町山智浩 大ヒットミュージカル『ハミルトン』を語る

シェアする

町山智浩さんがTBSラジオ『タマフル』にゲスト出演。2016年アメリカ大統領選挙に関連するエンターテイメントとして、ブロードウェイミュージカル『ハミルトン』を紹介していました。

The newest issue of @rollingstone. #LinManuelMiranda #Hamilton #RiseUp

Hamiltonさん(@hamiltonmusical)が投稿した写真 –


(宇多丸)タマフルリスナーが選ぶ映画に出てくるアメリカのナンバーワン大統領総選挙。上位の方に行く前にですね、町山さんにお越しいただいているので、いまのアメリカ。実際に大統領選、本当にもう史上空前の良くも悪くも盛り上がりを見せている中、実際の大統領選のお話はあちこちでされていると思いますけども。エンターテイメントにいまの大統領選挙の盛り上がりみたいなのはどんな感じで反映されているのか? という……

(町山智浩)いま、アメリカはブロードウェイの話なんですけども。ブロードウェイミュージカルでね、『ハミルトン』というのがものすごい、空前の大ヒットなんですよ。

(宇多丸)へー! 『ハミルトン』。

(町山智浩)これ、ラップ・ヒップホップ・ミュージカルなんですね。で、『ハミルトン』っていうのはジョージ・ワシントン初代大統領の副官だった男なんですけども。22才でアメリカの基本的な構造を全部1人で作っちゃった男なんですよ。

(宇多丸)ええーっ?

アメリカの基本的な構造を1人で作った男

(町山智浩)まず、アメリカって連邦制度なんですけど、連邦制度は世界で初めてなんですよ。その制度をまず考えた男が彼。あとね、三権分立と最高裁による国家の監視っていう精度を初めて世界で実施して、そのシステムを作った人。

(宇多丸)ええっ? そんな、なんかものすごい……

(町山智浩)24ぐらいの時に作ったんですよ。

(宇多丸)あらかじめいろんなことを勉強してそこに至ったんですかね?

(町山智浩)この人は、ほとんど孤児に近くて。西インド諸島の出身なんですよ。で、移民で、ちょっとヒスパニック。血はヒスパニックじゃないんですけど、スペイン語が……英領の西インド諸島から来たんですね。だから、プエルトリカンに近い感じですね。で、教育も自分で勉強して独学で。

(宇多丸)独学で、そこまで。

(町山智浩)それで、22才でアメリカを独立させて。ジョージ・ワシントンの部隊の砲術の士官だったんですね。作戦を立てて。で、独立戦争に勝って。20代でアメリカのシステムの、たとえばドルを発行した人。で、中央銀行を作った人ですね。中央銀行制度っていうのを世界で初めてやった人。あと、国軍をアメリカで初めて作って。それまでは国軍っていなくて、独立戦争って基本的にミリシアって言われている民兵が戦っているんですけど、それに対していまのアメリカ軍っていうものをまず作った人。

(宇多丸)ちょっとすごすぎてやっていることが……

(町山智浩)これを20代で全部作っているんですよ。1人で。

(宇多丸)なんかさっき、船中八策じゃないけど、坂本龍馬みたいなって思いましたけども。それよりもはるかに……

(町山智浩)はるかにすごい。だからアメリカっていうのは実はこの人が作ったんです。ハミルトンっていう人が作ったんです。

(宇多丸)へー! 全然知らなかったっす!

(町山智浩)みんな知らなかったの。アメリカ人も。っていうのはこの人、大統領になれなかったんですよ。大統領になれるはずだったんだけど、非常に差別の中で、それに戦うためにコンプレックスで、非常に敵を増やしていったんです。論戦とかがすごく好きで。で、そのうちにどんどん敵が増えて、最後はね……これは有名なんでネタバレにはなっちゃわないんですけども。決闘で殺されているんですよ。

(宇多丸)ああー。そうなんだ。

(町山智浩)そうなんですよ。だから天才だったのに志半ばにして亡くなっている人なんですけど。で、これね、プエルトリコ系のリン・マニュエル・ミランダっていう人が……この人もだから西インド諸島出身の移民だから。

(宇多丸)ああ、まさに。

(町山智浩)「アメリカっていうのは白人のイギリス系が作った国だって思ったら、そうじゃなかった。システムそのものを全部1人でこの男が作っていて、こいつ自身は私と同じ、プエルトリコ系と同じような人なんだ」ということで、ドナルド・トランプが去年7月に「移民を全部叩き出せ! 壁を作れ! アラブ系を叩き出せ!」とか言ってきた直後の8月に、この『ハミルトン』っていうミュージカルがオフ・ブロードウェイで始まっているんですよ。で、内容は「アメリカから移民を叩き出せ!ってトランプが言っているけども、なんだよ。アメリカを作ったのは移民じゃねえか!」っていう話なんですね。で、これすごいのはジョージ・ワシントンとかジェファーソンとか、みんな黒人が演じるんですよ。

(宇多丸)ああ、そうなんですね。

(町山智浩)アフリカ系が。これ、このミュージカルはアメリカを建国した政治家やいろんな人たちの物語なんですけど、アメリカ人の役を全部アフリカ系とかプエルトリコ系、メキシコ系。あと、中国系とかの非白人だけでキャスティングしているんですよ。

キャストはほぼ非白人

Photo: Mark Seliger for @rollingstone magazine. #Hamilton

Hamiltonさん(@hamiltonmusical)が投稿した写真 –


(宇多丸)その心は?

(町山智浩)イギリス人が敵なんですね。イギリスの国王がね。だけが、白人なんですよ。ずーっとアメリカの非白人の人たちは「我々はアメリカというのが作られてから来たよそ者なんだ」っていう風に思っていたんですね。それで、アメリカの建国の歴史を習う時に、かならず白人の歴史しか習わなかったと。だけど、それをまあ……今度は俺たちの時代だよっていうことなんですよ。

(宇多丸)うんうん。

(町山智浩)実際にアメリカの白人って現在、全体で60%ぐらいしかいないんですよ。でもこれって2040年までに50%を切るんですよ。

(宇多丸)もう、白人の方がマイノリティーになる。

(町山智浩)白人の方がマイノリティーになるんで、その前にアメリカの建国の歴史を俺たちのものにしよう!っていうことですね。

(宇多丸)後ほどもお話をうかがいますけども、町山さんの『さらば白人国家アメリカ』という本にもまさに書かれているようなことですね。そうか。そういう意識を、自分たち自身も。

(町山智浩)そう。「これからは、俺たちの国なんだ。アメリカはもう白人の国じゃなくなるんだ。じゃあまず、アメリカの建国の歴史を俺たちのものにしよう!」っていうことですよね。

(宇多丸)うんうん。本当ね、移民の国っていうのは頭ではわかっていたけれど、本当にそこまで本質としてだったんですね。

(町山智浩)これがまた音楽が全部、ラップだけじゃなくてリズム・アンド・ブルースとかいろんなのが入っているんですけど。基本的には黒人音楽だけでやっているんですよ。で、またその音楽がすっごくいいんですね。

(宇多丸)へー! そのリン・マニュエル・ミランダさんが曲も作っている?

(町山智浩)1人で制作・脚本・演出・作詞・作曲・主演なんですよ。

(宇多丸)すごいな! へー!

(町山智浩)すっごいんです。天才なんですよ。この人は。で、まだ36か7。そんなもんなんですね。すっごいです。超天才ですね。ちょっと、1曲聞いてもらいますか? 『My Shot』っていうのを聞いてもらいますか?

Hamilton『My Shot』



(宇多丸)はい。『My Shot』。まだちょっと続いてますけども。

(町山智浩)これがね、ハミルトンが……歌っているのはリン・マニュエル・ミランダ。この『ハミルトン』っていうミュージカルを作った人が歌っているんですけども。これは自己紹介に近いんですよ。俺はどういう人間なんだ? という話で。どういう大学を出て……みたいな。

(宇多丸)さっきのね、「自分で勉強をして」みたいなね。

(町山智浩)そうそう。そういう話をしているんですけど。この歌詞そのものは、『My Shot』っていうのは、「俺のチャンスを絶対に捨てないよ」っていう歌なんですよ。「My Shot」っていうのはよくラップなんかにも出てくるんですけども。「俺はこのチャンスを絶対に捨てない。絶対にモノにしてやる」っていう歌なんですね。だから、成り上がりの話なんですよ。「俺はたしかに後ろだてもなにもない貧しい孤児だけれども、絶対にこの才能を活かしてやる!」って歌っているんですよ。

(宇多丸)うんうん。

(町山智浩)で、実際に天才だからそうなんですけど。これね、最初にこの歌を披露したのは2009年のアメリカでオバマ大統領が就任した直後のパーティーでこの人が呼ばれて。この人、天才だったんで。その当時。それで呼ばれて歌ったのは、「いま、実はハミルトンのミュージカルを作っているんです」って言って披露して、そこからミュージカルを作っていったんですね。



(宇多丸)ああ、なるほど。

(町山智浩)で、この歌詞は要するに有色人種とかマイノリティーがアメリカの政治に入ろうとすると、やっぱり「のし上がってやろう、のし上がってやろう」ってことで敵を作って失敗するんだっていうひとつの……『華麗なるギャツビー』とかさ、アメリカってそういう……『スカーフェイス』とかもそうですけど。のし上がってやろうとする人がそれで失敗する話ってすごい好きじゃないですか。そういう感じで、ちょっとギャングスタっぽいんですよ。内容が。

(宇多丸)ああ、なるほど。なるほど。

(町山智浩)まあ実際に銃を撃ち合うんですね(笑)。

(宇多丸)そうですね。決闘もあるわけだし。

(町山智浩)そうそう。でも前半はね、『スカーフェイス』そっくりだ。どんどんどんどん彼が才能を認められて、独立戦争になって。で、イギリス軍を蹴散らすっていうところで。で、アメリカ独立でバーン!って、真ん中の休みになるんですね。で、その後はその才能がありすぎて、逆にみんなとケンカしてどんどんどんどん人生を失敗していくという話の展開で。

(宇多丸)めっちゃ面白そうじゃないですか。

(町山智浩)面白い。『バリー・リンドン』とか、みんなその構造じゃないですか。めっちゃくちゃ面白いの。

(宇多丸)へー! これ、見たくてもでも、いま大人気ブロードウェイ。まあ、そう簡単には見に行けないっていう?

(町山智浩)いま、アメリカでブロードウェイでこれ、チケット取るのはほとんど不可能って言われているんですよ。

(宇多丸)ああ、もうそんぐらい大人気。

チケット入手はほぼ不可能

(町山智浩)僕もずーっとネットで探していて。そしたら、たまたま、はっきり言っちゃうけども転売だけど。6万円のチケットがあったんで、買ったんです。

(宇多丸)これ、でも6万円でも格安なんですよね?

(町山智浩)そう。格安。格安。いま、25万とか……

(宇多丸)(笑)。

(町山智浩)すごいことになっています。いま、いちばんチケットを取るのが難しいって言われているのがこの『ハミルトン』っていうミュージカルで。でも、この作った人、ミランダさんは「これはプエルトリカンとかアフリカ系の子供たちに見てほしいんだ」っていうことで、自分たちでチケットをタダで。くじでそういう子供たちに配って見せたりしているんですよ。

(宇多丸)へー! なるほど。だってそれこそ、子供たちの意識から変わっていけば、さらにアメリカもね。

(町山智浩)その通りなんですよ! だから、やっぱりプエルトリコ系の人とか黒人の人とかは「俺はしょせん……」って。ここまで行けるとは思ってないじゃないですか。だからオバマ大統領って本当に大事だったんですね。でも、「行けるんだよ。これからはあんたたちの時代だよ」って子供たちに言うためのミュージカルなんだよね。

(宇多丸)なるほど。いや、すっごい見てみたいですけど。これ、ああ、映画化も決まっているって言っているから。いつかは……

(町山智浩)決まっている。3、4年先だけど。でも、わざわざニューヨークに行ってこれだけのために見る価値もある。それぐらいすごいですよ。

(宇多丸)チケットさえ取れれば(笑)。

(町山智浩)音楽、めっちゃくちゃいいし。もうノリノリで。だから、普通のミュージカルってはっきり言って『レ・ミゼラブル』とか全然体が動かないでしょ?

(宇多丸)ああ、まあそういう曲じゃないですからね。

(町山智浩)シンコペーションじゃないからですね。で、そういうの、すっごい少ないじゃないですか。ミュージカルの中で本当にノリノリの。

(宇多丸)昔はロックミュージカルとかあったけど。ああ、サントラがiTunesで出ているということで。

(町山智浩)はい。ものすごい、これノリノリでね。みんな踊りながら見ているんで。すっごいですよ。もう客。

(宇多丸)へー! いいな! というか、すっごく見てみたい。楽しみですね。で、まあこの『ハミルトン』がまさにアメリカの現在の……

(町山智浩)これを作ったミランダさんは徹底的にトランプが嫌いで。トランプに対しての嫌がらせのYouTubeをガンガン作っている人ですよ。「もうふざけんな! 移民が作っている国で、なにが『移民は出て行け!』だよ?」ってやっていますね。まあでも、トランプは確実に負けるだろうと思いますけどね。

(宇多丸)ああ、そうですか。

(町山智浩)この本にも書いてある通りなんですけどね。

(宇多丸)これは詳しくは、『さらば白人国家アメリカ』を読んでもらいたいですが。


(町山智浩)この間ね、子供投票っていうのがあったんですよ。パッと言うと、アメリカで毎年やっているやつで、学校に行っている子供たちに投票させるんです。で、それってね、的中率が最も高いんですよ。大統領選の中で。

(宇多丸)へー!

子供投票の脅威の的中率

(町山智浩)これ、1940年から70年以上続いているんですけども、いままで外れたことは2回しかないんです。

(宇多丸)へー!

(町山智浩)それで結果は、ヒラリー52%、トランプはわずか35%なんですよ。

(宇多丸)ああ、全然違うんだ。

(町山智浩)だからこれはもう絶対に確実なんですよ。だって、外したことないんだもん。いままで。で、35%っていうのは確実だなと思うのは、実は白人の全人口が60%なんですね。アメリカの。で、そこから6割取ったとして。全白人の中から6割取ったとして、6×6=36で36%なんで。

(宇多丸)あっ、ちょうど!

(町山智浩)ちょうどなんですよ。だから、票読みは確実だなと思って。

(宇多丸)その子供投票の正確っぷりが逆に気持ち悪いわ!っていう(笑)。

(町山智浩)いつも正確なの。そう。気持ち悪いんですけど。だから、子供は親がしゃべっているのを見ているんです。黙っているけど、親が「トランプって嫌ね!」とか「ヒラリーって嫌ね!」って言っているのを聞いているから。それがそのまま反映されているから、確実なんですよ。

(宇多丸)なるほど、なるほど(笑)。「子供の無垢な目で……」とか、そういうんじゃないんだ(笑)。

(町山智浩)だからこれで注意した方がいいのは、子供は親の言うことを聞いているよっていうことなんですよね。

(宇多丸)でも、そうかもしれないですね。僕も昔、子供の時に、思い出しました。ホンダくんっていう人が、ホンダくんの家は共産党で。「佐々木くん家はきっと○○だね」みたいなことを言うんだけど、「いや、俺知らないんだけど?」みたいな(笑)。

(町山智浩)耳に入っているから、意味はわからなくてもその通り反応するんですよ。

(宇多丸)でも、まさにそれを思い出しました。

(町山智浩)この子供投票については全く日本で報道されいないんですよ。

(宇多丸)ああ、たしかに。

(町山智浩)それで、「トランプが追いかけている!」とか言うんだけど、子供投票がいちばん確実なんですよ。

(宇多丸)はい。ということでみなさん、『ハミルトン』もね、ニューヨークに行く機会があったりとか……

(町山智浩)チケット取れないよ(笑)。25万円出すとかね。

(宇多丸)25万円出せる人。あとはまあ、映画化を楽しみにしつつ……って言うことですかね。ということで、貴重な情報をいただきました。

<書き起こしおわり>