町山智浩 アメリカでインディペンデント映画が減った理由を語る

町山智浩 日本人が誤解しているアメリカ像を語る J-WAVE

町山智浩さんがJ-WAVE『Others』にゲスト出演。ふかわりょうさん、稲垣えみ子さんとアメリカでインディペンデント映画が減った理由やトロント映画祭について話していました。

(ふかわりょう)(メールを読む)「町山さんに質問です。最近、主役対主役の映画がよくあるような気がするんですが、アメリカでは実際にウケているんでしょうか?」。

(町山智浩)主役対主役?

(ふかわりょう)バットマン対○○とか、なんかそういう飛び道具的な……

(町山智浩)はいはい。あれはもう、DCコミックスっていうののシリーズなんですけども。マーベルと対立する漫画会社なんですよ。で、マーベルがすごく成功しているんですが、DCはなかなか上手く行かないんですよ。で、バットマンとスーパーマンをぶつけたら、いくらなんでも客は入るだろうと思ってやったら、あんまり上手く行かなかったっていう。

(ふかわりょう)あっ! あれは上手く行かなかった?

(町山智浩)あんまり上手く行かなかったんですよ。で、もうあれは飛び道具なんですよ。本当に。

(ふかわりょう)そうですよね。

(町山智浩)もう、たけし対さんまみたいなものですよね。本当に。

(ふかわりょう)(笑)。あの、アメリカでそういうハリウッド映画っていうのは、どういうことなんでしょうか? もうアメリカの映画っていうのはほとんどハリウッド映画っていうことなんですか?

(町山智浩)うーん……前は違ったんですよね。ハリウッドで作られない映画もあって、テキサスとかニューヨークとかにいっぱい映画会社があって。で、ハリウッド映画じゃない映画もあったんですけど。まあ、最近はすごくそっちが弱くなっちゃったですね。インディペンデントの映画はね。

(ふかわりょう)は、弱くなっちゃった? ああ、そうですか。

(町山智浩)資本が集まらなくなって、お金を集めるのがいま大変で。いま、ハリウッド映画の多くが中国からのお金で作るという状況になっていますから。

(ふかわりょう)ええーっ?

(町山智浩)いま、アメリカ映画っていうのはアメリカでの興行収入がいままでトップだったんですけど、もうすでに中国に抜かれつつあって。中国はいま、世界最大の映画消費国なんですよ。に、なるんですよ。もう、確実に。

世界最大の映画消費国 中国

(ふかわりょう)インドもかなり上ですよね?

(町山智浩)インド人はなぜかアメリカ映画をあんまり見ないんです。

(ふかわりょう)ああ、そうか。アメリカ映画の消費は。

(町山智浩)アメリカ映画の消費に関しては中国が最大の市場になりつつあるか、なったかなんですよ。ただ、中国ではアメリカ映画を公開する時には中国の俳優が出ているか、中国のお金で作っているかのどちらかの必要があるんですね。

(ふかわりょう)はー!

(町山智浩)だから、最近だと『スタートレック』とか『ミッション:インポッシブル』なんかはほとんど完全に中国資本で撮っているんですよ。

(ふかわりょう)やはりお客さんが中国人が多くなると、中身も影響を受けずにはいられないんじゃないですか?

(町山智浩)中身も、まず中国人の俳優を出さないと中国で公開できないんです。

(ふかわりょう)はー!

(町山智浩)だから日本映画っていうのは日本人の映画を普通に作った場合、年間2本ぐらいしか公開できないんですよ。枠があって。で、ハリウッドにも枠があったんですけど、枠を突破するには中国人の俳優を出すか、中国のお金を入れれば中国でいくらでも公開できるんですよ。

(ふかわりょう)ああ、そうなんですか。これは本当、我々の……まあ、知らなくてもいいシステムですけども……

(町山智浩)あと、中国で撮れば、撮影をすればいいんですね。

(ふかわりょう)ああ。

(町山智浩)だから今度、『万里の長城(THE GREAT WALL)』っていう映画が中国人の監督で作られるんですけど。なぜか、主演がマット・デイモンなんですよ。

(ふかわりょう)あ、それもやっぱりそういうシステムから?

(町山智浩)万里の長城を作る時に、白人はいねえだろ!って思うんですけど(笑)。

(ふかわ・稲垣)(笑)

(町山智浩)でも、それは「金の問題があるからちょっとマット・デイモンを出して」っていう話になって。万里の長城はなぜかマット・デイモンが作ったことになっていますよ。中国で。

『万里の長城(THE GREAT WALL)』

(ふかわりょう)あと、これも聞いたことがあるんですけど、ハリウッド映画は編集権は監督じゃないって伺ったんですけども……

(町山智浩)まあ、ハリウッド映画っていうか、製作をしている人。プロデューサーが最終的編集権を握るんですよ。でも、監督が製作を兼ねている場合ね。スピルバーグとか。その場合は、できるわけですよ。

(ふかわりょう)ああ、そうなんですか。だから、いわゆるディレクターズカットなんていうのが一時期よく出回りましたけどもね。

(町山智浩)はいはい。あれはだから、プロデューサーが監督じゃない場合は最終決定権がないんで。

(ふかわりょう)ああ、そうなんですか。ちなみに、アカデミー賞を占うと言われるトロント国際映画祭。先日……

(町山智浩)はい。行ってきました。

(ふかわりょう)これはどういう映画祭なんですか?

(町山智浩)これはまあ、普通にカナダのトロントでやる映画祭なんですけども。ここで秋から冬にかけてアメリカで公開される映画のテストが行われるんですよ。で、そこでウケたらアメリカで大々的に宣伝費をかけて公開するという、なんて言うんですかね?

(ふかわりょう)マーケティングのような……

(町山智浩)マーケティングに使われるんですね。だから、それでアカデミー賞がわかるんですよ。

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(ふかわりょう)はー! そういう流れなんですね。アカデミー賞は何月ですか?

(町山智浩)アカデミー賞は2月なんですよ。

(ふかわりょう)ああ、そうですか。でもいま、すでに日本で「アカデミー賞候補」とかなんか、そういうフレーズ、出てますよね?

(町山智浩)まあ、出てますけどね。ただ、トロントで試してからっていう感じなんですよね。だいたいが。

(ふかわりょう)ああ、そういう流れなんですか。アカデミー賞とかって、やっぱり書いてあるとちょっと心、動きますか?

(稲垣えみ子)いや、あんまり……

(町山智浩)(笑)

(ふかわりょう)いや、それはそれでいいと思いますけどね。なんせ、日本人はそういう記号に弱いんで。

(町山智浩)賞とかに弱いですね。芥川賞とかね。

(ふかわりょう)ですよね。フレーズに弱いんですけど。あの、ジム・ジャームッシュってニューヨークの監督ですか。ああいうのって、アメリカ人の中でどういう風な位置づけなんですか?

(町山智浩)いわゆるアート映画、インディペンデント映画ですね。で、アメリカでは都会に住んでいる人しか見ないんです。ああいう映画の市場はヨーロッパなんですよ。

(ふかわりょう)ああ、やっぱりそうなんだ。でも、それはヨーロッパを意識して作っているんですか?

(町山智浩)いや、意識はしてないけど、お金はやっぱりヨーロッパからしか入らなくて。アメリカではインディペンデント映画、アート映画はお金はほとんどヨーロッパから得て作っています。

(ふかわりょう)ああー、そうなんですか。

ヨーロッパのお金でアメリカのインディペンデント映画は作られる

(町山智浩)ヨーロッパにケーブルテレビのネットワークがあるんですよ。で、そこでは中年以上のインテリの人たちが見る映画が必要なんで、彼らがお金を出してウディ・アレンとかそういう、いわゆる芸術的な映画はヨーロッパからのお金で作られていますね。

(ふかわりょう)ああー! こんな話を聞くとは思わなかったです。今日。

(町山智浩)アメリカ人、見ないので。

(ふかわりょう)ウディ・アレンの映画、アメリカ人は見ない?

(町山智浩)ウディ・アレンの映画はほとんど100%ずっとフランスとかからお金を得て作ってますよ。

(ふかわりょう)私、本当に奇をてらっているわけではないですけど。いわゆる「全米が泣いた」とかのハリウッド映画よりも、いわゆるそういうもの……

(町山智浩)ハリウッドじゃない映画ですね。ウディ・アレンの映画はハリウッド映画じゃないんです。

(ふかわりょう)ウディ・アレンやジム・ジャームッシュが私は好きなんですけど、あまり健全じゃないですかね?

(町山智浩)いや、まあそれはそれで……ジム・ジャームッシュの映画は小津安二郎の影響を受けているから、日本人には心に触れるものがあるんですよ。日本的なんですよ。

(ふかわりょう)じゃあ町山さん、アカデミー賞で注目の作品ってあるんでしょうか?

(町山智浩)はい。トロント映画祭で見た映画なんですけども。『The Birth of a Nation』っていう映画が非常に話題になっていて。これは黒人が奴隷だった頃に白人に対して反乱を起こした黒人がいまして。それを描いた映画なんですが。監督、主演、脚本、製作を1人の、ネイト・パーカーという人がやっていて。まあ「天才登場」という風に言われていたんですよ。

(ふかわりょう)はー!

(町山智浩)で、ナット・ターナーという黒人が反乱を起こしたという事実がアメリカではずっと歴史的には抹殺されていたのを初めて映画にしたと。ただ、その監督が学生時代にレイプ事件を起こしていたことが発覚して、大変な問題になっているんですけどね。もう、難しいことになっていますが。

(ふかわりょう)じゃあ、そのサウンドトラックから1曲、いきましょうか。

(町山智浩)これはニーナ・シモンさんが歌っているビリー・ホリデイの名曲ですね。『奇妙な果実』がこの『The Birth of a Nation』の主題歌なんで。ちょっと聞いてもらえますか?

Nina Simone『Strange Fruit』

(ふかわりょう)はい、町山さん。

(町山智浩)これはね、『奇妙な果実』という歌は「アメリカの南部に行くと不思議な果物がなっているわよ。木からぶら下がっているわよ」っていう、これは黒人のリンチのことについて歌っているんですよね。で、昔は投票に行くとリンチされるみたいなことがあったりね。で、これはビリー・ホリデイという人がほとんど初めてに近い形で作った黒人の人権を訴える歌でしたけども。

(ふかわりょう)これ、たとえばですけど、こういう曲はいま時代は変わり、そういう作品は作品として残っているじゃないですか。やはり、黒人以外は歌いにくいものなんでしょうか?

(町山智浩)まあこの『Strange Fruit(奇妙な果実)』に関してはいろんな人が歌っていますね。これは名曲なので。

(ふかわりょう)作品として。

(町山智浩)作品として。これはもう、リンチもついこの間まであったことで。1960何年。僕が生まれた後も続いたことなんですけどね。

(ふかわりょう)これが『The Birth of a Nation』の中で使われてるということで。

(町山智浩)まさにそのシーンで、木からたくさんの黒人がぶら下がっているというシーンでこれが流れるんですよ。

(ふかわりょう)これがアカデミー賞をとるかどうかもありますけど、日本に来るのはタイミングとしては?

(町山智浩)タイミングとしてはアカデミー賞の頃だと思いますよ。公開されるのは。

(ふかわりょう)ああ、そうですか。いや、非常に楽しみですね。

<書き起こしおわり>

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