と思って調べたら、ネットでチケットを決済して買って。それでYouTubeの配信に入って。そこで700円とかで1杯、お酒も売っていて。まあ、それは気持ちなんですけど。それでママにお酒をご馳走しながら一緒に配信を楽しむというので、やってみたんですよ。

まあ、すごく面白かったんだけど。そもそもそのマチュカ・バーっていうバーになぜ行ったか?っていうのが、ゴールデン街に対してもちょっとネガティブな印象があるというか。なんか怖いじゃないですか。

(幸坂理加)ああ、新宿でしたっけ?

(尾崎世界観)まあ、そうね(笑)。新宿も怖いし、玄人の人が集まっているっていう印象があるから、「一見さんお断り」という感じがあって怖かったんですよ。ずっと。それではじめて行ったのが2013年で。その時、名古屋のラジオ局のディレクターさんがわざわざ東京まで来てくれて。「時間が取れない」っていうことで「じゃあ、こっちから行くよ」ってことで、東京にインタビューしに来てくれて。それ、すごく嬉しくて。「じゃあ、飲みに行きましょう」って飲みに行って。それ渋谷でちょっと飲んでたんですよ。

そしたら終電間際になって「もうちょっと飲める?」って言ってもらって。「ああ、もちろん」「俺、ちょっとさ、昔付き合ってた人がいて。その人がゴールデン街でママをやっているんだよね」って。「めちゃくちゃいいじゃん、それ! その感じ!」って思って。「久しぶりなんだけど、行こうよ」って。それで行ったところがマチュカ・バーっていうバーで。そのディレクターさんとママは会うのが20年ぶりだったんですよ。

(幸坂理加)ああ、そうですか。

(尾崎世界観)で、店もすごいいい雰囲気で。小さい店なんだけど、カッコいい感じなんですよ。もういろんなポスターとかバーッと貼ってあって、お酒もあって。で、なんか映画館みたいになるんですよ。カウンターしかないんだけど、そのカウンターの後ろにみんな椅子を持って並べていくから、なんか映画を見てるみたいな感じでママと対峙するんですけど。で、そこでいろんな話をして。「僕、バンドをやっているんですよ」っていう話から話が盛り上がっていって。で、かなりもう終盤、明け方ぐらいにその2人が付き合っていた時の時の話になったですよ。

それで「私さ、1個謝りたいことあるんだけど」ってママが言って。「何だろう?」と思って聞いてたら、「2人で商店街を歩いている時にね、仕事の話をしてくれたやん?」って。その男性がね、仕事の話をしたらしいんですよ。「今、こんな仕事をやっていて、大変で……」っていう話をしたら、そのママが「ああ、そうなんや。それ、わかるわ」って言ったらしくて。そしたらその瞬間、男性がつないでいた手をパッと振り払って「簡単に『わかる』なんて言うなよ!」って怒ったらしいんですよ。

で、「その時は、なんでそんな怒られなきゃいけないんだろうと思ったけど私、今ならなんであの時、怒られたかわかるわ。ごめんな」って謝ってたんですよ。で、そのママはシングルマザーで、娘さんを育てながら店をやってるんだけど。そういうのも踏まえて聞くと、なんかめちゃくちゃ想像できて。その2人がその商店街……たぶん人気のない、もうほとんどシャッターが閉まっていて。それで帰り道、歩いてる時に何気なく話したんだけど、手を振り払われて。その時の感じって、すごいなんか……ゴールデン街の店なんだけど、全然違う場所なんだけど。大阪の知らない商店街なんだけど、なんかすごいその話が印象に残っていて。で、そのママのことが大好きになって。

それでちょこちょこ行ってたんですよ。そんな、1年に1回も行けるか行けないかぐらいですけど、行っていて。それで久しぶりに……配信だからね、もうすぐに手軽に行けるじゃないですか。で、見ていたらね、そのママが配信始まって「どれや、これ? わからん……えっ、これ、ついてる?」とか言いながら配信をしているんですよ。

(幸坂理加)一生懸命に。

不慣れなママの配信がめちゃくちゃいい

(尾崎世界観)拙い感じなんですけど、なんかそれがめちゃくちゃよくて。それを見てるだけでなんか幸せな空気になるというか。今ね、こういう時期だからなんか……それがいいのかなと思ったんです。お笑いコンビのダイアンっていうお二人、僕は最近すごい好きなんだけど。この間、YouTubeで配信してて。それもなんか機材トラブルでもパニックになっていたりとして。でも、そういうところがやっぱりいいんですよ。一生懸命やってるのにできない人を見てるのが、なんか今の空気感にぴったりというか。これがなんかわざとやってたらバレちゃうんだけど、一生懸命やった上でできないっていう人を見てる時の自分のその眼差しも悪くないなと思って。

だからライブとかでもやっぱり完璧にやりたいから。歌詞も間違えたくないし、音程も外したくないし、しっかり声を出したいってやるんだけど、もしかしたらお客さんはそこを見てないのかなと思って。一生懸命やった上で、それが届かない瞬間というのも伝わるのかなって。まあ、口ではそうやって言うんだけど、実際はやっぱりミスすると嫌だし。でも、そのママの配信を見ていて「ああ、でも本当にそうなのかな。一生懸命やってて、できないっていうのは愛しいことなんだな」と思ったんですよね。

そんな中、ママがね、一生懸命にそのお店のお客さんの活動状況とかを紹介するんですよ。結構役者さんとかクリエイターの人が集まってくるじゃないですか。ゴールデンってね。だからその、「ああ今、見てくれてる人はね、この人とこの人がいてね……」って。同時にみんな見てるけど、誰が見てるかわかんないから。でも、なるべく店にいて一緒に飲んでるような雰囲気が味わえるように、丁寧に1人ずつ説明していくんですよ。

で、俺はほとんど知らないの。全然わかんないんだけど、そのママが紹介してる表情とかを見て想像できるっていうか。その商店街の雰囲気と一緒で、なんとなく伝わってくるんですよね。「ああ、こういう人なのかな?」って。でもね、全員をやっぱり愛しく思っていて。「この子はね、こんな仕事してて。こういう作品を作って。今、こんな感じで、ちょっと頑張ってんねんな」って。「もうみんな、成功してほしいわ」って言っていて。

(幸坂理加)うんうん。

(尾崎世界観)だからその人の作品も見たことがないし、想像することしか出来ないんだけど、やっぱり興味がわくんですね。どんなに詳しい評論家が「これはこうで、これが素晴らしいんですよ」って知ったような口を聞いているのを聞くよりも、「やっぱり店に来てくれるお客さんだから全員、幸せになってほしい」っていうシンプルな気持ちだけでしゃべってるんですよ。それを見ていてね、本当になんか心が洗われていく感じがして。

漫画家の新井英樹さんとかもいてね。『ザ・ワールド・イズ・マイン』とか『宮本から君へ』とかを書いているすごい漫画家の方なんですけど。その新井さんもいて。「新井さんも見てる?」とかって言いながら。俺も新井さん、知っているから。「ああ、新井さん、見ているんだ」って思ったりしていて。まあ、すごいいい空気の中、俺の番が回ってきたんですよ。

(幸坂理加)はいはい。

(尾崎世界観)「祐介くん、見てる?」っつって。俺、「祐介くん」って言われてるんだけど(笑)。

(幸坂理加)知ってますよー(笑)。

ママが紹介する尾崎世界観

(尾崎世界観)「世界観」なんて言っているけど、本名は「祐介」なんだけどさ(笑)。それで「なにを言ってくれるのかな?」なんて思って。それでバンドのことを結構紹介してくれて。「頑張ってるんよな」って言ってくれて。「ああ、俺は頑張ってんねんな……」って思いながら(笑)。嬉しいのよ。紹介してもらうと。なんか純度100パーセントの感じで紹介してくれるから。「ああ、ありがたいな」と思っていて。そんな中で、娘さんの話になって。ママの娘さんの話になって。

俺が初めて、そのマチュカ・バーっていう店に行った時に、「クリープハイプっていうバンドをやっている兄ちゃんが来てくれたんやで。こんな音楽やってて、めっちゃいいんやで」って言ってイヤホンで娘さんに聞かせてくれたらしいんですよ。そしたら娘さんが「お母さんが好きなもん、何でも好きになると思わんとって」って言ったらしいんですね。「ああ、そうか」と思って。

で、そこから月日が流れて、ママが最近、東京に引っ越してきたんですよ。だからその娘さんが中学3年のタイミングでちょうど、だから友達と離れちゃったらしいんですね。その節目のタイミングで離れちゃって、ママも「ちょっと申し訳ないな」と思ってる中、娘さんがずっとなんかの曲を聞いてたらしいんですよ。で、何を聞いてるのかを聞いても教えてくれないし。「何を聞いてるんだろうな?」って。それで卒業式も終えて、別れのタイミングが終わった時に何気なく、そのクリープハイプの『栞』っていう曲を歌ったら、娘さんが一緒に歌ってきたらしくて。

「えっ、これ、知ってるの?」って言ったら「知ってるよ」って言って。で、そのママが娘さんに勧めたことも、娘さんは覚えてなかったみたいで。「この曲、めっちゃええんやで。迷っても止まっても、いつも栞が教えてくれるねんで」って言われて。自分は友達と離ればなれにさせてしまったし、すごく申し訳なく思ってたんだけど、そういうクリープハイプの曲を聞いてくれてたのも含めて、なんか元気が出たって話をママがその配信でしてくれてたんですよ。

(幸坂理加)へー!

(尾崎世界観)で、その時に「迷っても止まっても いつも今を教えてくれた栞」っていう歌詞はね、俺が書いた歌詞なんだけど……なんかね、人のその生活の流れの中のエピソードで聞くと、めちゃくちゃまた違ったものに聞こえてきて。自分が自分の作品をちゃんとまた新しく聞けたというか。なんかこうやってね、ファンの人もきっともう何万通りとそういう聞き方をしてくれてると思うし。それぞれの歌詞があるんだなと思ったんですよ。だから、配信を見てよかったし……「俺、いい歌詞を書くな」って思いました(笑)。

(幸坂理加)フフフ、結局(笑)。

(尾崎世界観)いい歌詞を書く尾崎世界観が5時半までお送りします(笑)。

クリープハイプ『栞』

<書き起こしおわり>

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