ジェーン・スー悩み相談「父の価値観の古さが気になります」(40代・女性)

ジェーン・スー悩み相談「父の価値観の古さが気になります」(40代・女性) ジェーン・スー 生活は踊る

ジェーン・スーさんが2020年5月1日放送のTBSラジオ『ジェーンスー 生活は踊る』の悩み相談コーナーの中で40代女性からの「68歳の父の価値観の古さが気になります」という悩みに回答をしていました。

(堀井美香)今日のお悩みは通算1638件目のご相談。40代女性からのお悩みです。「スーさん、堀井さん、こんにちは。さて、相談というか愚痴になりそうな気もしますが、腑に落ちる解決法が見つからないため、ご助言をうかがいたくメールさせていただきます。テーマは『父の価値観の古さをどうやりすごすか?』です。父は今、68歳。典型的な団塊世代のサラリーマンで大きな会社のそれなりの役職を経験しており、当時の社会のルールが完全に身に染み込んでいるような男性です。悪人ではなく、性格的には朗らかで社交的で良い人ではあると思います。しかし、感覚があちらこちら偏っていて、発言にいちいちツッコミ、物申したくなるようなことに枚挙に暇がありません。

たとえば私が1度目の結婚した時、『相手の実家にあいさつに行く時にはエプロンを持参し、玄関で三つ指をついてあいさつせよ』と言いました。もちろん私の返事は『はあ?』です。そして離婚した時には父は涙ながらに『頭を丸刈りにし、先方の家の玄関で土下座する』と言いました。それも『はあ?』です。離婚の原因は先方の浮気でしたが、それでも『別れるのは我慢できない女が悪い』ということです。私が胸の大きな友達を連れていったら『おっぱい、大きいね』と。『ちょっと!何を言ってるの? やめなさいよ』とたしなめると『いいじゃないの。褒めてるんだから』と言っちゃいます。

弟が結婚した時、家族の親睦を深めるための会食の席で『○○ちゃん、Eカップなんだってね』と乾杯の前に弟の奥さんの胸のサイズを言っちゃう(胸の話続きですみません。わかりやすいたとえです)。私が激怒して場の空気が悪くなったのですが、父本人はひとつも悪びれず、何がいけなかったのかもわからない様子です。私や母が叱るので、じゃあ黙っておこうという感じ。

最近のことでは家族のグループLINE(両親、夫、私、2歳の息子、そして弟夫婦)で毎朝、体温を測り、なんとなく報告し合っているのですが、父が『このグループでみんな体重も報告することにしよう。脱コロナ太り』と言い出しまして気合を入れてプリントした体重推移のグラフも送ってきました。私は実の家族だし気にしないにせよ、弟や弟の奥さんもいるにも関わらず、そういうことを平気で言ってしまう。もちろん私の夫もNGであると思っていないわけです。また海外の人を平気で疎んじるような言葉を使ったり、『女は三歩下がって……』みたいなことも平気で言うので、逐一ずっこけますががっかりします。

勉強はできる人です。家族ディベートなんかも好きなのですが、そういった発言を目の当たりにするために『なぜ、こんな感覚の父を持っているのだろう?』と心の疲弊がつらいです。たとえば『体重や胸について話しているのは相手を褒めていることなのに、なんでそれがいけないことなのか?』と父がキョトンととしている時、私はどういう対応をするのがベストなんでしょうか? 今のところ何を言っても理解してもらえないので、私の怒りが空回りしております。

私は父に取りあえず『国籍や性別での偏見や身体的な、特に性的な特徴を相手や大勢の前で話題にピックアップすることは今の時流では全くない、マナー違反である』ということは最低でも理解してもらって、反省してもらうことが最大の希望なのですが……人は変えられないですし、何だかもう無理な気もしています。なのでこういう父と今後も付き合い続けていく上で、私のストレスがあまり増えない方法などありましたらアドバイスいただけたら幸いです。よろしくお願いします」という。

(ジェーン・スー)はい。68歳でこの感じってちょっと天然記念物に近い気もするんですけど、まだまだこういう方がたくさんいらっしゃるんでしょね。この人、これから先、生きづらいと思うな。結構老後、キツいだろうな。かわいそう。

(堀井美香)うん、うん。

(ジェーン・スー)そもそもですね、これは問題が2つありまして。「価値観が刷新されていない」っていうのがひとつありますよね。それと、あとは「そもそも人としてデリカシーがない」。この2つがあると思うんですよ。で、そもそも問題としてデリカシーがないことに関してはどうやったら治せるかっていうのはちょっとわかんないです。これはもうその人がどれぐらいそれを喫緊なこととして捉えているかどうかによって全然違うので、自分で自覚するまで分からないと思います。

「価値観が刷新されていない」問題

ただ、その男尊女卑だったりとか、あとは差別もろもろ、人権意識の欠如等々に関してはですね、「本質的に信用に足りうる人だ」ということを思うのであれば、話し合いをしてお互いのすり合わせをする価値はあると私は思っています。正直、「本質的にこいつはダメだな」っていう人だったら、そんなことをしなくてもスルーで全然……「恐竜は環境の変化に適応できず絶滅していった」という言葉をですね、頭の中でナレーションを唱えていただき、その場から去る。「さよなら、ティラノサウルス」と言ってその場から去るということでいいと思うんですよ。

ただ、まあこの方はたぶんお父さんのことを好きじゃないですか。「悪い人じゃないのに……」っていう思いもあるわけじゃないですか。だとしたら、ちょっと1回チャレンジをしてみるという手はあると思います。で、なんでこうなるのか?っていう話を私、自分の親なんかでもかなりこれでもモメました。今でも完璧に解消されたとは思ってないんですけど。まあ、これがただ非常に皮肉なことに、相談者さんが今、自分が新しい時代の価値観というのに追いついて、それが何が間違っているか?っていうことを感覚的にわかるようになっている理由って、この親が育ててくれたっていうこともひとつ、端ではあるんですよ。

つまり、自分の家族内の価値観以外の価値観に触れられるような環境に自分を置いてくれたっていうのはあると思うんですよね。もちろん自力っていうのもありますけど。だから皮肉なもんだなと思ったりもするんですけど。私の個人的な経験です。「こうすればいい」っていう答えはちょっとないので。これは人それぞれだから。ただ、私の場合はどうしたか?っていう話で行くと、いきなりね、フェミニズムの話をしてもちょっと遠いんですよ、もう。問題集を後ろの方から解かせるようなものなので。

全然刺さらなかったね。で、じゃあなにで少し聞く耳を持ち始めてくれたか?っていうと、結局「男性性っていうものをちょっと考えてみてもらえないか?」という話から入り口にしていくっていうところが大事だと思っていて。今、お友達のこととか義理のお妻さんのこととか家の人のこととかみんな、いろいろ言いたいことを言っているわけじゃないですか。「おっぱいが大きいね」とか何とかかんとかとか。「玄関で三つ指をついて挨拶をしろ」とか。これ、どういうことか?っていうと全部、人の事を物だと思ってるんですよ。人間だと思ってなくて物だと思っていて。

それで「女というものは男が管理するものだ」と思ってるわけですね。だから自分の子供があいさつ時には三つ指をつき、失敗したら頭を丸めるし。向こうが浮気をしていたとしても、それはこっちの責任。それで「胸がおっきいねとか何とかっていうのは褒め言葉なんだからいいじゃないか」っていうのはそれ、商品ですよね。「この商品はいいツヤをしてますね」とかっていう。でも商品ではないんだよっていうことがわからない。なぜか?っていうとたぶん、自分が徹底的に商品として扱われてきているんですよ。

(堀井美香)うんうん。

(ジェーン・スー)で、彼自身がどういう人生を歩んできたかわかんないですけど。たぶん商品として自分がいろんなとこで勝負してきて、それに勝ってきたっていうことに何の疑問もないんだと思う。自分が人間でいろんな感情を持っていて、実は傷付いてきたとか、「これは納得いかなかった」とか「後悔している」みたいなことを全部まるっと忘れてきているんだと思うんですよ。でもこれ、いつか取り返しがつかなくなるから。本当にだからその恐竜、さようならみたいになっちゃうので。うーん……もし可能であるんだったらやっぱりその話を……「男性性」っていうものをきちんと考えるっていうところからやってもらった方が男性に対してはアプローチは私の場合は早かったかな。

あと、女性の前にはフェミニズムの話、女性の話として、我がこととして話しても、最初は聞く耳を持たない人でもだんだん聞いてくるんですよ。「自分のことだ」と思うから。だけど、何て言うんだろう? テニスの壁打ちの壁みたいなんだよね。その男尊女卑の男の人にとっての女の人って。結局、自分がどれだけだラリーが続けられるかとか、自分がどれだけ豪速球を打てるかとか、そういうことを証明するための壁でしかないので。「その壁の気持ちを考えろ!」って言ってもたぶん全然わかんない。

それよりは、「なぜあなたは豪速球を打たなきゃいけないと思ってるのか? なぜそれを誰かに証明しないといけないのか?」っていう話からしていくと、我がこととして考えてもらえるかなと思うんですけど。今、思ったんですけど。「勉強できる人だ」って書いてあったじゃないですか。ということは、たぶん本が読める人だと思うんですよ。で、本が読める人なんだったら私がおすすめするのは……今ですね、街の本屋さんがたくさんなくなっちゃったりとか閉店したりとかしている時なんで。

このワードを気軽に出すのもちょっとあれなんですけど。検索としては非常に分かりやすいところがあるので。Amazonでですね……まあe-honとかhontoとかでもいいんですけども。とにかく新刊の本とかがパッと探せるようなところをポータル代わりにして。たとえばわかりやすいところで言うとAmazonで「男性学」って入れてください。それで調べてみるといわゆる「女性学」と対になって「男性学」についての本がすごいたくさん出ています。本当に5、6年前とは比べものにならないくらい出ていますね。

それで男性性というものは何なのか?っていうことを書いている本がたくさんありまして。私もこれ、推薦文を書いたんですけど、そのうちのひとつのおすすめとしては『男らしさの終焉』という本ですね。グレイソン・ペリーというイギリスの方が書いた本なんですけど。「男が男というもの自体に非常に悩んでることに対して無自覚だから世界が混沌としてるんだ」っていうことを書いている本で、試し読みもあります。『男らしさの終焉』で検索してもらうと試し読みも出てくるんですけど。

グレイソン・ペリー『男らしさの終焉』

美香ちゃん、聞いてくださいよ。グレイソン・ペリーは人種、階級、性別、セクシャリティー、経済学、人類学、社会学および心理学など様々な分野を横断しながら冷静な、時には風刺も交えて分析をしています。そして本書の最後に男性向けの未来のマニフェストを提示してます。これ別にネタバレじゃないですから言いますけど。「男性の権利。傷付いていい権利。弱くなる権利。間違える権利。直感で動く権利。『分からない』と言える権利。気まぐれでいい権利。柔軟でいる権利。これらを恥ずかしがらない権利」っていう。今、言ったのって全部、女の属性として揶揄されがちなことで、男性が持ってるともっと揶揄されがちなことなんですけど。同じ人間としてこういう感情がバイオロジカル。生物学的に付いてるものが違うっていう理由で変わるわけないんですよね。

だから、こういうことをたぶん全部まるっと自分で無視してきた結果が今の人を商品として見る。ジャッジする。何が悪いのか分からないというところに行っちゃっていると思っていて。それで推薦コメントを私も書いたんですけど。私の推薦コメントの100倍いい推薦コメントをですね、『ACTION』でもおなじみ武田砂鉄さんが出していて。武田さんの推薦コメント、読みます。「本書を読みながら『男らしさって何なのか?』と考え、自分の頭の中に浮かんだ言葉で最もしっくり来たのは『麻痺』だった。そういうことにしておくとか、気付かないふりをするとか、さすがにこれぐらいいいだろうとか、真剣に考えないように頭を麻痺させることで力を堅持する」って書いてあるんですけど。

まあ、だから麻痺しちゃっているんですよ。たぶん、お父さん。だから全然わかんないと思うんですよ。だからちょっと道のりは長いと思うんですけど、もし信用できる人間であると思うなら、これから先20年、たぶんお父様が生きていかれる上で、自分自身っていうのに手が付けられなくなって家族がもうどうしていいか分からないという状態になるのを避ける。助けたいのであれば、もちろんその相談者さんも男性学の本を読む。女性学の本を読む。それでお父さんとそれを共有して。「いや、男ってのはさ……」っていう話をした時に「いや、男じゃなくて『あなた』の話をしてくれ」って言って全部、とにかく「個」に落としこむ。自分の話をするのがすごく苦手な方も多いので。

「いや、男ってのはさ」っていう話をした時に全部とにかく「いや、お父さんの個人の話をしてくれ」っていう風にやっていくことで少しだけ視界は開けていくような気は私はするね。うちはだから父親の本を書いたことですごく父親に対するお互いの理解っていうのは深まったかな? 話を聞くのって結局、父親の話ですから。個人の話っていうのを聞くことによって「どうしてこうなったのかな」とかいうのもわかったし。あと、やっぱり彼自身の「男として」っていうところの力が社会的に弱まったことによって、だいぶ柔軟性を持てるようになったのがうちの場合は運が良かったんですけども。まあ、そうもならない人もいますからね。堀井さんもでも、そのお父さんがこういう人だったらどうします?

(堀井美香)うちは割と穏やかな人なんですけど。でもこのまま死んでいくのはかわいそうだなと思って。この価値観のまま。でも、きっと治らない人なんでしょう? だから私だったら父は責めないけど、怖い話をする。「ちょっと、お父さん。木村さんちのお爺ちゃん、ほら。娘さんに『Eカップ』とか言ったら出て行っちゃったらしいわよ?」みたいな。そういう昔話戦法。

(ジェーン・スー)アハハハハハハハハッ! そうね(笑)。

本人は責めずに「こういう話があるらしいよ」という昔話戦法

(堀井美香)「ちょっとなんかさ、男女の体重計とか言ったらすごい訴えられているらしいわよ、お父さん」みたいなことを言って徐々に気づかせていくかな? 仲良くしつつ。

(ジェーン・スー)やり方が2つ、あるんだよね。ひとつ目としては堀江さんが言ったように対症療法。今、出てきちゃったこの症状をどうしますか? まずはこれを叩きましょうと言うことで。叩けるならなんでもいいっていうことで根本的解決ではないところで脅かしたりとか……私もそれ、やった。「男らしい」とかそういうことにこだわってる人ってバカに見られるのがすごい嫌なんですよ。だから「なんか今、こういう発言をすると本当に『この人、ちょっとすごい頭が悪いんだな』っていう風に見られるから気を付けた方がいいよ」って言ったら、うちもやめましたね。だいぶ減ったりしたんで。

(堀井美香)本人は責めずにね。「なんかこういう状況があるらしいよ」っていう。

(ジェーン・スー)でも、たぶんそれって根本的解決じゃないから。「なんか怒られるからやめとこう」っていうのになっちゃうんですよ。で、そうなった時にやっぱり根本的解決までっていうか、その相互理解の入り口までお互い立ちたいっていうところがあるんだとしたら、男らしさの話、男性学の話っていうのを勉強してもらった方が私はその先は開けやすいかなと思うんですよね。やっぱり、「だって女ってこうじゃん」っていう話って本当、それを裏を返すとそれは壁打ちテニスの壁だぞっていうね。

(堀井美香)まだ68歳だからね、あと30年とかね40年とか生きていくわけだもんね。そしたらね……。

(ジェーン・スー)でも、すごいよ。うちはなんかやっぱり歳を取ってだいぶ関係値が良くなったからだけど。すごい「ありがとう」とか言えるようになったね。ものすごいお礼が言えるようになった。「これ、ありがとうございます。感謝をしています」とか「こういうことが嬉しかったです」とか、そういうのがすごい言えるようになって。「ああ、人間、75とか超えてもこういう風になれるんだ」とか思って。そこをごまかしたりしなくなりましたので。ちょっと、まあ参考になれば。

<書き起こしおわり>

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