高橋芳朗 ジェイ・Zプレイリスト『Songs For Survival』を語る

高橋芳朗 ジェイ・Zプレイリスト『Songs For Survival』を語る ジェーン・スー 生活は踊る

高橋芳朗さんがTBSラジオ『ジェーン・スー生活は踊る』の中で、アメリカのラッパー、ジェイ・Zが相次ぐ警官の黒人男性射殺事件などを受けて公開したプレイリスト『Songs For Survival』を紹介していました。

(ジェーン・スー)さあ、今日のテーマは?

(高橋芳朗)今回はですね、今週月曜日のオープニングトークでもスーさんが話していましたアメリカで起きています警官による黒人男性射殺事件と絡めて、ちょっとこういう感じでお送りしたいと思います。トップアーティスト、ジェイ・Z(Jay-Z)がプレイリストを発表。タイトル『Songs For Survival』に込めた意味とは? いま、お話した通り、ここ数年アメリカでは警官による無抵抗の黒人への暴行事件というか殺害事件が大きな社会問題になっていまして。

高橋芳朗 黒人差別問題とブラックミュージックを語る
音楽ジャーナリストの高橋芳朗さんがTBSラジオ『荒川強啓デイ・キャッチ!』に出演。いまなお続くアメリカの黒人に対する人種差別問題と、ブラックミュージックというテーマでキング牧師が殺害された1968年と2015年を対比させつつ話していました。...

(ジェーン・スー)そうですよね。

(高橋芳朗)先週は5日のルイジアナ州バートンルージュ、6日はミネソタ州で黒人男性が警官に射殺される事件が立て続けに起こりました。で、両方ともその模様を撮影した動画がSNSを通じて拡散されたこともあって、もう世界中に大きな衝撃を与えて。ミネソタの方なんかFacebookを通じてリアルタイムに生中継されていたっていう……

(ジェーン・スー)300万人見たらしいからね。

(高橋芳朗)そうか、そうか。そうなんだ。で、こうした相次ぐ警官による黒人男性射殺事件が引き金になって、全米各地で激しい抗議デモ運動が行われていたわけなんですけども。テキサス州のダラスでは、この事件への報復と見られるような警官への銃撃事件が発生して5人の警官が死亡したという……

(ジェーン・スー)そうですね。

(高橋芳朗)もう本当にひどい、最悪な展開になっていますけども。で、この一連の事件を受けていま言いましたジェイ・Z。アメリカのブラックミュージック業界っていうか音楽業界の重鎮になるようなラッパーなんですけども、そのジェイ・Zが自分で運営するインターネットの定額音楽配信サービスTIDALっていうのがあるんですが、そのTIDALでプレイリストを公開しました。プレイリストっていうのはあるテーマに沿って自分が選んだ曲をまとめる機能で。まあ、昔で言うと自分好みの曲を編集してカセットテープに入れて友達にあげたり……

(ジェーン・スー)そうですね。やってましたね。

(高橋芳朗)あれのインターネットバージョンと考えてもらえればいいと思うんですけども。そのジェイ・Zがプレイリストを発表したと。これがね、計24曲収録されていて、全て黒人差別を題材にしたメッセージソングで統一されています。で、古くは1960年代のリズム・アンド・ブルースから今年リリースされたばかりのヒップホップまで入っているんですね。で、差別と戦い続けてきた黒人音楽の歴史が一望できるような、そういう内容になっているんですけども。で、このプレイリストにね、タイトルがつけられているんですけども。これがさっき言いました『Songs For Survival』と……

(ジェーン・スー)ねえ。重いですよね。

(高橋芳朗)名付けられているんですけども。直訳しますと「生き残っていくための歌」っていうことですかね。これがもう、非常に衝撃的で。「差別と戦うための歌」とかさ、「自分を鼓舞するための歌」とかじゃなく、もう「生き残っていくための歌、生存していくための歌」っていう、そんなプレイリストを発表しなくちゃいけないぐらい、いまアメリカは異常な事態になっているという。

生き残っていくための歌

(ジェーン・スー)ミネソタ州の方はね、いま知事が白人なんですけども。事件を受けて「彼(被害者)が白人だったら殺されるのには至らなかったんじゃないか?」っていうのをはっきり言っていましたね。

(高橋芳朗)はいはい。今日はですね、そのジェイ・Zが選曲したプレイリスト『Songs For Survival』から2曲。いちばん古い曲といちばん新しい曲を紹介して、それぞれの時代でどんなことが歌われていたか?っていうのを聞き比べてみたいと思います。で、まずはいちばん古い曲として、ソウルミュージックの草分け的存在ですね。サム・クック(Sam Cooke)の『A Change Is Gonna Come』という曲を聞いてもらいたいと思います。1964年の作品です。で、これは60年代の公民権運動のテーマ曲と言えるような曲で、数多くのシンガーに歌い継がれている名曲中の名曲です。タイトルの『A Change Is Gonna Come』っていうのは「いつかきっと変化は訪れる」っていうような意味なんですけども。

(ジェーン・スー)うん。

(高橋芳朗)「Change」っていうとさ、オバマ大統領が大統領選を戦った時のスローガンを思い起こす人がいると思うんですけども。実際にオバマ大統領は2008年の大統領選の勝利宣言スピーチの時に、このサム・クックの『A Change Is Gonna Come』の歌詞を引用したスピーチを行っていたりするので。まさに黒人が平等を求めて戦ってきた姿を象徴するような曲と言っていいと思います。で、曲を聞いてもらう前に、この『A Change Is Gonna Come』の歌詞を堀井さんの方から朗読していただけますでしょうか? お願いします。

(堀井美香)はい。

僕は川のそばで生まれた
小さなテントの中で
川と同じように僕は流れ続けた
あれからずっとずっと長い間だったけど
何かが変わると信じている
生きるのが辛すぎる
だけど死ぬのが怖いんだ
だって空の向こうに
何かがあるかどうかわからないんだ
ずっと長い間だったけど
何かが変わると信じてる
僕は映画を見に行くって
ダウンタウンに行く
誰かが「ブラつくな」と言い続けている
ずっと長い間だったけど
何かが変わると信じてる
ブラザーのところに行って
「助けてくれ」と言う
だけどやつは僕を倒して
僕はひざまずいている
僕はもう長くはないと思った時もある
だけど愛を知って
持ちこたえないといけないと思った
ずっと長い間だったけど
何かが変わると信じてる

(高橋芳朗)はい。じゃあ聞いてください。サム・クックで『A Change Is Gonna Come』です。

Sam Cooke『A Change Is Gonna Come』

(高橋芳朗)はい。サム・クックの『A Change Is Gonna Come』を聞いていただいております。オバマ大統領は勝利宣言のスピーチでこの『A Change Is Gonna Come』を引用して「Change has come to America」って言ったんですよ。「たったいま、この瞬間にアメリカは変わった」と。

(ジェーン・スー)うん。

(高橋芳朗)まあたしかにそうなのかもしれないけど、その黒人大統領の誕生によって変化を確信した時の興奮とか期待から見ると、いまの状況ってあまりにも絶望的というか、落差がひどいなっていう感じがね、してしまいますけどもね。で、いまは1964年の曲を聞いてもらったんですけども、お知らせをはさんで差別と戦ういまの曲を聞いていただきたいと思います。

(CM明け)

(ジェーン・スー)今日はミネソタ州などで起きた黒人射殺事件を受け、ラッパーのジェイ・Zが発表したプレイリストについてお送りしています。

(高橋芳朗)はい。じゃあ今度はそのプレイリストから、先ほどの1964年の曲に続いて、いま、2016年に発表になった差別と戦う曲を紹介したいと思います。お届けするのはビヨンセ(Beyonce)の『Freedom』という曲です。ゲストにケンドリック・ラマー(Kendrick Lamar)というラッパーが参加しているんですが。ビヨンセは、このプレイリストを作ったジェイ・Zの妻であり、アメリカのR&B、ポップミュージックを代表する女性シンガーですね。で、共演相手のケンドリック・ラマーは今年のグラミー賞で最多の5部門を受賞した、いま最も注目されているラッパー、ヒップホップアーティストです。アメリカではここ数年、現代の公民権運動と言われる「Black Lives Matter」。「黒人の命だって大切」という人種差別という、人種差別の解消を求める社会運動、大衆運動が活発化しているんですけども。

(ジェーン・スー)うん。

(高橋芳朗)この2人はその運動を音楽面から牽引する代表的な存在と言っていいと思います。だからそんな2人が手を組んだっていうことは非常に画期的な曲なんですけども。で、この『Freedom』、サビの歌詞ではこんなことを歌っています。

自由 自由を求めて
私は動けない 自由よ、私を解き放って
自由よ、あなたはどこなの?
私にも自由が必要なの
自分の鎖は自分で引きちぎる
生まれ持った自由を無駄にすることはできない
私は走り続ける
なぜなら勝者は自分から逃げないから

という。ちょっとまあ、さっきのサム・クックに比べると攻撃的というか、アグレッシブな感じにはなっているんですけども。

(ジェーン・スー)うん。そうですね。

(高橋芳朗)で、ビヨンセは今回の事件を受けて、自分のオフィシャルサイトでまさにこの曲名と同じ「Freedom」っていうタイトルのすごい長いメッセージを発表してですね。ちょっとポイントを要約すると、「これは人間としての戦いであって、人種もジェンダーも性的嗜好も関係ない。自由と人権のためにもがいている人々のための戦いである。そして私たちはみんな怒りや不満を行動に変える力を持っているはずだ」と訴えています。さらにですね、「恐怖は言い訳にならない。憎しみが勝利することもない。まずは地元の政治家や国会議員に連絡することから始めてほしい。あなたの声をきっと聞いてもらえるはずだから」と、人々にこうやって行動することを促したメッセージを発信しております。じゃあ、聞いていただきましょう。ビヨンセで『Freedom feat. ケンドリック・ラマー』です。

Beyonce『Freedom feat. Kendrick Lamar』

(高橋芳朗)はい。ビヨンセで『Freedom feat. ケンドリック・ラマー』を聞いていただきました。今回取り上げたこのジェイ・Zのプレイリストなんですけど、これが発表されているTIDALっていう音楽配信サービスはですね、日本ではちょっと利用することができないんですよ。なので、収録曲は後ほど、番組の放送後記の方にアップしておきますので。興味があればチェックして聞いてみてください。

ジェイ・Z選曲『Songs For Survival』楽曲動画まとめ
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(ジェーン・スー)ねえ。結局さ、変わっていないっていうことが絶望的……「絶望的」とまでは当事者じゃない私が言うのはトゥーマッチだと思うんですけども。変わったところももちろんあるんだけれども、やっぱり変わっていないところが明確にあるっていうことが、あれから50年たっても事件として目の前に飛び込んでくるっていうね。衝撃的ですからね。あの映像もね。

(高橋芳朗)そうですね。だからこのプレイリストがまさに本当に状況が変わっていないんだってことを証明していますよね。60年代の曲とたったいまの曲が並列して並べられていて。そのメッセージがいまでも有効だっていうのは本当に悲しい現実だなと思いますね。

(ジェーン・スー)ねえ。

(堀井美香)でも先生方に聞いてびっくりしたんですけど。ビヨンセも黒人の方だったんですね。

(高橋芳朗)そうですね。アフリカンアメリカン。

(ジェーン・スー)だからまさにこれ、すごく大事なことで。本当はもうあと2時間ぐらいやりたいんだけど。堀井さんがビヨンセを黒人だと知らなくて、白人だと思っていたんですよね。っていう人はたくさんいると思うんですよ。で、実はアメリカではついこの間、その彼女がスーパーボウルの時に自分のアフリカンアメリカンのバックグラウンドっていうのをはっきり表明した曲をやって。『サタデー・ナイト・ライブ(SNL)』の方で「ビヨンセが黒人だったなんて!」って白人たちが逃げまどうというジョークのビデオが流れたんですけども。

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(高橋芳朗)うん。

(ジェーン・スー)それはなぜ、そんなことが放送できたか?っていうと、あそこの曲がそういうものに対する差別が一切なく、私たちはそれと断固として戦っていく姿勢だっていうのが理解できているからそういうのが笑いとして行けたんだけど。だから実はちょっと、白人たちも「そうか、ビヨンセ。なるほど……」っていうタイミングではあるんですよね。

(高橋芳朗)そうですね。

(ジェーン・スー)まあでも、戦い方としては私は全然ありだと思うけどね。場所を取るまではいい子にしているっていうのもありですよ。

(高橋芳朗)でも本当、今後ね、こういう人たちがどういうメッセージを発信していくか?っていうのは、また機会があったらご紹介したいと思います。

(ジェーン・スー)ヨシくん、ありがとうございました!

(高橋芳朗)はい。

<書き起こしおわり>
https://miyearnzzlabo.com/archives/38613

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