町山智浩 映画『ストレイト・アウタ・コンプトン』を語る

町山智浩 映画『ストレイト・アウタ・コンプトン』を語る たまむすび

町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で、伝説のヒップホップグループ、N.W.A.を描いた映画『ストレイト・アウタ・コンプトン(Straight Outta Compton)を紹介していました。

ストレイト・アウタ・コンプトン (字幕版)

(町山智浩)で、今日もですね、まあラジオで放送出来ないっていうか、日本ではラジオで放送してるんだけど、アメリカでは放送できないような曲を歌っていたですね、グループについての映画です。『ストレイト・アウタ・コンプトン』っていう映画なんですけども。まあ、ちょっと音楽を聞いていただけますか?はい。

(町山智浩)はい。いまかかっていた部分っていうのは、TBSラジオで普通にかけましたけども。アメリカでは『ピー』が入っちゃうんですよ。

(赤江珠緒)えっ?

(山里亮太)放送できないような言葉、言ってたんですか?

(町山智浩)できないんです。いまの部分っていうのは、基本的に。これはですね、N.W.A.というヒップホップグループですね。80年代終わりの。それの結成から解散と再結成寸前までの何年かを描いた映画で、『ストレイト・アウタ・コンプトン』っていう映画なんですけども。これ、アメリカで大ヒットですよ、いま。『ミッション:インポッシブル』を抜きましたから。

(赤江珠緒)すごいですね。

(町山智浩)すごいんですよ。で、このN.W.A.っていうグループはですね、伝説的グループですね。88年にアルバムを出して。それがまあ、ヒップホップの伝説になっているんですけども。僕自身はすごく思い入れがあるんですよ。

(山里亮太)えっ?

(町山智浩)っていうのはね、このグループの人たち、僕と年齢がだいたいおんなじぐらいなんですよ。で、僕、ちょうど音楽雑誌にいたんで。その頃、宝島っていう。いまはなき、昔、パンクロック雑誌だったんですけども。

(赤江珠緒)ええ、ええ。

(町山智浩)で、彼らが出てきて、アメリカで大問題になったんで。記事を書いたりとかしてたんで。すごく、なんて言いうか、そのバンドが好きだったというよりは、それをリアルタイムで経験した感じなんですよね。

(赤江珠緒)大問題になった?

(町山智浩)大問題になったんですよ。どういう問題になったのか?っていう話は、また後でしますけども。まあ、彼らの要するにバンドを結成して、売れて、いろいろなことが起こるっていうのを描いている映画なんですね。ドラマとして。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)で、いま、知らない人もいると思うんで。そのN.W.A.っていうものについてね。ただね、わかりやすい例で、『ビーツ(Beats)』っていうヘッドホンがいま、日本でも売れているでしょう?

(赤江珠緒)ああ、小文字の『b』っていうのが書いているようなね。

(町山智浩)そうそう。赤い『b』っていう字が書いてあるヘッドホンが今、結構みんなつけて歩いている人、いますよね。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)これを作った人が、ドクター・ドレ(Dr.Dre)っていう人なんですけども。この人がいたグループなんですよ。N.W.A.っていうグループは。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)で、たぶんね、ビーツのヘッドホンっていうのはぜんぜんヒップホップに興味ない人もみんな持っていたりすると思うんですけども。このN.W.A.っていうグループはどういうグループか?っていうと、『世界で最も危険なグループ』って言われていたんですよ。

(赤江珠緒)へー。

(町山智浩)で、FBIからもテロリスト扱いされていたようなグループなんです。

(赤江珠緒)えっ?そんなレベル?

(町山智浩)FBIからチェック入っていたグループなんですよ。そのぐらい危険だって言われてたんですけども。で、どうしてか?っていうと、ギャングスタ・ラップっていうジャンルを確立したグループなんですね。

(赤江珠緒)ふん。

ギャングスタ・ラップを確立したN.W.A.

(町山智浩)で、ギャングスタっていうのはギャングスターっていう、まあチンピラのことですけどもね。で、彼らの生活を歌うラップっていうジャンルを作ったグループなんですよ。N.W.A.っていうのは。で、『N.W.A.』っていうのは何の略か?っていうと、これが放送できないんですよ。アメリカでは、このグループの正しい意味を。

(赤江珠緒)えっ?

(町山智浩)これはね、『Niggaz Wit Attitudes』っていう意味なんですけども。『ニガ』っていう言葉が黒人奴隷を意味している言葉なんで、差別用語なんですよ。これ、ラジオでは放送できないんですよ。アメリカではね。で、どういう意味か?っていうと、『喧嘩腰の黒人たち』っていう意味なんですね。N.W.A.っていうグループ名は。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)で、彼らはどこから出てきたか?っていうと、アメリカで最も治安が悪い、ロスアンゼルスにコンプトンっていう地域があるんですよ。これ、ロスアンゼルス行った人だとわかると思うんですけども、空港を出て、ちょっと東に行ったところにある地域なんですね。

(赤江珠緒)ええ。

(町山智浩)で、サウスセントラルって言われている地域なんですけども。なんて言うかね、5キロ四方ぐらいの区画の住宅地なんですけども。その5キロ四方ぐらいで、年間150人くらい殺されるんですよ。

(赤江珠緒)いやいやいや・・・それはすごい治安が悪いな・・・

(町山智浩)ものすごい地域なんですよ。で、まあ大きいストリートギャングのグループがあって。クリップスっていうのとブラッズっていう2つのグループが、まあ昔から争っていてですね。で、クリップスが青いバンダナをつけていて。それで、ブラッズが赤いバンダナをつけていて。それで、ヤクの売人とか銃の売人とかがいて。縄張り同士が接しているから、その角ですぐに殺し合いがあるっていうところなんですね。

(赤江珠緒)ええっ?

(町山智浩)僕、ここに行きましたよ。4年前に。

(赤江珠緒)えっ?大丈夫なんですか?

(町山智浩)あの『やりすぎコージー都市伝説』っていう番組の取材で行きましたけども(笑)。

(山里亮太)ああ、またすごい・・・ゴシップな番組で(笑)。

(町山智浩)はい。それはそのギャングの人たちがやっているツアーに参加したんで。彼らがガードマンでついてくれたから行けたんですけどね。

(山里亮太)へー!そんなのあるんだ。

(町山智浩)はい。だから普通の人は行けないですよ。その人たちがついてくれないと。で、そこから出てきたグループなんで、彼らの日常を歌った歌なんですね。そのN.W.A.っていうのは。で、この映画のタイトルになっている『ストレイト・アウタ・コンプトン(Straight Outta Compton)』っていうのは、コンプトンっていう地域なんですけども。その地名なんですね。サウスセントラルの。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)で、『コンプトンから直輸入』っていうか。『コンプトンからの直言』みたいな意味なんですね。『ストレイト・アウタ・コンプトン』っていうのは。『コンプトンから出てきたぜ!』みたいな感じなんですよ。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)で、それまで、そこに地域に住んでいるギャングたちが彼らの思想であるとか生活をはっきりとメディアに出したっていうのはこれが最初なんですよね。だからとにかく怖いところで恐ろしいことが起こっていると。でも、彼らがどういうことを考えていて、なにをしているのか?っていうのは、初めてここで表に出てきたんですね。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)はい。で、それはすごく社会的に意義のあったことではあるんですけども。大問題になったのが、そのアルバムの『Straight Outta Compton』に入っていた、これもアメリカでは曲名自体が放送できないんですけども。『Fuck Tha Police』っていう歌なんですけども。ちょっと聞いてください。

(町山智浩)(笑)。これ、さっきからすごいことをTBSラジオ、流してますけども。これ、アメリカじゃあ全く放送できないですからね(笑)。

(赤江珠緒)そうですか。ちょっと乗っちゃいそうな感じになりましたけども。

(町山智浩)(笑)。もう、日本だから何でもありだな、おい!(笑)。

(山里亮太)どんなこと言ってたんですか?これ。

(町山智浩)もう、これだってさっきからFワードですよ。要するに、『ファック!ファック!ファック!』って言ってるんですけども。

(赤江珠緒)それは、なんとなく聞き取れました。うん(笑)。

(町山智浩)日本、いいなー。自由で。ははは(笑)。

(赤江珠緒)『ははは』って、町山さん、流している。町山さん(笑)。

(山里亮太)こっちもまだね、それがOKかどうかね、みんなの顔を見るとね、『ひょっとしたらダメだったんじゃねえかな?』っていう空気なんですよ。いま。

(町山智浩)(爆笑)

(赤江珠緒)町山さん(笑)。

曲が原因で警察・FBIと対立

(町山智浩)で、この歌ね、いちばん問題なのは『ファック・ザ・ポリス』って言ってるんですよ。だから要するに、警官のことを言ってるんですね。『くそったれ、警官!』って言ってるんですね。で、これがもう大ヒットしちゃって。まあ、ギャングたちと警官の間の軋轢を高めるってことで、FBIとかが出てきちゃったんですよ。

(赤江珠緒)ああー。

(町山智浩)で、国会で問題になったりとか、大変なことが起こって。これがきっかけで、あの、輸入盤のCDとかを買う人はわかると思うんですけども。『ペアレンタル・アドバイザリー』っていうステッカーが貼ってあるレコードっていうのを見たことがないですか
(赤江珠緒)ふんふんふん。

(町山智浩)あれは要するに、『歌詞の内容が非常に過激なので保護者の注意が必要です』というステッカーが貼ってあるCDがあるんですよ。輸入盤には。

(赤江珠緒)ええ。

(町山智浩)で、あれは1992年から大統領になったクリントン大統領の副大統領のゴア副大統領の奥さんが始めたステッカーなんですけども。あまりにも歌詞がひどいレコードがあるっていうことで、そのステッカーを貼ることが義務づけられるようになったのは、このN.W.A.がきっかけなんですよ。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)これがついてないと、要するにとんでもないレコードだから、子供が買っていたら親が注意するってなったんですね。

(赤江珠緒)はー。

(町山智浩)で、まあそういうのを聞くと、このN.W.A.っていうグループはものすごい悪いやつら。ギャンググループじゃねえか?っていう気がしてくるじゃないですか。

(赤江珠緒)はい。

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