放送作家 高橋洋二が選ぶ 2014年映画ランキングベスト10

放送作家 高橋洋二 2014年映画ランキングベスト10放送作家 高橋洋二 2014年映画ランキングベスト10 宇多丸のウィークエンド・シャッフル

年間に200本劇場で映画を見る男として有名な放送作家の高橋洋二さんがTBSラジオ『タマフル』の中で2014年の映画ランキングを発表。ベスト10作品について話していました。

高橋洋二の2014年映画ランキング10位-1位

(宇多丸)はい。ということでTBSラジオ ライムスター宇多丸のウィークエンドシャッフル。今夜はシネマランキング2014をお届けしております。さて、ここからは毎年恒例です。年間200本、映画を劇場で見る男。放送作家 高橋洋二さんの2014年映画ベスト10をうかがっていきます。洋二さん、今年もよろしくお願いします。

(高橋洋二)よろしくお願いします。

(宇多丸)はい。ということで。洋二さん、年間200本という風にね、言いましたけど。今年は何本ぐらい?

(高橋洋二)ええと、193本ですね。いまのところ。

(宇多丸)おおー、なるほど、なるほど。あの、名画座通いが忙しくて、なかなか新作を見れなくなっちゃって、みたいなことをおっしゃってましたけど。

(高橋洋二)でも、新作もこれは見なきゃ!っていうのは見るようにすると、だいたい半々ぐらいになりますね。

(宇多丸)ああ、なるほど。もうじゃあ、さっそくいきますか?先ほどね、『今年も洋二さんの選ぶロジックが楽しみです』って言ったら、『もうロジックのために映画を選ぶようになってしまった』っていう(笑)。

(高橋洋二)あ、だから1年中、『今年のロジック、何にしようか?』って考えるようになりました。

(宇多丸)申し訳ございません(笑)。さあ、1年かけたロジック、どうなっているのか?よきところでお願いいたします。

(高橋洋二)はい。10位からまいります。10位。ポール・バーホーベン『トリック』。

(宇多丸)あー!

(高橋洋二)9位『インターステラー』。8位『アンダー・ザ・スキン 種の捕食』。7位『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』。

(宇多丸)おおー。

(高橋洋二)6位『テロ,ライブ』。5位『ある優しき殺人者の記録』。4位『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』。

(宇多丸)うん。

(高橋洋二)3位『ウルフ・オブ・ウォールストリート』。2位『LEGOムービー』。

(宇多丸)おっ!はいはい。

(高橋洋二)1位『福福荘の福ちゃん』。

(宇多丸)あーっ!聞きますね。評判ね。はい。ということでございます。さあ!ということで、意外なのもあれば、そう来るか!というのもあればというあたりでございますが。さっそくじゃあ10位の、ポール・バーホーベン『トリック』からお願いします。

(高橋洋二)その前に、ロジックなんですが。今年の映画は邦洋問わず、何を撮るのか?さらにそれをどう撮るのか?っていうことに関して作り手が高い水準で考えを巡らしている映画が多かったように思うんですよ。

(宇多丸)あー。

(高橋洋二)全体的にね。10に入らなかったものもそうなんですけども。あれですよ。昔で言うと、ギャング映画を全部子どもで撮るとかね。『ダウンタウン物語』。だから、ユニークな発想とか、そう来たか!っていうような・・・

(宇多丸)ここにはちょっと入ってないですけど、たとえば『6才のボクが、大人になるまで。』も、そういうことですよね。

(高橋洋二)そうなんですよ。見てないんですよ、僕。

(宇多丸)ああ、なるほど!そうかそうか。じゃあそのロジックで言えば、当然入ってくるところが(笑)。わかりました。

(高橋洋二)だからといって奇をてらうだけではなく、この話はこう撮るしかねーだろ?っていう・・・

(宇多丸)手法が一人歩きしていない。

(高橋洋二)そうそう。ピントが合った手法っていうことですね。で、ポール・バーホーベンのトリックなんですけども。これ、ヒューマントラストシネマで『未体験ゾーンの映画たち』という上映会で上映されたものなんですけども。

(宇多丸)当然、行きましたよ。面白かった。

(高橋洋二)これは何を撮るのか?どう撮るのか?っていうことで言うと、何を撮るのか?『家族が騙し合うエロティックコメディーを、5分ずつ脚本を公募して撮る』。

(宇多丸)そうですね。その前半に、公募していく過程のメイキングが入っている。

(高橋洋二)どんどん公募作品が来て、ポール・バーホーベンが現場でどう振る舞っているか?なんですけども。もうぶっちゃけて言っちゃいますと、このアイデア、失敗してるんですよ。

(宇多丸)それはどういう意味で?

(高橋洋二)ポール・バーホーベン、『ロクな脚本が来ない』ってずーっとブツブツ言っていて。それで、つまり5分ずつ脚本が来るってことは先が読めないスリリングな展開のものにきっとなるぞ!なんて言ってたんだけど、ロクなものが来ないから、そのエッセンスだけをちょっともらうっていう形にして。結局俺が話作るしかねーなっていう風に。現場で悩みぬいて悩みぬいた結果、すごく面白い真っ当な、ツイストがきいた映画ができたんですよ。

(宇多丸)真っ当なね、スクリューボールというかね、感じになってましたね。

(高橋洋二)バーホーベン節も満載でね。ゲロだとかそういうのも出てきますしね。

(宇多丸)だからある意味、見終わると『面白かったけど、前半のあれ、いる?』みたいな感じがしちゃいましたけど。

(高橋洋二)そう(笑)。だから、『こんなに苦労して撮ったんだよ』っていうね(笑)。

(宇多丸)(笑)

(高橋洋二)『こんな大失敗したのに、リカバーしたんだよ、俺は』っていうことを言いたかったのかな?って。

(宇多丸)あ、もっと悲惨なことになってもおかしくないのに、むしろウェルメイドなものになっている。うんうん。

(高橋洋二)そう。だから俺たち客としては、あれを逆に見たかったですよね。本編を見てから。おっぱいとかを出しているかわいい女の子が、普段はどんな感じなのかな?っていう方を。

(宇多丸)ああ、そしたらすっごい感心したかもしれないですね。『よくこんなドタバタで・・・』って。

(高橋洋二)あれ、逆にした方がよかったんじゃないかな?っていう感じ。なにを撮るのか。

(宇多丸)失敗してても面白い。

(高橋洋二)失敗してても面白い。怪我の功名と言いますかね。で、9位。『インターステラー』は、これは『真面目なハードSFをCGにたよらずに撮る』っていうことですよね。

(高橋洋二)これも、ノーランがいつもやっていることなので、これは俺の手法なんだ!っていうことなんでしょうけれども。最終的にぶっ飛んでない話じゃないですか。

(宇多丸)そうですね。ぶっ飛んでんのか?と思ったら、そうでもないところに着地、ぐらいの。

(高橋洋二)そこがすごいと思いましたね。

(宇多丸)おお、なるほど。なるほど。

(高橋洋二)だから、先ほどの宇多丸さんのを聞いて、ああ、結構近いんじゃないかな?って。テンション的には。まあ、引用が本当に、SF映画に限らず、西部劇からの引用だとか。ジョン・フォード『怒りの葡萄』からの引用であるとかね。そういうのもあったりして。それと、なんでこれを入れたか?って言いますと、今年って誰の年だったか?って言うと、マコノヒーの年だったじゃないですか。

(宇多丸)たしかにそうですね!

(高橋洋二)あの未体験ゾーンでもやった『MUD』、それから『ダラス・バイヤーズクラブ』・・・

(宇多丸)MUDでこれを決めたって言ってますね。インターステラーをね。

(高橋洋二)それから、『ウルフ・オブ・ウォールストリート』もあって。で、マコノヒーで絶対なにか入れなくちゃいけないなと思ったら、やっぱりインターステラーかな?って思ったんですね。

(宇多丸)なるほど。まあ、面白い映画でしたよね。

(高橋洋二)はい。どんどん行きますね。8位。『アンダー・ザ・スキン 種の捕食』。

(高橋洋二)これはね、ベースはイギリス映画なのかしらね?これは『侵略ものSFを寒々しいスコットランドで撮る』っていう手法なの。で、もう1個言い方がありまして、『誰もが見たいと熱望していたスカーレット・ヨハンソンの裸を、とても残念な感じで撮る』っていう(笑)。

(宇多丸)(爆笑)

(高橋洋二)えーっ!?ってびっくりするぐらいなの。

(宇多丸)誰得な。うん。

(高橋洋二)これは、エイリアンがスカーレット・ヨハンソンのスキン、肌を着ているっていうことなのでブヨブヨでいいのかな?とかね。そういう解釈とかもあるんですけど。

(宇多丸)話としてはね、『スピーシーズ』みたいなことなんだけどね。

(高橋洋二)それから、『地球に落ちてきた男』が好きな人な好きかもしれないですね。

(宇多丸)なるほどね。SFなんだけど。はいはい。

(高橋洋二)それと、僕がやっぱりヨハンソンの裸云々を別にすると、本当に風景の切り取り方の、すごいだろ?っていうのではなくて、本当にクライマックスが起きない感じ。だけどもリアルな感じ。で、この侵略するエイリアン、無能なんですよ。すごく。できない人なの。それが、よりによってスコットランドの田舎に行くことないじゃないっていうのと、失敗とかを普通にするし。そういうところが、やっぱりハリウッドと違っていいなあと思いましたね。

(宇多丸)うんうん。

(高橋洋二)どんどん行きます。7位。『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』。

(高橋洋二)これはもう言うことなしですけども。これは『スペースオペラを、主人にウォークマンをかけさせて撮る』。

(宇多丸)もうその一発だけでも、もうね。

(高橋洋二)そう。で、こんなすごいアイデアを思いつく人なんだから、他にすごいアイデアがどんどんどんどん出るっていう感じの映画でしたね。

(宇多丸)あー、なるほど、なるほど。

(高橋洋二)それと、映画のルックをわざとバカにされやすいように撮っているっていうところに、静かな大人性を感じましたね。

(宇多丸)いや、本当です。本当です。

(高橋洋二)どんどん行きます。6位。『テロ,ライブ』。韓国映画です。これはね、『爆破テロ事件を、放送局の中だけで撮る』。

(宇多丸)ふんふん。

(高橋洋二)これは、視聴者参加のラジオ番組に出てきた人が『いまから橋を爆破するぞ!』『やるならやってみろ!』って言ったら本当に爆破するってところから始まって。で、出てくる登場人物が全員嫌なやつなんですよ。キャスターは、まずプロデューサーに『これを独占放送させるから、テレビのキャスターにいまからしろ!』っていう風に言うし。犯人は『出演料21億ウォンよこせ』って言うし。そこからどんどんどんどん、下衆なやり取りが行われて。話がどんどん大きくなっていくっていうところが、ちょっと見たことない感じでしたね。

(宇多丸)ああ、なるほど。これ、まだちょっと見てなかったです。

(高橋洋二)『テロ,ライブ』、これはね、結構話題になりました。5位。『ある優しき殺人者の記録』。

(宇多丸)これ、ぜんぜん僕わかんないです。

(高橋洋二)日韓共同で。ポイント・オブ・ビュー(P.O.V)で有名な白石晃士監督。『口裂け女』とか『オカルト』とかの。これ、どういう話かっていうと、ちょっと長いですけども言いますね。『27人殺すと昔死んだ友達が蘇ると神の声が聞こえた男の話をP.O.Vで撮る』。

(宇多丸)うんうんうん。

(高橋洋二)撮りきるんですよ。で、P.O.Vのリアルタイムの編集しないパターンのやつ。

(宇多丸)じゃあ起こることと、映画で起こる時間が一致している。

(高橋洋二)回想っていうのは入るんですけども。だから、省略して、ここはこうなりましたっていうのはなくて。出来事が全部リアルタイムで最後まで映画になるわけなんですけども。ちょっと最後、びっくりしました。僕。とだけ言っておきます。

(宇多丸)なるほど。そうですね。これはね。『ある優しき殺人者の記録』が第5位。第4位は『ネブラスカ』。

(高橋洋二)『ネブラスカ』。これは奇をてらった系じゃなくて。この手法しかないだろうっていうことで言うならば、『現代のアメリカのロードムービーを、白黒のシネマスコープサイズで撮る』。

(宇多丸)シネスコがこれ、きいてますよね。たしかに。

(高橋洋二)そうなんですよね。シネスコでね、日本映画感が結構出るんですよね。白黒のシネマスコープっていうとね、洋画っていうよりも日本映画の方が多い気がして。

(宇多丸)ああ、なるほど、『小津安二郎好きだ』とかも言ってますもんね。

(高橋洋二)でもシネスコだと小津はおかしいので。木下恵介さんの何かであるとか。

(宇多丸)木下恵介ってでもね、あまり海外で評価されてるって話聞かないけど。

(高橋洋二)って言いますけどもね。でも、好きなはずですよ。アレクサンダー・ペイン。でね、俺この映画のなにが好きってね、おかしな人間ばっかり出る中、唯一まとも担当の次男の人っているじゃないですか。次男の人ってオープニング近くで、一緒に住んでいた同棲相手の女性に逃げられるんですけども。この女性のルックスがちょっとどうかと言うぐらいの・・・

(宇多丸)ええ、ええ。なのに未練たっぷりにね。『またやれないかな?』なんつって。

(高橋洋二)あの『せめて体だけの付き合いでも・・・』っていう(笑)。

(宇多丸)(爆笑)

(高橋洋二)それが、まとも担当の人のそのエピソードがオープニング近くで描かれているっていうところに、アレクサンダー・ペインってすごいなって。

(宇多丸)ウィル・フォーテですからね。あいつ、本当に脱ぎ担当なんですよ。いつもね。本当はね。はい。

(高橋洋二)3位。『ウルフ・オブ・ウォールストリート』。

(高橋洋二)これはね、なにをどう撮ったか?って言いますと、『下衆な成りあがりものの話を、往年のスコセッシ節を完全復活させて作る』。

(宇多丸)うんうんうん。

(高橋洋二)これは、まさかのどう作るか?ですね。そんなことがないと思ってましたから。『カジノ』以降。もうみんなが言っていることですけども。

(宇多丸)でも、嬉しかったですね。これね。やったー!待ってました!ですね。

(高橋洋二)待ってました!です。こんなことってあるんだって。で、もうどんどんいきます。2位。『LEGOムービー』。

(高橋洋二)これってネタバレはないパターンでやった方がいいんですよね?これはなにをどう撮ったか?って言うと、『選ばれし者になった平凡な男の大活躍を、全部LEGOで撮る』です。

(宇多丸)まあ、そうですね(笑)。そりゃそうだ。

(高橋洋二)なんだけども、これは実はなにを撮るか?の部分にすごく秘密がある。

(宇多丸)そうですね。後半に明かされるね、ある秘密があって。

(高橋洋二)『○○で遊ぶ○○の○○の中をLEGOで撮る』っていう(笑)。

(宇多丸)これもだから、LEGOで撮るならこれしかないだろっていう必然がありますもんね。

(高橋洋二)だからLEGOの話の本編の方の、なにこれ?ちょっと早急すぎるよとか、要素が多すぎるとか、スーパーマンが本当にスーパーマンで出ているとか、そういったことが全部、『ああ、そういうことだったらそうなんだろうな』っていうことで。見てない人には、ちょっと代名詞ばっかりで申し訳ないんですけども。

(宇多丸)今日、やたらとLEGOムービー、LEGOムービー出てきますんでね。見たくなっているんじゃないでしょうかね。

(高橋洋二)こんな映画、初めて見ましたよ。本当に。

(宇多丸)いや、異常ですね。これ。現代アート的でもあります。

(高橋洋二)そうですよ。

(宇多丸)さあ、1位。『福福荘の福ちゃん』。

(高橋洋二)これはね、『モテないおっさんの役を女優で撮る』っていうことをまずやってますよね。

(宇多丸)これはあれですもんね。森三中の・・・

(高橋洋二)大島さんでやって。これも、登場人物が類型を少しずつ外した、どこか変な人たち。明らかに変な人もいますし、まともな人もいるんですけど、まともな人もどこか変なところがあるっていう話で。で、これは許しと救済の話でもあるんですけども。

(宇多丸)ほうほう。

(高橋洋二)それを、とてもほのぼのとしたタッチで、しかも丁寧に撮っている。コメディーなんですよね。で、笑わせるのが、思い出してみると登場人物のほとんどに笑わせどころが施されているという、あまりないタイプの、これも往年の木下恵介であるとか、千葉泰樹であるとかの、日本映画全盛期だったころに加えて、その頃には絶対にやらなかったであろうぶっ飛んだアイデアとか、そういうのもドッカンドッカン入っているとか。

(宇多丸)へー。これ、すっごい評判聞きます。

(高橋洋二)ええ。で、これ、まだムーブオーバーされるみたいなんで。これから。

(宇多丸)ああ、そうですか。これ、じゃあ洋二さんが1位選ばれたら、ますます評判あがって上映のびるかもしれないですから。僕も行ってみます。

(高橋洋二)僕の周りでも、本当に評判がいいですね。『福福荘の福ちゃん』にしましたね。はい。

(宇多丸)さあ、ということで1年間、このロジックを積み上げるためにね、映画を見続けて(笑)。申し訳ございません。でも、素晴らしかったです。洋二さんのね、なにをどう撮るか?っていうその戦略の部分を気にしながら見ると、今年はたしかにそうだったかもって感じもすごいします。ありがとうございました。来年もまた、これに懲りず、よろしくお願いします!

(高橋洋二)よろしくお願いします。

<書き起こしおわり>
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