尾崎世界観 警備員のアルバイトの思い出を語る

尾崎世界観 警備員のアルバイトの思い出を語る ACTION

尾崎世界観さんが2020年7月28日放送のTBSラジオ『ACTION』の中で警備員のアルバイト時代の思い出について話していました。

(尾崎世界観)それで教はさっきね、かけあいでもお話しましたが、トリプルファイヤーの吉田さんがゲストに来てくれるんですけど。そのダメなエピソードをね、いろいろと思い返していたんですよ。で、アルバイトのことをやっぱり思い返していて。どんな感じだったかな?って思って思い返している時に、自分のアルバイトの探し方をまず思い出して。

(幸坂理加)うん。

(尾崎世界観)求人雑誌をね、よくもらってきて。タダでもらえるやつを。それで片っ端から見るんですよ。で、自分が一番気をつけてたのが、写真がないところだったんですよね。笑顔で「私たちと一緒に働きましょう! 大歓迎。初心者に優しく教えます!」みたいな、めちゃくちゃ楽しそうな人たちの写真が載っているやつは絶対に弾いていた。

(幸坂理加)えっ、なんで?

(尾崎世界観)だって嫌だもん。絶対にそんな仕事、大変だもん。

(幸坂理加)えっ? 「みんな笑顔でいい職場だな」って思うじゃないですか。

(尾崎世界観)「そんなの嘘だな」と思って。「絶対に嫌な人間関係があるだろな」って。あと、そういうところに出てくるような人たちと絶対に俺は合わないと思って。そういう求人雑誌に笑顔で写るようなメンタリティーと絶対に自分は合わないなと思ってたので。あと、時給が高いところも弾いていました。高いと仕事が大変だって思っていたから、すごい安いところに……。

(幸坂理加)高ければ高い方がいいなって思ってましたけども。

(尾崎世界観)っていう風にみんな言うでしょう? だから写真がなくて、時給も安くて、もうすごい隅の方に載ってるちっちゃいやつとかをよく探してて。それで面接に行ったんですよ。それで決まったのがね、警備員のアルバイトだったんですけど。

(幸坂理加)警備員の。

(尾崎世界観)そうそう。単純に時給も安くてつらかったね(笑)。

(幸坂理加)フフフ、ダメじゃないですか(笑)。

(尾崎世界観)それで、研修を終えて……でね、その研修でもいろいろと車を止めたりする、誘導とかを教えてもらうんですよ。でも、雑で。短期間の研修で済ませて、すぐに1人で現場に派遣されたんですよ。それで僕、「トラックとか誘導できないんですけど。どうしたらいいですか?」って言ったら「大丈夫。笑ってればなんとかなるから」って言われて。

(幸坂理加)強行突破(笑)。

(尾崎世界観)そう。それで派遣されて。それで八丁堀の方のね、オフィスビルの改修工事だったんですけど。まあなんか、いきなり行って。で、トラックとかがいっぱい来るんですよ。で、それを止めなきゃいけないけど、止め方をわかんないから。もうそのたびに他の仕事を探して。「あれをやらなきゃいけない!」って何となくごまかし続けて。

「あそこのコーンがずれてる!」とか言ってトラックが来てるのに……でも、向こうももう面倒くさいから。警備員とかそんなの、あんまり見てないから、運転手さんも自分でやりたいと思うんですよ。それでなんとなく、そのまま成立してて。結構そんな感じでしたよ、ずっと。

それで朝早く起きて。6時ぐらいに起きて、家を出て、電車に乗って。だいたい、あれは京葉線かな? ディズニーランドやつ。東京駅から八丁堀に行く時に、ちょうどそのディズニーランドに行く楽しそうな人とすれ違うんですよ。浮かれた野郎どもと。それで俺は反対側に行ってね、八丁堀で降りて。それでコンビニでいつもあんまんとね、海老マヨネーズのおにぎりをかならず買ってね。

(幸坂理加)渋いですねー。

(尾崎世界観)渋いかな?(笑)。それで鍵を開けて、仕事が始まるんですけれども。まあ職人さんたちと一緒にラジオ体操をして。で、やることがあんまりない日も多いんですよ。そういう時って机に座って、ずっと座ったままなの。何もすることがないから。で、向かい側に怖い現場監督がいて。ちょうど向かい合ってる感じで。本当に怖いのよ。

(幸坂理加)怖そうですね、なんかね。

(尾崎世界観)で、向こうもでも何をさせていいのか分からないみたいで。下手に動かせないから。だからこっちも申し訳ないなと思いながら、ずっと座ってて。まあケツも痛いんですよ。木のベンチで固いやつだから。でも座れるだけありがたいなと思って。それでちょこちょこ現場も動き出して、仕事が増えてきて。それでいろんな会社の下請けの人たちがガーッて言われて。で、さらにその下の人たちに言われた人がまたガーッて言うっていう構造を俺はずっと見てたの。「社会の縮図だな」って思って。そういうのを見て。

で、普通だったらそういうのって人にはあんまり見せないじゃないですか。でもなんか、俺は見れたんですよ。その椅子に座りながら、いろいろと言われて「すいません」って謝っていた人がその後にまた別の人をつかまえて「ちょっとさ、これできてないんじゃないか?」ってその倍ぐらいの怒りをぶつけているという構図を見ていて。

(幸坂理加)尾崎さんが監督みたいですね(笑)。

(尾崎世界観)そうそう。俺が監督みたいになっていたのよ。でもあれ、なんで見せてくれていたのかな?って思い返したら、まあ空気だと思われてたんですよ。「こんなやつに見られていても別に痛くも痒くない」っていう。だからこそ、いろんなものが見れて。で、そのビルも改修工事してるからベニヤ板と養生テープとか、そんなのばっかりなんですよ。

養生をしているから、また普通のビルとはまた違った環境で。そこの中に埃がずっと舞っていて。みんないろんなところで作業をしてるから、ペンキの匂いもすごいしていたりとか。で、そこの階段の踊り場に座って、いつもその下請けの社会の縮図を見た後に、すぐその踊り場に隙を見て行って、歌詞を書いてましたね。日記を書いたりとか、思うことを全部書いて。

(幸坂理加)へー! そこで生まれてたんですか!

工事現場で見たことを怪談の踊り場で歌詞にする

(尾崎世界観)それが結構曲になって。それで終わってからかならず……もう5時半に終わって帰って、東京駅の松屋で牛丼を食べて。お金がなかったから、それしか食べれないから。それで始発で座れるから中央線に乗って、吉祥寺で降りて、いつもバンドで練習してたんですよ。7時ぐらいから。それで曲をひたすら貯めて。

もうその時、インディーズで初めてアルバムを作るぞっていう時で燃えていたから。かなりいろんな悔しい思いもしながら曲を作って、アルバムを完成させて。で、そのアルバムのタイトルが『踊り場から愛を込めて』っていうタイトルなんですよ。その現場でずっと踊り場に座っていろんなことを思ってたから。

(幸坂理加)へー!

(尾崎世界観)そうなんですよ。もう本当にいろんな人がいて。で、一番恥ずかしかったのが、職人さんがいるんですよ。空調の工事をする方とか、ペンキを塗る塗装の方とか、あとはその資材を運んでくる足場を作ったりする方とか。それで若手がかならずいるんですよ、どの職種にも。どの職人さんにも。で、やっぱり自分と同じ世代でバリバリ働いていて、楽しそうにしていて。でも自分はね、何も……手に職もないと思われてるし。よく言われて。向かいのビルの警備員のおじさんとかに。

「兄ちゃん、手に職をつけなきゃダメだよ」って言われて。「くそっ、俺にはあるんだけどな……」と思いながら。もう冬の寒いビル風に吹かれながら、ずっと立っていて。それでみんな職人の人たち、同世代の人たちが動き回ってる中で、でも自分はどこでも行けないから。立っているしかできないから。どうしていいか、わかんないんですよ。行動できないっていう。もう本当にそれが悔しくて惨めでしたね。

(幸坂理加)職人さんを見ながらね。で、踊り場に行って歌詞を書いて。

(尾崎世界観)歌詞を書いて。でも、それが別にね、曲にはなるけど、世の中に受け入れられる保証もないし。だから本当、その時はスタジオに行くのだけが楽しみでしたね。で、またスタジオが終わったらすぐに寝て、6時に起きて……の繰り返しで。そう。で、昼飯とかもね、みんな食べに行ってるんですよ。近所のそば屋とか。で、「いいな」って思うけど、なんか、そのお店で会いたくないから。会ったらなんか申し訳ないから。

(幸坂理加)ああ、気まずいから?

(尾崎世界観)「警備員の野郎が来てるぞ」ってなると嫌だから、いつも弁当を買って。のり弁をかならず買ってね、永代橋っていう橋が近くにあって。すごいきれいな。それをね、見ながら食べてましたね。まあ永代橋にいる人たちはなんか優しいからね。のほほんとしてて。なんかまたね、バカみたいにキラキラ光ってるんですよ。川面が。もうバカにしてるのかと思うぐらい眩しくて。自分はね、しょっぱいのり弁を食べてたんですけども。

(幸坂理加)でも、それを形にできるっていうのがすごいですね。

(尾崎世界観)まあねえ。で、ある日、社員の人が来てね。「尾崎くん、今日は車で送ってくよ」って言われて車に乗せられて。「何だ、これ?」って思ってたら「ちょっと話があるんだけど……」って言われて。「君は本当に真面目に頑張ってくれてるから、うちの社員にならないか?」って言って。「俺、誘導もできてねえのに何を言ってるんだよ?」って思って。何も俺のことを見てないの。ただ立っているだけで、踊り場でずっと歌詞書いてるのに「君、社員ににならないか?」なんて言われて。

(幸坂理加)その立ち姿が良かったんでしょうね(笑)。

(尾崎世界観)よくないでしょう?(笑)。寒いビル風に吹かれてね。

(幸坂理加)「よく耐えた」っていう評価だったのかな?(笑)。

(尾崎世界観)「寒さに耐えてよく頑張った! 感動した!」って?(笑)。何を感動してるんだよ(笑)。それで俺も言われた以上は神妙な顔で。「僕、言ってなかったんですけど、バンドやってるんですよね。夢を叶えたいんです」「そうかー。そういうんだったら、わかった。夢に向かって頑張って」と言われて。「何だ、これ?」って(笑)。

(幸坂理加)映画のワンシーンみたいではありますね(笑)。

(尾崎世界観)何も見てない人がそいつを社員にしようと思って。それで言われた方もなんとなくそれを断っていい感じになってるけど。まず、誘導ができないんだから(笑)。

(幸坂理加)そもそもね(笑)。

誘導もできないのに社員登用オファー

(尾崎世界観)でも、今思えば大変だったけど。なんかね、いい経験だなと思いますね。その時があったから。で、その後に派遣されて、別の現場があったんですけど。そこに行ってすぐにそのバイトはやめたんですけど。その現場もね、証券会社のビルでずっと警備してたんですけど。もうすごいんですよ。コンビニみたいになっていて。ビルの中に食べ物とかもあって。コンビニの、なんていうんですか? ショーケースみたいなのがあったりして。そこから自由に飲み物とかを取って食べれるみたいな。

(幸坂理加)めちゃくちゃいいじゃないですか。

(尾崎世界観)そういうビルの中でずっと立っていて。でも、昼は資材置き場にかならず帰って休憩するんですけど。真夏でもうサウナみたいに暑くて。でも、どこにも居場所がないから。そこで寝たりしてましたね。起きたらもっと疲れていて。汗まみれで。それで制服がね、すごい安っぽい制服だと、肌にこうざらざらと刺さるんですよね。あの汗と制服の裏地の感触を今でも覚えてるな。

(幸坂理加)気持ち悪そう。そこは、報酬はどうだったですか?

(尾崎世界観)そこは同じ会社で。「次の現場に行きなさい」って言われて。でもね、そこを辞めた後ぐらいからね、バンドがちょっと軌道に乗ってきたんですよね。

(幸坂理加)ああ、そうなんですか。いい思い出ですね。

(尾崎世界観)でも今もずっと座ったまましゃべってますけどね(笑)。幸坂さんという現場監督ににらまれながら(笑)。

(幸坂理加)私、監督なんだ(笑)。

(尾崎世界観)今日も楽しく5時半まで頑張ります。

<書き起こしおわり>

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