伊集院光が語る 『男はつらいよ』寅さんは本当はイヤなやつ

伊集院光が語る 『男はつらいよ』寅さんは本当はイヤなやつ 伊集院光の深夜の馬鹿力

伊集院光さんがTBSラジオ『深夜の馬鹿力』の中で、男はつらいよの寅さんの魅力を再発見した話をしていました。

(伊集院光)あの、東京のTBSで聞いている人は今、番組宣伝のCMが入ってましたけど。小林悠アナウンサーと玉袋筋太郎兄貴のやっている『たまむすび』っていう金曜日の番組の中の『TSUTAYAに行ってコレ借りよ』っていう番組を僕がやってるんですけど。そこにゲストで永六輔さんがいらっしゃって。んで、いろいろ連絡ミス等ありまして、この番組はTSUTAYAさんが提供だから、何か面白い映画ない?みたいな人に、今週末これ借りたらどうですか?みたいな番組で。しかもそれは、パーソナリティの僕も見たことないやつだったりするので、僕もそれを借りて観ますので。

『男はつらいよ』永六輔出演作品

ゲスト2回来てもらって、1回めは『これ借りたら?』っつって、2回めは『観てみてどうだった?』って話をするってそういう番組なんですけど。それに永六輔さんがいらっしゃって。で、普通はゲストの方が観た中で面白いのを推薦してもらうんですけども、連絡ミスで永さん、自分がエキストラっていうか友情出演っていうかカメオ出演っていうの?カメオ出演で出たものの、観たことないっていう『男はつらいよ 寅次郎純情詩集』っていうやつを推薦してくれて。

ほいで、普通だったら『困りますよ!これは自分が観たやつの中で推薦して・・・オイ!何聞いてんだよ!?このアゴか!?』って言えって。この番組のディレクターの池田がプロデューサーですから言えっていうのにもう・・・『こういうのも新鮮でいいですよね!』なんつってね。で、その『寅次郎純情詩集』、観たんですけど。俺、正直ね、寅さんすごい久しぶりに観たんですよ。で、寅さん自体の、特に晩年、最後のほうの寅さんに関して言うと、『寅さんっていいこと言う』っていう感じあるじゃん?寅さんは日本人の心で、超いいこと言う!みたいな。で、寅さん名言集みたいな本もいっぱい出ていて。しかも『国民の』みたいな調子になってきてたじゃないですか。

その感じがあまり好きじゃなくて。割と寅さん、好きだった時期もあったんだけど。むしろ中学生ぐらいの時に寅さん好きだったけど、その後半っていうか晩年っていうか、『寅さん、もういいわ・・・』ってなってたの。『お腹いっぱいだわ・・・』ってなってたんだけど、久々に寅さん観たら、特にこの回がいいのか知らないけど、純情詩集っていう回観たら、結構ハマってっていうか。寅さんね、超イヤなやつなの!あの、寅さんっていいやつじゃないはずじゃん!みたいな。俺の中では。もう寅さんが帰って来て、とらやっていう団子やさんでいつものパターンで『寅さんって、今頃あの人どうしてるかね?』なんて言うとそこに寅さん帰ってくるパターンなわけ。

でいて、その時の感じの、『イヤなやつが帰ってきた』っていう感じがすごいのよ。で、寅さんの、粗雑で、無知で、ガサツで、本能的で、空気を読まないっていう感じがよく出てるの。しかも、寅さんの持っているこういう人が・・・たとえば、寅さんが無銭飲食をして、無銭飲食っていうかどんちゃん騒ぎをした結果カネがなくなって、警察に捕まってると。警察のご厄介になってるんだけど、さくらのところに連絡が来て、『カネを払ってくれ』って言われて、さくらが行くわけ。行ってカネを払おうとすると、警察を全て掌握している、警察の中で『よう!』みたいな。その警察の人たち全員が寅さんに巻き込まれてシンパになっている感じの、薄気味悪さみたいな。『こういう人って、本物のヤクザ者じゃないとあり得ないよな』みたいな迫力とか。

たまにタコ社長とか前田吟さんに対する・・・ヒロシに対する物言いのガサツさとか、ヒロシとかが、今日こそ言ってやろうとするけどなかなか言えない怯え方とかが、『この人、陽気に笑っているけど、本当に怒った時にちょっとヤバいよね』っていう感じがすごいするの。なのに、たまに、根っから悪い人じゃなかったりとか、あと本当に根っから悪い人・ズルい人は言わない、ちょっと人間味あふれることを、本当に小さじ1杯ぐらい言う時にグッと来るっていうバランスなの。俺、寅さんファンの人に怒られるかもしんないけど、イヤなやつだよね。基本的には、ああいう人が親戚にいたら超厄介だし、何か俺の嫌いな粗雑で無知で、無知なことを認めなくて、人に迷惑をかけるっていう人なんだよね。

だけどその寅さん、その気持ちがいっぱいになった時に、この人が最終的にしばらくいなくなるとホッとするけど、そのいない時間が長くなると、どうしてるのかな?と思うのは、この感じなんだぐらいのバランスがすごい良くて。今さら来たね。寅さんブーム。今さらちょっと軽い寅さんブームで。ちょっと面白いなと思うのは、いろいろ批評とかを読むと、その回が嫌いな人、結構いるんだよね。あの回の寅さんがイヤなやつだから嫌いだって人がいるんだけど、俺、このイヤなやつ度の方が全然いいよね。じゃなかったらダメだよねって。寅さんはいい人じゃなくて、根っから悪い人ではないぐらいの温度のほうが正しいってちょっと思って。ちょっと永さんのお陰で寅さん観るようになって。

だからまあその、ディレクターでありその番組のプロデューサーの池田はね、永さんが自分も観たことないような映画を推薦した時にはね、『オイオイ、キチンと龍角散を舐めてるのか?俺の言ったこと、聞いてねーのか?』ぐらいのトーンでしたけど、俺はね、むしろ良かったと思っている。むしろあの映画を推薦してもらって。さすが永さんだと俺は思ってる。俺は思ってます!

<書き起こしおわり>

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