辻田真佐憲 軍国音頭の世界を語る

辻田真佐憲 軍国音頭の世界を語る dommune

軍歌研究科の辻田真佐憲さんがDOMMUNE『DJフクタケ「ヤバ歌謡/音頭」5時間特集』の『ヤバ歌謡×音頭トーク』に出演。軍国主義をテーマにした音頭、軍国音頭についてDJフクタケさん、大石始さんと話していました。

(DJフクタケ)まあ、軍歌のことをいろいろ研究してらっしゃって、著作等も多数発表してらっしゃるという辻田さんなんですが。このたび、5月31日に監修をつとめたCDが発売されて。それが、音頭に関係したものであると。タイトルが『みんな輪になれ ~軍国音頭の世界~』というCDをリリースされたということで。まあ、軍歌と言ってもね、先ほど我々がいろいろ紹介していたのは、いわゆる平時な平和な時代に発表されたものですけど。

(辻田真佐憲)うん。

(DJフクタケ)まあ、今回辻田さんが監修されたCDっていうのは有事の、戦時下における音頭ということで。まあちょっと、特殊な環境下で発表された軍歌についてまとめられたということで。ちょっとそのあたりのお話なんかをお聞きできればなということで、ゲストにお越しいただきました。よろしくお願いします。

(辻田真佐憲)よろしくお願いします。まあ、軍歌と言っても普通の人はなかなかイメージというかね、無理やり軍部から歌わされたっていうイメージがあると思うんですけども。実際はそんな単純な話ではなくてですね。たとえば我々が普段誰かを騙そうとした時に、『従わないと殴るぞ』っていうよりは、お菓子とかで釣った方がいいわけですよね。美味しいものというか、相手が好きなものを・・・

(DJフクタケ)飴を。

(辻田真佐憲)ムチよりも飴の方が効果があると。そういった際に、音楽もすごい軍国調の、聞いて嫌になるような曲を使うよりも、当時の人が好きな音楽を使うと。そうした方が、『普通の音頭のレコードが出たから買おうかな』って買ったら軍国的なことが入っているみたいな。で、楽しんでいるうちに洗脳されてしまうみたいな。そういうのが、ある種当時のプロパガンダのメソッドでありまして。

(大石始)なるほど。なるほど。

(辻田真佐憲)まあ、先ほどからお話もありました通りですね、『東京音頭』とか『さくら音頭』とか。実際にちょうど日本が戦争に入る前っていうのは音頭ブームでもあったわけですね。そして、レコード産業がそういうのばっかりを作っていたわけでして。で、実際に戦争になったらですね、それを軍国化してしまおうと。戦争の内容にしてしまおうと。それでできたのが、こういった軍国音頭というものになるんですよね。

(DJフクタケ)時代的に言うと、何年ぐらいからが最盛期になるんですかね?そういったリリースの。

(辻田真佐憲)そうですね。まず、1930年代からやり始めますね。ひとつは満州事変っていうのがひとつ契機になって。満州事変関係の歌ができますし。それがより本格的になるのは、1937年から始まる日中戦争ですよね。で、そこから太平洋戦争までずーっと戦争をやっていますから。その間に莫大な数のですね、軍国音頭っていうのが作られています。

(DJフクタケ)結構その、やっぱり世の中の戦争ムードの高まりとともに、やっぱり
リリースもググッと増えるみたいな流れがあるわけですかね?そこには。

(辻田真佐憲)そうですね。まあ、売れるんですよね。こういったものっていうのは。レコード会社も商売ですから。戦時中だからって自粛とかはできないわけです。潰れちゃうわけで。だから、出さなきゃ行けない。で、出すからには売れるものでなければいけない。しかも、会社にはいっぱい音頭とかを得意とする作曲家、歌手がいたわけですよね。これを有効に活用するんだったら、その延長線で作っちゃった方がいいじゃないかと。だから極めて自然な流れの中で、平時の音頭が戦時の音頭に変化したという風に言えるかなと思いますね。

(大石始)だからなんかね、先ほどもあった日本の・・・辻田さんの書かれた『日本の軍歌』って、これ、すごいむちゃくちゃ面白くてですね。もう、ちょっと付箋だらけなんですけど。

(辻田真佐憲)ありがとうございます。

(大石始)ここでも書かれていたのが、面白いなと思ったのが、やっぱり軍歌って言って、まあ一般的にはプロパガンダのツールとして作られたという。僕もこれを読むまではそういうイメージでいたんですけども。その当時の、ある種のエンターテイメント。エンタメとして作られたっていう側面がやっぱりあるっていう話を書かれていますよね。で、僕はそれがすごい面白いなと思って。普通に考えると、その軍歌と盆踊り歌、もしくは陽気な音頭ってすごい真逆に、対極にあるものな気がするんですけど。それがなんでくっついたのかな?って考える時に、ああ、やっぱり軍歌っていうのがひとつの庶民のエンタメとして作られていたっていうのが、そこの接着剤になってそういうものが作られたんだなっていうのがよくわかったんですよね。

(辻田真佐憲)そうですね。最近でも、ニュースとかで話題になりましたけど。『政策芸術』なんていう言葉がですね、政治家が検討しているなんてニュースになりましたけど。『心を打つ政策芸術って言葉を作らなきゃいけない』ということを政治家が言っているわけですね。それ、もう政策を単に真面目に言っても誰も聞いてくれないと。でもそれを、ある種、文化というか娯楽、芸術に改造することによって、人々を感動させ、楽しませると。まさに『心を打つ』ことを通じて、政策を人々の頭の中にインストールするんだと。

(DJフクタケ)うん、うん。

(辻田真佐憲)そういったことっていうのはやっぱり、戦前の軍人も考えていましたし。まあ、最近の政治家も考えているわけで。そういった意味ではこういったものっていうのはいっぱいあるっていうことなんだと思うんですよね。

(大石始)うーん。なるほどね。だからこれ、このコンピも聞いていると、なんかね、すごく楽しい。これ、いい曲だな!楽しいな!って思いながら、たまにすごい怖い言葉がポンポンポンポン入っていくるじゃないですか。

(DJフクタケ)ワードとしては結構、えげつないことが(笑)。

(大石始)だからすっごい面白い・・・面白いっていうか、ものすごい興味深いなと思ったんですよね。

(辻田真佐憲)そうですね。これ、もうかけちゃってもいいんですかね?これをじゃあ・・・では、10番のですね、『三国音頭』というものなんですが。

(DJフクタケ)『三国音頭』。

(辻田真佐憲)あの日独伊三国同盟を歌った『三国音頭』。作曲者は『東京音頭』とかと同じ、中山晋平。

(DJフクタケ)じゃあ、ちょっと行ってみましょう。『三国音頭』。

『三国音頭』


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(辻田真佐憲)というものですね。

(大石始)最高ですね!

(辻田真佐憲)中身がまったくないっていうですね。

(DJフクタケ)思わずでも、『日独伊』を口ずさみたくなる・・・

(大石始)『日独伊♪』って。

(辻田真佐憲)歌詞はほとんど中身がなくてですね、ベルリンだ、ローマだとかですね。あと、日独伊って言っているだけなんですけど。

(DJフクタケ)(笑)

(辻田真佐憲)まあただ、人々にですね、『日独伊が新しく同盟を結んだんですよ』って伝える効果はありますし。まあ、そこに、これで踊るとですね、結構体に入ってくるわけですよね。単に文字で読むよりも、やっぱり。

(大石始)『日独伊』が入ってくるわけですね。これ、でも昭和何年っておっしゃいました?

(辻田真佐憲)これは1940年。昭和15年ですかね。だからまさに日独伊三国同盟を結んだのを記念にこういうのを作ったと。当時、こういう日独伊ソング、いっぱいあったので。そのうちのひとつですね。まったく中身のない歌がいっぱい作られてですね。で、こういうのってだいたい4月の桜の踊りのシーズンと、お花見のシーズンですね。あと、8月の盆踊りのシーズンに集中してレコード会社が出すんですよ。

(DJフクタケ)季節商品ですね。

(辻田真佐憲)そうです。なんでこれ、踊らす気なんですよね。彼らは。まあ、実際に踊っていた人がどれくらいいるのか、わかりませんけど。といったものですね。

(大石始)なるほどね。でも実際こういうの、軍国音頭っていうのが盆踊りの場でどういう風に機能したか?っていうのはすごい興味がありますね。実際にどういう風にかけられていて、踊っていた人たちはどういう風に・・・まあ、当時の方っていうのはかなりご存命の方、少ないかもしれないですけど。どういう風に聞いていたか?っていうのは気になりますね。

(辻田真佐憲)そうですね。実際あの、踊るように上からお達しが行った盆踊りっていうのがあってですね。それをじゃあ次。これは20番なんですが。『決戦盆踊り』という、ひどいタイトル。

(大石始)来た!『決戦盆踊り』。

(DJフクタケ)『決戦』と『盆踊り』。なかなか結びつかない。

(辻田真佐憲)これをちょっと聞いていただきましょう。

(DJフクタケ)じゃあその『決戦盆踊り』です。

『決戦盆踊り』


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(DJフクタケ)これが『決戦盆踊り』。

(辻田真佐憲)まあ、ひどい歌詞で。続きもですね、いま1番なんですが。2番はですね、戦死された人がですね、盆なんで戻ってくるので一緒に踊ると。

(DJフクタケ)(笑)

(辻田真佐憲)で、3番はですね、『戦果があがれば戦費も上がるから貯金しろ』と。で、最後はですね、『今日も決戦、明日も決戦』みたいな感じで終わるというですね。これは、盆踊りを通じて戦力増強に邁進するというですね、目的のもとに大日本仏教会というですね、戦時中の仏教団体が作って。全国の寺院にバラまいたというですね。

(大石始)すごい。じゃあ全国の寺院の盆踊りでは、これが?

(辻田真佐憲)やっていた可能性、ありますね。これ、太平洋戦争のかなり末期で。聞いていただければわかる通り、かなり末期感が漂っているわけですけど。

(大石始)末期感が(笑)。

(辻田真佐憲)もう、ダメですよね。これは。だからこういった、実際はあまり歌われてなかったと思いますよ。これはかなりもう、追い詰められている感じがあるので。ただ、こういったのを使ってですね、なんとか国民の戦意を最後まで萎えさせないようにがんばったという。悪あがきの痕みたいなものですね。

(大石始)いやー、すっごいですね。この末期なのに、『決戦盆踊り』って。まだ踊るっていうね。

(辻田真佐憲)まだ決戦するっていう。

(DJフクタケ)決戦だけど、でも盆踊りはするっていうね

(辻田真佐憲)そうですね。盆踊りのシーズンに時局宣伝とセットで。踊った後になんかお寺の人が『最近の戦争、もっとがんばろう!みたいなことを言え』というのもちゃんと流しています。

(DJフクタケ)ああー、セットでそれは。

(辻田真佐憲)だから、さっきのと一緒で、やっぱりムチだけだと人は聞かないので。盆踊りっていう当時のエンターテイメントをまさに動員の場所に使っているわけですよね。で、こういった歌詞を入れこむということをやっていたというものですね。

(大石始)すごい。他の曲、いきます?じゃあ。

(辻田真佐憲)そうですね。いまのがちょっと負けかけててですね、危なかったので。勝っている頃のをやろうかなと。

(大石始)景気がよかった、元気だった時のを(笑)。

(辻田真佐憲)15番。『どんと一発』という、太平洋戦争初期にですね、日本が勝っていた頃に調子に乗って作ったのですね。

(DJフクタケ)調子に乗って(笑)。そんな、『どんと一発』。

『どんと一発』


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(大石始)これはでも、景気がいいですね。たしかに。

(辻田真佐憲)要するに、ドドン!っていう盆踊りの音で突撃したり轟沈したりするっていう感じになってですね。1番はさっき『轟沈』って言ってたんですけど。2番は『ドドン!と一発体当たり』。で、3番が『ドドン!と一発急降下』。で、最後が『ドドン!と一発突撃だ』っていう風に終わるんですよ。

(大石始)すごいですねー。

(辻田真佐憲)これはもうまさに戦争に勝っていて。レコード会社も景気が良かったんですね。

(DJフクタケ)売れるし。レコードも。

(辻田真佐憲)売れるし。国民も喜ぶっていうことで。こんなのをいっぱい作ってるんですね。

(DJフクタケ)いけいけどんどんの。

(辻田真佐憲)いけいけどんどん。っていうようなものですね。ちょうど同じ、これ野村俊夫して、作曲が服部良一なんですね。

(大石始)ああー、服部良一なんですね。

(辻田真佐憲)国民栄誉賞、大丈夫か?っていう感じですけど。ちょうど同じ時代には、『八の字音頭』みたいなのもあってですね。それだと歌詞はですね、『いまだそれ行け エイエイ アーアー 体当たり ドンドン』っていうですね(笑)。まったく中身がない歌詞が(笑)。

(大石始)イケイケ感しかないっていう(笑)。

(辻田真佐憲)イケイケ感なんですよ(笑)。で、最初の1年ぐらいはこのイケイケだったんですけど、最後は残念ながら『決戦盆踊り』になってしまうっていう。そういうのを全部トレースできるようになっていてですね。

(DJフクタケ)なるほどねー。

(辻田真佐憲)あるいは、先ほどディズニーとかの話がありましたけど。当時もキャラクター。日本のキャラクターっていうと、桃太郎。ありますけど。桃太郎がですね、鬼ヶ島っていうのはハワイだと。鬼ヶ島はハワイ。アメリカ。鬼畜米英。で、それを倒しに行くんだぞっていうのが当時、映画とか作られてたんですよ。

(DJフクタケ)あ、そうですね。『桃太郎 海の新兵』とかね。

(辻田真佐憲)そういうの、ありますね。だから桃太郎っていうのは国民的英雄で。小国民にとって憧れの対象。で、軍人がまさに桃太郎なんだ、みたいな感じでですね、桃太郎をそういうテーマにした、18番なんですが。『桃太郎音頭』っていうですね。それをじゃあ、聞いていただきましょう。

『桃太郎音頭』


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(大石始)これが『桃太郎音頭』。

(辻田真佐憲)桃太郎なのになぜか日の丸が出てきたりですね。この後も、勝どきというのは日本が勝っているって言うことと、桃太郎が鬼を退治するっていうのを重ねあわせてるんですね。で、こうやってまあ、子ども向けの音頭といいますか。当時の国民的英雄を利用して、戦意高揚も図っていくと。そういう形がこういうのから見て取れるかなと思いますね。

(大石始)でも、いまの曲とかも本当にその、音楽的にもなんかすごく音頭のフォーマットが確立されて、なんて言うか、いきいきとしてるっていうかね。演奏も歌も。

(DJフクタケ)音頭としては、かなりいいトラックっていうか。

(大石始)いいビートですよね。

(辻田真佐憲)これも中山晋平なので。中山晋平はもうまさに戦前・・・だからちょうど戦前の1920年代とかに活躍してた人たちって、もうそのまま戦時中にいるので。彼らの培った技能みたいなのが全部戦争動員に利用されちゃうんですよね。っていうことがこれ、明らかになっていますよね。

(DJフクタケ)うーん。

(辻田真佐憲)だから音としてはいいんですけど、歌詞がひどいっていうのがこの音頭の特徴ですね。

(大石始)なるほどね。そこが、ビートとして。あと、音的にも素晴らしいから、その時の当時の庶民っていうのがグッと引き込まれるとか。そこの力がなかったら、いくらプロパガンダ的なメッセージを入れようとしても、無理ですもんね。

(DJフクタケ)そうですね。見向きもされないってことですよね。

(辻田真佐憲)当時の軍人たちがそういうことを言ってるんですよね。実は軍人って頭が固いと思ったら、こういうのをどんどん利用しろ!って言ってるんですよ。映画も使える、本も使える。あの、観光旅行も使えるとかね。いろんなことを言って、楽しいことをどんどん。しかも、全部最初から最後までプロパガンダにすると誰も聞いてくれないので。2時間やるんだったら5分だけ紛れ込ませるとかですね。そういうセコいことをいっぱい書いてるわけです。

(DJフクタケ)うん。

(辻田真佐憲)で、そうやって一度国民にどんどん自分たちの思想をインストールしようということですよね。これはだから、比較的成功した例だと思うんですよ。失敗した・・・これは比較的変な曲は入ってないんですけども。当時のレコードでは、ひどい曲も・・・ひどいっていうか、聞いていて嫌悪感を覚えるとかいうね。当時の音楽を聞いていた人からしても、『もう嫌だ、聞きたくない』っていう。意外と戦時中は軍歌、批判されていないと我々、思うんですけども。実は当時のレコードレビューとかは機能していてですね。

(DJフクタケ)はい。

(辻田真佐憲)『これ、ダメな曲だ』とか書かれているんですね。たとえば当時、『諸君頼む!!』っていう歌があったんですけども。これがあまりにもひどいので、当時のレビューには『諸君、頼むからもうやめてくれと言いたくなるような曲』っていう。

(DJフクタケ・大石)(笑)

(辻田真佐憲)こういうギャグを使ってですね、攻めてきたりとかですね。

(大石始)気がきいてますね。

(辻田真佐憲)容赦無いんですよ。当時のレコード批評っていうのは。他にも、何でしたっけね。なんかこう、『毛唐の泣き声か』とかですね、差別用語とセットで攻めてくる。

(大石始)ひどいですね(笑)。

(辻田真佐憲)あと、『牛のヨダレがたれたような曲』とかですね。

(大石始)逆に聞いてみたい気もしますけどね(笑)。

(辻田真佐憲)あらゆる言語を使って攻めてくるっていう。

(大石始)なるほど。じゃあ、ここに入っているのはそういう厳しい批評からサバイブしてきた、生き残ってきた曲だと。

(辻田真佐憲)ひとつだけ、あったんですけどね。『村は土から』っていう曲があって。それはたしか『ひどいので脳みその洗濯を要する』とか書かれていたような気がしますね。

(DJフクタケ)(笑)。レコード評で、そういう評価をされたと?

(辻田真佐憲)そうですね。

(大石始)それ、聞いてみます?

(辻田真佐憲)あ、聞いてみましょうか?せっかくあるんでね。これは16番ですね。『村は土から』。

『村は土から』


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(大石始)そんな脳みその洗濯をする必要もないとは・・・

(辻田真佐憲)あ、これはですね、どっちかって言うとさっきの、牛のヨダレがたれたような曲の方ですね。批判は(笑)。あの、『八の字音頭』っていうやつがですね、『脳みその洗濯を要する、ふざけすぎ』っていう評価が。

(大石始)ああ、ふざけすぎ。

(辻田真佐憲)言葉遊びをやりすぎているっていう。この『八の字音頭』っていうのは『八』っていうのにかけてですね。日本が真珠湾攻撃をしたのが12月8日。『八』ですよね。で、八紘一宇ってありますよね。だから全部『八』にからめただけっていう、本当に中身のない歌があってですね。で、これが『脳みその洗濯を必要とする』っていう。

(大石始)なるほどね(笑)。じゃあやっぱりそういういろんなことがあったんですね。その、プロパガンダの曲であれば、別になんでもいいっていうわけではなくて。そういうところもクオリティーコントロールがされていたと。

(辻田真佐憲)そうしないとやっぱり当時の国民も、当時の軍人って第一次世界大戦をすごい恐れていたわけですよね。つまり、ドイツとかロシアで革命が起きちゃったと。あれは国民がやる気をなくしたからだと。戦意が高揚していないと、国民が投げ出しちゃう。戦争を。すると、鉄道が止まる、物資が止まる、戦争できない、負ける。だから、そうならないように国民の戦意をいかに維持しておくのか?っていうのが、当時の軍人はずーっと考えているんですね。

(大石始)なるほどね。

(辻田真佐憲)で、そういったので、こういう批判も『もっといいものを作れ!』っていう意味なんですよ。単に軍歌をダメって言ってるんじゃなくて、『いい軍歌を作れ』と。で、『もっと戦争に国民が行きたくなるような歌を作れ』っていう批判で。その代わり、反対側も非国民音楽みたいな感じでボロクソに叩かれるということなんですね。

(DJフクタケ)面白いですね。やっぱ、深いですね。

(辻田真佐憲)だからまあ、逆に言うとこれはたとえば、単に過去の例ですけど。例えば、今後の日本でですね、そういった戦争とか、政治とかが使おうとする場合はですね、最近の流行している音楽を利用してくるっていうことなんですよね。端的に言うと。たとえばアイドルとか。それこそ、音頭でもそうですけど。我々に馴染みのあるところから改造してくるっていうところがあって。

(DJフクタケ)なるほど。

(辻田真佐憲)典型的な行進曲っていうのをイメージしていると、ちょっと見間違ってしまうっていうところはある。それは大きなまあ、ひとつ、教訓にはなりますよね。

(DJフクタケ)じゃあいまだと、さっき言ったアイドルとか、EDMとか。そういうこう、一般的にみんなが入りやすい、間口の広いものに、そういうものが入ってくる・・・かもしれない。

(辻田真佐憲)そうですね。それこそね、北朝鮮とかにもそういうアイドルグループとかってありますから。ねえ。

(大石始)そっか。そうですよね。

(辻田真佐憲)だから、日本だってそれはあるかもしれないと考えるきっかけに、こういうのをですね、とっていただければ。音としては面白いと思いますけど。

(大石始)そうですね。だから本当にすごいいま、ちょうどいま出るのがすごいタイムリーって言うとあれですけど。リアリティーがあるというか。聞いていて、昔の、『ああ、こんな時代あったんだな』っていう風に単純に楽しめるだけじゃなくて、なんか、いまの現代のものとして聞いてしまうというかね。そういう感覚がすごいありますよね。

(辻田真佐憲)まあ、ちょうど終戦70周年なんで。それに合わせてね。まあ、あんまりやるとね、便乗とか言われるんで抑えていきたいんですけど。

(大石始)なるほどね。

(DJフクタケ)なんかその、やっぱり機能性っていう部分ですよね。みんなで踊ったり、レクリエーションの一貫として非常に有効に機能する音楽であるっていうことが、軍部としても、利用しがいがあるっていうことで、こういったものがいっぱい作りだされたっていう背景があるっていうのは、さっき大石さんと話していた『機能性の高い音楽である』っていうところに通じる部分かな?なんて思いながらお話をうかがってましたけれどもね。

(辻田真佐憲)当時、レコードってA面とB面ってあるので。この大きいのとかそうだと思うんですが。当時ってSP盤っていう表に1曲、後ろに1曲しか入らなかったんですよ。だから、両方とも音頭にする場合もあるんですが、表の方にですね、普通の流行歌みたいなのを入れて、後ろに、B面の方に音頭を入れたりっていうケースもあって。つまりこれは、いろんな音楽ジャンルを入れることによって、いろんな層に。たとえば年齢とか。結局、都市のインテリだったらジャズが好きっていう可能性もありますし。たとえば、そうじゃない人だったら音頭とか邦楽浪花節とかが好きなんで。そういうのをあえて、一緒に合わせるんですね。

(DJフクタケ)なるほど。

(辻田真佐憲)そうすることによって、どういう層にも浸透をさせるとか。なんかこう、すごいがんばっているんですよね。当時。

(DJフクタケ)ちゃんとこう、伝え方を工夫してるんですね。メディアの特性を使って。

(辻田真佐憲)そうですね。それは企業にとっては儲かるっていうことでもありますし。軍にとってはプロパガンダができるし。民衆にとっては楽しいと。そういった意味では、みんなWIN-WIN-WINの関係の中でこういった、いまから見ると謎めいた曲が作られ。で、ある意味国民の後押しをしていたっていう面はあるんですよね。

(大石始)なるほどね。でも、いまおっしゃったようなA面とB面。片方が音頭、片方が違うものっていう。その組み合わせってたとえばね、フクタケさん。アニソンとかアイドルとかもそういうのって、ありますもんね。

(DJフクタケ)たしかに、そうですね。その、本題の割りとこうコマーシャルなものプラス、ちょっとそうじゃないところで、まあその、なんて言うんでしょう?作り手のやりたいことだったり、別の意図のものがそこに入っているみたいなことは、組み合わせとしてはあるっていうことですもんね。

(大石始)いや、なんかすっごい思うのは、これは戦中、戦時下で作られた軍国音頭ですけど。これがじゃあ、昭和20年のある時期までしか作られていないものっていうよりも、いまの現代と地続きになっている感じはすごいするんですよね。もちろん、その時代の特殊な環境の社会背景のもとで生まれているものではありますけど。あるところを見ると、たとえばその『踊り』っていうものと常に密接な関係を結んでいて。それがある部分では、プロパガンダに利用されたりとか。ある部分ではまた違うものに利用されたりとかっていう風な形で言うと、音頭の持つ力であるとか、音頭を取り巻くメカニズムっていうのは、そんなに、昭和8年以降、変わっていないような気が、僕はするんですね。

(辻田真佐憲)だからこういうCDを作ったのも、普通に軍歌のCDを構成すると、典型的な軍歌をやっぱり集めちゃうんですよね。あるいは当時のおじいさんたちが好きな、懐メロ調の軍歌ばっかり集めてしまって。軍歌のイメージって我々、固定されちゃっているんだと思うんですよ。だからなんか、いかにも異質な、古い、もう復活する必要がない。あるいは軍部の押し付けであるっていうようなイメージが我々の頭にこびりついてしまっているんですけども。さにあらずということで、もっと地続き感を出したくて、こういう、音頭だけ集めたみたいな。

(DJフクタケ)なるほど。

(辻田真佐憲)そしていまに聞いても、ちょっとこれは踊れるんじゃないか?っていうようなですね、ことを考えさせるようなものを集めたっていうのはありますね。

(DJフクタケ)なるほど。結構1枚CD出すにあたって、候補曲ってどのぐらいリストアップされたりするんですか?

(辻田真佐憲)これはですね、一緒に作っている保利透さんという方に音とかを選んでもらったりして。まあ、いくつか私がいじったりとかはしてるんですけども。実際、音頭自体は100以上あるので。ここに入ってないものっていっぱいあるんですよ。『どどんがどん』っていって敵の飛行機が落ちていくとかですね。対空砲の音と、『どどんがどん』があっててですね、敵機がバタバタ落ちていくとかですね。そういうものがいっぱいあるんですよ。

(DJフクタケ)はい。

(辻田真佐憲)無数に。だからまあ、そういった中で、こういうのを選んだっていうことなんですけどね。まあ、今回の選んだ基準としては、そういった意味で比較的、失敗作を入れないというかですね。これで実際、踊れるんじゃないか?っていうのを強調したっていうのはありますね。

(DJフクタケ)曲的に、ちょっとイマイチだなっていうのも、結構あったりするんですか?こういう、数ある中で。

(辻田真佐憲)いっぱいありますよ。私、日本の中で軍歌、好きな人の方だと思うんですけど。私が聞いても嫌になる曲って、あります。

(DJフクタケ)本当ですか。

(辻田真佐憲)あの、さっきの『諸君頼む!!』は私もやめてほしいです。

(大石始)そっか。まあ、そうですよね。そういう意味で言うと、もう膨大な軍国音頭っていうのが作られていて。中にはいろんなものがあるっていうことですよね。

(辻田真佐憲)この前、日中戦争の初期に作られた軍歌の数っていうのを内務省が当時、レコードを検閲していて集計表があって。見たんですね。それで逆算をすると、1ヶ月200曲作っているんですね。軍歌を。

(DJフクタケ)月200曲!?

(辻田真佐憲)月200曲。まあ、概算ですけどね。だからそう考えると、8年ぐらい日中戦争、太平洋戦争やっていましたから、どんなことになるのか?ということがわかりますよね。だから万単位なわけですよね。だからその中には、それこそ同じのを作っていると飽きられるので、いろんなジャンルをこうやって入れていくっていうことをやっていたわけですね。

(大石始)なるほどね。そう考えると、音頭っていうもの自体も、戦中でだいぶいろんなバリエーションが作られたりとか進化したっていう言い方もできますよね。たぶんそこまでの曲が作られなければ、音頭っていうのはいまほどの、いろんな多彩なビートパターンとかバリエーションが、もしかしたらなかったんじゃないかな?って気も、なんとなくしてきましたね。

(辻田真佐憲)だから当時は国の予算なので。割とこう、彼らも仕事をしやすいというかですね。で、やらないと、彼らはもちろん食えなくなるので。お金をもらいながら仕事をしている中で技術を磨いて。それが戦後につながった面っていうのは確実にあるんだと思うんですね。

(大石始)なるほど。

(辻田真佐憲)レコード会社もそれでこう、生き延びたわけですから。だからそういう、戦前を暗黒時代だと、どうしても捉えがちなんですけども。戦後の歴史観っていうのは。実はそうじゃなくて、ちゃんとつながっているんですよということは言えると思いますね。

(DJフクタケ)まあ、映画とかの業界も、似たようなところがありましたからね。フィルムとかも統制品でしたから。やっぱりちゃんと、お上が『いいよ』って言うような企画を出して。まあ、技術的なところを磨いていったっていう。同じような流れがやっぱりあるんですね。なるほど。結構その戦後のポップカルチャーにつながる下地がそこで、内容的なことはさておき、作られていた時期ではあったっていうのは特徴としてあるっていうことですね。

(辻田真佐憲)そうですね。

(大石始)どうですか?なんかもう1曲ぐらい?

(DJフクタケ)ぜひ、なんかおすすめのがあれば。

(辻田真佐憲)どうでしょうかね?じゃあ、もっと景気のいいのをかけましょうか。2番のですね、『戦勝音頭』っていう日中戦争初期に、中国は弱いということを強調した・・・

(大石始)(笑)。それをじゃあ、『戦勝音頭』。

(辻田真佐憲)戦いに勝つっていうね、『戦勝音頭』。

『戦勝音頭』


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(大石始)これが『戦勝音頭』。

(辻田真佐憲)『戦勝音頭』。日中戦争で日本がボロ勝ちしていた頃のその勢いをそのまま表した歌になりますね。

(DJフクタケ)ちょっと浮かれてますね。

(辻田真佐憲)『いいじゃないか』ってね。『挙国一致』ですよ。

(DJフクタケ)(笑)

(大石始)これがでも、なんかね、最初ちょっと『東京音頭』のフレーズに近いなと思ったんですけど。途中、結構なんですか?ストリングスが歌メロとハモってユニゾンで行く感じになっていくと、なんかアラブ音楽のような感じもするし。なんかすごいエキゾチックな感じがしますね。この曲は。

(辻田真佐憲)そうですね。作曲はね、中山晋平じゃないんですけどね。まあ、似たようなものを作ったってことなのかもしれませんけど。

(大石始)なるほど。いや、面白い。で、これがこういう、『みんな輪になれ ~軍国音頭の世界~』っていのが現在発売中ということですね。ぜひ、お買い求めください。

(辻田真佐憲)アマゾンとかで売っていますので。

(大石始)これ、本当面白いないようです。ブックレットも、テキストも面白いものばかりですので、ぜひ、という感じですね。はい。

<書き起こしおわり>
https://miyearnzzlabo.com/archives/16507

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