高橋芳朗 グラミー賞受賞曲への相次ぐ盗作疑惑を語る

高橋芳朗 グラミー賞受賞曲への相次ぐ盗作疑惑を語る 荻上チキSession22

高橋芳朗さんがTBSラジオ『荻上チキ・Session-22』に出演。近年のグラミー賞受賞作品に対して、盗作疑惑と訴訟が相次いでいる件について荻上チキさん、南部広美さんと話していました。

(南部広美)今夜のテーマは、『あの大ヒットソングも? 盗作疑惑が次々と降りかかるグラミー受賞作聞き比べ』ということです。

(高橋芳朗)はい。

(荻上チキ)というわけで、盗作疑惑がある曲を元ネタと聞き比べていろいろ考えてみようということなんですけども。

(高橋芳朗)そうですね。これからちょっとグラミー受賞曲が70年代、80年代の楽曲に似ているとして盗作騒動に巻き込まれているケースを3つ、紹介したいと思うんですけど。でも、先ほども言いましたように、別にこれ、いまのポップミュージックのクリエイティビティーの低下を嘆くとか、そういう企画ではなくて。むしろ、その盗作騒ぎが相次いでいることによって、ミュージシャンの制作環境がちょっと窮屈になりすぎているんじゃないか? と。そういう状況を危惧するものでございます。

(荻上チキ)うんうん。

(高橋芳朗)あれですからね。グラミー受賞曲、しかも主要部門の曲が3曲も盗作騒動に巻き込まれているっていうのはちょっと異常事態と言ってもいいと思うんです。

(荻上チキ)そうですね。

(高橋芳朗)日本ではめったにこういう盗作裁判みたいなのはないと思うんですけども。

(荻上チキ)裁判まで行くのはね。

(高橋芳朗)はい。まあ水面下でのやり取りは、もしかしたらあるのかもしれないですけど。

(荻上チキ)ネット上で炎上するとかはありますよね。

(高橋芳朗)ありますね。でも、欧米ではこういう楽曲盗作訴訟とか著作権侵害をめぐる裁判っていうのは割ともう日常的に行われておりまして。結構古いケースで有名なものだと、1963年にビーチボーイズの『Surfin’ U.S.A』っていう曲がチャック・ベリーの『Sweet Little Sixteen』に似ているっていう裁判を起こされて、ビーチボーイズが敗訴しているという。そういうケースもあります。

The Beach Boys『Surfin’ U.S.A』

Chuck Berry『Sweet Little Sixteen』

(荻上チキ)負けていることもある。

(高橋芳朗)それでビーチボーイズの『Surfin’ U.S.A』の作曲者クレジットにチャック・ベリーの名前が組み込まれていたり。そういうケースもあってですね。

(荻上チキ)はいはい。

(高橋芳朗)最近でも、レッド・ツェッペリンの『Stairway To Heaven』。まあロック史上に残る名曲ですけども。あの曲が訴えられて……ご存知でしたか?

(荻上チキ)最近ですか?

(高橋芳朗)訴えられたのは去年で、この6月に評決がくだされたばかりです。日本でも結構大きな話題になったんですけども。

(荻上チキ)なんで最近になって?

(高橋芳朗)これ、ロスアンゼルスのスピリットっていうバンドがレッド・ツェッペリンを訴えたんですけども。一説によると、裁判費用を捻出するのに結構時間がかかってしまったと。

(荻上チキ)めっちゃかかりましたね!

(高橋芳朗)かかりましたね。なんて言ったって、『天国への階段』は1971年の作品なんで。で、その1971年のレッド・ツェッペリンの『天国への階段』がスピリットっていうバンドの『Taurus』っていう曲に似ているとして裁判沙汰になりました。ちょっとじゃあ、このケースを聞き比べてみましょうか。

(荻上チキ)わからないですからね。

(高橋芳朗)じゃあ、音源をかけてもらえますか?

Led Zeppelin『Stairway To Heaven』


(高橋芳朗)これが『天国への階段』のイントロ部分ですね。まあ、お馴染みですね。

(荻上チキ)お馴染みの。

Spirit『Taurus』

(高橋芳朗)これがスピリットの『Taurus』です。

(荻上チキ)うーん……コード進行は同じですね。で、アルペジオ感は似ているんだけど、アルペジオそのものはまた違うフレーズではあると。

(高橋芳朗)ただ、こうやってギターを弾けばだいたいこんな感じになるかな?っていう気もするんですけども。これ、どういう結果が出たと思いますか?

(荻上チキ)これですか? ええーっ? これぐらいの……並べて聞くとたしかにすごく似ているっていう感じはあるんですけど。このコード進行+アルペジオみたいな感覚って他にもたぶんいっぱいあるじゃないですか。

(高橋芳朗)でしょうね(笑)。

(荻上チキ)そこまで言ってしまうと、結構アウトなものが続々出てしまうような気がするので……これはセーフ?

(高橋芳朗)セーフでした。レッド・ツェッペリンが無罪になりまして、スピリットの訴えは棄却されているんですね。で、もうひとつ、本編に入る前に昨今のヒット曲が次々に盗作騒ぎに巻き込まれるような事態のひとつの発端となったケースを紹介したいと思うんですけど。R&Bシンガーのロビン・シックが2013年に発表した全米ナンバーワンヒットの『Blurred Lines』がマーヴィン・ゲイのこちらも全米一位になっています。1977年のヒット曲『Got To Give It Up』の盗作として訴えられたケースがあるんですね。こちらもちょっと聞き比べ音源があるので。ちょっと流してもらいましょうか。

Robin Thicke『Blurred Lines ft. T.I., Pharrell』

(高橋芳朗)これがロビン・シックの『Blurred Lines』です。

Marvin Gaye『Got To Give It Up』

(高橋芳朗)これがマーヴィン・ゲイの『Got To Give It Up』。

(荻上チキ)うーん……

(高橋芳朗)これが裁判になったってご存知でしたか? 南部さん。

(南部広美)いや、知らなかったです。

(高橋芳朗)じゃあ、今度南部さんにお聞きしましょうか。これ、どういう結果が出たと思いますか?

(南部広美)聞く限りですよ、「別物でいいじゃないですか」って言いたい。

(荻上チキ)うん。たしかにベースラインとリズムの基本的な構成みたいなのは近いところがあると思うんですけども。そのメロディーラインとかボーカルの味付けとか、そうしたものはやっぱり別物ですよね。ただ、ベースラインが……特にベースが「ドゥドゥン♪」って二音が要所要所に合いの手的に挟まるところが結構音の選びも重なっていたりするので。

(南部広美)いや、でもこれを言い出したら、作れないじゃん!っていう(笑)。

(荻上チキ)これで負けたらミュージシャンのせいというよりは、ベーシストのせいっていう感じがしますけども(笑)。

(高橋芳朗)ただ、さっきの『天国への階段』のイントロよりは曲のデザインやフォルムは割と特徴的な楽曲かな? という気はするんですけどもね。で、これは結果、訴えられたロビン・シック側が敗訴です。

(荻上チキ)ああ、敗訴ですか。

(高橋芳朗)だから、約9億円の賠償命令が下されました。で、これ、後に新たな裁定が下されて。まあ、そんな変わんねえじゃねえか?っていう感じなんですけど、約6億5千万円。約3割減額されたんですけども、今後の『Blurred Lines』のロイヤリティーの50%がマーヴィン・ゲイの遺族側に支払われることになったんですね。で、この裁判の争点になっていたのは曲のフィーリングの部分なんですけども。

(荻上チキ)フィーリングなんですか?

(高橋芳朗)楽譜に反映されていない部分が著作権者の権利に含まれるかどうか?っていう。その解釈をめぐる裁判だったんですね。で、ロビン・シック敗訴の判決を受けて、この『Blurred Lines』のプロデューサーはファレル・ウィリアムスなんですけども。『Happy』という曲のヒットでおなじみのファレル・ウィリアムスのコメントとして、「今後の音楽やクリエイティビティーにとって恐ろしい前例が残ってしまった」と。

(南部広美)本当、そう思います。

(高橋芳朗)で、実際に彼が懸念していた通りの状況がちょっと起こりつつあるのかな?っていうのが今回の特集の本題でございます。

(荻上チキ)フィーリングっていうのはなかなか難しいですね。譜面のメロディーが一定以上、オタマジャクシの数が同じとかね。位置づけ、流れが同じであるとか、あるいは楽器のアレンジでドラムとかリズムとかそうしたものの打ち方が8小節並んで、どう考えても1ヶ所以外は同じだとか、なんかそういったところだと「重なっているよね」っていうことは言えるような気がするんですけど……フィーリングって言われちゃあね。

(高橋芳朗)まあ、「グルーヴが似ている」みたいな言い方ですね(笑)。

(南部広美)いや、それは……だってすごいリスペクトして、もう好きで好きで大好きで、毎日聞き込んでいたらどうやったって、それこそグルーヴっていうものは入ってきちゃうじゃないですか。

(高橋芳朗)そうなんです。その通りですよ!

(南部広美)そういうの、出ちゃうじゃないですか!って言いたい。

(高橋芳朗)それを継承していくのがポップミュージックだろ?って感じがするんですけども。僕、当時たまたまロビン・シックのこのアルバムのライナーノーツを書く機会があって、彼とメールインタビューをやる機会があって。ちょうど僕もそういう質問をしたんですよ。「『Got To Give It Up』にちょっと似ていますね」って言ったら、「ちょっとインスパイアされた」みたいなことを言っていたんですね。

(荻上チキ)ああ、なるほど。なるほど。

(高橋芳朗)それはインスパイアされたのはなんとなくわかると思うんですけど。聞いてみて。じゃあちょっと、本題に行きましょうかね?

(荻上チキ)はい。行きましょうか。

(高橋芳朗)グラミー賞の主要部門受賞曲が3曲、立て続けに訴えられたということなんですが。まず、最初に紹介するのは去年の第57回グラミー賞でレコード・オブ・ジ・イヤーを受賞したサム・スミスの『Stay With Me』です。まず、じゃあ曲を聞いてもらいましょうか。

Sam Smith『Stay With Me』

(高橋芳朗)曲を聞いている間、南部さんはもうすっかり火がついているようで……

(南部広美)ブンブンブンブン、芳朗さんに怒ってもしょうがないのに(笑)。

(高橋芳朗)(笑)

(荻上チキ)いや、僕はちゃんと聞いてましたよ。広がり感のあるポップスでね。

(高橋芳朗)去年のグラミー賞のレコード・オブ・ジ・イヤーを受賞しましたサム・スミスの『Stay With Me』。まあ、ご存知だと思いますけども。

(荻上チキ)ライブで歌うとね、ファンがみんな一緒に歌ったりなんかして。アンセム感があるようなね。

(高橋芳朗)合唱が起こる曲でございますけども。この曲がトム・ペティの1989年の作品『I Won’t Back Down』の盗作と指摘されました。じゃあちょっと、聞き比べ音源をお願いします。

Tom Petty And The Heartbreakers『I Won’t Back Down』

(荻上チキ)うーん……メロディーラインはかなり重なるところがありますね。

(高橋芳朗)そうですね。

(荻上チキ)曲調はだいぶ違いますね。ギターでしっかりとリズムを刻みながら、パワフルなメッセージを送ってますからね。

(高橋芳朗)で、『Stay With Me』が2014年にリリースされているんですけど、その当時からメロディーが似ているということは結構指摘されていたんですね。で、当初サム・スミス側は割とスルーしていたんですけど、後になって類似点があることを認める声明を発表しています。で、ただサム・スミスは『Stay With Me』が『I Won’t Back Down』の盗作であることは否定しているんです。で、否定しながらも、水面下で話し合いが行われたようで、結果的に友好的な合意として、『Stay With Me』の作曲者クレジットにトム・ペティら2人の名前が共作者としてクレジットされることになって。その2人には『Stay With Me』の印税の12.5%が支払われることになりました。

(荻上チキ)なるほど。パクッたわけではないけれども、やっぱり先輩として同じメロディーを作っていたのはたしかなので。

(高橋芳朗)で、トム・ペティの曲をパクッたという騒動って過去にも2回、起きているんですよ。実は。ひとつはニューヨークのストロークスっていうバンドの『Last Night』っていう曲がトム・ペティの『American Girl』っていう曲に似ているというケースと……


(高橋芳朗)あと、もうひとつはレッド・ホット・チリ・ペッパーズの『Dani California』っていう曲がトム・ペティの『Mary Jane’s Last Dance』に似ているっていうのがあったんですね。


(高橋芳朗)で、その時は、トム・ペティは「とても悪意を持って作られた曲だとは思えない」と。で、「ロックンロールで曲がこうやって似通うことはよくあることさ」って言って、非常に寛大な姿勢を見せていたんですよ。

(荻上チキ)その時は。

(高橋芳朗)そしたら、「なんだよ、トム……今回は訴えちゃうの!?」って。

(荻上チキ)その違いはなんなんでしょうか?

(南部広美)そこが知りたいですよ。

(高橋芳朗)知りたいですね(笑)。なんなんでしょうね。そこの声明は出ていないんですけども。サム・スミスはロックンロールじゃないからなんでしょうか? わからないですけども……で、いまはこのサム・スミスのケースのようにですね、法廷に持ち込まれる前に水面下で話し合われて金銭的示談に落ち着くことが多いです。

(荻上チキ)まあ和解っていうことですね。

(高橋芳朗)それはやっぱり、さっきのロビン・シックのケースのように多額の賠償命令が下されるというリスクが裁判に持ち込まれるとあるんです。やっぱりアーティスト側としては、裁判沙汰は回避しておきたいというところなんだと思うんですけどね。

(荻上チキ)はあはあはあ。

(高橋芳朗)このクレジット問題で面白いケースとしては、ローリング・ストーンズの1997年の作品で『Anybody Seen My Baby』っていう曲があるんですけども。これがk.d.ラングの1992年の『Constant Craving』っていう曲と類似しているっていう話があるんですけども。


(高橋芳朗)これはストーンズがその『Anybody Seen My Baby』の曲を作ってリリースする前に、メンバーの家族が聞いて、「これ、k.d.ラングのあの曲に似てない?」って言ったんですよ。そしたら、ストーンズが先にリリース前にk.d.ラング側とコンタクトを取って、「こんな事態になっているんだけど、あなたの名前を作曲者クレジットとして入れるから、それで許してもらえませんか?」って作品が出たっていうケースもあったりするんですよ。

(荻上チキ)へー!

(南部広美)あらかじめ。

(高橋芳朗)そうですね。まあ、ストーンズ。ベテランならではの根回しの上手さっていうことなのかもしれないですけど。

(荻上チキ)なるほど。でもいまは、メロディーを口ずさむとアプリとかでね、曲を紹介してくれるやつとかあるから。なんか曲検索とかもできちゃう時代じゃないですか。いま、楽曲とかで。だからたぶん、ネットユーザーとかでも曲検索とかで類似のものはないか?って探したりとか。やっぱりたくさんのリスナーがいるから、その曲を聞いた人の中に「あれじゃないか?」ってピンと来て、ネットでアップして、「そうだ、そうだ!」って話題になって……みたいな。そうしたお祭りになりやすい環境っていうのは整っているんですね。

(高橋芳朗)そうですね。ワン・ダイレクションなんかは結構アンチのファンとかも多かったりするので、彼らの曲が盗作騒ぎでネット上で炎上することは結構よくありますね。

(荻上チキ)日本でもね、一時期浜崎あゆみさんとね、やっぱりアンチが多い方っていうのは次から次へといろいろ指摘が起こって、さあどうなのか? みたいなことはあったりしますけどね。ただまあ、ネット社会というのが特徴のひとつではあるかもしれませんね。

(高橋芳朗)なのかもしれませんね。では、続いて。2つ目のケースに行ってみたいと思います。これは今年です。第58回グラミー賞のこれまたレコード・オブ・ジ・イヤーを受賞しましたマーク・ロンソン feat. ブルーノ・マーズの『Uptown Funk』。まず、じゃあ曲を聞いてください。

Mark Ronson『Uptown Funk ft. Bruno Mars』

(高橋芳朗)はい。今年の第58回グラミー賞でレコード・オブ・ジ・イヤーを受賞しましたマーク・ロンソン feat. ブルーノ・マーズで『Uptown Funk』でした。ご存知ですよね? よくかかってましたよね?

(荻上チキ)ご機嫌ですね。

(高橋芳朗)ご機嫌でございますよ。このご機嫌な曲が、ギャップ・バンドの1979年の作品『Oops Upside Your Head』の盗作と指摘を受けました。ちょっと聞き比べてみてください。

The Gap Band『Oops Upside Your Head』

(高橋芳朗)まあね、まあね……っていう。

(荻上チキ)いや、こういう風にリズム的にシャウトをしていくっていうリズムシャウトのスタイルって他の曲でもいっぱいあるじゃないですか。

(南部広美)そう! そう言いたい!

(高橋芳朗)(笑)

(荻上チキ)いまのところだけ聞くと、そこまで類似している感はないですよね。

(高橋芳朗)ファンクのこういう合いの手みたいなのまで対象にし始めたら、いや本当に大変なことになりますよっていう話なんですけども。これもですね、先ほどのサム・スミスのケースと同じように、法廷に持ち込まれる前に示談で解決したんですけども。話し合いの結果、マーク・ロンソン『Uptown Funk』の作曲者クレジットにギャップ・バンドのこの『Oops Upside Your Head』の作者5人の名前が共作者としてクレジットされることになりました。それにより、この5人全員で『Uptown Funk』の印税の17%を受け取ることになりました。ちなみに『Uptown Funk』はアメリカだけで500万枚突破ということなんですけども。。

(荻上チキ)なるほど。

(高橋芳朗)はい。で、この一件で非常に問題視されているのはギャップ・バンドの代理人になった音楽出版社があるんですね。ロンドンのマインダー・ミュージックっていうところなんですけども。で、この会社がこうした大ヒット曲の権利侵害の主張をして、たびたび法的に訴えているんですよ。この会社が。だから業界内で割と悪名の高い存在として知られているんですね。で、この『Uptown Funk』にしてもマインダー・ミュージックからギャップ・バンド側にコンタクトを取って、メンバーをそそのかしたじゃないですけど、そういう噂もちょっと上がっているぐらいにで。

(荻上チキ)ああー。

(高橋芳朗)やっぱりこういう人たちは音楽なんかどうだっていい人なわけですよね。金儲け目当てで訴訟沙汰を起こしているということですけども。だからこのまま行くとですね、ヒット曲の権利侵害を訴えて多額の賠償金をせしめていくことが金儲けの手段として確立されてしまう恐れが非常にあるということですね。

(荻上チキ)うーん。

(高橋芳朗)で、ちょっと聞いていただければわかるんですけど、この『Uptown Funk』っていう曲はもう80年代の往年のファンクの名曲の幕の内弁当みたいな曲というか。いろんな曲の要素、エレメンツを結集して作ったような……

(荻上チキ)「ファンクってこうだよね?」っていうのを。

(高橋芳朗)じゃあちょっと、1曲聞いてもらいたいんですけども。この『Uptown Funk』に最もよく似ていると言われているワン・ウェイの『Let’s Talk』という曲を聞いてください。

One Way『Let’s Talk』

(高橋芳朗)はい。というわけでマーク・ロンソン『Uptown Funk』に似ていると言われているワン・ウェイの『Let’s Talk』を聞いていただいたんですけども。

(荻上チキ)王道的ファンクですね。

(高橋芳朗)そうです。さっきのギャップ・バンドはフレーズの話だったじゃないですか。だから曲全体で言うと、こっちの方がもしかしたら似ているところはあるんじゃないかと。だから、さっき言ったマインダー・ミュージックみたいな音楽出版社がたとえば、もしこのワン・ウェイのバンドのメンバーのところに行って、「実はこういうことが起こっているよ。あなたたちが作った曲に似ている曲がありますよ。ちょっと裁判でも起こして、いっちょ金儲けしませんか?」みたいなことは、もういくらでも起こってしまうんですよね。

(荻上チキ)うーん。フィーリングって言ったら、ジャンルってやっぱり似通うものですから。それこそ、どのジャンルも似たような系譜の先にあるということなので。だからインタビューとかで「いやいや、自分は本当に○○チルドレンでね」とか、リスペクトしあっていけばいい気もするんですけどね。

(高橋芳朗)だからそういうこともちょっと、あんまり口に出しにくくなるっていうか。

(荻上チキ)それが証拠だって言うことになっちゃうから。

(高橋芳朗)そうなんですよ。でも、僕らなんかはそういうアーティストのインタビューを読んで、昔の音源を遡って聞いて音楽の知識を広げていったりしたわけじゃないですか。だから本当にこれはね、よろしくねえな!っていう感じなんですけども。

(荻上チキ)本当にパクリだったらこれは由々しき事態だし、怒るべきだし。完全にオリジナルの方をバカにしているというか、誰もが知ってるあの曲に対してリスペクトの欠片もないみたいなものはファンも怒ると思うんですけど……

(高橋芳朗)だからさっきのトム・ペティの発言通りだと思いますよ。「とてもじゃないけど、悪意を持って作られた曲ではないだろう」っていう感じはしますけどね。じゃあ、最後のケースに行きたいと思います。これも今年の第58回グラミー賞。今度はソング・オブ・ジ・イヤーを受賞した曲になります。エド・シーランの2014年のリリース作品『Thinking Out Loud』。聞いてください。

Ed Sheeran『Thinking Out Loud』

(高橋芳朗)秋の夜に聞くのにぴったりなバラードになっています。いまね、欧米ではウェディングソングの定番にもなっていますね。エド・シーランの2014年の作品『Thinking Out Loud』を聞いていただきました。で、この曲が、またマーヴィン・ゲイの1973年の作品『Let’s Get It On』の盗作であると指摘されているんですが。聞き比べ音源をお願いします。

Marvin Gaye『Let’s Get It On』

(南部広美)これを言い出したらさ……

(高橋芳朗)似てるは、似てるんですけどね。

(荻上チキ)もともとシンプルなコード進行とリズムと、そしてそれにボーカルを乗せるという構成なので、最低限のミニマムな作りになっているのはたしかですよね。だけど、かたやファンキーなテイストになっていて、かたや歌い上げるバラードになっているので、曲調や世界観は随分違いますね。

(高橋芳朗)で、これはですね、本当つい最近。先月ですね。8月になってエド・シーランが訴えられていることが明らかになったばかりなんですね。で、訴訟文によると、「エド・シーランは『Let’s Get It On』の中核をなすコード進行とメロディー、リズムを盗用して曲中で繰り返し使っている」という主張なんですね。で、訴訟を起こしたのはさっきの『Blurred Lines』の、マーヴィン・ゲイの遺族ではなく、『Let’s Get It On』の共作者であるエド・タウンゼントっていうソングライターの遺族になります。で、これはさっきのロビン・シックの『Blurred Lines』のケースとも同じことが言えるんですけども。果たして曲を実際に作ったミュージシャン当人が存命だったら、こういう事態になっただろうか?っていう疑問が、まずひとつあります。

(南部広美)同感です。

(高橋芳朗)「遺族が権利侵害を主張している」っていう点がちょっと、モヤモヤに拍車をかけているところがあるかなという気がしますね。

(荻上チキ)これは、まだ訴訟をされていることが明らかになったということなので、判決は出ていない?

(高橋芳朗)そうですね。だからこれから裁判に突入していくかもしれませんし、もしかしたらまた例によって水面下で話し合いが持たれるかもしれない。ちょっとどう転ぶかはわからないんですね。で、エド・シーラン側も現時点ではノーコメント。コメントを控えているんですよ。ただですね、この『Thinking Out Loud』がリリースされて間もない頃にですね、エド・シーランがライブでこの『Thinking Out Loud』とメドレーでこの『Let’s Get It On』を演奏していたことがあるんですよ。

(荻上チキ)ほう!

(高橋芳朗)これ、YouTubeとかにも動画が上がっているんですけどもね。

(荻上チキ)はいはい。

(高橋芳朗)つまり、エド・シーランもこの曲、自分で作った『Thinking Out Loud』がマーヴィン・ゲイの『Let’s Get It On』のニュアンスを持った曲であるっていうことは認めざるをえないっていうところはあるんです。だからこれがどういう展開になっていくかは本当に、ちょっと興味深いところですね。

(荻上チキ)それはリスペクトを込めたことがかえって裁判だと……

(高橋芳朗)だってこれ、ライブでこの『Thinking Out Loud』を演奏して、そのままマーヴィン・ゲイの『Let’s Get It On』を演奏してくれたら、もう最高にハッピーじゃないですか。素晴らしいじゃないですか。お客さんたち、もう大喜びですよ。

(南部広美)むしろ、その流れで聞きたいと思って行く人もいるかもしれない。

(高橋芳朗)そういうことがやりづらくなっていくっていうことですね。

(荻上チキ)なるほどね。

(南部広美)なんか前もって曲ができて世に出す前に、いろんな配慮をしていかなくちゃいけない時代になっていくみたいなことを思っちゃうんですけど。

(高橋芳朗)本当、ミュージシャンのクリエイティビティーを萎縮させてしまうという意味で、本当に嫌な流れになっているかなという感じですね。音楽業界全体が停滞しかねない事態かなという気がしますね。音楽がつまんなくなっちゃうんじゃないかな?って。

(荻上チキ)家族の側からすると、お金だけじゃなくてやっぱり誇りというか、自分の家族の身体を傷つけられた、大事なものを無視されているような気がするみたいなようなところも気持ちとしてある人もいるでしょうし。

(高橋芳朗)まあ、もちろんね。

(荻上チキ)いろんなお気持ちの方がいると思うんだけど……

(高橋芳朗)で、ひとつご紹介したいお話があるんですけど。DREAMS COME TRUEの中村正人さんがアース・ウィンド・アンド・ファイアーの先日亡くなったモーリス・ホワイトに会った時に、「私はあなたの作った音楽をさんざんパクッて日本ですごい売れています」みたいなことを本人に言ったらしいんですね。そしたらモーリス・ホワイトがこう答えたそうなんですよ。「それでいいんだ。私も先達のアーティストからいろいろ盗んできた。そこにオリジナリティーを加えて次の世代にバトンタッチ、受け渡すのが君たちの仕事なんだ」と。

(南部広美)うーん。モーリス・ホワイト!

(高橋芳朗)モーリス・ホワイト!(笑)。いや、もう本当に……これですね。これだと思います。ここに僕は答えがあるんじゃないかと。

(南部広美)誰が言うんじゃなく、モーリス・ホワイトがそれを中村さんに言ったんですね。

(高橋芳朗)だから、ビートルズだってローリング・ストーンズだってリズム・アンド・ブルースやロックンロールのレジェンドの曲をモチーフにして自分たちの曲を作って、そこにオリジナリティーを加えていって自分たちのスタイルを確立させていっている。

(荻上チキ)ヒップホップなんてそんなこと言ったらね。

(高橋芳朗)まあヒップホップはちゃんとサンプリングしている時はクリアランスを取っていますけども。いや、だからこの流れで行ったら、本当に極端な話ですけど。たとえば「チャック・ベリーがウォーミングアップを始めました!」みたいなことになったら……

(荻上チキ)(笑)。そうですね。ロックンロールの「テレレ、テレレ……♪」から始まるやつはもうだいたいアウトっていう。

(高橋芳朗)そうですね。そういうことになりますね。

(南部広美)つなげなくなっちゃうじゃないですか!

(高橋芳朗)「モータウンのソングライターチームがウォーミングアップを始めました!」みたいなことになったら、本当に音楽業界がひっくり返っちゃいますからね。

(荻上チキ)そうか。

(南部広美)あと、作ったものを点検していくみたいなカルチャーができてきたりすると、「ここが似てないかな?」とか。そうすると、第一創作者の人たちがどんどん作れなくなっていくんじゃない?って思うと、心配になる。

(高橋芳朗)これはちょっと、そうですね。だから、そのへんも含めて次のエド・シーランのケースがどうなるかは本当に注目したいなという。

(荻上チキ)これ、ファンたちの反応はどうなんですか?

(高橋芳朗)ファンですか。まあ、どうなんですかね? 本当に意見は様々だと思うんですけども。当然、やっぱりアーティストを支持しているファンからすれば、複雑なところがあるでしょうし。面白くはないでしょうね。

(荻上チキ)そうですよね。これからじゃあ、クレジットがミドルネームばりにどんどんどんどん増えていくっていうことになっていくのかな?

(高橋芳朗)まあ、レディオヘッドの『Creep』とかもね、以前にはホリーズっていうイギリスのバンドに訴えられて、彼らのクレジットが入っていたりとか。そういうケースは結構普通に起こっているんで。

(荻上チキ)これ、訴訟文化のアメリカならではっていうところはあるわけですかね?

(高橋芳朗)そうですね。まあ、アメリカ、イギリスでも起きてますけれども。

(荻上チキ)日本でも似たようなこと、起き始めますかね?

(高橋芳朗)日本は、でもやっぱり裁判に行く前に水面下で決着がつくことが多いんじゃないかな?って。でもあんまり……本当に聞かないですね。日本は。

(荻上チキ)「裁判」っていうところはね。

<書き起こしおわり>
https://miyearnzzlabo.com/archives/28420

タイトルとURLをコピーしました