(町山智浩)というのは、最近までアジア系の人が主人公として原作では設定されている漫画とかアニメとか映画をアメリカのハリウッドで映画化する時には、いつも主人公を無理やり白人に変更されていたんですよね。
(赤江珠緒)ああ、そうか。たしかに。
(町山智浩)たとえば、最近だと日本の漫画・アニメの『攻殻機動隊』の主人公の草薙素子をスカーレット・ヨハンソンに演じさせるということをやっちゃったりしているわけですけども。草薙素子がスカーレット・ヨハンソン、お母さんは桃井かおりっていうね。それでどうして桃井かおりからスカーレット・ヨハンソンが生まれるんだ?っていう、それはちゃんとストーリーの中に組み込んであるんですけど、無理やりストーリーまでそのなぜ、日本人が白人の姿をしているんだっていうのを説明するようなストーリーになっているんですよ。
(山里亮太)しなきゃいけないんだ。
(町山智浩)そう。ややこしい。やらなくていいことをやっているわけですよ。白人にするために。それとか、『ラスベガスをやっつけろ』っていうこれは実録映画で。まあギャンブルでブラックジャックってあるじゃないですか。ブラックジャックって確率論を徹底的にやって、数学の能力を使えば絶対に勝てるということを実験するため、大学の数学の学生たち、研究生たちがラスベガスに行ってそれを実践してめちゃ勝ちしたっていう実話をもとのした映画なんですね。
(赤江珠緒)うんうん。
(町山智浩)ところが、それをやったのがみんなアジア系の……中国系とかインド系とか、そういうアジア系の学生たちだったんですよ。数学、得意ですからね(笑)。
(赤江珠緒)そうですよね。
(町山智浩)それなのに、映画化された時には白人にしちゃったんですよ。
(赤江珠緒)そうか。だから本当に異例中の異例ですか。こんなにアジア系が出るのは。
(町山智浩)そうなんですよ。だから「アジア系だと客が入らないから」っていう理由で、無理やりアジア系の設定の人を白人にするということをずーっとハリウッドってやってきたんですね。で、いちばんひどい例だと、中国が自分でお金を出して作った映画で『グレートウォール』っていう万里の長城についての映画があるんですね。で、中国のスタッフで中国のプロダクションで中国がお金を出して作ったのに、世界的に公開するということでわざわざ主役をマット・デイモンにしているわけですよ。
(赤江珠緒)いや、万里の長城はちょっと無理がありませんか?
「アジア系だと客が入らない」という定説
(町山智浩)万里の長城にマット・デイモンはいないですよ!(笑)。いないでしょう、それは。でも、その中国人までもが主役は白人にしなきゃいけないんだっていうのに取り憑かれちゃっているんですね。
(赤江珠緒)ふーん!
(町山智浩)でも、いまは中国の映画市場、マーケットがアメリカよりも大きくなっているわけですから。それなのにやっぱり、ハリウッドのいままでのしきたりみたいなものにこだわって、それを変えられなかったんですけども、普通にアジア人にしてみたら当たっちゃったよっていう、このこと自体が大問題になっちゃっているんですよ。
(赤江珠緒)大問題になっている?
(町山智浩)はい。だから全部いままでの選択が間違っていたっていうことですよね。
(赤江珠緒)そうですよね。立証されましたもんね。
(町山智浩)でもね、ブルース・リーが昔、ハリウッドで映画に出ようとして「アジア人だからダメだ」って言われて。ブルース・リーの『燃えよカンフー』っていう企画を、それをわざわざハリウッドは使って主役を白人にしてテレビ化したりしているほど、アジア人を主役にしたがらなかったんですね。ハリウッドって。
(赤江珠緒)世界的に認められているブルース・リーでも?
(町山智浩)そう。だからジャッキー・チェンみたいにめちゃくちゃ有名になって、やっと出れるみたいな感じだったんですよね。だからね、これはすごく画期的なことだと思いますよ。
(赤江珠緒)そうですか!
(町山智浩)あとね、主人公の恋人のニックさんの出席する結婚式で花嫁役をやる人は日系の人ですね。ソノヤ・ミズノさんっていう女性で。この人もね、すごく美人の素顔で出てきているんですけど、いままではロボットの役とかクローン人間の役ばっかりやらされていたんですよ。
(赤江珠緒)へー!
(町山智浩)やっぱりだからアジア人だからなのか?っていうことなんですよね。
(赤江珠緒)ねえ。敷居が相当に高かったんですね。
(町山智浩)そう。『エクス・マキナ』っていう映画でキョウコっていう名前のアンドロイドを演じさせられたりとか。『アナイアレイション』っていう映画でナタリー・ポートマンの動きをそっくりにコピーするクローン人間の役をやらされていたりするんですけど(笑)。この人はダンサーで、人の踊りを完璧にコピーするという異常な能力を持っている人なんですよ。だからいままで、そういうCGがわりに使われていたんですけど。で、今回は美しい花嫁の役で出れてよかったなと思いますけどね。
(赤江珠緒)そうかー。でも「当たった」っていうのはやっぱり自然にやってみたら、その方が見やすいっていうことなんですかね。
(町山智浩)あのね、これもワーナー・ブラザーズがお金を出したんですけど、「やっぱり主役の女の子を白人のハリウッド女優にしてくれ」って言ったらしいんですよ。そしたらこの原作者のケビン・クワンっていう人が「それだけは拒否する。それなら、映画化はさせない」と言ってアジア系のコンスタンス・ウーっていう女優さんにしたんですね。
(赤江珠緒)へー!
(町山智浩)で、このケビン・クワンっていう人が原作者なんですけど、この話は彼自身が体験したことがかなり反映されていると言っていますね。彼自身、シンガポールの大金持ちの息子なんですよ(笑)。
(赤江珠緒)そうなんだ!
(町山智浩)そうなんですよ。で、アメリカで育ったんですけども。ラジオに出て、「まあ、あんな感じですよ」とか言っていましたね。
(赤江珠緒)ええーっ! いるのね。やっぱりそういう人が。
(町山智浩)そう。いるんですよ。ただね、映画の中に大豪邸が出てくるんですけど、豪邸はもういシンガポールにはないらしいんですよ。土地がなくなっちゃったから、豪邸もみんな高層ビルになっちゃったりしているらしいんですよね。だからこの映画の中に出てくる豪邸はケビン・クワンさんが子供の頃に見たものっていうことみたいですけどもね。これ、監督もジョン・M・チュウさんっていう中国系の人で。これ、すごいですよ。いままで、『ハワイ5-0』っていうTVシリーズがあって。そこに出ていた韓国系の男優さんと女優さんが主役だったのに白人の他の主役チームの人たちよりもギャラがはるかに安かったことが発覚して、ストライキとかをしていたっていうような状況があったんですね。アメリカって。
(赤江珠緒)うんうん。
(町山智浩)だから人種差別による給料差別があったんですけども。そういうのがこれでね、かなり変わってくるだろうなと思いますね。
(赤江珠緒)そうですね。これでいよいよじゃあ、解禁みたいになるんですかね?
(町山智浩)なるでしょうね。うん。だからね、逆に言うとハリウッドっていま、スターがいないんですよ。昔はスターの力で「スターを出せ、スターを出せ」っていう感じだったのが、じゃあいまはスターって誰がいるの?っていう。この人が出れば絶対に客が来るっていう俳優っているの?っていう時に、実はいないんですよ。
(赤江珠緒)なるほどな!
(町山智浩)昔は「この人だったら」っていうことで、レオナルド・ディカプリオだったりジョニー・デップだったりしたんですけども。彼らもスタートしての集客力が落ちちゃっているんですよね。で、いまたぶん残った最後のスターってトム・クルーズだけなんですよ。
(赤江珠緒)まあトムは飛んだり跳ねたりされますけども。独自の道をいかれているので。
(町山智浩)いま、たとえばロバート・ダウニーJrっていうのは大スターですけども、ロバート・ダウニーJrを見に行くんじゃなくてみんなアイアンマンを見に行くんですよね。クリス・ヘムズワースを見に行くんじゃなくて、マイティ・ソーを見に行くんで。キャラの方が先に立っちゃっているんですよ。スター個別よりも。クリス・エヴァンスじゃなくてキャプテン・アメリカを見に行くっていう形になっちゃっているじゃないですか。だからいま、本当の大スターで残っている人がいないからこそ、逆にそのスターの力にたよらない映画が出てきているんじゃないかと思うんですよね。
(赤江珠緒)なるほど。
(町山智浩)いままで、日本からハリウッドにいろんな俳優さんたちが来て。渡辺謙さん以外は結構みんな苦しんでましたよね。でも、状況はだいぶこれで変わると思いますよ。
(山里亮太)ひょっとしたら、ピースの綾部さんも奇跡的に?
(町山智浩)ああ、いまアメリカで修行中なんでしたっけ? でもね、歌ったり踊れたり、格闘技ができたりっていうプラスアルファが必要になってくるでしょうね。やっぱりね。
(山里亮太)ああ、歌って踊るはちょっとできたはずですけどね。
(町山智浩)ああ、それはすごいな。あとはものすごい笑えるかっていうことでしょうね。やっぱりね。
(山里亮太)そこは難しいかもしれないですね。
(町山智浩)「チンコを出す」っていう技がありますけどね。
(山里亮太)アハハハハッ! 大技!(笑)。
(町山智浩)ケン・チョンさんっていう人はものすごくチンコがちっちゃくてそれで有名になったんですけど。「もしもうちょっと大きかったら、俺はスターにならなかった」って本人が言ってましたよ。
(赤江珠緒)へー!
(町山智浩)そういう、人よりもなにか飛び抜けてないと……っていうね。「飛び抜けてる」とは言わないよ、それはっていう(笑)。まあ、そういうことで。これ、もうすぐ日本公開じゃないですか?
(赤江珠緒)そうですね。ハリウッドとしては大事件と言っていいと思いますけども。『クレイジー・リッチ!』は9月28日公開となっております。
(町山智浩)まあものすごい豪華で楽しい映画ですね。
(赤江珠緒)ああ、そうですか。見て楽しい感じの。
(山里亮太)ストーリーもね、わかりやすいですね。
(町山智浩)はい。カップルでも家族でも全部いけます。
(赤江珠緒)はい。わかりました。ありがとうございます。今日は『クレイジー・リッチ!』をご紹介いただきました。町山さん、ありがとうございました!
(山里亮太)ありがとうございました。
(町山智浩)どうもでした!
<書き起こしおわり>