町山智浩 マイケル・ムーア『華氏119』を語る

町山智浩 マイケル・ムーア『華氏119』を語る たまむすび

町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でマイケル・ムーア監督の最新作『華氏119』を紹介していました。

(町山智浩)でね、実はちょっと今日、来る時に遅れちゃいまして。さっき来たんですけども。友達が足を切断することになって。もう切断はしたんですよ。で、リハビリの病院に行ってきたんですよ。東京の鐘ヶ淵の方にある東京リハビリテーション病院に行ってきたんですけど。男色ディーノさんのプロレス仲間の吉田武くんという方が、いま48ぐらいなんですけども。ちょっと糖尿病と関連する腎不全で。それで足の昔の交通事故の傷が壊死して。気がついた時にはもうダメで切断っていう感じになっちゃったんですよ。

(赤江珠緒)はー!

(町山智浩)で、吉田武くんって結構テレビに出ている人でね、TVチャンピオンっていう番組があったじゃないですか。あれに2回ぐらい、ゲーム王で出て決勝まで進出しているような。

(赤江珠緒)じゃあゲームにも詳しい方で。

(町山智浩)そうそう。まあゲーム編集者だったりするんですけど。

(山里亮太)男色ディーノもゲームはすごい詳しくてコラムとか書いているから。たぶんそことつながったのかな?

(町山智浩)やっぱりでも足を切断するということだからすごく落ち込んでいるかな?って思って、まあちょっと心配ですよね。そういう時ってね。で、行ったらすごく元気で。「俺は政治家になる。区会議員あたりから立候補して政治家になりたい」って。やっぱり足を切ってから結構たつんですけど、そういう風になるといかに世の中が体の不自由な人向けにできていないかがわかってくるんですよね。もう車椅子だと通れないところだらけだし。

(赤江珠緒)そうか。その立場にならないと見えてこない、わからないことがありますもんね。

(町山智浩)そうなんですよね。だからやるべきことが見えてきたって言って、元気になっていましたよ。

(山里亮太)それだと強いですよね。

(町山智浩)彼の場合なんかもそうなんですけど、じゃあ政党とかイデオロギーとかはあるのか?って言ったら、ないんですよ。別にそれでいいと思うんですよね。それぞれにみんな困っていることとか言いたいことがあって、それぞれに出てくればいいのに。やっぱりね、政党というものがあってイデオロギーでそれに分かれていくっていうのはもう古いなって思いましたね。

(赤江珠緒)たしかに。

(町山智浩)だから僕は、でもなんか政党をやってほしいので「映画秘宝党とかそういうの、立ち上げてくれないか?」って言ったら「それは違うだろ?」って言われましたね(笑)。

(赤江珠緒)断られました?(笑)。

(町山智浩)断られましたね。

(山里亮太)投票する人、かなりコアな人が投票しますよ!

(町山智浩)なんかね、党で投票するっていうこと自体がすごくおかしくて。その個別の政策だったり、その個別の人間性に対して投票をしなくて、政党に投票をするっていうのはすごくおかしなことなんですよね。

(赤江珠緒)そうですよね。

(山里亮太)政党を背負っているから、政党の決めたこと以外のことをアピールできないじゃないですか。

(町山智浩)そう。党議拘束っていうのがあって。党に入ったらもう党の中で反乱を起こせないような状況があって。どの党でもね。で、投票をする人たちはまた、自分が議員にしたくない人を自分の投票で当選させてしまう事態とかあるじゃないですか。比例代表制とかそうですよね。なんかね、政党制度ってすごくおかしくて。

(赤江珠緒)もういらないんじゃないかって。

(町山智浩)そう。政党に入っていないと議員になったりするのは不可能っていうのもね、すごくみんなのその政治に参加する……。

(赤江珠緒)だってもともと1人1人の議員さんとかの後ろには有権者がいて。みんながその人に入れて議員になったわけだから、その時点で有権者の代表じゃないですか。それなのに、政党もそうですし、何回か当選を重ねていないとなかなかなれないとか。まだまだ下っ端だとか言われるのも、別に1回でもみんなが「この人がいい!」って言っている時点で平等じゃないか?って思うんですよね。

(町山智浩)だいたいね、何回も何回も議員をやっている人たち、ずっと議席を守り続けている人っていうのは世の中が変わらないわけだから、その人は無能っていうことですよ。10年も20年も政治家やっていて世の中が変わらないんだったら、その人は無能だっていうことなんで。

(赤江珠緒)結果を出していないという。

(町山智浩)辞めさせた方がいいんですよ、本当は。結果を出してないやつらばっかりなんですよ。ベテラン政治家っていうのは。

(山里亮太)そういう人たちが辞めなくていいシステムがしっかりできてますもんね。

(町山智浩)しっかりできているんですよ。だからその自分の選挙基盤を守る、守るって……「守る」とかそれ、おかしいから。それは利権とか既得権益を守るだけだから、それはおかしいよっていう話を思っていて。今日、会ったばかりで。でね、アメリカの話なんですけども、いちばん支持されている政党ってなんだと思います? 有権者の間で。

(山里亮太)いまの政党である民主党とか?

(町山智浩)いやいや、いちばん多いのは無党派ですよ。もっとも多いのは。

(赤江珠緒)いちばん多いのは無党派。共和党、民主党じゃなくて。

(町山智浩)もう共和党、民主党っていうのは20%ずつぐらいなんですよ。投票する人たちが。それで、半分近くが無党派です。でも、無党派の方が人口が多いのに……だから民主党の支持者が25%、共和党の支持者が25%で無党派が50%とかっていう感じですよね。有権者で。それなのに無党派の人は大統領になれないんですよ。

(赤江珠緒)たしかに。

(町山智浩)おかしいでしょう? 政治家になりにくいでしょう? だから、トランプが出てきたんですよ。トランプっていうのは基本的に無党派だったから。共和党からたまたま出たけど、共和党員じゃないですからね。だからいま、実はトランプが大統領になったというのは政党政治の終わりをある種象徴しているんですよね。で、日本も実はそうでしょう?

(赤江珠緒)もう党はね、自民党の一強になっちゃって。あとはほとんど……。

(町山智浩)でも基本的にいちばん人口が多いのは無党派でしょう? 無党派がいちばん多いのに、無党派の総理大臣にならないよね? 無党派は総理大臣になれないシステム。それって、おかしくない?

(山里亮太)無党派で当選する人ってほとんどいないですもんね。

(町山智浩)そう。だからそういう話なんですけど、今回紹介する映画は『華氏119』というドキュメンタリー映画でトロント映画祭で見てきたんですけど。これ、ドキュメンタリー映画作家のマイケル・ムーアの新作なんですね。

(赤江珠緒)はい。

マイケル・ムーアの最新作

(町山智浩)もともとマイケル・ムーアは2004年に『華氏911』という映画がありまして。それは「911」というのは「9.11テロ」のことなんですよ。で、「華氏」っていうのは摂氏・華氏の温度のことなんですけど。『華氏451』っていう小説がもともとありまして。それが全体主義社会で本を読むことが禁止される。思想が制限される世界を描いていて。で、マイケル・ムーアは9.11テロがあってからアメリカの自由とかが制限される法律ができて。政府による盗聴とかそういうのが可能になったんですけども。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)で、またイラク戦争に反対をするとはっきり言って非国民だと言われるような状況があって。実際はイラク戦争は9.11テロとは全く無関係だったんですけど、その当時のブッシュ政権が「9.11テロの犯人はイラクだ!」って言って戦争をして。「それはおかしいよ!」って言っても全然それは封殺されるっていう状況があったので「『華氏911』っていうのは自由が燃え尽きる時の温度である」っていうタイトルで2004年にマイケル・ムーアは『華氏911』という映画を作りました。それは2004年に大統領選挙があったためです。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)で、ブッシュ大統領に対して「NO」を突きつけるための映画として作ったんですね。ただ、その時はまだ戦時中なんで、やっぱりブッシュ大統領が強くて当選してしまったんです。マイケル・ムーアの思いとは逆にね。で、それから結構時間が経って、それで今回は『華氏119』っていうのも「119」っていうのは「11月9日」という意味で、これは2016年の11月9日にドナルド・トランプが大統領になった日のことを言っています。

(赤江珠緒)ああ、そうか。

(町山智浩)で、この映画は公開される前にはドナルド・トランプを叩くための……もうすぐ、11月6日にアメリカでは中間選挙なんですね。その中間選挙に影響を与えるための反トランプ映画だという風に宣伝されていたんですけど、見てみるとちょっと違う映画でした。

(赤江珠緒)ああ、そうなんですか。

(町山智浩)で、まず11月9日の大統領選挙の日から始まるんですけど、まずこのマイケル・ムーアっていう人はアメリカの中で3人ぐらいしかいなかった、ドナルド・トランプの当選を予言した人の1人なんですよ。

(赤江珠緒)えっ? このマイケル・ムーア自体が予言していたんですか?

(町山智浩)予言していたんです、この人。で、その他には2人かそこらぐらいしかいないんですよ。イギリスとアメリカに1人ずつぐらい。そのぐらいなんですよ。

(赤江珠緒)だって当時は泡沫候補も泡沫候補みたいに言われていましたよね?

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