松尾潔 SoMo『Champions』『For You』を語る

松尾潔 SoMo『Champions』『For You』を語る 松尾潔のメロウな夜

松尾潔さんがNHK FM『松尾潔のメロウな夜』の中でジェシー・キャンベル『Can’t Live Without Your Love』、ソーモー『Champions』『For You』を紹介していました。

(松尾潔)それでは、90年代にやはりメジャーシーンに出ていながら、その後にちょっと鳴りを潜めて、また最近になって脚光を浴びている、そんなシンガーをご紹介したいと思います。ジェシー・キャンベルです。ジェシー・キャンベルはサミーよりももっと通好みの存在ですかね。ですが、95年にリリースされた『Never Let You Go』というアルバムは当時、好事家をうならせたものです。

95年というと僕はまだ製作のしごとをやる前。バリバリのライター時期だったんですが。このアルバムはよく聞いた覚えがありますし、当時ラジオの番組でもご紹介した記憶があります。特に『When U Cry I Cry』。そして『Baby,Baby,Baby』というこの2曲のシングルは僕はいまでも記憶が鮮やかですね。

『Baby,Baby,Baby』っていう曲はそうですね、いまでも時々思い出したように聞きたくなる、そんな1曲だったんですが。

正直ね、ジェシー・キャンベルはその後にメジャーシーンから1回離れまして。で、インディーズに行ってから、そこのシーンで作品をリリースしていることはなんとなく知っていたぐらいですね。そこまで追いかけていなかったですね。あの、ゴスペルの出身なんで、まあこういう音楽をたくさん聞いていますとね、ゴスペルからR&Bにやってきて、で、R&Bで商業的な成功を収めても収めなくても、その影響であろうが反動であろうがまたゴスペルに帰っていく人っていうのはたくさん見てきましたので。「ああ、ジェシーはゴスペルという自分のホームグラウンドに戻って、地に足の着いた活動をやっているんだな」っていう印象だったんですが。

ちょっと状況が変わってきたのが5年前ですか。アメリカにオーディション番組で『The Voice』っていうのがあるんですけど。そこにジェシーが……一度はメジャーでデビューしたジェシー・キャンベルがそこに出てきてね、結構勝ち進んでいったんですね。まあ、優勝までは行かなかったんだけども、十分に存在感を発揮いたしまして。中でも僕はアリシア・キーズの『If I Ain’t Got You』を丁寧に、そしてエモーショナルに歌い上げたことが記憶に残っていますね。

で、そんなジェシー・キャンベルなんですが、いまオリジナルの作品をリリースするところまで戻ってまいりました。今年7月にリリースされてアダルトR&Bシーンでは結構なロングヒットを記録しているこちら、今日はご紹介したいと思います。これはなかなかゴキゲンなブギーですよ。聞いてください。ジェシー・キャンベルで『Can’t Live Without Your Love』。

Jesse Campbell『Can’t Live Without Your Love』

SoMo『Champion』

僕好みのブギーを2曲続けてご紹介いたしました。『メロ夜』のリスナーのみなさんにとっても割と……いや、絶対にこれはストライクゾーンにあるんじゃないかなと。いま2曲を聞きながら、そんなことを感じていたのですが、いかがだったでしょうか? ジェシー・キャンベル『Can’t Live Without Your Love』に続きましてはソーモーで『Champion』でございました。ジェシー・キャンベルの話は先ほどたっぷりいたしました。90年代に一度、メジャーデビューして、それからゴスペルシーンに戻って、最近また世俗の世界というかね、セキュラー・シーンなんて言いますけども。俗世間の歌をまた歌うようになりました。

で、続きましてのソーモーなんですが、この番組では何度かご紹介していますね。『Ride』という曲が3年前にロングヒットを記録いたしました。

テキサス出身の白人シンガーソングライターですね。この人はいわゆるネット時代以降の存在でして、そこがジェシー・キャンベルとは決定的に違いますが。そうですね。なんかこう、人を引きつけるようなハンサムボーイとかではない……うーん、いま言葉を選びながら話していますけども。ジェシー・キャンベルはなんと言っても美声があります。ソーモーの場合は、やっぱり時代のトレンドを読む力と、それを模倣して作り上げる力に長けているという、そんな存在ですね。で、「ソーモー、ソーモー」って言いますけども、これは念のために言いますけども、ソロアーティストです。本名が長いんですよ。「Joseph Anthony Somers-Morales」。お父さん、お母さんの姓が「モラレス」さんと「サマーズ」さんなんですかね。で、そのサマーズとモラレスの頭を取って「SoMo」。これをアーティストネームにしているんですね。

『Ride』という曲、この繰り返しが気持ちがいい曲。パッと聞きで「ああ、ドレイクの影響を受けているんだな」っていうのがすぐにわかりましたが、結構なハイペースで作品をリリースしまして。『SoMo』っていうセルフタイトルドアルバムを出したのが2014年。その前からミックステープで『My Life』っていうのを出してちょっと評判になっていたんですが、この『My Life』シリーズは『My Life II』、『My Life III』まで進んでおりまして。その『My Life』と題しましたミックステープシリーズとは別に、リパブリックというレーベルから『SoMo』に続いてリリースした、オフィシャルにはセカンドとなる位置づけのオリジナルアルバムが『The Answers』。これは今年3月の作品でして、その中に収録されていたのがこの『Champion』でした。

My new album #TheAnswers is out now! What's your favorite song so far? Link in bio.

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この『Champion』、ゴキゲンな曲ですし、ここからうかがえるように『The Answers』っていうのもなかなか秀逸な出来の粒ぞろいの楽曲が収められた作品集だと思っていたんですが……これがさっぱりアメリカで売れなかったんですよね。思わず小声になってしまうぐらいなんですが。っていうのは1枚目の『SoMo』っていうセルフタイトルドアルバムがかなり売れたんですよ。僕も3年前に結構R&Bチャートで売れたよなっていう記憶があって、念のために調べてみましたらR&Bチャートで二位まで売れたんですね。そして、ポップの方でもなんと六位ですよ。それが、今年の春に出した『The Answers』では六位から178位なんですよ。これ、ちょっとびっくりするぐらいの急降下ぶりなんですが。

まあ、内容というよりもプロモーションであるとか、諸事情によってあまりプッシュされなかったのではないか? という推論が容易に成り立ちますね。ですが、そのことによって音楽の価値に変化はないというのが僕の持論でありまして。音楽には罪はないですしね。ソーモー、いい歌を歌い続けているなという風に、僕の中では信頼に足る男だと、どんどんどんどん彼の評価は上がっておりますよ。で、『Play』という曲なんかもこの番組ではご紹介しましたっけね。いい曲でしたけども。『The Answers』からは離れまして、さっきちょっとお話をしたミックステープシリーズの第三弾目。『My Life III』の中から、これは『メロ夜』向けだなという曲を選びましたので、ぜひ聞いていただきたいと思います。

この番組で何度かお話をしているジェレマイの『oui』という曲の子供ですとか孫みたいな曲がたくさんシーンに出ていまして。

あんまり語られることはないですけど、ジェレマイ的世界の拡散を時々感じるのですが、この曲もそこに位置づけていいんじゃないでしょうか。ジェレマイの『oui』という曲があるから出てきた曲という気がします。耽美的な曲ですね。聞いてください。ソーモーでミックステープアルバム『My Life III』の中から『For You』。

SoMo『For You』

秋の夜長にぴったりの曲をご紹介しました。テキサス出身の男性シンガー、ソーモーで『For You』。こちらはね、曲をご紹介する前にも話しましたけども、ジェレマイの『oui』という曲にインスピレーションを受けたのではないかと思しき一曲でした。ジェレマイの『oui』みたいなというか、そこから派生したであろうという曲で、ちょっと前にもこの番組の中でトーン・スティッスというアーティストの『Get It Right』という曲をご紹介しました。

あとは、そうですね。日本のアーティストでも向井太一さんというフレッシュなアーティストが『SLOW DOWN』という曲を歌っていますが、あれなんかも『oui』があるから出てきた曲っていうイメージだな。

いま、僕の知らないところでも世界中で夜の物語の紡ぎ手として、ジェレマイが存在感を増しているんじゃないかなと思いますね。まあ、ある種ジェレマイっていうのはマーヴィン・ゲイ、マックスウェルと続く系譜の、そこのいちばん新しい存在なのかなという気がいたしますが……。

<書き起こしおわり>

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