山下達郎さんが2026年10月12日放送のNHK AM『ヤマザキマリラジオ』に出演。ヤマザキマリさんと映画鑑賞について話していました。
(ヤマザキマリ)最近、映画館とか行かれました?
(山下達郎)うーんと……。
(ヤマザキマリ)行ってないか、忙しいから。
(山下達郎)最後に見たの、なんだろうな? ちょっとね、家で見すぎてるんで。
(ヤマザキマリ)そうですよね。どれを映画館で見たのか。
(山下達郎)『国宝』のあと、見てないかな。いや、そんなことないな……。
(ヤマザキマリ)映画館に行く時ってどんな風にして行きます?
(山下達郎)1人で行って、1人で見て、1人で帰ります。
(ヤマザキマリ)なんか食べたりとか、飲んだりします?
(山下達郎)しません。
(ヤマザキマリ)もう映画だけ集中して見て?
(山下達郎)水だけです。
(ヤマザキマリ)じゃあ身の回りでポップコーンとかをむしゃむしゃ食べてる人とかがいるとムカムカするとか。そういうこと、ないですか?
(山下達郎)それは別に……集中してるから大丈夫です。
(ヤマザキマリ)素晴らしい。でも1人で行くという風にやっぱり決めてらっしゃる?
(山下達郎)基本的には1人で見ますね。昔から1人だったから、これからも1人だと思います。
(ヤマザキマリ)わかる。でも映画はなんか1人で見に行った方がいいですよね。
(山下達郎)4人、5人でワーワーやるの、嫌いなんですよ。
(ヤマザキマリ)わかる。イタリア人たちとみんなで行くでしょう? 絶対にね、2、3回見たやつがあらすじをしゃべり始めるんですよ。「うるさい! お前ちょっと出ろ!」って取っ組み合いの喧嘩になったりとかね。ありますよ。「映画の話、しゃべりやがって!」って。
(山下達郎)イタリアって面白い国だな(笑)。
(ヤマザキマリ)いや、イタリアはもうすごいリアクション。だってさっき、ほら。テレビに向かって話しかけるっていうお話を休憩の時にしてたけれども。イタリアの場合は画面に向かってすごい役者とかが出てきてすごいことをやると「うわーっ、すごい!」とかって言って手を叩いたりしちゃいますからね。昔の日本とか、そうだったと思うんですけど今はやらないじゃないですか。そういうことは。でもイタリアはまだやっているところがあるね。田舎に行くとね。
(山下達郎)なるほど(笑)。
(ヤマザキマリ)激しいです。激しい。抑えられない情動が……。で、もっと言うとだから映画が終わって帰ろうとした時はもうみんな、見た感想をベチャベチャベチャベチャベチャベチャしゃべるから、集中して考えられない。だから1人で見に行くのが一番いい。集中して考えられない。もう自分の余韻に……。だから『泳ぐひと』なんか見に行った日は終わりですよ。はっきり言って。
(山下達郎)昔、ブルース・リーが全盛期だった時、映画館から出てきてみんな、ブルース・リーになっちゃって。なりきりでみんな出てきましたよね(笑)。
(ヤマザキマリ)影響を受けやすいんですよ。映画っていうのはね、何かとね。最近はさ、なんか映画も日本は吹き替え派が増えてきたっていうことなんですけど。
(山下達郎)そうなんですか?
日本でも吹き替え派が増えてきた
(ヤマザキマリ)はい、そうらしいですね。昔は「吹き替えは嫌だ。とにかく字幕じゃなきゃ嫌だ」って人もいたはずなんですけれども。どちらかというと今は吹き替えの方がいいという人も多いそうです。
(山下達郎)へー。僕の知り合いでやっぱり吹き替えが好きな人がいて。それは要するにその字幕を追ってるとシーンの細かいところが見えないからっていうね。
(ヤマザキマリ)イタリア人みたいなことを言ってますね。
(山下達郎)イタリアは全部吹き替えなんですか?
(ヤマザキマリ)全部吹き替えです。イタリアは字幕っていうものが存在しないです。たとえば古い映画だったり、古い日本の映画なんかを見に行くと、まあやむを得ず字幕になってたりするけども。新しい映画は全部、吹き替えですね。ほぼほぼ。なのでそれを吹き替える役者も全部決まっちゃってるんで。もう変わったりしないですね。
(山下達郎)なるほど。トニー・カーティスが広川太一郎さんだってり、若山弦蔵さんがこれだっていうやつですね。
(ヤマザキマリ)そうですね。でもね、別に字幕があったからといって映像が見れてないわけじゃないじゃないですか。私もどちらかと言ったらやっぱり字幕の方がいいんだけど。
(山下達郎)僕、小さい時から字幕一辺倒だったんで。訓練ですよ、そんなもん。
(ヤマザキマリ)ですよね。画像を見ながら文字の記号を頭に入れていくってことが。
(山下達郎)そうです。で、わかんなかったら2回、見りゃいいんだもん。
(ヤマザキマリ)そう。私、一度なんだっけな? 自分のインタビューがイタリアかなんかで吹き替えが入ってるのを見たことあるけど。それがめちゃくちゃ高い声で「これ、誰よ?」っていうね。「私のこのイメージで低い声ではなかったんだな」みたいな感じになって。意外だった時があったけど。
(山下達郎)ニュースなんかで悪意がある吹き替えだと(悪い声で)「俺はナントカで……」とか。
(ヤマザキマリ)そう。あと田舎者だと「わしゃ、ナントカで」って。でも実際、そんなの言ってないんですよ。だから私、テレビの人に言ったことがあったんですよ。「これは吹き替えを田舎だからという先入観でつけちゃいけません。この人は田舎の人だけど、ちゃんと敬語を使って丁寧な言葉でしゃべってますよ」って。でもそれ、やらないんですよね。
(山下達郎)悪意ですよ。それは(笑)。
(ヤマザキマリ)悪意ですよね。本当にね。ああ、立体音響……なんか今、あるじゃないですか。立体音楽・音響効果みたいな。
(山下達郎)興味ないです。
(ヤマザキマリ)やっぱり。絶対ないと思った。
(山下達郎)水飛んできてどうするんですか? そんなの。風が吹いてきたり。
(ヤマザキマリ)揺れたりとか。
(山下達郎)問題はイマジネーションでね。トランジスタラジオで聞いても、600万円のハイエンドオーディオで聞いても感動は同じなんですよ。映画も同じで、極端な話ですけど本当に猫の額みたいなスクリーンで見ても、70ミリで見ても……まあ『2001年』はどうか、わかんないけど。ああいうのはスペクタクルだから。でもドラマだったら、テレビドラマでブラウン管で感動するやつが70ミリじゃなくてもあれだっていうような……言いたいことはわかるでしょう?
(ヤマザキマリ)わかるわかる。想像力さえあれば何でも補えるってことなんですよね。ただ、その想像力をまあ、なるべく使わないで楽しめる方向に行こうねっていうのがいろんなテクノロジーによって……。
(山下達郎)情報量が多すぎるんですよ。だから昔はね、だから一度に三つのことを聞けばいいんだけど。今は一度に100個のこと聞かなきゃなんないから。だからイントロを省いて、倍速にして。で、見たつもりになる。で、それはブラッドベリの小説にそういうのがあって。要するに一生分を2時間で見たと同じみたいな。
(ヤマザキマリ)そうか。だから達郎さんが言って想像力が多いっていうのは、要するに想像力を鍛えるのではなく、情報を多くする方がなんか得した気持ちになるってことですよね? 脳みそのさ、結局その想像力を鍛えていくのは時間がかかることだけど。情報を増やすことに関しては2倍速で見て、見たつもりになった方がどんどん頭が良くなってるつもりになるっていう、そういうことですかね?
(山下達郎)だからあらすじを見ればそれで見たことになるのか? その、何て言うのかな? 役者の演技っていうか、その振り向いた時にその人が何を考えてるかとか、そういうところまで映像で考えてあれしてとか、そんなことどうでもいい。そいつが振られるか、この恋が成就するか、ハッピーエンドなのかってさ。だから極端なことを言うと映画、ラストの5分を見てどういうのか、あれして。それから頭から見ていくっていうね。
(ヤマザキマリ)それはあれです。最近の若い人たちが最初にあらすじを知りたがって。で、知ってから映画を見に行く人たちが多いんですって。なんでかっていうと、そのサプライズがあると嫌なんですって。予定調和で見たいんですって。
(山下達郎)気が弱いの?(笑)。
サプライズを嫌い、予定調和を好む人々
(ヤマザキマリ)そう。だから「ああ、知ってる、知ってる。この通り」とか。ほら、美術館に行くのもあらかじめ見に行くその美術家の勉強をしてから行くでしょう? 日本とかって。あれ、私はナンセンスだと思うの。
(山下達郎)ライブもそうですね。ライブも勉強してね。聞いてから行くんですよ。
(ヤマザキマリ)じゃあ山下達郎も全部、聞いてから行くんだ。
(山下達郎)僕のお世話になった音楽評論家の方が歌舞伎が好きでね。「歌舞伎は浄瑠璃の語りが聞こえれば、全部それで説明してくれるから何にもいらないんだよ。ストーリーも全部そこで説明してくれるしね」って。だけど今、その浄瑠璃の語りを聞く能力がなくなっちゃったんで。
(ヤマザキマリ)だから字幕を入れたりね。
(山下達郎)入れたりしなきゃなんないんだけど。それさえわかれば、文楽だろうが、歌舞伎だろうが、常磐津とか、そういうところで言ってることで全部わかるからとか。そういうようなことですよね。
(ヤマザキマリ)そういうことです。だから想像力をますますもって鍛えない方法に向かっている。
(山下達郎)だから何度も言いますけど、昔より情報量が多いからね。しょうがないんですよ。それは。
(ヤマザキマリ)だけどそんなにさ、知らなくていいじゃないですか。知らなくていい情報だって山のようにあるから。
(山下達郎)でも「知らないとダメなんだ」っていうね、その強要主義っていうか。「そんなことも知らないの?」っていうことを言われるのが恐ろしいから。だから一生懸命、表層的な知識でも「ああ、それね」って言ってね。そういう、会話の。
(ヤマザキマリ)広く浅く知るよりはね、深くどこまでも行っちゃうぐらいの方が私はいいんじゃないかと思うんだけどもね。そうじゃないんですかね。
(山下達郎)短い人生ですからね。しょうがないですね。
(ヤマザキマリ)はい。人の生き方はそれぞれなんでね。
(山下達郎)だからいいんですよ。自分がどうかだから、それでいいんです。人は人。
(ヤマザキマリ)丸くなりましたね。これが山下達郎が20代だったらどんな風なキレ方してたのかなと思うけど?
(山下達郎)「そんなものはね、ダメですよ!」って(笑)。
(ヤマザキマリ)だってあの五木寛之さんと昔、ラジオに出た時のあの……凄まじいですよね。生意気っぷりがね。
(山下達郎)世の中を恨んでたんですね(笑)。
(ヤマザキマリ)いや、でもそれを五木さんは「本当に素晴らしいインタビューだった」って言ってね。後世、もうだいぶ今になってね、印象深かった対談相手が山下達郎さんだったって。素晴らしいじゃないですか。
(山下達郎)光栄なことです。
(ヤマザキマリ)生意気は生意気なりに。やっぱりね。
(山下達郎)手紙、書きました。
(ヤマザキマリ)五木さんに?
(山下達郎)はい。礼状を書きました。
(ヤマザキマリ)まあでも今や五木さん側の立場になられてますね。横溢する私の相手を……。
(山下達郎)いや、私はあんまり人の話聞きたくないので(笑)。
(ヤマザキマリ)ああ、そうなんですか?
(山下達郎)だからそういう具合になんか人と対談して。その人のどういうことを考えてるかっていう、そういう……。
(ヤマザキマリ)こういうところに来て、こうやってしゃべるのがなんかわりかし面倒くさいなとか思ってます?
(山下達郎)いや、それは……(笑)。
(ヤマザキマリ)思ってませんよね!?
(山下達郎)思ってません(笑)。決してそのような、はい……(笑)。
(ヤマザキマリ)この貴重な時間をみんな、達郎さんの話を聞きたくてみんな聞いてるんですからね。ラジオを。
ヤマザキマリラジオ ゲスト:山下達郎

