町山智浩 映画『リリーのすべて』を語る

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町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で1920年代に世界でほぼ初の性転換手術を受けた男性とその妻を描いた映画『リリーのすべて』を紹介していました。



(町山智浩)今日、ご紹介する映画は『リリーのすべて』というタイトルの映画です。これ、なんか聞いたことあるタイトルですよね?

(赤江珠緒)うーん・・・そう言われれば・・・

(町山智浩)これ、岩井俊二監督に謝った方がいいんじゃないか?って思う日本タイトルがついているんですけども。これは、いわゆるリリー・フランキーさんが本名が中川雅也であるとか、そういう映画じゃないんですよ。

(赤江珠緒)いや、そうでしょう(笑)。そりゃそうでしょう!

(町山智浩)リリー・フランキーのすべてを知ってどうするんだ!?っていう問題ですよね(笑)。

(山里亮太)(笑)。それでアカデミー賞助演女優賞。

(町山智浩)ねえ。まあ、この映画はリリーっていう実在の人物がいまして。この人は、まあ世界ではじめてぐらいに男性から女性に性転換手術をした人なんですね。その人の実話を描いた映画がこの『リリーのすべて』なんですけども。これは、この間のアカデミー賞でですね、リリーさんの・・・『リリーさん』っていうと、リリー・フランキーみたいだな(笑)。

(赤江珠緒)(笑)。たしかに、うん。

(町山智浩)そのリリーさんの奥さんを演じたアリシア・ヴィキャンデルちゃんっていう女優さんがアカデミー助演女優賞を獲得しましたね。この映画ね、夫婦の話なんですよ。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)で、これデンマークが舞台なんですけども。1926年のデンマークでですね、風景画家のアイナー・ヴェイナーっていう人がいたんですね。この人は、エディ・レッドメインが演じています。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)エディ・レッドメインっていうのはもう、結構英国男子好きの間ではもう、大人気の俳優さんなんですね。で、この人は『レ・ミゼ』で娘の彼氏役で出ていた子ですよ。歌が上手い。

(赤江珠緒)はいはいはい。『レ・ミゼラブル』。

(町山智浩)で、2年前のアカデミー賞では、ホーキング博士を演じて。『博士と彼女のセオリー』っていう映画でアカデミー主演男優賞をとってますね。ホーキング博士がだんだんだんだん体が麻痺していって。動けなくなるんを支えた奥さんとの話で、まあ夫婦愛の話でしたけども。

町山智浩 ホーキング博士映画『博士と彼女のセオリー』を語る
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(赤江珠緒)そうですね。これも紹介していただきましたね。

(町山智浩)はいはい。それで今回は、旦那がどんどんどんどん女性になっていくっていう話なんですよ。『リリーのすべて』は。で、同じエディ・レッドメインが演じているんですけど。で、このアイナー・ヴェイナーっていう風景画家は女の人の絵を書く奥さんがいて。その人はゲルダっていう人で。2人で仲良く暮らしていたんですけども。ある日、旦那にゲルダっていう奥さんが『ちょっとあなた、いまモデルが必要なんだけど、いまいないから、ちょっとこのドレスを着てみて』って、ドレスを着せちゃうんですね。

(赤江珠緒)ふんふん。

(町山智浩)旦那さんに。で、エディ・レッドメインが女性物のドレスを着るわけですけども。すると、なんかこう、『あらっ?』っていう感じなんですよ。『これ、病みつきになりそう・・・』みたいな。で、こうハマッていっちゃうんですよ。

(赤江珠緒)それがきっかけなんだ。うん。

(町山智浩)きっかけは奥さんが着せたことなんですよ。『モデルやって』っつって。で、奥さんの方もですね、実はちょっとエッチな絵を描いていた人なんですね。このゲルダっていう人は。で、ちょっと倒錯的なところがあるんで、面白いからって旦那をどんどん女装させて。外に連れ出したりしちゃうんですよ。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、服とかもちゃんと買ってあげたりして。で、どんどんどんどん旦那がハマッていっちゃうんですね。で、最初は夫婦間の遊びだったんですけども。もう、気づいちゃったんですね。旦那さんの、アイナー・ヴェイナーの方は。『私の本当のジェンダー(性)は女性である』と。

(赤江珠緒)ええーっ?

エディ・レッドメインのすごい演技

(町山智浩)という話なんですよ。この『リリーのすべて』っていうのは。これはね、エディ・レッドメイン、すごい演技ですよ。これ。

(山里亮太)ふーん。難しい役、いっぱいやりますね。

(赤江珠緒)最初は男性なんですもんね。

(町山智浩)そう。前はだから、どんどん体が麻痺していくホーキング博士でしたけど。だんだんだんだん、物腰とかしゃべり方とかが女性化していくんですよ。で、いちばんすごいシーンはですね、鏡の前で裸になってですね。で、要するにレッドなメインなものがついているわけですね。

(山里亮太)レッドなメインが(笑)。

(町山智浩)それが、なんか違和感があるんですよ。自分には。で、それをこう、グッと自分のお股の中に挟んでみると、『あっ!?こっちの方が、いい感じ』ってなるっていうシーンがあるんですよ。

(赤江珠緒)はー。

(山里亮太)ちょっと小学校の時とかにふざけてやったりすることがあった、あれですかね?

(町山智浩)あ、そうそう。だから、中学とか高校とかで、修学旅行とかで温泉とかお風呂場に行ったりするじゃないですか。すると、あのポコちゃんをあそこに挟んでね。『女だろー!』とかってやるんですよね。

(赤江珠緒)そんなことやるんですか!?みんな?(笑)。

(山里亮太)みんな、一度は通る道です。これは。

(赤江珠緒)あ、そうですか。

(町山智浩)で、『うわー、女みてー!』とか言ってる間に勃起してるやつとかいて(笑)。

(山里亮太)町山さん・・・(笑)。

(赤江珠緒)ほ、本当!?

(町山智浩)で、『お前、ゲイじゃねーの?』とか言われて、『いや、違う!女だと思って勃起したんだから、ゲイじゃねーよ!』とか、よくわかんない展開になるんですけど。まあ、それは置いておいてですね・・・

(山里亮太)町山さん、あるあるがちょっと、僕らのあるあるとはズレたな(笑)。

(赤江珠緒)(笑)

(町山智浩)ちょっと何の話だかわからなくなりましたが(笑)。それでですね、これはちょっと病気じゃないか?っていう話になるんですよ。その時代は1920年代だから。いわゆる、性同一性障害っていうのはない時代ですから、精神病だと思われて、病院に連れて行かれて、電気ショックを受けたりするんですよ。

(赤江珠緒)ええーっ!?

(町山智浩)それで、檻に入れられたりするんですよ。その頃はいわゆる閉鎖病棟なんで、ちょっと精神病の人は全部隔離するっていう状況だったんで。で、ひどいことにどんどんなっていくんですよね。で、このままだと彼が自分自身として生きるためには手術しかないよっていうことになっていくっていう話なんですよ。

(赤江珠緒)へー!えっ、奥さんとしてはそれは、どうなんですか?自分発信でそういう風に気持ちが変わっていっちゃったとはいえ。受け止められるんですか?

(町山智浩)この奥さんは、アリシア・ヴィキャンデルは、旦那さんを本当に愛していて。もう他の人を考えられないんですね。だから、『彼が本当に女性になりたいって言うんだったら、私は手伝うわ。サポートするわ』っつって、支えていくんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)でもどんどん辛いことになっていくんですね。要は、ただ単に女性化するだけじゃなくて、彼はだんだん男性が好きになっていくんですよ。その旦那さんが。

(赤江珠緒)あら、そこまで。うん。

(町山智浩)そう。これはね、すごく難しい問題で。実は、結構性転換する人っていても、その性欲の対象が変わらない場合も多いんですよ。女性に完全に変わっても、女性に対してしか性欲を感じないままの人もいて。たとえば、すごく有名な人だと、カニエ・ウェストっていう人がいるんですね。ラッパーで。カニエ・ウェストの奥さんのお父さんっていうのはブルース・ジェンナーという有名なオリンピック選手なんですよ。陸上の。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)で、彼は最近、性転換して女性になったんですけども。インタビューで、『私はいまでも女性にしか性欲は感じない』って言ってるんですよ。


(山里亮太)へー!

(町山智浩)だからその、性別と性欲は全く別。関係ないものらしいんですよね。どうもね。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)ただ、この場合はエディ・レッドメイン扮するアイナー・ヴェイナーは自分自身を『リリー』っていう名前で名乗ってですね。それで、男性がだんだん好きになっていくんですよ。

(赤江珠緒)うーん。

(町山智浩)で、奥さんとのそういう恋愛関係がどんどんなくなっていっちゃうんですよ。だからこれをいわゆる、『ゲイのためなら女房も泣かす』という、日本の有名な歌になっている話ですね。

(赤江珠緒)いや、違うでしょ(笑)。

(山里亮太)嘘でしょう?つながるんですか?ここと。

(町山智浩)あ、違うか。都はるみさんとか、違うのか。

(山里亮太)『ゲイの』って、こっちは漢字なんですよ。カタカナじゃなくて。

(町山智浩)時々、いきなりブチ込んでくるから困りますよね。すいません。はい(笑)。

(赤江珠緒)うーん。いま、『人間ってすごい複雑だな』なんて思いながらね、考えこんでいたのに(笑)。ガクーン!って。膝カックンされたみたいな気分です(笑)。

(町山智浩)すいません。なんか、ピッチングみたいでしょ?野球のね。何が飛んでくるかわからない。

(山里亮太)緩急を、急にね。

(町山智浩)そう(笑)。ええと、それでですね、このエディ・レッドメインがやっぱり男の方に惹かれていって、ある美形の人と出会って、キスをするっていうシーンがあるんですけど。その相手の男はね、ベン・ウィショーっていう俳優さんなんですよ。で、この人は『007』のダニエル・クレイグ版でQっていう若い発明家の役を演じている人ですね。で、この人も実は英国男子マニアの間では、ものすごい人気のある人なんですよ。

(山里亮太)あら?その2人が・・・

(町山智浩)だから、英国男子ファンが見たら、英国男子の典型2人がキスするっていう最高のシーンになっているんですよ。ここ。

(赤江珠緒)ああー!なんかちょっとメガネ男子っぽい感じらしいですね。

(町山智浩)そうそうそう。もう、すっごいいい感じになっていて。俺がなんでこんな興奮してんだ!?っていうところになっているんですけど(笑)。

(赤江・山里)(笑)

(町山智浩)はい。という映画がね。ただ、これ、よく見ていると、これ、男性の方が変わっていくっていう話なんですけど、視点はあくまでも奥さんなんですよね。だから、奥さんが、愛する人がもし女性に変わっていったら、それでも愛せるか?っていう話になっていて。それをすごく健気に演じているんでこのアリシア・ヴィキャンデルさんは今回、助演女優賞を受けたという感じなんですね。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)切ない話なんですよ。結構。

(赤江珠緒)そうですね。うん。

(山里亮太)実話っていうのがね、また。

トランスジェンダーの方からの反発

(町山智浩)実話なんですよ。ただ、この『リリーのすべて』っていう映画は、いわゆるその、本当にジェンダーのところで、トランスジェンダーの人からはちょっと攻撃されているんですね。アメリカでは。

(赤江珠緒)えっ?なんでですか?

(町山智浩)いくつかの理由があって。まず、本当の話っていうのは、実はこの人たち、40代だったんですね。実は。で、写真があるんですけど。こういう人なんですよ。そちらの手元にあると思うんですけども。このリリーさんの元の、実話の方の話が。


(赤江珠緒)はい。これ、40代のおじさんですね。

(町山智浩)これ、このままだったら映画にしたら、お客さん、危ないですよね?

(山里亮太)あっ、なかなかパンチ力がある感じになっちゃうかな?

(赤江珠緒)でも、女性になった時、たしかにキレイですよね。

(町山智浩)女性になった時はいいんですけど。その男性の時の状態がエディ・レッドメインと比べると、やっぱり集客力がない感じですね(笑)。

(赤江珠緒)(笑)

(山里亮太)ちょっとね。頭の感じが、ちょっとね。スペースが多くてね。

(町山智浩)そう。それで2人とも40代だったんですけど。この夫婦は。だからそれを20代にして、美男美女にしてやっているから、あまりにも商業的だ!という風に批判されてもいて。あと、この頃、性転換手術っていうのは非常に危険な手術だったんですね。前例がほとんどないし。生きるか死ぬか。もう、死ぬかもしれないっていう非常に危険なものだったのに命がけでやるんですけども。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)まあ・・・これはまあ実話なんでどうなるか言ってしまっても、なんて言うかネタバレにはならないと思うんですが。まあ、悲劇として描いているんですよ。で、こういったことを悲劇として描くっていうのは、いいことなのか?っていうことで怒っているんですね。怒っている人たちは。

(赤江珠緒)うーん。

(町山智浩)つまり、こういうことなんですよ。ある社会的なルールっていうものを逸脱したり、そのルールに逆らって自分自身であろうと生きることはその人の滅びに・・・要するに悲劇につながってしまうっていう映画を作るんだったら、過去はそうであっても、現在もそういうのを作る時には、『いまはそうじゃない』っていうことを入れるべきなんですよ。

(赤江珠緒)ああー、うんうん。

(町山智浩)だからたとえば、大昔だと国が違う人同士で結婚したり、部族が違う人同士で愛し合ったりすると、かならず最後はどっちかが死ぬように描かれている場合があるんですね。それは、そういうルールを超えちゃいけないっていう戒めなんですよ。でも、そんなことないでしょ?別にそれを超えて、力強く幸せになる人を描くべきでしょ?現在は。

(赤江珠緒)うーん。

(町山智浩)で、いまは性適合手術っていうのはそんなに危険なものじゃないし。知り合いでも、僕でも何人もいるんですよ。やっている人は。で、日本でもいますよね。それを、『こういうことをすると、死ぬよ』っていう話を作っていいのか?っていうことなんですよね。

(赤江珠緒)ああー、そうか。でも、事実。その時代はそんな風に社会が許さないようなところもあったというのを伝えたかったんじゃないんですか?

(町山智浩)そうなんですよ。だから、そこの部分が微妙なところで。監督は、そう言ってるんですよ。だから、そこですごく難しいところなんですよね。こういうのを見て、『やっぱりこれはタブーなんだ。犯しちゃいけないんだ』って思う場合もあるので。すっごく難しい問題だなと思いますね。描き方としてね。

(赤江珠緒)そうなんですね。

(町山智浩)はい。もうちょっとポジティブに、なんとかしてもよかったとは思うんですけどもね。あと、結構ね、デンマークの人が怒っているのはね、この映画すごく美的な部分を意識しすぎてですね、映画の画面がですね、すごく有名なドイツの画家のカスパー・ダーヴィト・フリードリヒ風の画になっているんですよ。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、その人の絵っていうのは、雄大な景色で山があって、向こうに海が広がっていて・・・っていう、ものすごい雄大な景色を描いていた画家なんですけど。その絵に似せて作っているんですね。全体の映像を。でも、デンマークの人たちは、『デンマークに山、ねえし』っつって怒ってるんですね(笑)。

(赤江珠緒)(笑)。ああー、そこは・・・うん。

(町山智浩)『山、ねえから。うち』っていう感じでね。『絵的にキレイだからって、別のところで撮影してるな、おい!』とか言って怒っている人もいるんですけど。

(赤江珠緒)ああ、それはやっぱりね、自分の国のことはよくわかりますもんね。それは日本を描いた時に、『なんで、これ?』みたいなね。

(町山智浩)そう。『蝶々夫人』とかオペラを見ると、やっぱり日本人、ムカッと来るんですよね。あれもだから、要するに人種を超えた恋愛をすると死んでしまうっていう話で。それは昔に作られたものなんで。やっぱりなんか、そこに違うメッセージを入れていかないと、やっぱり現代っていう中では難しいなっていう風には思いましたけどね。

(赤江珠緒)ふーん。

(町山智浩)ただやっぱり見せ場はね、エディ・レッドメインくんのエディでレッドなメインが見れるというところ・・・あ、これ日本でも見えるみたいですよ!

(赤江珠緒)そう・・・ですね。

(山里亮太)あ、映画がですね。

(町山智浩)見れるみたいです!あの、挟むところで。はい。で、ベン・ウィショーとのイケメン同士のキスも見れて。あと、アリシア・ヴィキャンデルちゃんも脱ぎます。はい。

(赤江珠緒)ほー!

(町山智浩)もう体当たりで全員がんばっているんで。そこは見せ場っていうところですね。どんな映画やん!?っていう(笑)。

(山里亮太)そうですよ。だいたいね、裸情報で締めちゃうんだよな。

(赤江珠緒)そこがね、熱量がまたね、極めて高いですから。そこが(笑)。

(町山智浩)なんでこんなに気合入ってるんだ?っていうね(笑)。まあ、アリシア・ヴィキャンデルちゃんはね、ものすごくかわいいんでね。日本でも人気が出ると思いますね。はい。『エクス・マキナ』のロリ系ロボットの役の子ですね。

(山里亮太)キレイな顔だよー!

(赤江珠緒)そうですね。本当ですね。

(町山智浩)まあ、日本で人気が出そうな、かわいこ系ですけどね。はい。脱いでます。

(赤江珠緒)はい(笑)。

(町山智浩)一体、私自身の性欲はどこにあるのか、全くわからないですね。聞いていてね(笑)。

(赤江珠緒)(笑)

(山里亮太)もう、むちゃくちゃですよ!性欲の方向が(笑)。

(町山智浩)なにがなんだかわからないですよ(笑)。

(赤江珠緒)本当(笑)。今日は映画『リリーのすべて』のお話でした。町山さん、ありがとうございました。

(山里亮太)ありがとうございました。

(町山智浩)はい。どもでした。

<書き起こしおわり>