神田伯山 6日間連続公演千秋楽の客席で携帯電話が鳴った事件を語る

神田伯山 連続公演千秋楽の客席で携帯電話が鳴った事件を語る TBSラジオ

神田伯山さんが2024年1月26日放送のTBSラジオ『問わず語りの神田伯山』の中で名古屋で『畔倉重四郎』の6日間連続公演を行った際、千秋楽で観客の携帯電話が鳴り、公演が一時ストップしてしまった件について話していました。

(神田伯山)ああ、そうだ。名古屋で携帯が鳴った話とかもちょっとね、したいんですけど。1回、CMに行きましょうか。CMです。

(CM明け)

(神田伯山)楽しいCMも終わりまして。そうそう。この前ね、『畔倉重四郎』っていうさ、人殺しの話を6日連続でやってたんですよ。名古屋でね。東京公演が終わって。だから6日間、同じお客様に基本、来ていただくみたいな感じで。東京の時は500名のお客さん、毎日同じお客様がいらっしゃるっていう。で、名古屋の場合はちょっと違っていて。400キャパぐらいのところかな? 中電ホールってところなんだけど。だいたい300が同じお客様が来るんだけど。あとの100が1日券で来るんですよ。で、今回それでね、もう本当に僕、よくわかったのは1日券のお客さんはもう毎回、違うわけですよ。それと連続券のお客様でね、分断が生まれるのよ。それが面白かったね。

1日券と連続券の客の分断

(神田伯山)要するに俺がさ、『畔倉重四郎』っていうのは連続物でさ。19席あって。1日4話ずつぐらい、進んでいくわけ。するとさ、1日券でさ、たとえば3日目とかに来ちゃった人ってその前回までのあらすじを聞いてないと、わかんなかったりするじゃないですか。で、俺はやっぱり親切でありたいから、なんかわかんないけど連れてこられちゃった人で。で、また予習してこないのとか、いるじゃん? 間抜けなのが。そういう人にもちゃんと楽しんでいただきたいなって。お金を払っているんだからと思って、予習をちょっとやってやったりするわけ。

そうすると、そのあらすじは……同じお客さんが連続の東京公演ではそんなことは一切しなかったけど。でもちょっと、10分とか15分とかしゃべると、もうアンケート。毎日のようにさ、みんなが書いてくるのを俺が全部読むんだけど。連続券のやつらとか、めちゃくちゃ怒るんだよ。「1日券なんかどうでもいいだろう? 1日券のためにあらすじなんかしゃべるな。無粋だ!」みたいな。9割5分方はみんな、いい感想なんだけど。で、なんかある日はさ、1日券のさ。「本当、1日券のお客様も来ていただいてありがとうございます。今日はね、ちょっとね、雨も降ってますけども。本当に1日券でね、わざわざ来ようってのはありがたくて。まあ連続券でね、来るってのはわかるんですけど。1日券が、1日券が、1日券が……」って言っていてさ。

そしたらアンケートでさ、「1日券の話ばっかりしてるんじゃねえよ! 連続券の俺たちの方がありがてえだろう? 6日連続で来るんだから。あいつら、6分の1とかしか来ないのになんでお前、1日券の話ばっかりしてるんだよ? 1日券、1日券、1日券……って!」っていうおばちゃんがいて。「すっげえ怒ってんじゃん!」と思って。それを翌日、枕で言うのよ。「俺、なんかすごい連続券のお母さんに怒られちゃって。すごいバンバンバンバン言われちゃって、ごめんなさいね。だから今日はね、連続券の人の話を中心に話します!」っつったらさ、またそのお母さんが書いてくれて。「今日はいいよ。連続券の話をいっぱいでしたからね。今日はいいよ。1日券なんか、どうでもいいんだから。あと私、そんな怒ってないよ?」っつってさ。たぶん60代、70代のお母さんなんだけど。あんまりその書き慣れてない顔文字……気持ち悪い、パックマンを崩したみたいな。「いいよ」みたいな笑顔マークが超気持ち悪いのよ! で、それもまた翌日話してみて……みたいなことをして。

でも、名古屋の公演『畔倉』の6日間中ですね、もう本当5日目まで携帯も鳴らず、すごいすごいいい感じだったの。それで俺、「嬉しいな」と思って。それでいよいよ6日目。千秋楽。あと4席で大団円。だから考えてみたらさ、同じでさ。みんな、仕事とかしてるじゃん? この時期にさ。仕事をしてなくても、育児だなんだとかさ、すごい大変な中さ、時間をもう一生懸命に割いてくれて。お金とかだけじゃないよね。わざわざさ、「面白いんだろう」と思って来てくれるって、めちゃくちゃありがたいお客様たちじゃない? 1日券にしろ、連続券にしろさ。そんな中、千秋楽。最初、「奇妙院の悪事」っていう話があるの。どういう話か?っていうと、おはまっていう16、7のさ、綺麗な娘がいるのよ。ところがこの娘が早くして亡くなっちゃうの。病で。で、たまたまその許嫁の喜三郎っていうのがいて。これが22、3でね。本当にすごい2人は仲良くてさ。喜三郎はそのおはまが亡くなっちゃった時にたまたま別の病でもって、江戸に来てて。で、おはまの亡骸を見てないわけ。で、そこから100日が経って。百か日がすぎたの。で、おはまは棺の中に入れられてさ。すごい綺麗な娘だったんだけどさ、いわゆる肉も溶けて、骨も出ちゃってるみたいな。この世のものとは思えない姿なわけ。でも、その喜三郎はずっと昔の恋人、許嫁のおはまの美しい姿が頭の中にあるわけだ。で、その亡骸を見てないから、自分の中ではおはまは死んだと思えない。で、和尚様に「すいません。お願いですからおはまの姿を見せてくれませんか?」っつって。で、その和尚はさ、本当だったらもう1回、墓を掘り直すのは大罪で、やってはいけない法に触れることなんだけど。「わかった。この世のものではないということをあなたに見せるために、おはまさんの死骸を見せる」っつって、その棺をガーッと出して。で、いよいよその和尚が見るわけ。

そしたら、「これは……お覚悟をなされよ。喜三郎どの」って。で、喜三郎が自分の許嫁。16、7の本当に美しいおはま。それが頭の中に描いている。で、今のおはまをたしかめるっていう、その棺を「おはま……おはまっ!」って言って覗いた瞬間に遠くの方で、たぶん高齢者でしょう。「マナーモードにしてください。マナーモードにしてください」って……お前だよっ! 大音量で流れたの。「マナーモードにしてください。マナーモード……」。お前だよ!っていう。誰かわかんないけど、首根っこをつかまえたいぐらい。めちゃくちゃ腹立ったの! そこで……「おはまっ!」ってそれ、大事なシーンなわけだよ。もう要するに、おはまと今生の別れをする。「ああ、やっぱりもうおはまは生きてなかった」って。「おはま……これでは……」っつって。和尚も「これでは100年の恋も冷める」みたいな、そういういいシーンなのに、鳴っちゃってるの!

シリアスで大事なシーンで携帯が鳴る

(神田伯山)「ええっ?」って。5日まで、ずっと鳴ってなかったのに。で、変な空気になるじゃん? 俺も普段だったら笑いに変えていろいろやったりするんだけど。まあ、滑稽なところならね。でも、シリアスな場面ってそれ、できないじゃん? シリアスな場面で笑いにしちゃうと、単純にもう作品が壊れちゃうから。だからこのまま通り過ぎても壊れてるし。1回立ち止まっても壊れるんだけど。で、「次のセリフを言おうかな」と思ったらね、次のセリフが言えなかったんだよね。もう。不快すぎて。で、その「マナーモードにしましょう」みたいなのも「お前だよ!」っていうツッコミもみんな入ってるから。「これ、なんなんだろうな?」って思って。もうめっちゃくちゃ腹が立ったの。それで1回、ちょっと止めて。俺、5秒ぐらい黙ったのよ。その後に。

そしたら、ものすごい空気になるじゃん? 俺の沈黙で「うわっ、めちゃくちゃ怒ってるわ。っていうかこいつ、東京に帰るんじゃねえかな? 6日興行の5日目までやって、あとの4話はしゃべらずに『携帯が鳴った』ってことで帰るんじゃねえか? 金を払ってるけど……」っていう。で、その時だけ、分断をしていた1日券と連続券のやつらがガッと手を取り合ったのよ。「帰るなよ!」って。で、5秒ぐらい俺、沈黙して。「すいません。できないっすね」っつって。「ごめんなさいね。僕ね、普段止めないんですよ。こうやって。止めないんですけど……ちょっと、ごめんなさい。これは止めざるをえなかったな」っつって。

で、俺もまたよせばいいのに、そこで笑いに変えようと思ってさ。「どうせ鳴らしたの、1日券のやつらだろ?」っつったら「シーン……」って。「いやー、悲しいね、俺は。本当に悲しい。どのぐらい悲しいかっていうと、この許嫁の喜三郎がおはまの顔を見たぐらい悲しいよ」っつって。で、ちょっと笑いに変えてさ。「笑いに変えたろ? なあ?」っつって。で、俺ももう1回、ポジション変えながらさ。そのちょっと前ぐらいからさ。「ご覧になられよ。お覚悟をなされ」「ああっ、おはま……」っていうところでスッと行ったんだけども。お客さんは1回、止められてるからもう戻らないわな。なかなか。「またあいつ、鳴らすんじゃないかな?」みたいな風に思ったりもするんでしょう。まあ、でもその後に一生懸命、取り直そうと思って。16、17、18、19と大団円になった。で、その後もね、キャラクター同士が「今日のお前の話はずいぶん長かったな」みたいに言い合うシーンがあるのね。「ええ、変な音が鳴ったもんですから」みたいなんで笑いに変えたりとか。で、最後は3本締めで「よー、チャチャチャン、チャチャチャン、チャチャチャン、チャン」も「皆様のご多幸を願いまして。さらには携帯を鳴らした人の発展も願って……」みたいな。そういう風にちゃんと笑いに変えてやったの。

「まあ、いいや。これで。途中、そんな風になっちゃったけど。俺は一生懸命やったわ」って。ぶっちゃけてさ、俺はもう本当に一切、遊びにも行かず。その6日間、名古屋でね、ずっとホテルと家でもって缶詰で稽古してってやってるっていうものが……要するに信頼だわな。名古屋のお客様とのさ。で、その信頼が5日目までピーン!ってなってたけど、6日目で携帯が鳴っちゃった時にそれが全部、崩れるのよ。で、「もういいや」っていうのもちょっと一瞬、思ったりするのよ。「ああ、もういいや。セコい客だわ」って思ったけども、でも他のお客さんは関係ないじゃん? なにより、他のお客さんに悪いから。「ああ、いや、ちょっと待てよ。そうじゃないぞ。これは一生懸命やんなきゃ。他のお客さんのために」っていう、そういう思いで一応、自分なりにはやってみたつもりなんですよ。

で、終わった後にアンケートがものすごい数。で、ほとんどの方が「6日間連続公演、お疲れ様でした。ありがとうございました。残念なこともありましたけども、すごい良かったです。また来ます」みたいなことをみんな書いてくれてさ。年齢とかも書いてくれてね。「ああ、嬉しい。ありがとう。ありがたい」と思って。だいたい95%以上は、わざわざ来てくれたぐらいだから。1日券の人も含めてなんだけど、好意的なのよ。で、中には……2、3通かな? 2、300ある中で2、3通ですけど。「いや、ちょっと携帯電話に怒りすぎじゃないですか? もうちょっと大きくなってください、伯山さん」みたいなことを書いているんだよ。「ああっ!?」と思って。「大きくなれ? 大きくなれって、どういうことだ?」と思って。で、それはまだいいんだけど。その後にシゲフジ、すげえ腹立つのが「でもね、また頑張ってください。応援してますよ」っていう。

この「よ」がむかつくの! わかる? 「応援してます」ならいいんだよ。「でもね、まあいろいろあるでしょうけど、応援してますよ。これからも、頑張ってくださいね」っていう。不細工が! 男か女か、ジジイかババアか若やつかもわかんないけど。「なんて醜いんだ! なんだ? その『よ』っていうのは? 『応援してます』? 二度と来るな! お前みたいなやつが携帯を鳴らすんだ、バカ野郎! 本当に……本当、ふざけやがって。『応援してますよ』? なんだ、こいつ。調子に乗り上がって!」って。

いや、俺はね、これはいろいろ自分への怒りもあるんですよ。演者としてね。「ああ、もっとうまく啓発を……」って。でも、スタッフの方もいっぱい啓発をしていたんだよ。「鳴らさないように」ってさ。初日なんか、青之丞がさ、俺も「行って来い」って言うからさ。お客さんのところに潜り込んじゃって。「携帯だけは切ってくださいね。お願いします! 僕が後でなんて言われるか、わかりません。親に逆らったことのない僕が初めて言います。携帯は切ってください!」なんて、ちゃんとあいつ、盛り上げて。あいつ、青森でね、親に叱られたことがない。そういう風に育ったっていうその流れの中で、そういう風に言って。もうとにかく、腹立っちゃってさ。

で、それをXにポストしたらなんかね、いろいろネット記事とかになっちゃいましたけど。そしたら今度、また歌舞伎でさ、『荒川十太夫』っていうさ、講談から移植された、静寂がすごい大事なあれでも……あれ、なんかうちの師匠が行った時。うちの師匠、82歳ぐらいか。楽しみに行ったと思うんだよ。『荒川十太夫』。自分が監修したりしたからさ。そしたら、なんか10分、アラームが鳴り続けたっていう。しかも大事なシーンで。びっくりしない? 俺もびっくりで。ひょっとしたら、うちの師匠が鳴らしているんじゃないかな?って思って。

歌舞伎『荒川十太夫』でもアラームが鳴る

(神田伯山)で、(尾上)松緑さんがさ、ブログに書いてるんだよ。「もうつらすぎる。今日の酒はもう、うまくない」っつって。で、ずっと昔から松緑さんっていう方はね、携帯を啓発してたから。『荒川十太夫』に主演されていたんだけども。で、「(神田)松鯉先生が来ていただいたんで、それだけを自分の糧に、心が折れそうになったんだけどやり続けた」っていう。で、何よりもお客様に申し訳ないじゃん? でもスタッフもさ、俺は別の日に『荒川十太夫』を見に行ったんだけどさ。その時はシーンとしていたんだけど。もう松緑さんがその携帯のことに対してブチギレるから。スタッフが『荒川十太夫』が始まる前、すごいすごい大量のパネルを持ってさ。「携帯電話は絶対オフにしてください」とかっていうのを入れ代わり立ち代わり、いろんなやつらが来て。

「そんな中でアラームをかけるやつ、頭がおかしいだろう?」っていう。で、なんか時々さ、バカなやつがさ、「電波妨害装置を使えばいい」みたいなこと言うんだけど。あんなのも免許制で、大変だし。そもそもアラームだったら通り過ぎるよ。で、アラームを鳴らすやつ、いるから! だから俺、本当に自分のXにもポストしたんですけど。もうね、携帯は免許制にしたらいいんじゃないの?っていう。スマホとか。そしたらうちの師匠、持てない可能性があるね(笑)。いや、だからうちの師匠は鳴らしてないんだっていうの。松鯉先生が鳴らしてるのに「松鯉先生のために頑張った」っていう。松緑さん、意味がわかんないだろう? うちの師匠はそういうの、厳しいから絶対に鳴らさないんだけど。

なんだろうな? 大事だよね。意外に。社会に対してさ、みんながさ、生きやすくするっていうのはすごい大事なことじゃない? だから談志師匠が昔、言ってた言葉ですごい残っているのが「文明っていうのは文化の邪魔をしちゃいけない」っていう。「文明っていうのは文化の足を引っ張っちゃいけないんだ」みたいなことをおっしゃってた。で、まさに携帯という文明がね、文化である我々伝統芸能の足を引っ張ってるんですよ。だから俺、すごいそれが嫌で。だから文明っていうのはもっと、みんなを幸せにするためなんだけど。結果的に携帯っていうのはいろんな人を幸せにはしてると思うんだけど、その面においては不幸せにしてるから。これは携帯会社、ちゃんと考えろよ?っていうのを言っていきた。

で、こういうのをさ、落語家のやつらとか、言わないじゃん? あいつら乙に気取ってやがってさ。ねえ。俺ぐらい怒って言ってる奴、いる? 俺と松緑とさ、歌舞伎役者の彦三郎さんだけだろう? こんなに怒ってんの。「携帯オフにしろ!」っていう。で、バカなやつらが「演者が言うと冷めるんだよなー」って、じゃあ他に誰が言うんだよ! 落語評論家とか、バカばっかりだから言わねえしさ。あいつら、何も言わねえよ! で、「それを笑いに変えるのが芸人としての懐の……」「シリアスな時に笑いできるか、バカ野郎! 滑稽な時に何回も笑いにしてきたわ! でも、笑いにすればするほど、そいつらは反省しないからダメなんだよ」って。俺、すごい腹立ってんの。ねえ。そういうことなの。だから本当に談志師匠のおっしゃる通り。文明っていうのは文化の足を引っ張っちゃいけないんだっていう。一緒になって、せり上がって良くなるっていう。

だから携帯会社とか、携帯を持つ人もさ、ちょっと考えてほしいなと思って。でもラジオリスナーなんか、意外にリテラシーが高いからさ。そんなこと、当たり前に持ってる人多いじゃん。『ミヤネ屋』とか見てるやつらだよ! 『ミヤネ屋』とか『ひるおび』見てるババアとかジジイ、あいつらが……あいつらがマジで鳴らすんだよ! だから『ミヤネ屋』、行ってくれよ! クソどうしようもねえ不倫とかさ、どうしようもないスキャンダルとか言ってるんじゃなくて、携帯の切り方を教えてくれよ、本当に! アラームとか。

あと「持たないようにしましょう」みたいな。昔のみのもんた再来ぐらいのさ。「ココアがいいですよ」って言ったらココアが売り切れるぐらいに。「携帯電話なんか持たない方がかっこいいんじゃないか」みたいな洗脳をしていけよ、お前たち! 『ミヤネ屋』とか『ひるおび』で! 「携帯のないライフの方が60代以降はかっこいい」みたいに言っていけよ、お前たちで! 頼むよ、本当に。お前たち、どうしようもないんだから……その役割ぐらい、担ってくれ。そういうことでね、白熱しちゃいましたけど。番組では、あなたからメッセージお待ちしております(笑)。それではまた来週。お相手は神田伯山でした。ありがとうございます。

神田伯山・畔倉重四郎「奇妙院の悪事」

<書き起こしおわり>

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