菊地成孔 熊本地震被災者に捧げた言葉と選曲

菊地成孔 熊本地震被災者に捧げた言葉と選曲 菊地成孔の粋な夜電波

菊地成孔さんがTBSラジオ『粋な夜電波』の中で、熊本地震の被災者や二次被災者に対し、ご自身が選曲した心身のこわばりを取り、深い呼吸と快眠を取り戻すための音楽を1時間、ノンストップでオンエアーしていました。以下は菊地さんの前口上と選曲トラックリストをわかる範囲でまとめたものです。

(菊地成孔)TBSラジオをお聞きのみなさま、ご愛聴感謝いたします。春ですね。『菊地成孔の粋な夜電波』、本日はスペシャルウィークでありまして、本来なら『菊地成孔が通う新宿の美味い店 音楽付きラジオグルメガイド』と題しまして、私が通っております新宿の本当に美味い店をご紹介するとともに、料理店のBGMとはどうあるべきか? といった企画で進んでおりまして、告知もしてまいりましたが、本日、急遽内容を変更させていただくことになりました。

すでに構成も選曲も済んでおりましたので、この企画は次のスペシャルウィークにでもオンエアーさせていただきます。当番組はパーソナリティーである私、菊地が1から99まで内容を決めておりますので、本日の内容の急遽の変更は、あくまで私、菊地個人の提案によるものです。一切のコーションもなく、快諾いただいたスタッフならびにTBSラジオ編成部に感謝します。

この番組が開始されたのは2011年4月。偶然とはいえ、東日本大震災を受ける形で開始されたということ。また、これは公共の電波を使ってアナウンスをするのははばかられるような私事も私事ですが、私の亡くなった父親の父親の父親。すなわち、私の曽祖父は、皮肉なことに今回の震災で全国にその名を広く知られることとなった熊本県菊池市で生まれ育った人間です。

というわけで、本日は熊本県の震災という事態を受け、被災された方は言うまでもなく、実質上の二次被災。つまり熊本の方々ではなく、他府県で生活されており、ご家族が被災されて心配だという方。マスメディアの報道によって、否が応にも熊本の状況、その一部に触れてしまい、フラッシュバックなどの精神的ダメージで眠れない、深い呼吸ができないといった日々を過ごされている方々を中心に、1時間ノンストップの選曲をお届けすることで、みなさまが、いささかであれ、緊張を解きほぐし、快癒と活力を得ていただければとの願いを込めてオンエアーさせていただきます。

この前説が終わりましたら、音楽はノンストップで続き、番組の終了まで私は登場しません。音楽の連鎖のみ、お楽しみください。途中で眠れる効果も多分に含ませておりますので、寝落ちせぬよう。いまのうちから就寝の準備もお忘れなく。井上晴美さんにこの放送が届くことを祈ります。水着グラビアの頃から、そのお仕事ぶりは高く評価させていただいておりましたが、今回も同様です。

あなたは今回、SNSというドラッグの蔓延による酩酊状態によって、日本人の人心が荒廃していること。それが目の前まで、寄ってたかって突き出されるような暴力的なメディアの中で我々が生活しているということ。という絶望の一端を身を持って証明してくださいました。非常にお辛いとは思いますが、エールを送らせていただきます。世の中が少しでも変わりますように。

熊本の現在に最も必要なのが救援物資であることは、言うまでもありません。しかしそれは、「衣食が足りればそれでいい」というものでもありません。田中康夫氏は、阪神淡路大震災の際に、被災者の女性に口紅を配るという被災地支援の歴史上に残る偉業を成し遂げました。「何日も化粧ができないままだと、食事も喉を通らない」という女性心理が虐げられることがあっては決してなりません。

この番組がダイレクトに熊本全域に流れる可能性に関しては、残念ながら絶望的です。しかし、いつか届くということだけは間違いありません。今夜はまず、被災者のみなさん、そしてメディアによる二次被災に苦しむ都市民に方に。そして、「他府県のことなんか他人事だね、悪いけど」という方々にも。あなた方を非難するつもりは一切ない。本当に非難されるものがどこにいるのかというのは、誰にもわかりません。

お店などを経営なさっている方は、そのまま1時間分のBGMとしても使えますので、ご利用くださると幸いです。それでは、CM明けから音楽をスタートさせていただきます。どうぞ、リラックスしてお楽しみください。

トラックリスト

1:尾高尚忠『日本組曲』

2:Celso Fonseca『Porque Era Voce』

3:松平 頼則『Theme And Variations For Piano and Orchestra』

4:Miles Davis『You’re My Everything』

5:Reich『Music for Mallet Instruments, Voices and Organ』

6:Teresa Tang『Young Girls As Flowers(姑娘十八一?花)』

7:判読不能『判読不能(タイ語のため)』

8:POP ETC『Live It Up』

9:Akademie fur Alte Musik Berlin『Concerto n°1 en Fa majeur BWV 1046』

10:Melody Gardot『Baby I’m A Fool』

11:Oscar Isaac & Marcus Mumford『Fare Thee Well』

12:Family of the Year『Hero』

13:David Rosenboom『Musical Intervention1079』

14:Julia Sarr『Adjana』

(菊地成孔)はい。いかがでしたでしょうか。本日は熊本県の震災を受け、企画を変更してお送りいたしました。次の曲は、2011年の3月下旬に私が作詞作曲したもので、ピアノも私が演奏しています。自分でも信じられないぐらい、なかなか歌詞が書けなかったこと。録音中、余震によって何度も何度も録音が中断されながら、凪のような時間にふと、出来上がっていたことを、いまでも生々しく覚えています。

それでは、本日最後の曲です。naomi & goro & 菊地成孔でアルバム『calendula』から、『いちばん小さな讃美歌』。『菊地成孔の粋な夜電波』、また来週金曜0時にお会いしましょう。お相手は菊地成孔でした。おやすみなさい。よい眠りを。

15:naomi & goro & 菊地成孔『いちばん小さな讃美歌』

<書き起こしおわり>

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