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いとうせいこう・ダースレイダー 日本語ラップ対談 前編

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いとうせいこうさんとダースレイダーさんがJ-WAVE『The Music Special』で日本語とラップについて対談。日本語ラップの進化の歴史などについて話していました。


(いとうせいこう)こんばんは。いとうせいこうです。

(ダースレイダー)こんばんは。ダースレイダーです。

(いとうせいこう)ということで、俺、ダースレイダーとちゃんとこういう風に話すのって、ないんじゃない?

(ダースレイダー)初めてですね。はじめまして(笑)。

(いとうせいこう)はじめまして(笑)。まあ、ダースレイダーは僕はすごいオールドスクールと言われる初期のラップに関わってきた人間だけど。ダースはセカンドジェネレーションなの?

(ダースレイダー)いや、僕はその更に下ですね。セカンドっていうのはたとえばZEEBRAとかRHYMESTERとかっていうのにあたるのであれば、僕は更に下ですね。いま39なんですけど、ちょうどZEEBRAとかそういった人たちが音源をバーッて出し始めた頃にリスナーだった、みたいな。

(いとうせいこう)ああ、キングギドラとかを聞いていた。

(ダースレイダー)BUDDHA BRANDとか。

(いとうせいこう)はいはい。聞いてたんだ。

(ダースレイダー)の時に10代みたいな感じですね。

(いとうせいこう)でも俺、随分前からダースのこと、知ってるよね?

(ダースレイダー)僕は要は現場にとりあえずいるスタイルっていうか。要はストリートとかそういうのじゃない出自だったんで、とにかく行かないとわからないっていう。まあ、勉強型なんで、とりあえず行って体験しようっていうので。まあ、ヒップホップ風の場所にはとりあえず行くようにして。で、行ったらもう、「僕、こういうことやってます!」っていうのを主張するっていうか。

(いとうせいこう)そうか。だからか。

(ダースレイダー)自己売出しみたいなのは早い段階から。

(いとうせいこう)レペゼンね。

(ダースレイダー)レペゼンをして。

(いとうせいこう)セルフレペゼンしてるんだ。っていう意味で、随分前からなんとなく知っていて、ダースはしゃべりやすいっていう俺は印象で。

(ダースレイダー)あ、本当ですか?(笑)。

(いとうせいこう)しゃべりやすい。つまり、僕のラップ解釈ってものすごく、いちばん最初に入ってきた時に、言ってみたら「どうやって日本語にするか?」とかっていうところから始まっているから。人によってはそれをすごく理屈っぽく思う人もいるわけだよね。なぜなら、俺はこの頃ラップができるっていうことを自転車に乗れるっていうことに例えているわけだけど。

(ダースレイダー)うんうんうん。

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自転車に乗れるようになるようなもの

(いとうせいこう)1回自転車に乗れると、乗れなかった時のことを忘れちゃうんだけど。実際、日本語が全く乗らなかった時代があるわけですよ。で、このことをなかなかもう、できるようになった若い子は……

(ダースレイダー)戻れないですよね。そこには。

(いとうせいこう)そうそう。覚えてないのよ。最初から、それができている音源を聞いて、自分も当然できるだろうと思って入るわけじゃん。でも、ダースは最初どうだったの? つまり、ZEEBRAたちを聞いてすぐに始めたらできちゃっているわけ?

(ダースレイダー)そうですね。まあ、僕はだから日本語論争に関して言ったら、ロックでも日本語ロックでたぶん同じ話を70年代に、それこそ「ロックは英語でやるもんだ」っていう……

(いとうせいこう)うんうん。(内田)裕也さんとね。

(ダースレイダー)で、それこそはっぴいえんどとかが日本語を乗せてみようっていうのと実は同じじゃないですか。ビートの感じが変わったっていうことだけど。で、僕も洋楽リスナーだったんで、「日本語でやるのってどうなの?」っていう刷り込みが最初は特にあって。特にファンクとかからヒップホップに入ったので、普通にファンクをいろいろ聞いていってヒップホップに入っていって、それを日本語で? みたいな。ファンクミュージックを日本語で……みたいなのも疑問符があって。

(いとうせいこう)うんうん。

(ダースレイダー)「そんな日本語のリズム感は違うでしょ?」みたいな決めつけが結構あったから。なんか、その決めつけがあったところでやっている人を見て、「えっ、やれるんだ!」みたいな発見で。結構だから僕は最初から、構造を考えるっていうか。「どうやってやってるんだろう?」みたいな。だから、歌詞カードとかを見て、「こうやって、こうやって、こうやってるのか」みたいなのを割と考えたっていう。

(いとうせいこう)ダースはあれだもんな。英語とフランス語ができるんだよな。

(ダースレイダー)そうですね。フランス語は忘れちゃったんですけど。4才ぐらいまではフランスにいたんで。

(いとうせいこう)そうだろ? だからそれがすごいダースレイダーにとっては大きいと思うんだよ。異言語を知っているから、それがどういう風にそれぞれ機能するか。まあ、日本語で言ったら英語もフランス語も膠着語法じゃないから。つまり、「○○です」「○○じゃない」っていちばん最後の言葉で文の意味が決まるなんていうことはないわけじゃん。

(ダースレイダー)逆に「No」とかを先に出して、単語はケツに来るから韻を踏むのとかね。

(いとうせいこう)踏みやすいわけよ。めっちゃめちゃ脚韻にはものすごく向いているのが英語、フランス語、イタリア語、そういうもんで。まあ韓国語とか日本語とか、「○○です」「○○ハムニダ」とかって文末に決まる時は、それは逆手に取って近田(春夫)さんが「勇気を出してさ」とかさ。『Hoo! Ei! Ho!』で、「○○でさ」って。



(ダースレイダー)ああ、もう語尾だけで揃えるみたいなね。

(いとうせいこう)そうそうそう。「さ」で踏んじゃうっていうやり方も初期にはあったぐらいなんだけど。そこはすごく言語的に考えるきっかけにはなっているよね。きっとね。ダースはね。

(ダースレイダー)あと、だからやっぱりそのラップブームっていうのが、いまの若い子は普通にできちゃっているから考えないと思うんですけど、その日本語っていうもの自体の構造を考える切り口としては、韻を踏むために体言止めにしたりするじゃないですか。「やらないぜ、俺は」とか。

(いとうせいこう)うんうん。「行くぜ、温泉」とか。倒置法になったりして。

(ダースレイダー)倒置法とかっていうのを、気付かずにみんな韻を踏むためにやっていたりして。それって言語の構造を考えていく時にすごく面白いことになっていて。やっぱり、まずリズムありきっていう話じゃないですか。そのリズムに言葉をハメるっていう発想で、本来持っている言葉の構造を変えていっちゃうっていう。

(いとうせいこう)うんうん。

(ダースレイダー)でも、全く意味が通らないと意味が無いっていうところの難しさがあって。

(いとうせいこう)そうそう。聞いていて面白くないんだよな。

(ダースレイダー)日本語でやっているっていう時に、日本語としての機能がちゃんと保たれたまま、ラップという……「ラップを聞いている」っていう気持ちになるかどうか?って結構大事で。僕、日本語ラップの最初のイメージとしては、「これはこれで面白いけど、ラップを聞いているっていう印象じゃないな」みたいな。で、それを別の新しいものなんだっていうフォルダーに入れるとストーンと落ちる。それこそスチャダラパーとかのスタンスもそうだったんですけども。最初は。

(いとうせいこう)うんうんうん。

(ダースレイダー)まあ、いま聞くとすごいテクニカルで。もう聞けば聞くほどすごいな!って思っちゃうんですけど、まあパッと聞きの当たり前にやっている、日本語を普通にしゃべっている感っていうのが、なんかニューヨークのヒップホップを聞いているのと違う! みたいに思っていて。じゃあ、なんで違うんだろう? とか。そういうことをいろいろ考えちゃう質だったんで。

(いとうせいこう)うんうんうん。だから、まあ言ってみたらそういう時代を経てさ、いま『フリースタイルダンジョン』でダースもずっと裏にいるけど。俺は審査員をやっているわけだけど。まあ、いままでの『高校生ラップ選手権』とかがキチンと地場を固めて。もちろん、『高校生ラップ選手権』ってずーっと大きくなり続けて。で、『フリースタイルダンジョン』みたいな地上波でやって。で、ようやくみんなに「できるんだ!」みたいなのがわかった。で、その途端に、異常なほどのブームが来て。

(ダースレイダー)そうなんですよね。『高校生ラップ選手権』、僕は1回目に企画を相談されたところから関わっていて。ずっとレフェリーという形で、オーディションも全部やっていて。で、最初のオーディションは30人ぐらいだったのが、この間やったのは800人来たんですよ。

(いとうせいこう)うわっ、すっげーな!

(ダースレイダー)高校生だけで。

(いとうせいこう)それって結構やれてんの?

(ダースレイダー)最初30人の時は、30人の中にもできない子がいたのが、もう800人来ても、ラップ自体みんなできるんですよ。

(いとうせいこう)はー!

(ダースレイダー)だから、もうラップはできちゃっているから、もうじゃあどれだけ上手くできるか? とか、他の人と違うそいつだけのラップができるのか?っていう段階まで来ちゃっていて。初期の頃って結構キャラが面白ければラップがあんまりできなくても「こいつ、いいじゃん!」ってなってたんですけど。

(いとうせいこう)そりゃそうだよな。

(ダースレイダー)でもいま、そもそもラップっていうもの自体がもうできないと無理っていうハードルになってきちゃっていて。しかも、もう「小学校の頃から高校生ラップ選手権に出るために練習してました!」みたいな(笑)。

(いとうせいこう)(笑)

(ダースレイダー)だから、「もう5年ほど下積みが……」みたいなやつが来たりするんですけど(笑)。

(いとうせいこう)「お前、高校生だろ!」っていう?

(ダースレイダー)そうなんですよ。

(いとうせいこう)それ、すごいな。俺ね、それはさっきさ、ダースも言ってたさ、「入るぜ、温泉に」だとするじゃん。俺がラップでじゃあ日本語をどうやって乗せようか?って思った時にね、この倒置法……「行くぜ、温泉に」って言った時に、なかなか意味が取れない。日本語だと、「温泉に行くぜ」だから、「行くぜ、温泉に」って歌っていくと、「行くぜ」って言った次に何が来るかまで、頭の中で待っていてもらえないっていうか。

(ダースレイダー)うんうん。

(いとうせいこう)英語っていうのは「I will go to……」まで言って、「I will go to」が頭の中に残っていて、次の目的語が出てくるわけだよ。それを待つ脳になっている。でも日本語の場合はまず、「温泉」が出てきちゃっているから。「温泉」ってもう出てきちゃったら、「行く」か、「温泉の湯」のことを言うかっていうのを待ち構える言語なわけ。

(ダースレイダー)そうですね。

(いとうせいこう)だから、これは聞き取れないんじゃないか? 「行くぜ、温泉に。○○だ、××に」って二発、三発言ったらもうついてこれないんじゃないか?って常に思っていたの。だから、意外にこれはもちろんやる方の問題でもありながら、聞く側の問題。日本語を聞ける能力の問題になっているんだけど……聞けてるのかな?

(ダースレイダー)そこが、もう変わっちゃっていると思うんですよね。それをニュータイプと言うのかわからないですけど。日本語ラップ以降の脳みそっていうのがたぶんあって。当然、ラップを聞きながら意味を取るという能力がもう若い頃から備わっているんですよ。

日本人の聞き取り能力の進化

(いとうせいこう)はー! それだよ、俺がいちばんすごいなと思うのは。で、あまり語られていない問題はそこなんだよ。で、「日本語が変わった、日本語が変わった」「いや、ラップができるようになったんですよ」「お前ら、ただダジャレやっているだけじゃないか」「いや、違うんだよ! 脚韻まで待って文脈を決めずにいるっていう能力は日本語という語の特徴の中には千何百年なかったんだ」。

(ダースレイダー)いままでなかった言葉の……だから新境地を開拓しているということですよね。特にやっぱり言語っていうのはコミュニケーションだから、受け手と送り手の両方が同じ文脈を使っていないと成り立たないっていう意味では、ラップという文脈がもういまあるっていうことですよね。

(いとうせいこう)うん。普通だよな。

(ダースレイダー)で、それを聞く側も、それこそ40、50の人とかにラップを聞かせるとやっぱりわからないっていうのはそういうことなんですね。その文脈がないんですけど。

(いとうせいこう)そう。倒置法についていけないわけ。頭が。

(ダースレイダー)で、「何を言ってるかわかんないけど、いいわね」みたいな話になりがちなんですけど。もう10代の子とかは、要はビートの上に言葉が乗っかって聞いていく時に、ある種柔軟に韻を追っかけながら全体でこういう話をしているっていうところまで理解できるっていう。

(いとうせいこう)うわっ、そこがすごいんだよ! つまりね、なんで特に『フリースタイルダンジョン』『高校生ラップ選手権』もそうだけど、基本的になんでウケたかっていうと、テロップを出したからなんだよ。テレビ的に言うと。テロップを出すと、「行くぜ、温泉に」がわかんない人間にも、「ああ、温泉に行くんだ」っていうことがわかるわけ。でも、会場に来ている若いやつらはもう、テロップがないから。

(ダースレイダー)その場で聞いてますからね。

(いとうせいこう)「行くぜ、温泉に」で「イエーッ!」って手が上がっているっていうことは、はっきりとわかっているわけなんだよ。で、それを俺も審査員していてわかると。ということは、明らかにここでなにかが起きている。だからこんだけみんなが面白がっている。わからないやつには、全然実は、いまだにわかっていないと思う。テロップでごまかされているから。

(ダースレイダー)うん。ああ、なるほどね。その、やっぱりテレビで面白いなと思っていた人はもう一段階、次に行かないと本質的なところっていう……まあ、日本人のもうひとつ、日本語の新境地っていう言い方かどうかわからないですけど。字幕・テロップっていうのの……テレビなんかは特に多くなっているんですけども。やっぱりそれで理解しちゃうっていうことによる、僕はちょっと後退かな?って思っているところもあるんですけど。

(いとうせいこう)はあはあ。

(ダースレイダー)要は、話を聞かないでテロップでもうわかるだけに。それも実は前はなかった感覚なので。それがこう、いま両方あって。

(いとうせいこう)そう。くっついちゃったの。わかるわかる。つまり、テロップっていうのは漢字とか単語とか、もう本当に文脈というよりはパッパッパッパッていうイメージだよね。

(ダースレイダー)見出しっていうかね。

(いとうせいこう)見出しのね。で、それだけで追っているから、本当は人の話なんか聞いていないから。だから、ちょっとしたことの細切れを取って人に怒ってみたり、すごくいい人だって言ってみたりして、実際の文脈をわからずにやり取りしているっていう……

(ダースレイダー)まあ行間どころかね、その行自体も読んでいないっていうレベルですからね。

(いとうせいこう)そうそうそう!(笑)。

(ダースレイダー)あの、言ったらすごいのがテレビもだから音を消して、掃除とかをしながら。

(いとうせいこう)そうなんだよ。

(ダースレイダー)音を消してもだいたいわかるっていう(笑)。

(いとうせいこう)わかる。ラーメン屋さんに言って、なんかチャンチャンチャン!って音がしててもなんとなくわかるっていう風にテレビがなっちゃった。

(CM明け)

(ダースレイダー)フリースタイルっていうのは、ある種そのリズムに肉声を乗せるっていうすごいフィジカルな、で、さっきも言ったように理解するためには脳みそがある程度そこにフィットしていかなくちゃいけないっていう意味では、結構逆方向の日本語にちょっと力を吹き込んでいるっていう……

(いとうせいこう)そうだよ。リテラシーを与えているんだよ。実際。文字性っていうか、文学性というか、文法性というか、そういうものを実は与えるけど。だから本当はこれ、ラジオでもやっておくべきなんだよ。人の脳をちゃんときちんとどうなっているのかを言うにはラジオでフリースタイルをやるべきだよ。

(ダースレイダー)まあ、ラジオはやっぱりさすがに音を消したらね(笑)。もうなくなってしまいますからね。

(いとうせいこう)なくなってしまうでしょ? で、テロップが出ないでしょ。っていうと、本当に聞き取れているのか、彼が面白いことを言っているかどうかがわかるかわからないか……

(ダースレイダー)いま、だから気づかずにいとうさんはプレゼンをしているわけなんですけど。これを聞いているディレクターさんがぜひね、いとうせいこう、ダースレイダーでフリースタイルバトル番組をやってくれればね、ひょうたんから駒で、さらなる進化がね。

(いとうせいこう)そうだよ。進化が起きている……ラジオだからこそより先鋭的にラップというものが。で、ひょっとしたらリズムに乗らないやつだって出てくるかもしれない。別に朗読でも構わないっていうことになってくると思うんだよ。俺はやっぱり。それはつまり、言葉。相手との対話っていうか、ディベートがどれだけ面白いか?っていうことを音楽的なものに関わりながら楽しむっていう文化がもう実はあるんだけど、テロップでごまかされて、そこのどこに実は人間が、日本人がいま刺激されてフリースタイルブームになっているか、ちゃんとは……

(ダースレイダー)まだ伝えきれてないと。

(いとうせいこう)伝えてないと思う。

(ダースレイダー)まあ、それこそいま言ったようなビートのないところでっていうのは、アメリカとかのフリースタイルバトルっていうのはある種、もうヒップホップというところとか完全に分離した、もう無音のところでお互いに悪口を言い合うっていうんだけど、ちゃんとライミングとかそういった構造はあって。まあ、表現方法はそれぞれなんですけど、かなり特化している進化の仕方をしていて。

(いとうせいこう)うん。

(ダースレイダー)でもそれも、いわゆるポエトリーリーディング的な文脈も向こうにはすごく強くあるから。なんかそういった、いろいろな表現としての可能性っていうのをすごい追求してるとは思っていて。まあ、かたやヒップホップ的な意味でのバトルっていう刺激。そういった良さは別であるので。両方が伸びていくといいなと思うんですけども。

(いとうせいこう)うんうん。

(ダースレイダー)あと、特に言葉に関して言えば、ラップ。その高校生が800人来るじゃないですか。で、その子たちがラップするにあたって必要なのって実はボキャブラリーなんですよ。やっぱり単語を知らないとラップっていうのは長いことはできないですよ。

(いとうせいこう)そうだよ。すぐ飽きちゃうからね。そいつのラップ。

(ダースレイダー)で、人と違いを出すっていうのはどうやって出すか?って言ったら、もちろんその発声。声だったりリズム感だったりっていうのと同時に、こういう言葉を知っているとか。こういう言葉の意味をこういう文脈で使えるとかっていうところ……

(いとうせいこう)やっぱりリテラシーじゃない。それ。

(ダースレイダー)差を生むので。という意味ではまあ、僕なんか昔からラップっていうものが小学生とかから教育の現場で使われたら……

(いとうせいこう)本当だよね!

(ダースレイダー)やっぱり上手くラップをしたかったら本をいっぱい読もうとか、いろんな人と話をしようとか、いろんなところに行っていろんな単語を身につけようとか。それこそポケモンGOじゃないけど、言葉をキャッチしに行くっていう(笑)。

(いとうせいこう)そうだよ、そうだよ。

(ダースレイダー)っていうことをやることによって実はラップって上達するから。で、しかもそのラップっていうのはある種のリズムをキープしながらやっていくから、リズム感の養成にも繋がるし。あとは自分が持っているボキャブラリーをライミングとかビートっていう経路を取って選択していくっていう頭脳トレーニングにもなるから。

(いとうせいこう)なるなるなる!

(ダースレイダー)まあそれこそ、若い子がやるといいと思うけど、もしかしたらそれこそ60、70の人がやったらボケ防止にもなるみたいな。

(いとうせいこう)ボケ防止だよ。しかも、おじいさんはいっぱい言葉を知っているからね。

(ダースレイダー)そうですよね。なんなら、ライブラリーはすごいあるから。眠っているやつをどんどん。

(いとうせいこう)どんどん引き出せば、それはすごいよな。で、俺さ、もう1個聞きたかったんだけどさ。フリースタイルをやっているじゃん? で、ダースレイダーが「お前なんか行っちまえ、温泉に」「温泉に行っちまえってお前は言うけど……」って俺が言い返したりするじゃん。で、「温泉に」だから「えんい」っていう脚韻を踏んでいくわけだよね。「現にそうだろ……」。

(ダースレイダー)「お前のガン細胞が転移」とかね(笑)。

フリースタイルバトル時の思考方法

(いとうせいこう)そうそうそう。っていう風に言っていくじゃん。で、「○○だ 現に」って言ったところで1回俺は止まっちゃうわけよ。もうフリースタイラーじゃないから。だけどもう次のさ、向こうに「えんい」を考えているわけじゃん。で、現にこうしゃべっているこの時点で、次の韻っていうか構成しているわけなの? それとも……どうなっているの?

(ダースレイダー)そうですね。これなんか将棋で羽生名人が言っていた時に、「○手先までイメージがポンポンポンと浮かぶ」っていうので。まあ、イメージとしては脳の中にライムがポンポンポンッて同じ音で揃って。たとえば、「現に」って言ったら、「転移」「天使」「元気」「天気」「戦士」「エンジン」とかね。

(いとうせいこう)「便器」とかな。

(ダースレイダー)「便器」とかっていうのをパパパッと浮かんで。で、それの組み合わせで文脈っていうか。特に、ただフリースタイルしているんだったら、それはどんどん並べていけばいいけどバトルだったらやっぱり相手への攻撃になるような単語を瞬時に選んで、それでそれをこうバシッと出せるか?っていうのは、やっぱりそれはある種のトレーニングが必要だと思うんですけども。

(いとうせいこう)うん。

(ダースレイダー)まあ、4、5個……上手い人だと本当に10個とか。

(いとうせいこう)中に入れちゃうわけだ。「俺は戦士 お前は便器……」みたいになって。

(ダースレイダー)そういうことですね。

(いとうせいこう)でも俺、言っちゃったらもう次、考えられないもんね。

(ダースレイダー)「お前の相手よりも気になる次の今日の天気」とか。「お前は人生の転機」とかってやっていくと……

(いとうせいこう)「ああ、ああ……」ってなるわけじゃん。

(ダースレイダー)でも、それってたぶん相手がラップしている時に、特にバトルっていう構造で『フリースタイルダンジョン』の上手いやつ同士の戦いでは起こるんですけども。相手がラップしている時になんかポンて出た言葉で「あっ、これはいける!」ってなったらすぐに検索エンジンが働いていて。で、その言葉に対しての返しがバッ!って出てきて。で、もうそれがすぐに出てきたら、会場は「うわーっ!」って。「さっき言ったやつがもう返ってきた!」みたいな。

(いとうせいこう)そうなのよ、そうなのよ。

(ダースレイダー)で、それがすごい面白いですよね。

(いとうせいこう)面白いんだよ。それは本当に、俺が「スピーディーな和歌」って呼んでいるけどさ。和歌があったら返しの返歌がある。だけど紫式部だってあんな早くは返せなかったぞっていう。

(ダースレイダー)そうそう。もう一晩とか寝かせますからね(笑)。

(いとうせいこう)そうだよ(笑)。一晩寝かせて返すんだよ。それを一秒後にはもう上手いこと返しているっていうことがいま、日本語の中に起きているんだよね。で、しかもなにか言っている時に、もう次のことを考えているっていうことが起きている。これはやっぱりね、脳が相当変わってきていると思うんだよ。

(ダースレイダー)だから2つの行動、アクションを……相手のラップを聞いていながら自分の次のラップの構成を始めているっていうことですからね。それでそれを発声していく。しかも、自分のラップを出しながらも、その次に言うこともその都度考えているっていう。

(いとうせいこう)結構さ、だからサイファー的な……サイファーってなんて言ったらいいの? バトルのちょっと前ぐらいにみんなで回し合うみたいなのを「サイファー」って言うんだけど。サイファーとかでネタは食っておくわけでしょ? ある程度、自分でどういう単語が自分で出てくるかを。

(ダースレイダー)そうですね。

(いとうせいこう)「えんい」っていうのがあったらこんなのが出るよっていうのは、自分でたくさん食べておいたものから選んでいくけど、その自分を超えていく時もあるでしょ? もちろん。アーティスティックに。

(ダースレイダー)そうですね。だから、「この引き出しの中にこれ、入っていたのか!」みたいなのが自分でもあって。まあ、もちろん全くないものは出てこないんですけど。なんかの引き出しを開けたら、こんなすごい武器が入っていた! みたいな。で、それをドヤ顔でドーン!って出すみたいな。自分でもびっくりの、「ああ、こんなことを俺、言えた!」みたいなのは実は結構あるんですよね。

(いとうせいこう)うんうん。

(ダースレイダー)だからそれって、意識のさらに向こう側っていうか。

(いとうせいこう)そうだよ。それなんだよ。で、たぶんバトルだからこそ出てくる……

(ダースレイダー)そうですね。相手との刺激で、相手が言った言葉から検索していった結果、自分には実はこんなフレーズが入ってました! みたいな。

(いとうせいこう)そうそう。それそれそれ! それがあるとやっぱりこっちも「うおーっ!」って興奮を……たぶんわかるんだろうね。人間って。新鮮なことを自分でも言ったと思っているラッパーの顔を見て、そして「うおーっ! すげえな、これは用意してないわ!」っていうやつで感動さえあるっていう。

(ダースレイダー)うんうん。

(いとうせいこう)だからそこまで行っちゃっているからさ。もう、「いとうさん、オールドスクールの頃はどうだったんですか?」って言われてもさ、もういまさ、ものすごいエンジンを積んで走っている時に、俺が自転車の話をしてどうするんだ?っていう感じにはなるわけよ。

(ダースレイダー)まあ、同時にやっぱり日本語をビートに乗っけるっていう手探りでやっていた時期のことっていうのがある種、まあ日本の場合ってそういった歴史を残すのが下手な文化で。どの音楽でもほぼ記録に残らずに終わっていくことがあまりにも多いので。まあ、そういった意味ではやっぱりその時期時期を知っている人たちによる証言っていうものは実はちゃんとまとめておく必要があるなとは思うんですよね。

(いとうせいこう)うんうん。

(ダースレイダー)それこそボケちゃう前に(笑)。

(いとうせいこう)俺がボケちゃう前にな(笑)。

(ダースレイダー)だからこの時期、それこそアルティメットブレイクビーツのレコード2枚の上でラップをしてみよう!ってなった時に、どうやってやるんだ? みたいなところからの試行錯誤じゃないですか。

(いとうせいこう)そうだよ。

(ダースレイダー)「一言目、何?」みたいな(笑)。

初期コール・アンド・レスポンス

(いとうせいこう)そうだよ。だから、まずたぶん「セイ・ホー!(Say Ho!)」だよね。とにかくああいう「セイ・ホー!」「セイ・ホー!」っていうコール・アンド・レスポンスっていうものが盛り上がるっていうことがわかる。でも、俺がやっていた頃はまだ「セイ・ホー!」さえもちろん定着してないから、「セイ・ホー!」って言うと、「セイ・ホー!」って言っちゃうんだよな(笑)。

(ダースレイダー)まあ、それはいまでも起こり得る。「言えよ、セイ・ホー!」っていう人もいて。それだと本当に「セイ・ホー!」って返すやつも、みたいな(笑)。

(いとうせいこう)(笑)

(ダースレイダー)まあ、ちなみにその初期の頃って、いとうせいこうというよりもMAC THE SEIKOだったわけじゃないですか。

(いとうせいこう)MAC THE SEIKOって藤原ヒロシが勝手に名付けたんだけど。

(ダースレイダー)スタートとしては。だからそれってラッパーのオルタナティブなエゴっていうか。が、結構必要だったっていうのは?

(いとうせいこう)いや、いちばん最初はそういうDJの横でマイクを取って、そういう風に「セイ・ホー!」とか……だからファンクのフレーズとかだよね。「Stamp your feet」とかさ、「Clap your hands」って普通にライブでやるようなことをたぶんやっていたと思うんだよ、俺。だけど、もうヒップホップは知っているわけよね。だから「セイ・ホー!」が出るわけだよ。で、これは高木完が今回の俺の『建設的』30周年記念のね、いとうせいこうフェスでコメントをもらったそこに書いてあったし、彼からもこの間聞いたんだけど。

(ダースレイダー)うんうん。

(いとうせいこう)いちばん最初にインクスティックの六本木っていうところで『FUJI AV LIVE』っていうのがあって。ヤン富田、ダブマスター・X、俺、それからタイニー・パンクス(藤原ヒロシと高木完)。基本的にこの組でライブをやることになったわけよ。で、それは覚えているんだ、俺。で、映像は当時まだ音楽をやっていなかったテイ・トウワくんがやっていて。

(ダースレイダー)はいはい。

(いとうせいこう)それで、いちばん最初に近田春夫が乗り込んできて、マイクを取って10分ぐらいたしか演説をしたんだよ。みんな、客の前で。「いまから起こることは日本の音楽を変えるんだ!」みたいな、とんでもない檄を飛ばしたわけ。で、「すごいことになっちゃったな」と思って、何曲かやったわけですよ。そん時に「セイ・ホー!」でも「セイ・ホー!」って返っちゃうし、「スクリーム!」って言ったら「スクリーム!」って返っちゃうの。当然ね。

(ダースレイダー)ああ、なるほど、なるほど。うんうん。

(いとうせいこう)ところがね、俺は忘れていたんだけど、それね、2回まわしだったらしいんだよ。

(ダースレイダー)2セットあったと。

(いとうせいこう)2セットあって。だから、上の楽屋に行って、「あのコール・アンド・レスポンスはないよね」と。

(ダースレイダー)「そのまま返ってきたぞ!」と。

(いとうせいこう)「そのまま返ってきちゃう。どうするんだ? あそこをどうにかしなきゃならないな」って言った時に、俺がポロッと、「騒げ! かな?」って言ったらしいんだよ。で、完ちゃんはその時、どっかに遊びに行っちゃって打ち合わせしてないわけ。だから、いきなりたぶん2セット目に入ってきて一緒にラップをしていたら急にせいこうが「スクリーム」って言わなきゃいけないところに「騒げ!」って言ったから客がドカーン!って。「ウオーッ!」ってなって。そっから完全にロックしちゃった状態になって、何を言っても盛り上がる状態になったと。

(ダースレイダー)うんうん。

(いとうせいこう)だから少なくとも、あの「騒げ!」はそうやって生まれたらしい(笑)。

(ダースレイダー)まあ「騒げ!」なんていうのはね、いまでもどの現場に行ってもかならず使われているんで。これ、権利をちゃんと取っておけばね。

(いとうせいこう)(笑)

(ダースレイダー)もう、それだけでもう森ビルに住めましたよ(笑)。

(いとうせいこう)本当だよな(笑)。

(ダースレイダー)「騒げ!」利権を持っていれば(笑)。

(いとうせいこう)「騒げ!」利権を持っていればね。だから、いちいちそんな具合でしたよ。

(ダースレイダー)なにもなかったっていうね。

(いとうせいこう)なにもなかったから。

(ダースレイダー)だから、やることやることが1個ずつ、それが最初のことになっていくっていう状況だったわけですよね。

(いとうせいこう)そうだったね。

<書き起こしおわり>
いとうせいこう ダースレイダー 日本語ラップ対談 後編
いとうせいこうさんとダースレイダーさんがJ-WAVE『The Music Special』で日本語とラップについて対談。日本語ラップの進化の歴史などについて話していました。 ...
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