町山智浩 キング牧師を描く映画『グローリー/明日への行進』を語る

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町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でマーティン・ルーサー・キング牧師の誹謗力闘争と血の日曜日事件を描いた映画『グローリー/明日への行進(原題:Selma)』を紹介していました。
※映画紹介時には邦題が決まっていたかったので、原題の『セルマ』でお話されています。

町山智浩 キング牧師を描く映画『セルマ』を語る

(町山智浩)今日はですね、この間アカデミー賞ノミネートが発表されたんですよ。候補作が。僕、現場にいました。はい。で、その中で作品賞候補になった映画で『セルマ(Selma)』という映画についてお話します。

(赤江・山里)はい。

(町山智浩)これね、セルマっていうのはアラバマ州っていうアメリカの南部にある町の名前なんですが。そこでいまからぴったり50年前の1965年にあったですね、『血の日曜日事件』っていうのがあるんですね。それを描いた映画です。はい。で、これはマーティン・ルーサー・キング・ジュニア牧師という長い名前の人がいましてですね。その人がリーダーになって行った政治闘争なんですけどね。

(山里亮太)はい。

(町山智浩)今日はですね、こっちアメリカ、月曜日なんですけども。まだ。マーティン・ルーサー・キング・ジュニア・デーなんですよ。

(赤江珠緒)ああ、はいはい。

(町山智浩)それで学校が休みなんですよ。これはキング牧師の誕生日が1月15日なんで、今日が休みになっているんですけど。国民の祝日ですね。で、Googleを見ると、今日、たぶん日本でもトップページはマーティン・ルーサー・キングだと思うんですよ。


(山里亮太)あ、日本、なってるのかな?

(町山智浩)と、思います。キング牧師と、その仲間の人たちが腕を組んで並んでいる画がGoogleっていう字のところにきてると思うんです。Googleサーチすると、いま。

(赤江珠緒)ああ、そうですか。ええ、ええ。

(町山智浩)それがそのセルマの戦いの時のキング牧師の姿なんですよ。

(赤江珠緒)みんなで腕を組んで。横並びでね。

キング牧師が成し遂げたこと

(町山智浩)そうなんですよ。でね、キング牧師っていう人は本当に、具体的に言っちゃうと、300年以上続いたアメリカにおける黒人の不平等を解決した人なんですよ。まあ、完全には解決されてないんですけども。まあ、形だけでも解決した人で、すごい偉大な人なんですけども。

(赤江珠緒)演説も有名ですもんね。

(町山智浩)はい。ところがこの人、死後40何年もたって、この事件から50年たっているにもかかわらず、1度もこの人を主役にした映画が作られてこなかったんですよ。

(赤江珠緒)えっ、そうなんですか?それは意外ですね。

(町山智浩)そうなんです。50年間ずっとハリウッドは作ろうとして。何度も何度も途中までいっては挫折、途中までいっては挫折っていうのを繰り返してて。

(赤江・山里)えー!?

(町山智浩)ついこの間、スティーブン・スピルバーグがですね、制作で、あのオリバー・ストーン監督・脚本で進行していたのに、それも途中で頓挫したんですよ。

(赤江珠緒)えっ?

(山里亮太)なんで、また?

(町山智浩)次々と頓挫して、とうとうこのセルマっていう映画が、はじめてのマーティン・ルーサー・キング牧師の映画なんですね。

(赤江珠緒)えー、なかったんだ。

(町山智浩)そうなんです。なかったんですよ。でね、このセルマの戦いっていうのはいったい何か?っていうと、話がちょっとややこしくなるんで説明しますと・・・南北戦争っていうのがアメリカではありましたよね。

(赤江・山里)はい。

(町山智浩)1865年に終わったんですけども。これは南部でずっと黒人奴隷制度っていうのをやっていたんで、それに反対するリンカーン大統領が『奴隷制度をやめろ』って言ったら、南部が勝手に『じゃあ俺たち、アメリカを抜けるよ。独立するよ』っつったんで、戦争になったんですね。南部と北部が。で、まあ北部が勝ちまして、奴隷制度は撤廃されたんですが、多くの人はそれで黒人と白人の平等が南北戦争が終わって達成されたと思っている人って多いと思うんですよ。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)ところが実際は違っててですね。監視していた北軍が南部から北部に撤退したら、南部はすぐにバーッ!って差別を始めたんですよ。また。

(赤江・山里)へー。

(町山智浩)で、どういう差別か?っていうと大きく2つありまして。1つは人種隔離なんですね。で、黒人は白人と同じ学校には行けない、公園でベンチにも座れない、トイレも一緒には使えない。レストランも黒人は入れないレストランがあるとか。そういった形で人種隔離っていうのをやっていたんですね。

(赤江珠緒)奴隷解放はされたんだけども、差別は続いていた。

(町山智浩)差別は続いていたんですよ。っていうのはどうしてか?っていうと、アメリカっていうのは州ごとに法律が違うんですね。だから奴隷制度があったんですけども。南部の各州が各州でそういう法律を作っちゃったんですよ。で、差別が続いて。で、もう1つ、彼らが作った法律っていうのは、黒人に選挙で投票をさせないっていう法律なんですよ。

(山里亮太)はー・・・

(町山智浩)で、これが最初ね、北軍が見張っている時は普通に黒人が投票に行ったんで、黒人の議員がいっぱい生まれちゃったんですよ。

(赤江珠緒)ええ、ええ。

(町山智浩)で、すごく白人が・・・少数の白人が多くの黒人を支配してたんで。奴隷制度では。だから人口が多いんですよ。黒人の方が。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、黒人に乗っ取られちゃったんですね。議員とかの座を。で、北軍が監視をやめたら、すぐに法律を変えちゃって。それで、『黒人には投票させない』っていう法律を作ることはできないから、投票するにはたとえばおじいさんが投票しなかった人は投票できないとか。投票するための税金を1人いくらって振り込まなければいけないとか。あと、英語とかアメリカの歴史や憲法についての質問をして、それに答えられなければ投票できないとか、そういう制度をいっぱい作ったんですよ。各州で。

(赤江珠緒)あー、条件をつけちゃったわけですね。

(町山智浩)条件を作ったんです。それが100年続いたんです。

(山里亮太)ええっ!?

(町山智浩)で、1965年になるんですよ。このセルマっていう話の。で、この映画の頭の方で、アメリカっていうのは選挙の投票に行くには選挙人登録っていうのをしなきゃいけないんですけど。登録に行くシーンがあるんですね。あるおばさんが。実在のおばさんなんですけど、アリスさんっていう人が。で、行くと、一生懸命勉強してきたんで、登録の係員が次々とする歴史や英語、憲法についての質問を次々と答えていくんですよ。正確に。

(赤江珠緒)ほう。

(町山智浩)ところが、相手が黒人だとわかると、その登録官っていうのは間違えるまでずーっと質問をし続けるんですよ。

(赤江珠緒)うわー・・・

(町山智浩)だから絶対に間違えるんですよ。だって、間違えるまでするんだもん。で、間違えると、『登録できません』ってやるんですよ。でも、白人が登録に行くと一発なんですよ。なんのチェックもなしなんですよ。

(山里亮太)はー・・・

(町山智浩)っていうのは、登録官が個人でもって面談によって登録できるかどうかを決定するっていう制度になっているからなんですよ。文章テストでもなんでもないんですよ。

(赤江珠緒)露骨にやってたんですね。

(町山智浩)露骨にやってるんです。そのシーンから始まるんですよ。この映画は。で、これじゃあどうしようもないと。さっき言った人種隔離政策の方は1964年。その前の年にですね、キング牧師が戦って、公民権法っていうのを作ってですね、そういった差別はアメリカでは許さないっていう連邦法を作って、人種隔離はなくなるんですね。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)はい。これ、アメリカっていうのは州法と連邦法があって、連邦法とか憲法が州法をコントロールするんですけども、そのためにはどうしたらいいか?っていうのは要するに議会でもって多数決で勝たなければならないわけですよ。ところが、黒人の人口っていうのはアメリカ全土で12%しかいないんですよ。

(赤江珠緒)はあ。

(町山智浩)要するに議員もいないわけですよ。ほとんど。

(赤江珠緒)はい、はい。

(町山智浩)じゃあどうやってその人種差別の法律をなくすことができるか?っていうことでキング牧師は考えたんですね。これは、50%以上の白人が我々の味方についてくれなければ絶対に可能ではないと。法律を変えるのは不可能であると。それで彼が考えたのは、非暴力闘争という戦い方なんですよ。

(山里亮太)ふんふん。

(町山智浩)これは一切の暴力をしないで、ただ我々はこういう風に酷い目似合っているから、こういう法律を作ってくださいって、ただ言い続けるだけの闘争なんですね。無抵抗。

(赤江珠緒)ええ。

(町山智浩)で、それはキリストの『左の頬を叩かれたら、右の頬を出せ』っていうキリストの言葉からヒントを得てるんですけど。まあ、キリスト自身が酷い拷問で殺されることでキリスト教っていうのが生まれてるんで。それと同じことをやればいいんだと言ってデモを始めるんですね。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)まず最初はバスで白人席と黒人席っていうのがあるのを撤廃することに対する戦いで、そのバスに一切乗らないっていうのをやったんですよ。

(赤江・山里)はい。

(町山智浩)黒人は非常に都会から離れているところとか、不便なところに住んでいるんで、バスに乗らないと出勤できないんですけども。歩いて、絶対にバスに乗らないってことをやり続けて、バス会社がとうとうギブアップして、『じゃあ白人も黒人も乗っていいよ』っていう風にしたんですね。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、そういう闘争を繰り返していく中で、『白人と黒人が同じ学校に行くなんて絶対に許さない!』って言っている州の州知事がいましてですね。ジョージ・ウォレスっていうんですけども。アラバマ州の州知事なんですが。それがキング牧師のデモに対してものすごい攻撃を仕掛けていったんですよ。

(赤江珠緒)うん、うん。

(町山智浩)放水したり、殴ったり、犬をけしかけたりして。ところがその姿がテレビとか新聞に、世界中に広まっちゃったんですよ。

(赤江珠緒)ええ、ええ。

(町山智浩)要するに黒人に対して、もう酷いことをしてるわけですよね。なにもしてないのに。徹底的に殴る蹴るをしてるわけですよ。で、それでもう、アメリカは世界中から『なんて国だ!』って言われたわけですよ。『世界のリーダーとか言ってるくせに、どういうことなんだ!?』と。で、もう立場上どんどんマズくなっていくのと、やっぱり議員の中にも、『これはちょっと酷すぎる。俺は白人だけども、これはちょっと、国の恥だ』ってことで法律を変えようということで、その人種隔離ってい差別的な法律は、まあ連邦法によって憲法違反ということになったわけですね。

(赤江珠緒)うん、うん。

(町山智浩)で、その次に残っていた戦いが投票なんですよ。選挙権なんですよ。

(山里亮太)はい。

(町山智浩)で、それに対する戦いをセルマっていう町で始めるんですね。キング牧師が。で、そのセルマっていう町で始めなければならなかった理由っていうのは、さっき言った、黒人の方が人口が多いんですよ。その地域って。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)黒人の方が人口が多いんですけども、その選挙人登録してる人が1%しかいないんですよ。黒人の中で。

(赤江珠緒)1%!?人数が多いのに?

(町山智浩)人数が多いのに、選挙人登録を妨害されているから。さっき言った方法で。だから、どうなるか?っていうと、アメリカは保安官とか郡警察っていうのがあるんですね。保安官は選挙によって決定するんですよ。郡の。だから、この郡では保安官がものすごく差別的な白人の保安官がいるんですけども、彼を辞めさせることができないんですよ。

(赤江珠緒)あー・・・

(町山智浩)しかも、キング牧師とかさっき言った選挙登録をしようとしたアリスっていうおばさんとかが登録に行こうとすると、ボコボコにぶん殴ったんですね。その保安官たちが。黒人を。それでも、彼らを辞めさせることはできないんですよ。選挙で投票できないから。

(赤江珠緒)そうですね・・・

(町山智浩)で、ずっと闘争するわけですね。なんとか登録に行こうとして。で、その中でとうとう、ある黒人の青年がですね、警官に問答無用でいきなり射殺されるんですよ。

(赤江珠緒)ええっ!?射殺まで?

(町山智浩)すごい事件が起こるんですよ。で、デモに参加してて、デモが蹴散らされて、逃げて近くのカフェに入ったら、カフェの中に警官が入り込んでいって、その青年のお母さんをボコボコに殴って。それでだから、『やめろ!』って言ったら、いきなり拳銃でドーン!ですよ。

(赤江珠緒)はー・・・

(町山智浩)で、これは大変だ!ということでキング牧師が、もうすでにノーベル平和賞を取っているんですけど。公民権運動で。で、とにかくこういう酷いことがあるんなら、要するに投票すればこういうことは起こらないわけですよ。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)選べるから。保安官を。これ、ジム・クラークっていう保安官だったんですね。その差別的な保安官。で、『投票をさせてくれ』ということで、じゃあどういう風に戦おうか?これはセルマっていう町から、州都があるモンゴメリーっていうところまで行進をしようよ。投票をさせてくださいと。で、その頃ケネディ大統領が暗殺されてジョンソン大統領が大統領になってるんですけど。の、ところにも行って、議会でなんとか投票法っていう投票の平等を保護する法律の法案を出してくださいって言うんですよ。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)ところがね、ジョンソン大統領が『嫌だ』って言うんですよ。『公民法を通しただけで、私たち民主党は南部の白人の支持を失っているのに、これでもし、黒人に投票をさせたら、我々民主党は南部で完全に選挙的基盤を失う』って言うんですよ。

(赤江珠緒)うーん・・・まあ、自分たちのことを考えるとね。

(町山智浩)っていうのは、南北戦争から100年間、ずっと南部は全部、民主党支持だったんですよ。

(赤江・山里)はー。

(町山智浩)それなのに、民主党が黒人の味方をしてるってことで、白人たちがどんどん離れていってるから、ジョンソン大統領は困るんですよ。それで。で、『ちょっとそこまで、すぐにはできないんで。ちょっと待ってくれ』みたいな話になるんですよ。でも、『もう待てない。1人死んでいるから』ということで、キング牧師はそのセルマからモンゴメリーへの行進を強行しようとするんですね。

(赤江珠緒)まだここに来ても、非暴力で、行進でっていうのは・・・

(町山智浩)そう。もうすでにボコボコにされて、殺されているわけですけども。それでも、やるんだと。でも、やるんだよ!と言っていたら、今度キング牧師の奥さんが『やめて!』って言うんですよ。『冗談じゃないわ!あなた、うち、お金ぜんぜんないのよ!あなたがこんな運動ばっかりしてるから。お金になんないから』。

(赤江珠緒)はー・・・

(町山智浩)『殺されるかもしれないの。脅迫とかいっぱい来てるのよ!』と。で、『こんなテープが送られてきたわ!』って、テープを流すと、キング牧師と、その奥さん以外の女の人のセックスのテープなんですね。

(山里亮太)えっ?

(町山智浩)で、FBIが実はそれを録音してたんですよ。

(赤江珠緒)ええっ!?

(町山智浩)これ、『J・エドガー』っていうクリント・イーストウッド監督の映画の中に出てくるんですけど。レオナルド・ディカプリオ扮するフーバー長官っていうFBIの長官がキング牧師のことをものすごく憎んでいて。

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(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、ずーっと彼を追いかけまわして、彼が奥さん以外の人とセックスしているところをテープに録ったんですね。で、それを奥さんに送りつけて、『キング牧師が運動をやめないと、このテープをバラまくぞ!』ってやったんですよ。FBIがですよ。

(赤江珠緒)うわー、脅してきた。ええ。

(町山智浩)FBIがですよ。で、そのテープを奥さんと聞きながら、キング牧師が『どうしよう?』っつってると、奥さんが『あなた、いちばん大事なのは何なの?あなたが行ったら殺されるかもしれないわよ。私たち、お金もないし、どうするのよ?』と言われるんですよ。

(赤江珠緒)うわー・・・

(町山智浩)ところが、別のその黒人の運動家でマルコムXっていう過激派の人がいて、こんなに差別されてるんだから、もう銃を持って闘争するしかない!という人たちもいるんですね。若い学生とかが。で、『キング牧師は無抵抗とか言ってるけど、無抵抗で殺されているばっかりじゃないか!すでに教会が爆破されて、女の子が4人も殺されたんだ!黒人教会が。こんなやられっぱなしで、もう我慢出来ないから銃をとって戦おう!』っていう人たちまで出てくるんですおy.

(赤江珠緒)そうでしょうね。そうなってきますよね。

(町山智浩)で、キング牧師に対して、『この、腑抜け野郎!』とか言ったりするんですよ。

(赤江珠緒)うわー・・・味方だった人まで。

(町山智浩)で、奥さんからも、『もう殺されるから、やめて!』って言われて、嫌がらせのテープまで来て。それで、黒人の過激派からは『あんたは腑抜けだ!』って言われてるんですよ。

(赤江珠緒)うん、うん。

(町山智浩)で、悩んで、どうしよう?っていう感じになって、追い詰められていくんですよ。で、これ、すごいのは、キング牧師っていうのはアメリカではもう何百年も続いた差別を改善した天才って言われてルンですね。

(赤江珠緒)そうですね。偉人中の偉人みたいに。

(町山智浩)偉人中の偉人なんですよ。で、その人の弱い面とか、悩んだり、こう行こうと思って、またダメで、試行錯誤している部分とか、人間的に弱い部分をさらけ出した初めての映画なんですね。これは。

(赤江珠緒)はー!

(町山智浩)実はこのキング牧師の映画がなかなかいままで作られなかった理由っていうのはそこにもあるんですよ。っていうのは、キング牧師の演説っていうのは、全部そのキング牧師の遺族が著作権を管理してるんですよ。

(赤江珠緒)えっ?あの、『I have a dream』も?

(町山智浩)そうなんです。有名な演説は全て管理していて。で、映画の中で演説が一切使えなくなるんですよ。彼らの許可を得ないと。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)実は遺族は何人もいて、遺族全員の許可を取らないとならないんですよ。で、スティーブン・スピルバーグはそれをやり遂げて、さあ映画を作ろう!っていうことでオリバー・ストーンに脚本を書かせたら、オリバー・ストーンはキング牧師の女性問題とかに非常にクローズアップして書いたんですね。シナリオを。

(赤江珠緒)うん、うん。

(町山智浩)オリバー・ストーンっていうのはそういう人なんで。

(赤江珠緒)まあ、人間らしい部分ではありますもんね。

(町山智浩)まあ、自分がスケベだからっていうのもあるんですけど。

(赤江珠緒)なるほど。

(山里亮太)(笑)

(町山智浩)で、そしたらキング牧師の遺族の許可を得られなかったんで、制作が頓挫しちゃったんですよ。

(赤江珠緒)うわー・・・

(町山智浩)でも、このセルマっていう映画の監督はエヴァ・デュバーネイ(Ava DuVernay)っていう黒人の女性の監督なんですね。現在43才。ものすごい若いんですけど。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)しかも、映画2本目なんですよ。

(赤江・山里)へー!

(町山智浩)その前の映画1本は秀作なんで、本格的な映画はこれが初めてなんですね。ところが彼女は、『じゃあキング牧師の遺族の許可を取らないで行こう!』って決めたんですよ。

(赤江珠緒)えっ?いいの?

(町山智浩)そうじゃないと、いつまでたっても映画ができないから。いま、作らなきゃいけないのよ!ってことで。で、彼女は全部類語辞典を引きながら、キング牧師の演説を全部類語に変えていったんですよ。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)いま、これ主題歌がかかってますね。『Glory』っていう曲ですけども。ジョン・レジェンドとコモンの。コモンっていうラッパーがこの映画にも出てますけども。これは素晴らしい曲なんですが。



(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、演説を全部書き換えて、この映画を強行突破したわけですよ。

(赤江珠緒)ええーっ!まあ、違う言葉に書き換えていたらね、それは許可はいらないですよね。

(町山智浩)そう。だから、遺族は全員の許可を取ってないんですけども、強行突破してるんですよ。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)これはやっぱり、女性監督の、要するに、50年かかって男たちがこねくり回して作れなかった映画を、40才そこそこの女性監督が一気に強行突破したんで、やっぱりすげーな!と思いましたけどね。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)っていうのは、さっきも言ったように、この投票法運動も、バスにおける人種的平等も、両方とも女の人が最初に行動してるんですよ。

(赤江珠緒)あ、そうかそうか。そのアリスさんと言い・・・

(町山智浩)そう。バスもね、ローザ・パークスっていうおばさんが、バスの白人席に座ったところから運動が始まるんですけども。そのへんはね、女性の方がすごいな、突破力があるなと思いましたね。

(赤江珠緒)ふーん。

(町山智浩)はい。で、結局そのセルマの橋を渡るっていうことをやったらですね、ジム・クラークっていう保安官たちが騎馬警官を用意していて。馬でもって600人の黒人デモ隊に突っ込んでですね、大暴行を加えて血の海になるわけですね。実際は。

(赤江珠緒)ええっ!?

(町山智浩)このシーンっていうのは、『猿の惑星:創世記』の中で猿たちが反乱を起こした時に騎馬警官が突っ込んでいくシーンで再現されてるんですけど。あれは実はセルマの橋なんですよ。元は。

(赤江珠緒)はー!

(町山智浩)で、まあ大変なことになって、1回目の行進が大失敗するんです。潰されちゃうんですよ。完全に、武力で。で、今度はキング牧師は『わかった!俺が行く!』っていう風に決断するんですよ。っていう話なんですよ。これ、その橋をめぐる一進一退の攻防戦を描く、一種の戦争映画みたいな感じになっているんですよ。橋を渡れるか?渡れないか?っていう話なんですよ。

(赤江珠緒)うーん。いや、でもこれ・・・

(町山智浩)で、まあこれによって投票法が施行されて、今年50年目になるんですけど。ただ、いまアメリカ、また投票法を撤廃しようとしてるんですよ。

(赤江珠緒)いま!?

(町山智浩)いま、アメリカの南部では、『投票ID法』っていう法律が各州で次々と作られて。免許証みたいな写真入りの身分証明証を持っていないと投票できない法律が次々と通っているんですよ。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)ところが、黒人の免許保持率っていうのはものすごく低いんですよ。貧しい人たちほど。

(赤江珠緒)ええっ!?

(町山智浩)だから実質的には、黒人であるとかメキシコ系の人たちが投票できないっていう状態が作られています。現在。

(赤江珠緒)なんで、歴史がこう・・・ねえ。元に、逆戻りしちゃうようなことが・・・

(町山智浩)だって現在、南部ではメキシコ系と黒人の人の人口がどんどん増えていってるから、白人としてはそうして自分たちの地位を守るしかないんですよ。議会で。

(赤江珠緒)はー。

(町山智浩)取られちゃうから。議席をね。で、もう1つは黒人に対する警官の殺人っていうのは去年からずっと続いているわけですよ。アメリカでは。で、それに対して今度はニューヨークで警官2人に対して、黒人が殺されたことに対する復讐として、警官が2人、殺されたんですよ。この間。

(赤江珠緒)そうですね、はい。

(町山智浩)ところが、殺された警官は、1人はプエルトリコからの移民で、1人は中国からの移民だったんですよ。

(赤江珠緒)うわー・・・

(町山智浩)もう、全く意味がないですよ。この、殺し合いは。

(赤江珠緒)そうですね。

(町山智浩)だから、やっぱり非暴力の戦いしかないんですよ。

(赤江珠緒)相手側に過ちを気づいてもらうしか、結果的には、おさまらないんですね。

(町山智浩)そう。ないんですよ。2人殺されましたけど。黒人が、全く警官に意味もなく。特に1人なんて、タバコを売っていただけで殺されてましたけど。それに対して復讐しちゃったんですよ。

(赤江珠緒)そうかー・・・

(町山智浩)それじゃあダメなんだ!ってキング牧師が言ってるんで。まさにいま、この時にこの映画を作らなきゃならないって監督が思ったのは、正しかったんですよ。

(赤江珠緒)そうですね。そういう意味では、そのキング牧師のご遺族の方も、もうね。

(町山智浩)そう。だからこの映画は50年前にあった昔の話じゃなくて、いまも、全く必要な映画なんですよね。

(赤江珠緒)そうですよね。

(町山智浩)はい。ということで、セルマっていう映画で。これ、日本では春ぐらいかな?パラマウント配給で公開される予定らしいですね。春以降っていうことで。はい。

(赤江珠緒)いやー・・・

(山里亮太)キング牧師が浮気とかしてるってイメージ、全くないから・・・ねえ。

(赤江珠緒)そうね。そういう、ちょっと人間味あふれる部分もね。そりゃ当事者でね、こんな世界の状況の中で、動かそうと思ったら、もう板挟みも・・・

(町山智浩)この人、でも天才だったですけどね。19才で大学出ている人ですから。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)で、この全ての革命は彼が36才の時に成し遂げてるんですよ。

(赤江珠緒)そうですかー。

(町山智浩)天才すぎるんで、いままで人間的な部分が描かれなかったのを、初めて描いたっていう。はい。セルマでした。

(赤江珠緒)はい。今日はアカデミー賞ノミネート作品。キング牧師を描いた映画、セルマをご紹介いただきました。日本では春ごろの公開予定だということで。町山さん、ありがとうございました。

(山里亮太)ありがとうございました。

(町山智浩)はい。どうもでした。

<書き起こしおわり>