町山智浩・春日太一・吉田豪 松方弘樹追悼特集

町山智浩・春日太一・吉田豪 松方弘樹追悼特集 たまむすび

町山智浩さん、春日太一さん、吉田豪さんがTBSラジオ『たまむすび』に出演。亡くなった松方弘樹さんについて、春日さん、吉田さんが生前、松方さんに行ったインタビューのエピソードなどを交えながらお話されていました。

(赤江珠緒)この時間は映画評論家 町山智浩さんの『アメリカ流れ者』。今日は帰国中の町山さんにスタジオにお越しいただいています。町山さん、今回の帰国の理由というのは?

(町山智浩)アカデミー賞のノミネーションが日本時間で今日の夜、発表されるんですね。それの解説なんですよ。今日の夜10時からWOWOWの無料放送、アカデミー賞のノミネーション発表中継に出ますので、よろしくお願いします。だからこんな格好をしています。

(山里亮太)あ、今日スーツ着ていますね。

(赤江珠緒)今日、そうですね。ピチッとね。

(山里亮太)なんかの謝罪なのかな?って思ったら……

(町山智浩)いやいや(笑)。これから出演するからなんですけどもね。ただ、今回はそういうアカデミー賞とかトランプの大統領就任式とかあるんですけども、なによりも松方弘樹さんがお亡くなりになったので、今日はですね、松方さんに生前から何度も会っている2人の悪いやつを呼んできました。急遽呼んで、スケジュール変えて来てくれました。

(赤江珠緒)本当にありがとうございます。

(吉田豪)オフィシャルなのかどうかもわかっていないですけどね(笑)。お金出るかも知らないです。

(町山智浩)ギャラが出るのかどうかもわかっていないです、この2人(笑)。

(赤江珠緒)ちょっとまだ、紹介するまでしゃべらないでください。

(吉田豪)はい、すいません(笑)。

(山里亮太)無理して来てくれた人になんちゅうことを言うんですか! 声でわかった人もいると思いますけども。

(赤江珠緒)では、おひと方ずつゲストをご紹介します。まずは時代劇研究家の春日太一さんです。よろしくお願いいたします。

(春日太一)どうも、よろしくお願いします。

(赤江珠緒)さらにですね、プロインタビュアーの吉田豪さんにもお越しいただいております。よろしくお願いいたします。

(吉田豪)はいはい、お願いします。

(赤江珠緒)だから町山さん、豪さん、そして春日さん。すごいメンバーが集まったということになりますね。

(町山智浩)これ、トークショーやったら何百人も呼んで、5千円ぐらい取りますよ。週刊文春だったら(笑)。

(赤江珠緒)やらしい、やらしい(笑)。今日はみなさんに松方弘樹さんについていろいろと……

(町山智浩)松方弘樹さん、どれぐらいご存知ですか?

(赤江珠緒)私はやっぱり『遠山の金さん』のイメージと、あと『仁義なき戦い』を2年前に誕生日プレゼントでもらって一気に見て。で、その時に「松方弘樹さん、何回も生まれ変わるんだけど……」みたいな(笑)。

(吉田豪)死んだはずが……(笑)。

(赤江珠緒)そうそう。「あれっ?」みたいな(笑)。

(町山智浩)3回出てきて、3回とも死にます。

(赤江珠緒)そうそう(笑)。その印象が強いですね。

(山里亮太)僕もそれで見ていて、「これが30代なんだ」って驚いたんです。

(町山智浩)32ぐらいですよ。はい。

(山里亮太)ねえ。あの貫禄は出ないし。あと、僕らの世代でいうと『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』の。いま、グッズが。豪さん。今日、Tシャツとかも。

(赤江珠緒)ああ、本当だ!

吉田豪の松方弘樹グッズ

(吉田豪)これがまた、微妙に違うんですよ。実は『元気が出るテレビ!!』が大ヒットして、いろいろとグッズが売れたじゃないですか。元気が出るハウス。あれが、タレントさんにほぼ還元されないっていうことに憤った人たちが次々とタレントショップを立ち上げたんですよ。それが、タレントショップブームなんですよ。実は。たけしさんとか高田純次さんとか島崎俊郎さんとか、いろんな人が立ち上げて。その中で松方さんも立ち上げたんですが、松方さんは便乗の仕方がひどくて。「元気!!松方」っていう店を立ち上げたんです(笑)。

こんなアツいグッズか777円で売られていたなんて! 欲しすぎる・・・

みやーんZZさん(@miyearnzzlabo)が投稿した写真 –

(一同)(笑)

(山里亮太)ちょっと寄せて行っちゃったんだ(笑)。これ、そっちの豪さんのアプローチもあれば、春日さんのアプローチもあるわけだから。これは今日、いろいろ聞きたい。

(町山智浩)松方さんって僕ら、1962年生まれのイメージからすると、まずいちばん松方さんと聞けばパッと出る言葉は「きつい一発」なんですよ。

(吉田豪)おおっ! これ、たぶんみなさん知らないでしょうけど、当時松方さんが流行らそうとしていたんです。

(山里亮太)豪さん、いま本を持っていますね。

(吉田豪)『きつい一発』っていう本がありまして。これ、どういう意味か?っていうと、わかりやすく言うと性行為のことなんですけども。

(赤江珠緒)ああ、そのきつい一発? えっ、どういう話です、それ?

(町山智浩)松方さん、フレーズでこれを流行らせようとしたんです。

(赤江珠緒)流行らせようとしたって、どういうこと?(笑)。

(吉田豪)「昨夜もきつい一発をしてな……」みたいなことを常に連呼する感じで。

(赤江珠緒)(笑)

(山里亮太)内容的にはじゃあ、そういう経験のことをいろいろ書いてあったんですか?

(町山智浩)一晩一発だから、あんまり強くないんですけどね。実際、はい(笑)。

(山里亮太)(笑)

(吉田豪)これ、75年に出た本なんですけど、すごいんですよ。女優さんとか中ピ連っていうウーマンリブの人との対談とかで、そういう人相手にずーっとひたすらセクハラするだけの対談集で。で、最後は当時の奥さんが出てきて、初夜の後に対談しているんですよ。

名著『きつい一発』

(赤江珠緒)ええっ!?

(吉田豪)まあ、子供を3人産んだ後で結婚式をして、その後の初夜なんですけども。「昨夜はきつい一発どころか、三発も四発もありがとう」みたいなことを奥さんが話しているような、あり得ない……

(赤江珠緒)それが、本になっちゃっているんですか?

(吉田豪)本になっているんですよ。そういう人。で、しかもそれが33才です。「俺、松方弘樹 33才。極めて健康」っていう。33で、これ?っていう。33でこの顔ですよ!

(赤江珠緒)ねえ、そうなんですよ。ほとんど変わらないですよね。それ以降のイメージとね。

(町山智浩)この人、実はお坊ちゃんなんですよね。

(春日太一)父親が近衛十四郎という時代劇スターだったんですけども。結構、お父さん自体が遅咲きの人だったんですね。50才ぐらいの時にスターになった方だったんで。役者の息子だったんだけど、結構一緒に苦労していた部分はあって。で、もともと歌手になりたくて、役者の道に無理やり入っていったというのがあるから、最初は結構役者が嫌だったって……

(吉田豪)歌手修行中の仲間が、五木ひろしなんですよ。

(赤江珠緒)うわーっ!

(町山智浩)そうだ。言うのを忘れましたけど、春日くんも豪ちゃんも松方さんとすごく、何度も会っている2人なんですよね。

(吉田豪)まあ、僕は1回だけです。

(町山智浩)ああ、そうか。

(春日太一)僕は4回ぐらい……3回か。やっていますけども。

(町山智浩)ここで言えないようなことも全部聞いている人たちです。この2人は。

大変な時期にデビュー

(春日太一)ただ、結局ね、松方さんって結構、「映画スターの最後の人」みたいなイメージがあるんですけど、大変な時期にデビューして。1961年、2年頃に東映京都時代劇で主演をやるようになったんですけど。その頃って東映時代劇に全くお客さんが入らなくなっていた時代だったんですよ。その時期に、北大路欣也さんと二大プリンスみたいな形で、両方とも2世スターで売ったんですけど、全くお客さんが入らなくて、すぐに脇役に回る様になって。それからどんどんどんどん上の世代……高倉健さんとかが出てきちゃったもんで、上が詰まっているということで大映という映画会社にレンタル移籍させられたんですよ。そこで亡くなったばっかりの市川雷蔵さんの後釜の役とかを……『眠狂四郎』とかそういうのをやらされて。結構きれいな二枚目の役をやったもんだから、また合わなくて人気が出ない。その間にさらに大映が潰れてしまって、東映に戻ることになるということで結構大変な……

(赤江珠緒)結構、不遇な時代があったんですね。

(町山智浩)そう。売れなかったんですよ。

(春日太一)戻ってきたら今度、他所から来た菅原文太さんがもうスターになっていたということで、それでしょうがないので『仁義なき戦い』を含めて、菅原文太の今度は脇でやることになって、牙を研いでいって……

(町山智浩)この人が注目されたのはやっぱり、渡哲也さんがご病気になられて、NHK大河の『勝海舟』を降りると。その時に抜擢されて、初めて脚光を浴びた形だったんですよ。

(吉田豪)代役としてっていうね。

(町山智浩)そう。そしたらすごいお茶の間の奥さんたちも、全然松方さんのことを知らなかったんですね。だから、「この人、素敵!」みたいに。うちのおふくろとか、その当時の人たちは「この人、すごい素敵だわ! 映画見たいわ!」って、その『勝海舟』で大スターになった時に、便乗して公開された松方さんの主演映画が『脱獄広島殺人囚』なんですよ(笑)。「それ、すっげー外してねえか、これ?」っていう。

(赤江珠緒)本当ですね(笑)。「いま、来てるのに!」みたいな。

(町山智浩)「三部作で一気に行け!」っていう感じで東映で作られたのがその続編の『暴動島根刑務所』。で、その次が『強盗放火殺人囚』。

(赤江珠緒)凶悪な感じばっかり(笑)。

(山里亮太)お母さん、どんな気持ちになったんでしょうね(笑)。

(町山智浩)せっかく『勝海舟』で奥さんたちがみんな「素敵!」って言っているのに、そこで全然それを狙わない三部作を作っていて、東映はなにをやっているんだ?っていう。

(吉田豪)「NHKのギャラが安い」とか文句ばっかり言って大問題になったりとか(笑)。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)しかも、この三部作はコメディーなんですよ。

(赤江珠緒)ええっ!?

(町山智浩)「怖い映画だな」って思って見ると、ものすごく楽しい映画で。

(春日太一)バイオレンスコメディーっていうか。脱獄をして、どうやって逃げるか?っていうのをコミカルに描いていて。自由を求める男っていうかね。

(町山智浩)もうガンガン人を殺すんだけど、やっていることは間抜けで、見ていると笑っちゃうっていう。

(春日太一)絶えずちょっとしたミスを、女性関係とかでやってしまって。それでまた捕まって、また戻って、みたいな。

(町山智浩)間抜けなキャラなんですよ。

(春日太一)それでまた脱獄して、みたいな。

(山里亮太)それが、ちゃんとドン! とヒットにつながったんですか?

(春日太一)いや、全く。

(赤江珠緒)(笑)

(吉田豪)一部では評判いいですけどね。

(町山智浩)俺たちは喜んでいるけども、『勝海舟』でファンになった人たちは、「こりゃないだろ?」と思いますよ(笑)。

(赤江珠緒)万人受けするタイプの映画じゃなかった。

(吉田豪)そして、松方さんもあんまり評価してないです。

(山里亮太)自分も(笑)。

(春日太一)松方さんご自身も、実はこの段階は結構B級映画で。本人の中でもやっぱり意識がそういう……「俺がスターになった」っていう意識がその段階ではなかったみたいで。1980年代になってからようやく『修羅の群れ』っていう映画で、大きな東映大作で主演になるんですけども、この時期はもう世間がかなり……80年代ですから東映のヤクザ映画なんて見向きもしなくなった時代になったので、結構松方さんはスターになったのが遅かったし、それで映画にお客さんが入らない時代だったんで。そこはかわいそうな部分があるんですよ。

(町山智浩)映画は結構不遇で、『北陸代理戦争』っていう映画に出たら、それは実録映画なんで本当の実際のヤクザの人が協力をして、その人を演じたんですけども。そしたら、それは具体的に言うとはっきり言って山口組と戦った男なんですよ。そしたら、「そんな映画を作られたらメンツが立たない」っていうことで、そのモデルになった人はその映画の公開直後に山口組に暗殺されるんですよ。だから、すごく松方さんって不遇なんですよ。

(赤江珠緒)そうですね……

(春日太一)で、その映画はもともと菅原文太さんが降りて、代わりにやった映画だったりっていう。

(町山智浩)『仁義なき戦い』の続編として作られていたんですよ。

(春日太一)だから結構東映からすると使い勝手がいい人みたいな形で、便利使いされていた部分はあったんですよね。

(町山智浩)だから何度死んでも出てきたりとか。結構お坊ちゃんなのに苦労人なんですよ。

(春日太一)そうなんですよね。本人もそういう意識がスターとしての意識じゃなくて、「俺なんてこんなもんだ」っていう……鶴田浩二さんとか上の世代のすごい人たちをみんな見てきたんで、自分はそれぐらいでいいんだっていうことなんですね。

(山里亮太)どの共演者にもむちゃくちゃ腰が低い方っていうイメージがありますね。

(春日太一)インタビューをしていてもそうですね。

映画の話は全然しない

(吉田豪)僕がインタビューをしていても、映画の話とか全然しないんですよ。「覚えていない」って言っていて。それよりも俳優さんのくだらない話とかをどんどん積極的にしたがる人で。さっきの映画の監督とかの中島貞夫さんっていう人がいて、「どんな監督でした?」って聞いたら、「とにかく深作(欣二)さんとかと違って不良性感度に全然乏しくて、全然不良じゃない」と。

(町山智浩)東大出だから。

(吉田豪)「(女性を)口説いても、本当にあの顔じゃダメで。たとえばモスクワ映画祭に行った時にモスクワの女を買って。そしたら美人局で男が入ってきて、身ぐるみをはがされてパンツ1枚で逃げた。そういうような人。だから、作品も真面目すぎて面白くないんだよね!」って(笑)。すごい(笑)。

(赤江珠緒)もう、エピソードが(笑)。

(山里亮太)ねえ。かならず「豪快」っていう言葉をつけて説明されるじゃないですか。いろんな過去の話。いま、テレビなんかでいっぱい出てくるけど。

(赤江珠緒)そういうエピソードに事欠かない方なんですね。

(吉田豪)事欠かないし、そういう話をしたがる人で。だから、春日さんも困ったと思うんですけど。映画の話をしたがらない人だから。

(春日太一)基本的には、サービス精神がすごく強すぎて。僕も、基本的には映画の真面目な話とか、時代劇の作り方とか、そういう部分でうかがってきたんですけども。油断をすると、そっちのシモに持っていくんですよ。話を。だから僕の場合は「シモはいらないですから……」っていうことでグッと戻すっていう。「あ、そうなの?」みたいな形で。でも、そっちも大事だという。松方さんの中で基本的にあるのは、やっぱり遅れてきたスターで、自分の時代、一緒にいた上のスターの人たちへの敬意が強いんですよね。だから、自分が最後のスターみたいになった時に、その文化を守りたいっていうのが、ものすごい強いから。ご自身がどうかは別として、「スターとはこういうものである。自分たちが見てきたスターはこうだった」っていうものをあえて演じていた部分っていうのが……

(吉田豪)そうですね。豪快で、女遊びもして……みたいな。それを俺もやらなきゃいけないと思ってやっていた人で。

(春日太一)それをだから、また自分が極端にそれをやろうとしたものだから、ちょっと行き過ぎてしまったっていう。

(吉田豪)鶴田浩二さんとかがそういう人だったんで、それを学んだ部分もあったんですよ。

(町山智浩)鶴田浩二さんはすごい女好きで有名な人だったんですよ。

(吉田豪)まあ松方さんいわく、「鶴田のおやじさんはロリコンだから」って言ってましたから(笑)。

(赤江珠緒)ええーっ!

(町山智浩)それ、イメージまた違う方に(笑)。

(春日太一)ただ、それがあるから松方さんは「俺はこうだ」って……ただ、写真誌とかが出てきて、もうそれが許されない時代に松方さんはそれをやっちゃったもんだから、いろいろと叩かれたりとかスキャンダラスな存在になっていって。だから、東映の幹部の人とかと話をしたりすると、「松方はね、サービスでああいうことをやっているんだけど、ああいうことさえやらなければ、もっと女性客にもついてもらえるし、いろんな企画もやれるんだけど……結局そこが難しいところで」っていうことで。

(町山智浩)松方さんは奥さんがいるのに仁科亜季子(明子)さんと付き合った時にすごく叩かれたんですよ。

(赤江珠緒)当時、やっぱり叩かれたんですか?

(町山智浩)仁科亜季子さんって歌舞伎のお嬢さんなんですね。お父さんが有名な歌舞伎俳優で。で、その当時、お嫁さんにしたい女優ナンバーワンだったんですよ。

(赤江珠緒)はー!

(吉田豪)それを女遊びで有名な人が行っちゃったから。

(町山智浩)で、行っちゃったんだけど、仁科さんの方が惚れて追っかけるみたいな形になって、結構ドロドロのものが報道されたんで、仁科さんのファンはみんな結構、清楚な人として好きだったから大ショックで。それで結構、松方さんが嫌われたりとかしたんですよ。

(赤江珠緒)はー!

(春日太一)最終的には東映自体がどんどんどんどんいろんな、たとえば渡瀬(恒彦)さんだったりとか、健さんだったりとか文太さん、みんな離れていくんですね。だんだん男の映画が売れないということで。自分たちも、またNHKに出たりとか一般的な文芸映画に出たりという中で、松方さんだけは逆に東映に残って、ひたすらヤクザ映画をやり続けたっていう。ところが、その時期はお客さんが入らない時期だったので、そこのギャップが起きたということで。だから松方さんとお話をすると、「その時期の『修羅の群れ』こそが俺の映画だ」っていう。

(吉田豪)そうなんですよ。『修羅の群れ』の話はすごいしたがるんです。映画では。

(春日太一)意外と『修羅の群れ』とか見ている人は少ないと思うので。豪華キャストなんですけども。だから、結構そこのところの需要と供給があまり一致しない部分もあったりして。ご自身の思いとしてはそこは強いんだけども……っていうところなんですよね。やっぱり『仁義なき戦い』とかの話を聞きたいっていうことになっていくわけですよね。

(町山智浩)すごいですよ。真田幸村の役をやっているんですけども、あれとかこの間の大河(『真田丸』)と比べると全く違う世界ですよ(笑)。ものすごい違いますからね。もう、見た方がいいですよ(笑)。

(春日太一)最後は歴史を覆しますからね。

(町山智浩)SFになっていますからね。

(山里亮太)そうなんですか? 松方さん版の?

(春日太一)『真田幸村の謀略』というのですけどね。

(町山智浩)宇宙ものになっているんですけど(笑)。

(山里亮太)宇宙もの!?

(町山智浩)本当ですよ、はい。

(吉田豪)『修羅の群れ』が当たって、次に勝(新太郎)さんとやろうとしたっていう話がありましたよね。それが、やっぱり本物のヤクザの話をやろうとしたんで、警察からストップをかけられて。東映に圧力がかかったという。「あんたも叩けばホコリの出る体だろう?」って警察側から言われてっていう……不遇だったんですよ、いろいろ。

(春日太一)本当にね、時代が許さなくなっていったっていうことで。で、父親が近衛十四郎という時代劇の有名な、殺陣がいちばん上手いと言われた剣豪役者なんですけども。普段からやっぱり剣豪的な人なので、息子にもすごい厳しく当たっていたんで。共演作多いんですよ。松方さんが若手の頃でお父さんが主役というパターンで、ライバル役みたいなことをやっているんですけども。とにかく、面と向かって口も聞かなかったっていう。だから、衣装とかをつけている時に、鏡越しにしゃべったりとか、挨拶したりとか。それぐらい息子にも厳しく、後輩の役者として当たっていたという。

(町山智浩)だからあんなに腰の低い……たけしさんにまで腰の低い人になったんですね。

(山里亮太)そのイメージ、すごいある。

(赤江珠緒)そうですよね。

(春日太一)「とにかく父親から『先輩の芝居を見て盗め』っていうことを言われて、とにかく自分の本番が終わったらいろんな現場に行って、それを見て育った」ということをおっしゃっていたので。

(赤江珠緒)そういう親子関係だったんですか。

(吉田豪)そうやって勉強しているのに、演技の話とかをしたがらない(笑)。

(赤江珠緒)したがらない。だって、本当にバラエティーとかに出てね、気さくにしゃべってらっしゃるイメージが。

(吉田豪)インタビューでも、本当になんでも話してくれるんですよ。「そこまで聞いてないですよ」っていう感じのことを……

(山里亮太)じゃあ豪さん、大好物でしょう?

(吉田豪)大好物ですよ。全部食いついちゃうんですけど、原稿は全部削られましたよ(笑)。

(一同)(笑)

(吉田豪)だって「もうこれは時効だけど」って言って、普通に実名出していろんな話をするんですよ。とある大物俳優さんがいて、「あいつがちょっとある女性を妊娠させちゃったから。あいつは未来があるから、お前が妊娠させたっていうことにして、お前が女を病院に連れて行け」みたいな……

(赤江珠緒)ええっ!?

(吉田豪)「なんだよ、俺はどうでもいいのかよ!」みたいなことを実名で言うんですよ(笑)。「時効だけどさ」って、「時効じゃないですよ! それ、全然!」っていう(笑)。そういう人。

(町山智浩)力道山事件が有名なんでしょ?

力道山事件

(吉田豪)有名ですね。まあ、とある女性とちょっといい感じになって家に行ったら、「あら、ちょっと彼氏が帰ってきちゃった。隠れていて!」って言われてクローゼットに隠れたら力道山が入ってきたっていう……

(赤江珠緒)うわーっ!

(山里亮太)松方さんが隠れて、力道山が?

(赤江珠緒)その役者の揃いっぷりが(笑)。

(町山智浩)これ、見つかったら殺されますよ。

(赤江珠緒)そうですよね。

(町山智浩)そういう人なんでね。

(赤江珠緒)出ない方がいい。クローゼットから(笑)。

(吉田豪)当時、俳優さん同士でよく一緒に性病にかかったみたいな話があったんですよ。で、そういう話を聞いたら、「鶴田のおやじさんと同じ女性に行って、俺が先だったんだよ。俺が先になっちゃったんで、鶴田のおやじさんに『(性病に)なっちゃったから気をつけた方がいいですよ』って言ったら、おやっさんは『俺は免疫があるから大丈夫だ』って言って、『おい、みんなー! 松方が性病になったぞー!』って言いふらされた」っていう(笑)。そんな話ばっかりですよ(笑)。

(赤江珠緒)そんな話ばっかり(笑)。へー! あと、女性もすごいし、お金の使い方も豪快だったっていうのが記事なんかをいま見ても、いっぱいありますよね?

(春日太一)そうですね。松方さんがよくインタビューの時におっしゃっていたのは、「自分は役者としては三流だ。ただ、スポンサーを探すことに関しては一流だ」っていうことはおっしゃっていて。「一度もスポンサーに関して事欠いたことがない」っていうことはおっしゃっていたりとか。

(赤江珠緒)へー!

(吉田豪)晩年まで、そうですよね。事欠いている感じが全然しなかったっていう。

(春日太一)釣具メーカーであったりとか、何らかの大きなスポンサーが絶えずいるんですよね。松方さんには。そこはやっぱりあの人の苦労してきたところであったり……

(吉田豪)あと、愛嬌があったりとかで。

松方弘樹の色気

(春日太一)そうですね。あと、実際にお会いすると、色気がすごいんですよ。もう、なんか女性の気持ちがわかってしまうじゃないですけど。「うわー、もうたしかにこれは、抱かれざるをえない」っていう(笑)。

(町山智浩)抱かれざるをえない(笑)。

(赤江珠緒)そんなに?(笑)。

(山里亮太)あふれ出ているんですか?

(春日太一)なんでしょうね。すごいんですよ。ファッションもおしゃれだし、佇まいもかっこいいし、それでいながら腰が低くて。でも、声も発声もきれいだし、しゃべりも上手いし。顔もきれいだしっていうことになってきて、もうなんでしょうね? 本当に男の鑑みたいなところにあるので。もう、一緒にいると自分が恥ずかしくなってくるんですよ。

(一同)(笑)

(町山智浩)「俺はダメだ」って(笑)。

(春日太一)男としての偏差値が違いすぎちゃって。

(町山智浩)それは、あれじゃない? 男としての格が高すぎるから、自分は男だけど、あっちと比べるとほとんど女に近いっていう。「俺なんか、これだともう女性だな! あっちの男度に比べたら……」みたいな。「もう、抱かれるしかねえか」みたいな(笑)。

(春日太一)追いかけたくなる女性の気持ちはわかりますよね。本当に色気が……

(赤江珠緒)モテたんですね。

(山里亮太)へー! それはもう、女の人とかが好きになっちゃうんだもん。全てを捨てるとわかっていても。

(春日太一)インタビューした時も、最後はね、かなりもう、70をすぎてましたけども、ピンクのポロシャツとかを着ていましたからね。そういうのが普通に似合う。それが、おじさんが背伸びをしているっていう感じにならなくて、本当にちゃんとピンクが似合うんですね。

(山里亮太)そんな豪快ですごい松方さんから、なんであんな仁科克基みたいなのが……あれはもう、ろくでもないことばっかりしているから(笑)。

(吉田豪)ちょっとね、ダメジュニア感が(笑)。

(町山智浩)知り合いなの?

(山里亮太)番組で何回もエピソードを聞くと、いいダメジュニア感が。あれね、豪さん。結構なダメジュニア感がありますよね(笑)。

(吉田豪)当時の松方さんと同じぐらいの歳だと思うと、びっくりしますよね。

(山里亮太)そう!

(町山智浩)ああ、そうなんだ。はー。彼もまた、きつい一発でできた人でしょうし(笑)。

(赤江珠緒)いやいやいや、そこで使わなくてもいいですよ!(笑)。もう、いまさら流行らさなくていいです(笑)。

(町山智浩)ああ、そうですか(笑)。

(赤江珠緒)そうかー。

(町山智浩)松方さんっていうとやっぱり、釣りの人だと……

(赤江珠緒)はいはい。最近はね。

(山里亮太)いまの若い人たちだと、特に。マグロを釣ってっていう。

(春日太一)ただ、やっぱり時代劇に対する思いとか映画に対する思いをものすごく熱く持っていて、インタビューをしていても、「いまの時代劇はどこがダメだ」とか。自分が、たとえば『十三人の刺客』のリメイク版の現場に行った時に、もう殺陣師もダメだっていうことで、自分が殺陣をつけて、絡みの人たちも全部芝居をつけていったという話も……それはスターというよりはもう、時代劇の文化を背負った人間としてそこにいるみたいなところがあって、その意識はものすごい強かったんで。そのことをちゃんと伝えていきたいと思いながらも、どこかで「もう、時代も違ったし……」ということで諦めているところがあったりとか。そのへんの葛藤をものすごく、やっぱり生き残った人間であったがために強かったというのはありましたよね。お話をうかがうと。

(吉田豪)本人はもともとね、役者をそれほどやる気がなくて。漁師とか釣りとかやりたかったけど目が悪くて諦めた人が、よくそこまでやりきったなっていうことですよね。

(春日太一)それこそしかも、左利きなので。時代劇の立ち回りって昔、右利き用に刀ってもちろんできていますから。

(町山智浩)噛み合わない。

(春日太一)すごい大変だったということはおっしゃっていましたけども。まあ、そのおかげで二刀流ができるようになったということで。

(赤江珠緒)はー。

(山里亮太)柳生十兵衛。

(春日太一)そうなんですよね。宮本武蔵とか。それができるようなったりとか。そういうことはおっしゃっていまして。だから、すごい苦労して身につけていったという。

(山里亮太)すごいな。伝えるためっていうことで、いろんなことを犠牲にしてやっていたんだ。

(春日太一)だから一方で、その役者としてのストイックなところと、プライベートでのきつい一発とのギャップがすごいというかね。そこがまた、松方さんのスターたる所以かなという気がしますね。

(山里亮太)そうですね。きつい一発だって、スターを伝承するためにやっていたわけでしょう?

(赤江珠緒)そうそう(笑)。

(吉田豪)(笑)

(赤江珠緒)それで出た本なんです(笑)。

(春日太一)勝さんとも似ているんですよね。そこがね。行き過ぎちゃうんですよね。

(吉田豪)マスコミが来たら、つい、いろいろ言わなきゃって。で、「ある時期から一緒に遊んだマスコミが俺たちのことを書くようになった」ってボヤいてましたけどね。

(町山智浩)だから昔は、そういうことを言った方が芸能人は人気が出たんですよ。

(赤江珠緒)うんうんうん。

(山里亮太)いまはもう、真逆じゃん。

(町山智浩)だって梅宮辰夫さんなんて、「トルコの帝王」って自分のことを呼んでましたよ。

(吉田豪)まあ、その名称はいまはちょっとアウトですけどね(笑)。

(町山智浩)「国の王様なのか?」って思いますよね(笑)。

(赤江珠緒)いまだったらね。うん。もう、そういうのを許さない雰囲気にどんどんなっていくんでかね。

(山里亮太)昔の豪快な記者会見の映像とさ、(狩野)英孝ちゃんのニュースが一緒に流れてて、なんかねえ……

(吉田豪)釈然としない(笑)。

(山里亮太)あれ?っていう。

(赤江珠緒)あ、なんかいま、曲が流れてきましたが。これは?

(吉田豪)たけしさんとのデュエットですね。

(赤江珠緒)たけしさんとのデュエットの曲(『I’LL BE BACK AGAIN…いつかは』)。

『I’LL BE BACK AGAIN…いつかは』

(町山智浩)これもさ、一歩引いてたけしさんに歌わせていてさ。自分はコーラスに。

(吉田豪)ほぼ、そうなんですよね。歌手をやっていた人が。

(町山智浩)松方さん、歌、上手いんですよ。めちゃくちゃ上手いのに。たけしさんはまあ、こんな感じじゃないですか。それなのに、たけしさんを立てるんだよね。「俺に歌わせろ」じゃないんですよ。

(吉田豪)たけしの歌ですよ(笑)。

(春日太一)自分の主演映画でも、絶対に自分は目立とうとしませんからね。ゲストに来てくれた人を立てるっていう。それをすごいやっていた人なので。

(町山智浩)すごい気使かいの人なんですね。やっぱりね。

(赤江珠緒)懐が大きかったんでしょうね。やっぱりね。

(吉田豪)「酒の席でもそうやって気を使っていたから感動した」って橋本真也さんが言っていたんですよ。「俺はああいう男になりたい!」って言っていて。

(赤江珠緒)ああー、それはやっぱりモテるかもね。気を使えて、あの感じでしょ?

(春日太一)スターでありながら、一歩引くという。すごいんですよ。

(山里亮太)出てくるエピソード、全部そういう、みんなが感謝して。「こんなごちそうをしてもらった」だのなんだのって。

(町山智浩)松方さんだったら、みんなに見てほしい映画ってどれですか?

(春日太一)ああ、なんでしょうね、映画だと……難しいですけど、『暴動島根刑務所』とかね。あのへんを見てほしいな、僕は。

(赤江珠緒)『暴動島根刑務所』。

(町山智浩)実録でもなんでもないですけどね(笑)。

(吉田豪)本人は評価してないけど(笑)。

(春日太一)体制に牙をむいてギラギラと自由を求めて戦う松方弘樹っていうのがいちばんかっこいいですから。それはぜひ。あと、最近は『十三人の刺客』のリメイク版。これ、松方さんの空間だけ違いますから。やっぱり。

(吉田豪)殺陣のレベルが違う。

(春日太一)彼だけ殺陣の空間が違うので。そのへんでいかに松方弘樹っていうのが時代劇を背負いってたかよくわかると思います。

(吉田豪)ちなみに、『きつい一発』の巻末には『暴力金脈』っていう映画のコミカライズが載っています。すごい映画なんですよ。立派な総会屋になるためにがんばる映画なんですよ(笑)。当時は時代が違うな!っていう(笑)。

(一同)(笑)

(町山智浩)しかも、コメディーですよね。総会屋コメディーですよ!(笑)。

(赤江珠緒)総会屋コメディー(笑)。

(春日太一)これも面白いです。

(山里亮太)もう一生うまれないジャンルだよね(笑)。

(町山智浩)あと『恐喝こそわが人生』っていう映画もありますよ(笑)。恐喝をやったり、総会屋をやったりね、脱獄殺人囚ですからね。

(赤江珠緒)タイトルだけですごいですからね。

(町山智浩)だからNHKとか報道する時は、どういう風に報道したんですかね? 「『強盗放火殺人囚』の松方弘樹さんが……」とか、「代表作は『恐喝こそわが人生』」とか。「『暴力金脈』の……」とか(笑)。

(春日太一)『首領になった男』とかね。

(赤江珠緒)いやー、そっかー。やっぱり得がたい人だったっていうのがね。

(町山智浩)「『きつい一発』で有名な……」。本当に素晴らしいと思いますね。

(赤江珠緒)お時間が来てしまいましたが、今日は町山智浩さん、春日太一さん、吉田豪さんの3人で、昨日亡くなったことがわかった俳優の松方弘樹さんについて語っていただきました。本当にありがとうございました。急遽みなさん、集まっていただいて。

(町山智浩)スケジュールを変えて来てくれて、本当にどうもありがとうございました。

(赤江珠緒)本当にありがとうございました。

<書き起こしおわり>

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