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渡辺志保 Kendrick Lamarアルバム『DAMN.』を語る

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渡辺志保さんがblock.fm『INSIDE OUT』の中でケンドリック・ラマーの新作アルバム『DAMN.』について1時間、たっぷりと話していました。

ケンドリック・ラマーの新作。待ってました!

みやーんZZさん(@miyearnzzlabo)がシェアした投稿 –


(渡辺志保)というわけでみなさん、これから60分間、今日はなんとケンドリック・ラマーの最新アルバム『DAMN.』について語り尽くすという企画を行いますので、ぜひぜひ聞いていただきたい。そしてTwitterでもバシバシ参加していただきたく思います。

(中略)

でもって、先週末はみなさん、どのようにお過ごしでしたでしょうか? 私はケンドリック、コーチェラ、ケンドリック、コーチェラ、ケンドリック、コーチェラ、Lick-G、コーチェラみたいな感じの。もうずーっと家でケンドリックのアルバムを聞きながら今日の準備をしたりとか。で、あとはもう、全米を揺るがすほどの巨大音楽フェス、コーチェラフェスがね、3日間ぶっ通しでやっていまして。日本時間の今日の夕方ぐらいまでやっていたましたけど、3日間ぶっ通しでやっていて。それをしかも、全アーティストじゃないけどちょいちょいストリーミング中継もしていまして。しかも、それをYouTubeで自分の好きなアーティストとかをプログラミングしておくと、YouTubeからアラートが来て。

「もうすぐフューチャーのステージが始まります」とか「もうすぐグッチ・メインのステージが始まります」みたいなのを教えてくれて。もう家でずっとそれを見ていたというような感じなんですけど。フューチャーのステージもね、ドレイクが出てきて『Jumpman』をやったりしてヤバかったし。グッチ・メインのステージはグッチ・メインのステージでもう、アトランタ祭り、わっしょーい!っていう。で、フューチャーのステージにもミーゴスが出て、グッチ・メインのステージにもミーゴスが出て。あと、DJキャレドのステージにもミーゴスが出て……という感じで、私が聞いた中では計4回ぐらいミーゴスが3日間のフェスの中で出て、『Bad and Boujee』をやりまくったっていう話も聞いているし。

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コーチェラでのケンドリックのパフォーマンス

で、3日目のトリがケンドリックだったわけなんですけども、なぜかケンドリックのステージにもこの後ろでかかっているフューチャーが出て『Mask Off』をやるというね。あの、「モリ、パコ、セッ!(molly, Percocets)」っていうね、もう何人に聞いたのかよくわかんないっていうのがあれですけども。



でも、それぐらいいまのフューチャーって、ケンドリックも呼びたくなるような感じのね。そこまで威力を持つ、すっごいスーパーファビュラスなラッパーなんだなということが私、このコーチェラで再度実感したという感じでした。私、2週間後ぐらいに実はアトランタに行って、フューチャーのツアーをアトランタで見てくるっていうすっごいハイプなイベントがございますので。ますます楽しみが募ったというような感じです。

(DJ YANATAKE)あ、ヤナタケでございます。しかし、ここまでだけでも楽しそうに話をするね(笑)。

(渡辺志保)(笑)。もうヨダレが出そうで(笑)

(DJ YANATAKE)まあその、ヨダレが出そうなほど、後ほどしゃべっていただきたいんですけども……。

(中略)

(渡辺志保)いやー、もう本当ね、ぶっちゃけLick-Gくんのライブ会場でAKLOくんに会ったんですよ。AKLOくんも見に来ていてい。で、「なんかやるらしいじゃーん。『INSIDE OUT』で特集、やるらしいじゃーん」ってああいう感じで来て。「いや、もう本当、ビビるよね」とかいう話をしていて。で、まあ前もケンドリック。2015年にリリースした『To Pimp A Butterfly(TPAB)』の時もAKLOさんがこの『INSIDE OUT』でまるっと濃厚な解説をしてくださって。

AKLO『TPAB』解説

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ただ、あれって発売から3週間たっていたんですよ。私、いま14日にケンドリックのアルバムが出たから、まだ3日ぐらいしかたっていないのね。だから、ディグの浅さがあるし。まだ自分の中でも不安定なところとかもあるから……。

(DJ YANATAKE)それはでも、ねえ。事前に、やる前に話していて。まず、1回やってみよう。できるところまでやってみよう。で、またさ、2回やっても3回やってもいいような気がする。で、あのね、絶対にAKLO、聞いていると思うんですよ。俺(笑)。で、AKLOは絶対に何か言いたいことが出てきたら、AKLOさんもまた呼んだりとか。他にもケンドリックについて言いたいみたいな人がいたらまた呼んで。また2回、3回やればいいじゃないですか。だからまずは、最速でやるっていうのが結構大事だったので、今日は志保さんに無理を言ってお願いしました。

(渡辺志保)いや、とんでもございません。私こそ無理を言って。パイロット版ということでやらせていただきますけども。みなさん、聞いた? 聞いたでしょう? 聞いてるでしょ、みんな?っていう感じですけど。先週、4月14日(金)にリリースになりましたケンドリック・ラマー4枚目の最新作『DAMN.』っていうアルバムですけども。もう最近、みなさん日本ってアメリカより時間が進んでいるから、たとえばアメリカ時間で14日になった途端に発売しますっていうアルバムは実は日本の前の日のお昼ぐらいにもう買えちゃうパターンが結構あって。その前の週に出たジョーイ・バッドアスとかはそうだったのよ。アメリカに先駆けて日本でもうゲットできる!っていう。

なんだけど、ケンドリックはさすが、それはTDEが許さない! みたいな感じで。もともと日本の発売予定日は4月16日にセットされていて。だからどうがんばってもUSより早くゲトれないようになっていたんですよ。もう、やきもきっていう感じなんですけど。で、14日の朝、私7時半ぐらいに起きて。朝、まずTwitterを見たらもうリーク音源が出回っているんですよね。で、世界中のヒップホップナードが「俺、いまから2曲目の『DNA.』聞きまーす」とかそういうのをリーク音源を聞いたクソナードがTwitterでガヤガヤガヤガヤやっていて。

で、なんならXXLもそのクソナードたちの発言を集めた……「最初にケンドリックのアルバムを聞いたファンたちのリアクションをまとめました!」みたいなまとめ記事とかを作っていて。そんなの、やるんじゃねえよ! と。ただ、私も人間だから気になって、リーク音源を聞いちゃいけないと思いつつ、リリックだけチェックしたんですよ。で、ラップ・ジーニアスにアクセスしたらもう全曲のリリックが全部上がっていて。なんならクソナードたちがそれにどんどんどんどん注釈をつけ始めているというのが4月14日の日本時間の朝、もうすでに行われていたから。

DAMN., Kendrick Lamar’s fourth album and third major release album, was expected April 7th after Kendrick Lamar rapped these lines on “The Heart Part 4:” Y'all...

で、こっちはもうやきもき、やきもきして。なんなら、アメリカで14日になった瞬間にもうアップルミュージックとかiTunesとかSpotifyでバーッと発表されたんですけど、なかなか日本はリアルタイムにゲットすることができなくて。Spotifyがいちばんはやかったんですかね。で、アップルミュージックとかiTunesはアメリカよりも80分ぐらい遅れて日本で解禁になったということで。本当に焦らされて焦らされて聞くことになったアルバムでしたね。で、その後もやっぱり一斉にヒップホップメディア、いろんな世界中のブログがワーッとレビューを書き始めたりとか、いろんな考察を述べ始めたりして。本当になんかもう、波。ケンドリックのデカい波が来た! みたいに感じましたね。

カンフー・ケニー

で、ひとつこれ、自分のトークがだんだんシリアスになる前に言っておきたいんだけど、今回カンフー・ケニーっていうケンドリックのオルターエゴみたいな、生まれ変わったケンドリックみたいなキャラがいまして。今日、行ったコーチェラのライブでも結構このカンフー・ケニーがフィーチャーされていて。コーチェラのステージが始まった時、安っぽい中国の昔のアニメみたいな感じの映画のセットが出てきて。「お前は選ばれしカンフー・ケニーだ!」みたいな感じの茶番のムービーが流れていたんですけど。



でも、そんだけこのアルバムで「カンフー・ケニー、カンフー・ケニー」っていうキャラクターが連呼されていて。これって、ケンドリックにとってはなにか重要な意味を持つキャラクターなんだろうなって思いながらアルバムを聞いて今日のコーチェラのライブを見ていたんですけども。まずひとつ、コーチェラのライブで私、Twitterでも言ったんだけどさ。カンフーって中国発祥のひとつのカルチャーっていうか武道じゃないですか。で、さっそくステージ上に忍者の格好をして日本刀を持っているダンサーの人とか出てきて。「ああ、よくありがちなアジアのカルチャーひとまとめ……ケンドリックさんもそういうところ、あるんだ」と思ってちょっとガッカリしたのがあるんですけど。


でも、そのカンフー・ケニーに入れる気合いっていうのがすごくて。今回のコーチェラのライブもそうなんだけど、彼、グリルも作っていて。で、ちゃんと漢字で「功夫肯尼(カンフー・ケニー)」って歯に刻んであるグリルを作っているんですよ。それ、ネットで写真見れるんですけど。

#KendrickLamar's new custom grill with "Kung Fu Kenny" in Chinese letters ???? (via @ifandco)

HotNewHipHopさん(@hotnewhiphop)がシェアした投稿 –


で、私、意地悪だからさ。よくありがちなデザインだけで漢字を選んで、実はすっげー恥ずかしい意味のタトゥーをしている人とかいるじゃないですか。だからそういう意味だったら嫌だなと思って、ちゃんとグーグルで調べたんですけど。ちゃんと「カンフー」を中国語(功夫)で書いた漢字と、あと「ケニー」っていうのもバービー人形、ありますよね? で、バービーちゃんの彼氏は「ケン」っていう名前だけどそのケンの中国語表記っていうのがあって。ちゃんとそれをフィーチャーしたグリルになっていたんで。「ああ、ちゃんとカンフー・ケニーって通じるようなグリルなんだな」っていうのを調べたりして週末をすごしていました。

っていうのがひとつありまして。あともうひとつ、ヒップホップファン的にはびっくりするかもしれないんですけど、このアルバム、何ヶ所かにキッド・カプリがフィーチャーされているんですよね。で、何をしているか?っていうと、「World Premire!」っていう往年のヒップホップファンなら「おっ!」って思うはずのキッド・カプリのシャウトが数か所にフィーチャーされていて。しかもそれはちゃんとキッド・カプリがTDEから連絡を受けて、LAまで飛んでレコーディングした声らしいんですよ。で、ちょっと前ですけど、ドレイクがムーディーマンの声をサンプリングして使っていたりしましたけど、もしかして今後、なんかアイコニックなDJがラッパーの曲の冒頭でしゃべったりするのが流行るのかどうかわからないですけど……。

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なので、ヤナタケさんとかもしかしたらね、オファーがあるかもしれないですけども。

(DJ YANATAKE)ないでしょう(笑)。志保とかあるんじゃない?

(渡辺志保)いやいや、特徴的な……「ヤナタケさんの笑い声をここにフィーチャーしたいんですけど」みたいなのがあるかもしれないなということをね。

(DJ YANATAKE)まあでも、DJ TY-KOHとかが呼ばれるような感じだよね。

(渡辺志保)あ、そうそう。TY-KOHとかがね。そうなんですよ。だからそういうことがあるかもしれないと。なのでキッド・カプリもなぜか参加していると。で、キッド・カプリももうね、このアルバムに参加した経緯とか参加してどうだったか?っていうことはもうすでにインタビューで語っておりますのでぜひぜひみなさん探して見ていただきたいんですが。

"It's about to get crazy with that dude, man."

まあちょっと、ここでだんだん今回の『DAMN.』の本編の方に入っていきたいんですけども。まずちょっとイントロダクション的に紹介したいのがまず1曲目『BLOOD.』っていう曲で始まるんですね。で、「Blood」っていうのは「血」っていう意味だし、アメリカの特に西海岸における「Blood」っていうのはギャング抗争のクリップス対ブラッズっていうのがありますけど、そのギャングのブラッズ(Bloods)も想起させる単語であると思うんですが……。

ちょっとね、この曲は変わっていて。ケンドリック・ラマーがひとり語りをするんですよ。で、結構テンション的には「昔、昔のことじゃった……」みたいな感じでストーリーを始めていくんだけど。どんなストーリーかというと、ある日、僕が道を歩いていたら盲目の女性を見つけたんです。その女性はなにかを落として困っているように見えたから、こう僕は尋ねました。「お姉さん、よければお手伝いしますよ。なにか困っているんじゃないですか? なにか落としたんじゃないですか?」っていう風に聞いたら、その女の人がこう応えました。「そうね。あなたはなにか落とし物をしたわ。あなたの命を落としたのよ。(You’ve lost… your life.)」っつってガンショット(銃声)が「パーン!」って鳴る。それがこのアルバムの始まり方なんですよ。

なので、そのガンショットが撃たれるっていうことは、おそらくその盲目の女性がケンドリックのことを撃ったのかもしれないし、もしかしたらだけど、ケンドリックが何者かに向けて発砲したのかもしれないし。それはわからないんですけども、そういうストーリーが始まる。なので、ケンドリックは良かれと思って困っている目の見えない人を助けようとしたのに……で、「落とし物をしましたか?」って聞いたのに、逆に狐につままれるっていうか。「落とし物をしたのは、あなた。しかも、あなたの命を落としたんですよ」っていう、それが告げられてアルバムが始まるんですね。ちょっとここで『BLOOD.』を最初にちょっと簡単に聞いてください。『BLOOD.』。ケンドリック・ラマー。

Kendrick Lamar『BLOOD.』



はい。いま聞いていただいているのはケンドリック・ラマー『DAMN.』の1曲目、『BLOOD.』ですね。いま、ケンドリックがしゃべっていますけど、ここで「ある日、僕は盲目の女性に出会ったんです」っていうことをナレートしています。で、この曲、もうすぐ銃声がパーンって響くんだけど、その後にある音声を入れて終わらせているんですよ。で、それは何の音声がこの後に入っているか?っていうと、FOXチャンネルっていうアメリカのドラマやニュースを放映しているチャンネルがありますけど。これってFOXニュースで実際に流れた音声なんですよ。で、何について言っているか?っていうと2015年にBETアワードの授賞式でケンドリック・ラマーが『Alright』っていう曲。前作のアルバムからのシングル『Alright』をパフォーマンスしたんだけど。

その時に、グラフィティーでグチャグチャになったパトカーの上にケンドリックが立って。結構扇動的な、アジテートな感じのパフォーマンスをしたんですよ。



で、それをFOXニュースのキャスターが……この歌詞ってさ、「and we hate po-po(警察は俺たちを憎んでいる)」「Wanna kill us dead in the street fo sho’(警察は俺たちに道で死ねばいいと思っているんだ)」っていう。で、(ニュースで)「こんな歌詞をラップするなんて信じられません」みたいなことをキャスターが言っていて。で、その後に女の人が「Please…」みたいな。「本当にやめてください。私、こんなの全然好きじゃない!」みたいな。そこの部分をご丁寧にアルバムの1曲目に入れているんですね。

その時に、このFOXニュースに出ていたジェラルド・リベラっていうおっさんのコメンテーターがいるんですけども、こんなことを言っていて。「ケンドリック・ラマーが発しようとしているメッセージは全くの逆効果。ここ数年のヒップホップって若いアフリカン・アメリカンに与えるダメージっていうのは巷で騒がれている人種問題よりも深刻だ。我々は目を覚ましてこの現状を理解しなきゃいけない」っていう……ケンドリックがめっちゃがんばってさ、めっちゃ希望(Hope)っていうのをみんなに伝えようとして作った『Alright』。そしてそのパフォーマンス。めちゃめちゃ主張あふれるパフォーマンスをガラッとひっくり返して。もう、「お前ら若者は全然わかってねえ!」みたいな感じでFOXニュースのコメンテーターに言われてしまったと。



でもって、このFOXのネタっていうのはケンドリック、ビヨンセの『Freedom』にゲスト参加したバースで言っているんですけど。もっと言うと、FOXっていうのは右寄りなメディアとして広く認知されているんですね。なので、オバマ前大統領のことをめちゃめちゃバッシングしたりとか。ちょうどいまだとトランプがニューヨークタイムスのことを批難して、CNNのことも批難するけど、FOXのことはめっちゃ上げているみたいな。なので、ホワイトアメリカの象徴みたいな感じでも受け取れるかなという風に私は思ったんですよ。で、もともとナズとかジェイ・ZとかもFOX批判っていうのはしていて、そういうラッパーっていうのは少なくないんですけど。なのでここでも、ケンドリックはホワイトアメリカに対するアンチみたいな、そういう反抗心みたいなものを示したいのかなと思っていて。

で、その最初に出てくる目の見えない女性っていうのも、言い換えればリーダーを失って迷走しているアメリカそのものを、その目の見えない女性にたとえているのかもしれないなという風に思っていて。で、さっきも言いましたけど、良かれと思って弱者を助けようとしたケンドリックは逆に、「お前が死ぬんだよ!(バーン!)」っつってね、撃たれるっていう、そういう結構ショッキングなイントロダクションでこのアルバムの本編が始まっていくわけなんです。

で、私今回のアルバムはいくつかテーマがあるなと思っていて。そのテーマを追いながらこのアルバムを解説していきたいんですけども。まずテーマ1。「Wickedness or Weakness」。「Wickedness」っていうのは「悪さ・邪悪さ」とか。そういう不正な、正しくないマインドのことを言うんですね。で、「Weakness」は「弱点」ですね。で、さっきちょっと聞いてもらった1曲目の『BLOOD.』の最初のコーラスにもこの「Wickedness or Weakness」っていうのは歌われているんですよ。でもって、さっきの『BLOOD.』の中にフィーチャーされているガンショット。「パーン!」って鳴る後にも、「Is it wickedness?(これって悪い心なのかな?)」みたいなことを聞かれる。そういうシーンがあるんですけども。

で、このアルバムっていうのは「Wicked」。ちょっと悪いケンドリックと、あとは「Weak」。弱いケンドリックの二面性を、あくまでもケンドリックの主観でラップする内容なんじゃないかなっていうのが私の見解でして。たとえば、シングルで最初に発表された『HUMBLE.』ってありますけども。『HUMBLE.』はWickedなケンドリックなんですよ。もう、他のラッパーをキルしまくって俺が本当にベスト・ラッパー・アライブだ!っていうようなWickedなケンドリック。なんだけど、アルバムを聞くにつれて、『FEEL.』とか『PRIDE.』っていう曲が入っているんですけど、そこはWeak。弱いケンドリックなんじゃないかなという風に思っていて、それを本当に複雑な主張も織り交ぜながらラップしていると。なのでこの「Wickedness or Weakness」っていう、二面性をいろんな角度で論じるっていうのは『DAMN.』のひとつのテーマになっているんじゃないかな? という風に思っています。

で、その『HUMBLE.』と同じぐらいイケイケな、Wickednessなケンドリックがよく現れているのが2曲目の『DNA.』っていう曲なんですけども。これ、今日もコーチェラで一発目にパフォームしていましたけども。これ、「俺は神の子、勝者。それは全て俺のDNAに組み込まれているレベルで俺は生まれながらにして勝ち組なんだ。それに引き換え、お前のダサさ。それもお前のDNAに組み込まれているぐらい、お前はどうしようもなくダサいんだ」っていうことを歌っていたりとか。「I’d rather die than to listen to you」で「you」は他のラッパーなんだけども。「お前の曲を聞くぐらいなら死んだ方がマシだ」なんていうようなことも言っていて。『HUMBLE.』とかその前に出た『The Heart Part.4』なんかもそうですけど。あれもね、「ビッグ・ショーンやドレイクに向けたディスか?」って言われていましたけども。この『DNA.』でもめちゃめちゃ他のラッパーをキルする、勢いのいいカンフー・ケニーことケンドリックが聞けますので、ちょっとここでこの『DNA.』を聞いていただきたいと思います。

Kendrick Lamar『DNA.』



はい。いま聞いていただいておりますのはケンドリック・ラマーの最新アルバム『DAMN.』から2曲目に入っています『DNA.』。これ、もうね、曲調を聞いている感じでみなさん、どんな感じかわかったと思いますけども。すごいやっぱり勢いに乗って、「もう俺は勝ちまくって勝ちまくってウィンブルドン! サーブ!」みたいな、そういうリリックもあったりとか。で、この後にね、またブリッジが入るんですけど、そこでもまた、さっき
言ったFOXニュースの男性の声なんかを入れていて。まあ、単純に言うと根に持っているっていう感じがするんですけども。でもやっぱり、それだけね、超ウルトラライトな右傾化したメディアにそういう、「ケンドリックはラップのことをわかっていない」みたいな感じのことを言われてしまったのは、本当にケンドリック・ラマーのキャリアにおいても、めっちゃ実はショックなことだったんじゃないかな? という風に思っていて。

で、このFOXニュースに関する事柄っていうのはこの後も何回かちょいちょい出てくるんですよ。で、それぐらいこの『DAMN.』のメインの柱にひとつなっているんですけども。まあひとつ、その「邪悪な心なのか、弱い心なのか?(Wickedness or Weakness)」っていうのがテーマになっているという風にいまお話したんですが、テーマ2としまして、もうひとつ、フレーズがあります。「Nobody pray for me(俺のために祈ってくれる人は誰もいない)」っていうことでして。これもね、コーチェラの今日のライブで結構後ろのスクリーンに「Nobody pray for me」っていうのを何回も何回も出していましたけども。これもですね、ひとつこの『DAMN.』の中で何度か繰り返し語られるトピックなんですよ。

で、単純に「俺のために誰も祈ってくれない」というのは孤独感も増していくというかね。孤独という状態も表すと思いますし。で、なんで誰もケンドリックのために祈ってくれる人がいないのか?っていうと、次の『ELEMENT.』っていう曲の中で明らかになっているんですけども。おばあちゃんがみんな亡くなっちゃって。父方のおばあちゃん、母方のおばあちゃん、みんな亡くなっちゃって。それで「誰も僕のことを守ってくれる人がいなくなっちゃったんだ」ってことをラップしているんですね。ケンドリックってすごいおばあちゃんっ子だったっていうのは自分でもラップをしていて。かつ、これまでにもめっちゃ自分のお母さんのこととかお父さんのことをラップしてきた彼ではあるんですが、今作はそれ以上に家族について語られるシーンがすごく多いなという風に思っていて。姪っ子のシンシアちゃんとか、またも出てくるし。

あとね、幾度となく出てくるのが従兄弟のカールくんなんですよ。彼も、リリックの中に何度か出てくるのと、あとはちょっと曲の中に冒頭、カールからの留守電のメッセージで始まる曲があるんですけども。それも、「お前、ちょっと最近おかしいんじゃないのか? イライラしすぎなんじゃないのか?」っていうのをカールが心配していて。それでケンドリックに聖書の一節を、「神様、聖書ではこんなことが書いてあるから、それを信じて。お前、ポジティブになれよ」みたいなことを言っているんですね。なのでまあ、そのカールがケンドリックの心境にポジティブな変化を与えようとするっていう役目を果たしているんですけど。なので、ここでいま『DNA.』を聞いてもらったばっかりなんですけど、この『ELEMENT.』は……『DNA.』はいけいけドンドンのね、ちょっと邪悪な部分もあるケンドリックだったんですけども、『ELEMENT.』は逆に弱い心を持ったケンドリックがラップをしていると。かつ、これも最初の方に「Nobody pray for me」っていうのがすごく印象的に使われておりますので。ぜひぜひここで聞いてみてもらいたいと思います。ケンドリック・ラマーで『ELEMENT.』。

Kendrick Lamar『ELEMENT.』



はい。いま聞いていただいておりますのはケンドリック・ラマーで『ELEMENT.』でした。このキッド・カプリのシャウトがまぶしい感じがしますけども。はい。

(中略)

(渡辺志保)(ツイートを読む)「ケンドリック・ラマーがコーチェラのステージでナイキのコルテッツを履いていたんですけど、リーボックとの契約は満了したんですかね?」っていうことで。結構ね、ケンドリックはリーボックと契約しつつもステージ衣装ではコルテッツを履いていることが多いですね。私の印象から言うと。で、コルテッツって結構ウェストコーストのラッパーたちの間では昔からみなさん、定番で履いてきたモデルでもありますし。なので、リーボックとの契約は満了したんですかね? たしか去年も新しいモデルが出ていたような気がするんですけども。ちょっと私もディグれたらこのへん、ディグりたいなと思います。

(中略)

(渡辺志保)はい。というわけでどんどんどんどんこのナード色の強い解説を進めていきたいと思うんですけども。いま、『ELEMENT.』を聞いてもらって。かつ、「Nobody pray for me(誰も俺のために祈ってくれねえ)」っていうのをひとつ、テーマにしているんじゃないか?っていう風にお話をしていましたけども。その「祈り」ってやっぱりちょっと宗教色の濃いものだと思うんですけども。それもまた、『DAMN.』の特徴かなと思っていて。もちろんほら、日本人とキリスト教っていうのはちょっと遠いかもしれないですけども。まあ、アメリカにおける宗教、特にキリスト教っていうのはすごく大きいものだし。かつ、それがアフリカン・アメリカンで……まあ、彼らにとっての宗教っていうのはまたちょっと違う距離感がもちろんあるはずなんですよ。

で、たとえば3曲目『YAH.』っていう曲があります。これ、ただの「YAH」じゃなくて、神様を表す「ヤハウェ(Yahweh)」の「YAH」だという風に書いているところもありますし。あと、その宗教性というところにリンクさせますと、各曲全部さ、『DAMN.』っていうアルバムのタイトルもそうだけど、『BLOOD.』とか『YAH.』もそうだし、『HUMBLE.』『LOVE.』『FEAR.』って全部、単語、単語で「.」がついて完結しているんですけど。それもまた、七つの大罪っていうのがキリスト教でありますけども、それとリンクしているんじゃないか?っていうような読み方もありまして。

たとえば7曲目の『PRIDE.』っていうのは、これは実際に七つの大罪の中にもあって。それによると「強欲」っていう……自分の譲れないプライドっていう意味もあるんだけど、聖書の中ではそれは「強欲」。しかも、罪の中でも最も重いものとされているらしいんですね。で、9曲目の『LUST.』っていうのは「色欲」。なんでちょっと、欲望ですね。そういったことを表していると。

で、ちなみにこれね、もう全国のハイパーナードたちがあれやこれやと思考をめぐらせていたんですけども。リリースされた週、4月14日というのがキリストが亡くなった金曜日、4月14日。プラス、キリストが復活すると言われているのが「復活の日曜日」と言われる4月16日なんですよ。それで、たとえば4月14日に『DAMN.』を出して1回ケンドリックは死んだ。しかし、その2日後の日曜日にもしかしたら2枚目のアルバムでケンドリックが復活するんじゃないか?っていう、アルバム2作をほぼ同時に出すんじゃないか?っていうことですごいみんなGuessin’ Guessin’……(笑)。本当にすごい、「これはさすがにこじつけでは?」みたいな論争が巻き起こっていて。日本だとPlayatunerさんというメディアがありますけども。あそこでもすっごい、褒め言葉だけどハイパーナードな感じで解説をしてらっしゃったので。

まあ結局、4月16日には何もなかった。コーチェラのライブはありましたけど、リリースは何もなかったっていうことで、いま一応たぶん完結しているんだけども。そうでなくともすごい面白い考察になっているので、みなさんこのへんも時間がある人は追いかけてほしいなという風に思います。

(追記:リリースされませんでした。) 壮大なストーリー 本日ケンドリック・ラマーの「DAMN.」がリリースされた。ヒップホップ業界は今日一日ケンドリック三昧であり、皆さんさぞかし忙しかったであろう。まだ聞くことができていない方はこちらから聞くことができる。実はこのケンドリック・ラマー「DAMN.」であるが、米ツイッター...

っていう感じで「Wickedness or Weakness」、そして「Nobody pray for me」っていうメッセージ+宗教色が濃いというところをいま、話しているんですけども。その、いま最初から述べたようなことが全て詰まっているのが、実は『HUMBLE.』だったんですよ。で、『HUMBLE.』ってミュージックビデオでは冒頭に「Wickedness or Weakness」っていう言葉が入っていて。「悪さなのか、弱さなのか。お前、ちゃんと見なきゃいけない」っていうのが入っている。で、その後にイントロで「Nobody pray for me!」っていうのをケンドリックがワーッて叫んでいるんですよ。で、かつ『HUMBLE.』のジャケットではPope(教皇)の格好をしたケンドリックが映っているし。それにミュージックビデオは結構印象的なシーンだけど、最後の晩餐を模して、ケンドリックがキリストのように振る舞っている最後の晩餐みたいなシーンもあったりして。

『HUMBLE.』ってちょうどね、リリースされた時に私も『INSIDE OUT』で解説しましたけど。マイク・ウィル・メイド・イットのビートを使ってケンドリックが「俺が左スィングしたらバイラルヒット。右スィングですぐに返ってくるぜ!」みたいなことも歌っていたりとか。これもまたビッグ・ショーンとドレイクに向けたディスがあるんじゃないか? みたいな話をしていて。

渡辺志保 Kendrick Lamar『HUMBLE.』を語る
渡辺志保さんがblock.fm『INSIDE OUT』の中でKendrick Lamarの『HUMBLE.』について話していました。 broke down everythin...

なので今度のアルバムはもう全方位的にケンドリックが「マーダー、マーダー、マーダー! キル、キル、キル!」みたいなテンションのアルバムになるんじゃないかな? なんてことも思ったんですけど、実際にフタを開けてみると、実はその『HUMBLE.』に散りばめられていた小さなエッセンスっていうのが実はアルバム全体を織りなす大事なピースのひとつひとつになっていたということになるんですよね。なので、シングル『HUMBLE.』単体で聞くよりも、アルバムを通して聞く『HUMBLE.』ってすっごい印象がガラッと変わるんですよ。で、私はこれを聞いたことに「あ、なんかデジャヴ?」って思って。これ、『To Pimp A Butterfly』の時に私が『i』っていうシングルを聞いた時の感覚と全く一緒で。



最初に『i』を聞いた時も、あれって「自分を愛さなきゃいけないんだぜ」っていうすっごいポジティブなメッセージの曲だったし。曲調もちょっとヒップホップではない、ポップ・ロックっぽい曲調。かつ、ファンキーな曲調だったりしたから、「あれ、ケンドリックさん、やっぱりここまで売れちゃうと、結構こういうポップ寄りに行っちゃう?」みたいな感じだったんだけど。でもあれもさ、アルバム全体で聞くと、ケンドリック自身の苦悩があって。「自分はラッパーとしても、どうすればいいかわからない」みたいな感じでホテルで1人で酒を食らって、ハウスキーピングのおばちゃんが来てもシカトする。そんでもって『You』っていう曲があって。「本当に俺、どうすりゃエエねん?」っていう自暴自棄になった後の『i』だったんですよね。

だから本当にそれと今回も一緒で。まあ、『i』ほどガラッと180度主張が変わるものではないんですけども。でも『HUMBLE.』もこれだけキルキルキル!っていう勢いいいケンドリックの姿もあれば、アルバムをフタを開けてみると、めちゃめちゃ弱いケンドリックもこの中には詰まっているっていうことで。いや、さすがよく練られておりますなということを感じました。まあ、こういう感じで各曲のテーマが複雑に絡み合っているっていうのも今回のテーマのひとつかなという風に思っています。で、さっき述べたFOXニュースのことなんかもそうなんだけど。あれも何度かに渡って楽曲の中に登場するし。まあさっきも言っていた「Nobody pray for me」っていうフレーズに関しても、ちょっと言い方を変えながらっていうのもあるんだけど、何回もアルバムの中に出てくるんですよ。で、ちなみにあと、「RoyaltyとLoyalty」っていうのも常に出てくるテーマでもあります。

なので、こうした小さなひとつひとつのテーマを反復、そして反芻することでより、アルバムの構造が複雑になっているのかな?っていう風に思っているんですよね。で、ちなみに私がこのアルバムの中ですごい好きな流れがあって。6曲目『LOYALTY.』。出ました。リリちゃん(リアーナ)が出てきますね。リリちゃんが出てきて、仲間との愛とか忠誠心、あとはパートナーとの愛を歌うんだけど、そこのリリちゃんが登場する時の1ライン目。「Bad gyal RiRi now(バッドガール・リリが来ました!)」っていう風に登場してきて。もう、「お前がバッドガールなのは知ってる!」っていう感じがするんですけど。その後にも、「Hundred carats on my name Run the atlas, I’m a natural, I’m alright(私の名前は百カラットの輝き。そして宇宙は私で回っている。私はナチュラル、オールライト)」っていうのを……もうバッドガール・リリ・パワーがすごいんですよ。

で、その後にリリちゃんがこの曲の最後でも「It’s so hard to be humble(謙虚でいるのは難しい)」っていう風に歌っていて。ここでも「HUMBLE.」がアルバムの中で流れる前に、リリちゃんが「ハンブル(謙虚)って難しいな」って自分で歌っているんですよね。というわけで、ここでそのリアーナとケンドリック、なにげにこれが初コラボなんですよね。まあ、いまごろドレイクが歯ぎしりしているかもしれないんですけども。このリリちゃんとケンドリック、どんな曲に仕上がっているのか聞いていただきたいと思います。ケンドリック・ラマーで『LOYALTY. feat. リアーナ』。

Kendrick Lamar feat. Rhianna『LOYALTY.』



はい。いま聞いていただいておりますのはケンドリック・ラマー最新アルバム『DAMN.』から『LOYALTY. feat. リアーナ』。で、ここでリリちゃんが「こんだけ成功してるバッドガールの私でございますから、ハンブル(謙虚)でいるのは難しいでございますわね」ってことをリリックでも歌っているんですけど、アルバムの中だとこの後、ジ・インターネットの最初のメンバーだったスティーブ・レイシーがプロデュースした『PRIDE.』に移って。ここではまた、『LOYALTY.』はさ、カンフー・ケニーだったケンちゃんなんだけど、『PRIDE.』は一転して「俺はパーフェクトじゃないってわかっているよ」っていう風に言ったりしていて。こっちとしては「あれ? あなた、世界最強のラッパーじゃなかったんですか?」っていう気がするんですけど、そういう風に弱音を吐露している。

かつ、この曲すごいのは、ケンドリックのバースが、ボーカルのピッチが1ラインごとに違うのよ。だからそれもすっごい不安定な彼の心を、そのピッチを変えることで表しているんじゃないか?っていう風にも思いますし。で、その後、さっきも話した『HUMBLE.』に続くんだけど、その『HUMBLE.』の後にアルバムの中だと『LUST.』と『LOVE.』が続く。その『LUST.』っていうのはさっきも言いました。七つの大罪にあります「色欲」ですね。言うなればインスタントな欲。セフレみたいな。なんだけど、『LOVE.』はもちろん本当に愛する人と向き合う感情ですから、その『LUST.』と『LOVE.』を対比させて歌っているんだけど。

ちなみに『LUST.』の中では結構普通の黒人男性・女性……なんだけど、普通じゃないね。ちょっとゲットーなところに住んでいるというか、もしかしたらコンプトンなのかもしれないですけど。そういうところに住んでいそうな黒人男女の日常をケンドリックがなりきってラップしているんだけど。たとえば、「朝起きて、シャワーを浴びて、俺はリーンを飲んで銃を持ってクラブに行くんだぜ」とか。女の子バージョンだと「家賃は彼氏に払ってもらって。私は今日も他のビッチが妬むような写真をインスタにポストします。でもって、クラブに行ってケツ振って。ああ、楽しい!」みたいなことをラップしているんですよ。それがインスタントな欲求に基づく『LUST.』なんですね。

で、ちなみにこの曲、バース2では今度は普通の男女の視点を経て、次はケンドリックの視点。で、最後はアメリカ国民の生活っていうかアメリカ国民の視点でラップをしていて。「朝起きて『あの選挙の結果は嘘だって言ってくれよ!』ってニュースを見るんだ」ってラップをしていて。「あの選挙の結果」っていうのはもちろん、去年行われたアメリカの大統領選挙で。もう「トランプが当選したって嘘だって言ってくれよ」ってデイリーニュースを見るというような内容になっておりまして。そこからだんだん「俺とアメリカ」みたいなテーマがこの『DAMN.』の中にも出てくるんですよね。ちなみに『LOVE.』でフィーチャーされている新人シンガー ザカリもすごいこのアルバムでいい仕事をめちゃめちゃしていますので。ぜひともみなさん、『DAMN.』を買って聞いていただければと思うんですけども。

これが私が言いたかったパート2のテーマ「Nobody pray for me」っていうことですね。で、テーマ3。3つ目がありまして。これは「Reverse」というテーマ。これは別に「Reverse」という単語が何回も出てくるわけじゃないんですけど。私が感じたことの一つでして。このアルバム、14曲目の『DUCKWORTH.』っていう曲で幕を閉じるんです。で、「DUCKWORTH」ってたぶんみなさん、聞いたハイパーナードたちはこの曲がどういう歌か知っていると思うんですけど。「DUCKWORTH」っていうのはケンドリックの名字なんですね。イコール、ケンドリックのお父さんについて歌っている曲。あと、街でいちばんのならず者じゃないですけど、ちょっと危険なギャングスタ代表みたいな感じでアンソニーさんというキャラクターがこの『DUCKWORTH.』の中には出てくる。

で、アンソニーとダックワースさんの話をしているんだけど、それがどういう話になっているか?っていうのは、ぜひぜひアルバムを聞いて感じていただきたいんだけど。まあ、言ったらそのアンソニーさんっていうのはTDEの社長さんなんですよね。で、その2人の物語っていうのを歌っているんだが、その後で、なんとこの『DUCKWORTH.』の曲が終わったら、レコードをよく逆回転する「キュルキュルキュルキュル……」っていう音がありますよね。で、その「キュルキュルキュルキュル……」っていう音が入って、その音がだんだんだんだんゆっくりになるのよ。で、ゆっくりになったら、よく聞くとそれが2曲目の『DNA.』の歌詞が聞こえてくる。それをさらに聞いていると、なんと1曲目の『BLOOD.』の最初のケンドリックのモノローグのところ。「So I was takin’ a walk the other day,(ある日、僕は道を歩いて散歩をしていたら……)」っていう、あのケンドリックの声が流れてこの『DAMN.』っていうアルバムが終わるんですよ。

っていうことは、リバースしてるのよね。普通にアルバムをオールリピートでかけていたら14曲目が終わって1曲目が流れるのは至極当たり前なんだけど。その一連の動作っていうのをもうすでにアルバムの最後の曲の中にケンドリックが入れているんですね。しかも自動的に1曲目になるんじゃなくて、ちゃんとリバースして1曲目に移るっていうのがちょっとキモかなと思っていて。で、ちなみに12曲目に『FEAR.』っていう曲があるんですけど、そこでも逆回転された、リバースで再生されたケンドリックのボーカルが使われているんですよ。で、これは私の本当にただの感想なんだけど。リバースするっていうことは、元に来た道と全く同じ道をたどるっていうことで、距離的にそこから遠くに行ったり、近くに行ったり、発展することはないっていう風に私は思っていて。グルグル同じところを回る。

ケンドリックのストーリーを『BLOOD.』からバーッと来て『DUCKWORTH.』まで聞きました。そしたらまた『BLOOD.』に戻る。また同じことの繰り返し=逃げられない閉塞感みたいなものを表しているんじゃないかな?っていう風に感じたんですね。で、『To Pimp A Butterfly』ではたとえばシチュエーションをホテルの部屋とか、あとコンプトンの街。あとは、アフリカに行くようなこともラップして。そのシチュエーションを変えてケンドリックがラップしてきたし。かつ、『Alright』という曲に関してはアメリカや世界に向けて希望を伝えるアンセムの役目も果たした。のだが、今作ではさっきも述べたようにめっちゃ家族の話題も多いし、とにかく自分のことを弱さと悪さ。善と悪の両方からスポットライトを当てて、それを鬱になっちゃうぐらいの感覚でひたすら自分の周りのこと、そして自分のことをラップしているアルバムなんですよ。なんでちょっと外の世界に向けたアンセムはこのアルバムにはないっていうか。『DNA.』とか『HUMBLE.』もとにかく自分がどんだけすごいかってことを歌っている曲になりますので、そこが『To Pimp A Butterfly』とはいちばん違うところかなという風に思ったんですよね。

で、ちなみにケンドリックなんですけど、Tマガジンっていう媒体があって、そこんこインタビューでは「いま興味があるのは家族のことなんだ」って言っていて。で、インタビュアーが「あなたの新しいアルバムはどんなアルバムになりますかね?」って質問をしたんですよ。そしたら、「あなた、子供います?」っていう風に聞かれて。「います。娘がいます」「たとえば娘がいます。彼女がいろいろ経験して、いつかその娘が『パパ、彼と結婚するんだ』って婚約者を連れてくるかもしれない。それは男親としては最も目を背けたい事実だけど、それを受容することを学んでいかねばならないし、その事実からは逃げちゃいけない。この僕の新しいアルバムはそういう内容になると思います」っていう風に言っているので、あたかも私が感じた「閉塞感があって、ひたすら自分のことについて歌っているアルバム」っていうのは間違っていない解釈なのかな?っていう風に思ったりもしました。

で、なぜケンドリックがこういうアルバムを作ったか?っていうことなんですけど、やっぱりオバマ大統領がホワイトハウスを去り、その後にトランプが大統領になったという事実は大きく関連しているんじゃないかという風に思っています。で、オバマ大統領といえば、「2015年の俺のベストトラックはケンドリックの『How Much a Dollar Cost』です」っていう。「ケンドリックの曲、大好き! なんらならホワイトハウスにも呼んじゃった!」っていうこともありましたし。もうめっちゃ頼れるビッグホーミーみたいな感じなんですよ。

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だからさ、ケンドリックのバックはもうオバマが守ってくれていたみたいな感じなんだけど、そんなオバマ前大統領が去ってしまい、トランプが来ちゃった。しかもケンドリックはFOXニュースにめっちゃ嫌われているという。めっちゃそれで「どうしよう、どうしよう……」っていう焦燥感とか、あと曲の中でも歌われているけど、渇き。なにか、愛情をめっちゃ求めるみたいな、そういう気分になったのかな?っていう。で、まさに「DAMN! トランプが大統領になって……DAMN!」っていう気持ちだったんじゃないかな?って言う風に感じております。で、その気持ちがめっちゃ込められているのが、やはりこれはいちばん話題になっている曲かもしれないですね。U2を招いた『XXX.』じゃないかと思います。

この曲でケンドリックはもう「本当にアメリカに絶望しました」っていう気持ちをタフにラップしているんですよ。で、自暴自棄になって銃を手に取る描写もあったりとか。その後にジョニーっていう子が出てくるんだよね。で、以前もケンドリックのラップのリトル・ジョニーっていうのが出てきたんだけど、ここで歌われているジョニーっていうのは結構コンプトンとかちょっと危険な地域に育った典型的なアフリカン・アメリカンの少年がジョニーなんじゃないかなという風に思っていて。「ジョニーはもう学校に行きたくないんだって。ジョニーはもう本を読むのはダサいって言ってるんだよね。ジョニーはハスラーで、昨日殺人を犯してしまったんだってさ」みたいなことをラップしていると。

で、バース2では「お前らが俺たちに教えたことを振り返ってみろよ。ストリートには殺人があふれているじゃないか!」みたいなこともラップしていて。「Donald Trump’s in office We lost Barack and promised to never doubt him again(いまやこの国はトランプが仕切っている。俺たちはバラクを失ってしまった)」……この「バラク」って言っているのがまたポイントかなと思って。バラクって名前だから。名字のオバマじゃなくて、名前のバラクって前大統領のことを呼んでいるっていうのも結構ポイントかなという風に思っておりまして。で、この曲、最後は「America’s reflections of me, that’s what a mirror does(アメリカは俺の写し鏡だ)」っていう風に締めているんですね。っていうことは、結構ここから読み取れるテーマがひとつ。「Me against the world」みたなテーマももしかしたら隠れているのかな? という風に思いました。

というわけで、最後の最後なんですけども、このU2が参加したケンドリックの『XXX.』を聞いてほしいと思います。

Kendrick Lamar feat. U2『XXX.』



はい。いま聞いていおりますのはケンドリック・ラマーの最新アルバム『DAMN.』から『XXX. feat. U2』でした。これね、最初の部分はこういう風にすっごいテンポよく進むんだけど、後半ね、ガラッと曲調が変わってボノが歌い出すっていうところがありますので。もしみなさん、『DAMN.』をまだ聞いてない方がいれば、もう聞いて、聞いて! みたいな。で、もうしゃべり足りないから、みなさん、しゃべりたい方がいたらどんどん私に連絡ください。で、みんなで『DAMN.』会をしましょう。で、いつか『INSIDE OUT』でもそれこそAKLOくんとか呼んで、またみんなで『DAMN.』について語る放送をしてもいいとさえ、私は思っております。なので本当に今回のアルバム、一言でいうと、ケンドリックがとことん自分に向き合って。そしてアメリカに向き合って、掘り下げるところまで掘り下げた超複雑難解なアルバムなんじゃないかと思っています。

この後、また今回も国内版がリリースされるような感じのことを聞きましたので。そうするとね、解説・対訳などもついてますから。またこのアルバムの楽しみ方が広がるんじゃないかと思っております。というわけで、ご清聴ありがとうございました。

<書き起こしおわり>

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