菊地成孔 秋山一将『Dig My Style』を語る

菊地成孔 秋山一将『Dig My Style』を語る 菊地成孔の粋な夜電波

菊地成孔さんがTBSラジオ『粋な夜電波』の中で1978年の日本のAORの名盤、秋山一将さんの『Dig My Style』を紹介していました。

(菊地成孔)はい。気分がよくなる音楽。それだけをかけ続けていきたいと思いますよね。次にかける78年。これはグレートヴィンテージです。78年はヒップホップ、ハウス、テクノポップ、ニューウェーブ、AORといった新時代の音楽が一斉に花咲く時代。それは4年の熟成を経て、82年にさらに大きなグレートヴィンテージになるわけですけども。その下準備としての78年、大変なグレートヴィンテージ。この年に出たAORですね。「どこの国のものだか、当ててください」とか言っちゃってもいいんですけど、なんか誰もが当ててしまう気がするんで先に言っちゃいますけど。ええと、日本です。

78年 AORの名盤

ただ、とても日本人のものとは思えない。秋山一将(かずまさ)さん。「いっしょう」さんと読んでいる方もいらっしゃるでしょうし、コアファンほど、「あきやまいっしょう」と呼んでいるかもしれないですね。秋山一将さんの78年のファースト・リーダー・アルバムになります。「渡辺貞夫さんのバンドのギターの人でしょ?」ぐらいの認識の方は、聞いたら驚くと思いますし。日本のシティ・ポップ、AORのファンの方も、「知ってはいたけど、こんなにすごいクオリティーか!」っていうことに驚くと思うんですよね。

あのね、『Dig My Style』っていうアルバムのタイトルチューンです。『Dig My Style』っていうのは「自分のスタイルを掘る」っていうことですけど。78年の邦楽で「Dig」っていう言葉が入っている……まあ、そうだな。「Dig」は入っていてもいいか。歌詞がすごいんですよ。歌詞を書いた人がね、中川公威さんっつって。もうオールドファンじゃないとわからないと思いますね。中川公威はレイジー・キム・ブルース・バンドのリーダーであるレイジー・キムですよ。

が、レイジー・キム・ブルース・バンドをやめて、作詞家・ソングライター・プロデューサーをやっている頃のお仕事ですね。まあ10代後半からイギリス。そしてさらにはニューヨークにも渡った方なので、英語の使い方が本当に素晴らしいです。で、英語の歌詞はね、この間奏の間に説明できたらちょっと説明しようかなと思いますけども。メンバーは秋山一将さん。ボーカル、エレクトリックギター。そしてドラムが山木秀夫さんですね。山木さんね、いつ会ったかな? いま、大儀見なんかと一緒にバンドやったりしてますけどね。

そしてエレクトリックベース、当時はもうブイブイ言わせてました。杉本和弥さん。そして、エレクトリックピアノ、益田幹夫さんですね。そしてパーカッションは横山達治さん。ホーンは後にスペクトラム。バンドの名前になりますけど、当時はホーン・スペクトラムっていうホーンセクションのユニット名だったんですね。中村哲さん。『ムー一族』のテーマソングだった『暗闇のレオ』。

クリエイションね。あそこにサポートメンバーとして入っていましたね。そして、兼崎順一さん。現在は兼崎”ドンペイ”順一さんですけどね(笑)。「ドンペイ」がどこから来たのか? ドン・ペリニヨンから来たのかどうか、わからないですけど。まあ、とにかくドンペイさんですよ。業界的には、ドンペイさん。大先輩ですけどね。そして、トランペットは言うまでもなく、スペクトラムのファンにはお馴染みの新田一郎さんですよね。ボーカリストとしても一流の方ですけどもね。

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コーラスもすごいんですよ。コーラス、こっから先はもうマニアですよね。コーラスは松木美音さんっていう方ですけど。これ、現在はミネハハさんですよ。ミネハハさん、いまはもうゴスペルですよね。ゴスペルシンガーになりました。当時はまだコーラスガールだったんですね。そして、浜岡万紗子さん。こちらはもう、まあマニアじゃないと、ねえ。あと、山川恵津子さん。この方は才人ですよ。山川恵津子さんはね、特に渡辺満里奈さんが渋谷系のミュージシャンだった頃のファンの方にはもう、絶対に知っている名前ですよ。

もうプロデュース、作詞作曲、アレンジ、全部やっていましたからね。日本レコード大賞の歴史の中で、いまのところ唯一、そして初めて、日本人女性で編曲賞を受賞した方ですからね。山川恵津子さんは。大変な才人です。たしか、受賞曲は小泉今日子さんの『100%男女交際』だったと思いますけどね。間違っていても、このまま放映してください。来週、訂正します。

こんな3人がコーラスをやっている秋山一将さんの……まあ、非常にいい感じです。78年の日本というものが、何年前? 37、8年前になるの? いかにいい調子だったかっていうのを聞いていただきたいんですよ。これこそがスロー・ダウン。日本のAORの傑作ですよね。歌詞の中でね、「Let’s get together in a bistrot.」……ビストロも早かったですよ。78年に出してくるのはね。これはやっぱり、作詞のレイジー・キムさん。中川公威さんの実力。完全に白人ミュージシャンの物言いですよね。ファンキーな。

で、「Plenty of joy and laughter, Swinging all night in a disco.」。「in a bistrot」と「in a disco」で韻を踏んでるの。もうね、しかも韻を踏んでることをわからせるためか、「in a」っていうのが頭についているっていうのもすごいですよね(笑)。「in a bistrot」「in a disco」と来てね、いまならここに「in Nabisco」が入ってくるでしょうね。オレオ、今年で50年!っていう(笑)。50年以上たっていると思いますけどね(笑)。

まあ、なんていうか放談に任せていろんなことをしゃべっちゃいましたけども、とても素晴らしいナンバーです。これでいい気分になって、寝るなり……「なんか俺、もういい気分になっちゃったから1杯飲みに行くわ!」っていう感じで外に出かけてくださったりしたら、これ以上うれしいことはないですね。ジャズミュージシャンの菊地成孔がお送りしてまいりました『菊地成孔の粋な夜電波』フリースタイル、お別れの時間となりました。

それではまた来週、金曜深夜0時にお会いしましょう。来週は『特集狂気 ピンク・フロイド抜きの奇人たちの共演2』をお送りいたしました。お相手は菊地成孔でございました。ありがとうございました。できれば、夜遊びしていただきたく。まあまあまあ、高望みは申しません。このままいい気分で、いい夢を見て寝ていただきたくというところも含めまして。今日、最後の曲です。秋山一将でアルバム『Dig My Style』より『Dig My Style』。

秋山一将『Dig My Style』

「今夜は特別な土曜日の夜になるから、君のことを僕の”クラウド”が仲間に入れるだろう」って言ってますね。「クラウド」っていう言葉が出てきたのは78年、早いですね。相当早いと思います。いまだったら当たり前の言葉ですけどね。

「Don’t you wanna go?」。直訳すれば、「どうしてあなたは行こうとしないのだ?」ってことになりますけども。これはまあ、「なんだよ、行こうぜ。行こうよ」程度でいいと思います。「それは1回、光がブレンドされてソフトな音楽が流れている場所に行けば、君は変わってしまうんだから。行こうぜ、そこに」っていうね。

「1度変わってしまえば、2度と君は、もう暗い人間にはならない。1回いい気分になれば、ずっとそれからご機嫌なんだよ」っていうメッセージが入っていますね。非常に素晴らしい英語です。全部読み上げたいぐらいです。さっき言ったように、「Let’s get together in a bistrot.」「Plenty of joy and laughter, Swinging all night in a disco.」。「in a bistrot」と「in a disco」で韻を踏んでいます。

「さあ、一緒に行こうぜ、ビストロに。そこで1杯ひっかけて、楽しみがいっぱいある、笑っているやつ、スイングしているやつがいるんだよ。ディスコには」という歌詞ですね。まあ、「イライラしないで」と私は番組で言い続けてますが、これはまあ、学生さんとかお若い方はイライラするのが仕事ですから、構いませんよ。どんどんイライラして、どんどん国をどうにかしようと思ってください。

私が言いたいのは、「大人がイライラしてちゃしょうがねえよ」っていうことですよ。大人はせめて、いい調子で行きましょうという感じですね。まあこの曲でも聞いて……ということで、益田幹夫さんのソロが終わったところでMCを終わりたいと思います。また来週。

<書き起こしおわり>

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