町山智浩 ホロコースト体験映画『サウルの息子』を絶賛する

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町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で、アウシュビッツ収容所でユダヤ人虐殺を行ったゾンダーコマンドたちを描いたハンガリー映画『サウルの息子』を紹介。絶賛していました。



(町山智浩)今日はですね、本年度。2016年の僕が見た映画のベスト1を紹介します!

(赤江珠緒)いや、ちょっと早くないですか!?町山さん。いくらなんでも(笑)。

(町山智浩)あ、まだ1月に入ったばっかりですか。すいません。はい(笑)。ええとね、もうすでに先週から東京では公開が始まっている『サウルの息子』というハンガリー映画です。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)これはすでにですね、カンヌ映画祭でグランプリを受賞して。現在、アカデミー賞の外国語映画賞にノミネートされているんですが。受賞は確実だと思います。

(赤江珠緒)へー!

アカデミー賞外国語映画賞受賞が確実視される

(町山智浩)ものすごい映画でした。これはですね、第二次世界大戦の時にナチスドイツがいわゆるホロコースト。ユダヤ人の絶滅のためにポーランドに作ったアウシュヴィッツ=ビルケナウ収容所っていうところが舞台なんですね。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)で、このサウルっていうのは主人公の名前で。その虐殺の手伝いをやらされていたユダヤ人が主人公です。

(赤江珠緒)ユダヤ人が?

(町山智浩)はい。っていうのは、ユダヤ人の虐殺というのは実際の作業はドイツ人がやったわけではないんですよ。

(赤江珠緒)ええーっ!?

(町山智浩)彼ら自身が手を汚したくないから、ユダヤ人自身に無理やり、やらせていたんですね。『逆らったら殺す!』っていうことで。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)で、その作業をさせられた人たちっていうのはですね、ドイツ語で『ゾンダーコマンド』。日本語に直すと『特別労務班』と呼ばれていたんですけども。この『サウルの息子』っていう映画は、観客にゾンダーコマンドを体験させる体験映像映画なんですよ。

(赤江珠緒)うわー・・・はい。

(町山智浩)先週紹介した映画で『レヴェナント:蘇りし者』っていう映画は、熊に齧られたレオナルド・ディカプーちゃんが真冬のロッキー山脈でサバイバルする地獄をですね、カメラがディカプリオの顔20センチぐらいに密着して、ずっと撮り続けるっていうディカプーサバイバル体験映画だったんですね。

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(赤江珠緒)はいはい。

(町山智浩)ところがこの『サウルの息子』っていうのはアウシュビッツ版なんですよ。

(赤江珠緒)ええー・・・

(町山智浩)で、まずですね、アウシュビッツの収容所にヨーロッパ各地からユダヤ人を満載した貨車が到着するところから始まります。はい。で、ユダヤ人は立ったまま、貨物車にぎゅうぎゅうに詰め込まれて、5日も6日も、水も食料もなしで揺られてきたんで。もう、着いた段階で幼い子供や老人は死んでいるんですけど。

(赤江珠緒)うわー・・・

(町山智浩)で、生き残ったユダヤ人たちをサウルたちゾンダーコマンドが誘導して、更衣室に連れて行きます。で、服を脱がすんですね。『ここでシャワーを浴びるから。シャワーを浴びた後、労働が始まるから。お前たちは服を壁のフックにかけて、そのフックの番号を覚えておけ』って言うんですよ。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)みんな、ここで強制労働があると思っているんですね。ユダヤ人たちは。で、その彼らがシャワー室に入ると、鍵を閉めるんですが。そのサウルたちゾンダーコマンドはフックにかけられた服を全部集めちゃうんですよ。すぐに。

(山里亮太)うん?

(町山智浩)もう二度と着ないからです。

(山里亮太)えっ?シャワーに入っているのに?

(町山智浩)そう。シャワー室の中からガンガンガンガン!ってドアを叩く音が聞こえて。『出してくれーっ!』ってみんな叫び始めるんですよ。シャワーから出てくるのは、水じゃなくて青酸ガスなんですよ。

(赤江珠緒)うわー・・・ガス室なんだ。

(町山智浩)そう。しかも、ガスが薄いんです。

(赤江珠緒)ええっ!?

(町山智浩)即死できないんですよ。死ぬまで5分も6分もかかるんです。だからもう、地獄の苦しみなんですよ。で、こうした細かいディテールがね、ものすごく正確なんですけど。この映画。っていうのはね、これ、全てゾンダーコマンドの人たちが密かに紙を見つけて。何をやらされていたのか?を細かく書いていたんですよ。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)で、瓶に入れて、いろんなところに埋めて隠していたんですね。それが戦後、10個ぐらい発見されて。それが元になっているんで、非常に細かく正確担っているんですよ。この映画は。

(赤江珠緒)うわー・・・しかし、そのアウシュビッツでやっていたこともひどいですけど、それを同胞のユダヤの人にやらせていたんですね。

(町山智浩)やらせていたんですよ。だから、彼らとしてはやりたくないんですけど。拒否すれば殺されちゃうし。で、しかも、要するに『シャワーを浴びるんだ』って騙さなきゃならないんですよ。同胞を。で、要するにこんなひどいことはない!って言って、なんとか証拠を残そうとするんですね。っていうのは、ナチスはこのアウシュビッツでやったことを完全に隠滅しようとしてたんですよ。証拠を。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、全てのユダヤ人を虐殺したら、この収容所自体を完全に消滅させる気だったんですよ。で、もちろんゾンダーコマンドも、要するに彼らは証人ですから。全員皆殺しにする予定だったんですね。

(山里亮太)おおー・・・

(町山智浩)で、実際に4ヶ月ぐらいゾンダーコマンドとして働くと、1人ずつ殺されていくらしいんですよ。だから、彼らは殺される前に記録を残さなきゃ!って一生懸命書いて。瓶に入れて隠したんですね。いろんなところに。

(赤江珠緒)うーん・・・

(町山智浩)っていう、もうすさまじい映画なんですけど。この映画が、でも、実はこのゾンダーコマンドについての映画っていうのは初めてじゃないんですよ。

(赤江珠緒)あ、そうなんですね。

(町山智浩)すでにですね、そこで生体実験をやらされていたユダヤ人の医者がいてですね。その人のが残した手記が映画になっているんですよ。2001年ぐらいに『灰の記憶』っていうタイトルで映画になっておりまして。それはですね、ハリウッド映画だったんですね。で、それもすごいですよ。生体実験ですよ。生きたまま人間を実験するのをユダヤ人にやらせていたんですよ。

(赤江珠緒)うわー・・・

(町山智浩)まあ、その医師の人の記録はハリウッドで映画になっているんですけども。それと決定的に今回の映画は違うんですね。

(山里亮太)あ、違う?

(町山智浩)違うんですよ。まず、体感映像になっていて。カメラがずっとサウルっていうゾンダーコマンドの人に密着しているんです。20センチぐらいの距離で。で、ずーっと彼を追い続けていて、ひとつひとつのシーンが2分とか3分とか、ものすごく長いんですよ。長回しで。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)だから、ゲームみたいな感じですよね。

(山里亮太)ああ、『バイオハザード』とか、ああいう感じ?

(町山智浩)そうそう。そういうゲーム。シューティングゲームであるとか、あと、テレビとかでスポーツをやる時に、カメラをスポーツをやる人の顔に向けて・・・たとえばジェットコースターを遊ばせて・・・っていう映像、あるじゃないですか?ああいうのに近い感じになっているんですよ。だからやっぱり、これは現代の映画なんですね。そういう、スマホ時代の映画なんですよ。

(赤江珠緒)うんうん。

『レヴェナント』との違い

(町山智浩)ただ、ディカプリオの『レヴェナント』の方もそういう映画だったんですよね?ディカプリオが苦労しているのを、いつも画面の手前の方にディカプリオの苦しんでいる顔があって。その向こう側に美しい風景が映っているという映画だったんですね。『レヴェナント』っていうのは。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)で、しかも、前も説明しましたけど、超広角レンズを使っているんで。手前のディカプリオにも、はるか遠くの山の風景にもピントが合うっていう映像だったんです。ところが、この『サウルの息子』は全く逆で。手間のサウルの顔にはずーっとピントが合っているんですが、その向こう側が全くピントが合ってないんですよ。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)ずーっとボケっぱなしで、何が映っているのかよくわからないんですよ。ボヤーッとしか映ってなくて。

(赤江珠緒)えっ?それで映画になるんですか?

(町山智浩)そうなんです。で、しかもですね、この画面がですね、『レヴェナント』っていう映画の方はスクリーンが縦1に対して横が2.3ぐらいの長さなんですね。だから横にすごい長いんですよ。2倍以上あるんですよ。縦の。だから、手前にディカプリオの顔があると、その向こう側に風景がきれいにいっぱい映って見えているんですね。『レヴェナント』は。ところがこの『サウルの息子』は・・・

(赤江珠緒)うん。じゃあ、広大な景色とかがね、ばっちり映るわけですもんね。

(町山智浩)広大な景色が見えるわけですね。横長のスクリーンで。ところがこの『サウルの息子』っていう映画は縦1に対して横の比率が1.3しかないんですよ。

(山里亮太)あ、ほぼ正方形ぐらいの?

(町山智浩)そうそう。だからね、昔のテレビの縦横比。

(赤江珠緒)ですよね。映画じゃない感じですね。

(町山智浩)映画じゃない感じですね。文庫本とかを横に倒した感じですね。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)だから・・・しかもカメラが20センチぐらいに近づいているので。主人公サウルに。画面の6割はサウルの顔が占めちゃっているんですよ。

(赤江珠緒)へー。ええ、ええ。

(町山智浩)だから、向こう側、何も見えないんですよ。何が起っているのか。だから怖いんですよ。

(山里亮太)あ、映ってないところで、こんなことが起きてるんじゃないのか?っていう風に。

(町山智浩)そうなんですよ。だからその、シャワー室の中が静かになるでしょ?すると今度はドアを開けて、完全に青酸ガスの入れ換えを行ってから、中にサウルたちが入るんですよ。そうすると、中に肌色のものがいっぱい、床に落ちてるんですよ。倒れているんです。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)みんな、殺されたユダヤ人の死体なんですよね。ただ、ボケボケなんですよ。で、サウルの顔越しにしか見えないんで、何があるのかわからないんだけど、それが怖いですよ!

(赤江珠緒)はー!

(町山智浩)直接見せるより、怖いんですよ。うわっ!って感じなんですよ。で、しかもですね、これは監督自身が言ってるんですけども。その当時、こういうことをやらされていた人たちっていうのは心を閉じているだろうと。要するに、いちばんやりたくないことをやっているわけですよね?

(赤江珠緒)そうですよね。

(町山智浩)女の人や子供を、自分の手で殺しに加担してるわけですよね。だから、目の前に見えてもたぶん、はっきりと見ていなかっただろうと。心の目を閉じて閉まっているから。

(赤江珠緒)いや、だってはっきり見ていたら、気が狂いそうな状況ですもんね。

(町山智浩)そうなんですよ。だからそれがこのピンぼけの、周りがよく見えない映像で非常によくわかるんですね。

(赤江珠緒)ああ、なるほどな!

(町山智浩)僕らもそうじゃないですか。嫌なものっていうのは目の中に、視界に入っていっても、それにピントを合わせないじゃないですか。それと同じことがこの映像で行われるんですよ。

(赤江珠緒)そっか。じゃあもう主人公の防衛本能としての風景とか、そういう感じになっているんですね。

(町山智浩)だからこのサウルが、全く表情が動かないですし、何もしゃべらないんですよ。その前に言ったハリウッド映画の『灰の記憶』の方だと、みんな表情豊かにいろんな悲しみとか怒りとかを表現するんですね。でも、実際はどうだったか?っていったら、たぶん全く感情を殺したでしょうね。

(赤江珠緒)うわー・・・

(町山智浩)自分というものを殺さないと、やっていけないですよね。だからそれが、もうすごくリアルに出てくる映画なんですよ。この『サウルの息子』っていうのは。で、彼らはまずそのシャワールームに入って、人を、要するに死体を全部引きずり出してですね。で、彼らの金歯を抜くんですよ。

(山里亮太)金歯を?

(町山智浩)金を溶かして、ドイツ人が盗むためですけども。金歯を抜いたり、指輪とかを外すんですね。

(赤江珠緒)うわー・・・

(町山智浩)で、女の人の髪の毛を全部切って。まあ、カツラとして売ったりするために取っちゃうんですけども。それもひどいですが。で、焼却炉にブチ込んで、要するに骨まで、完全な灰になるまで焼きつくすんですよ。で、これを黙々と全員が作業するんですよ。まったく黙って、無表情で。

(赤江珠緒)うわー・・・

(町山智浩)で、その灰を今度は川に捨てるんですよ。つまり、埋葬もされないし、要するに葬儀の儀式も何もない。完全に工場として処理されるんですよ。こんなひどい、人間の尊厳を踏みにじる行為ってないですよ。

(赤江珠緒)これが実話ですもんね。本当にやっていたってうのがな・・・

(町山智浩)そうなんですよ。工場なんですよ。これ。死の工場なんですよ。で、その中でですね、またそのシャワールームはですね、みんな苦しみながら死んだから、排泄物とか血でグチャグチャなんですね。それを、次の処刑のために今度はタワシできれいに洗わなきゃいけないんですよ。

(赤江珠緒)ええーっ!?

(町山智浩)これはすさまじい映画ですね。で、その灰を全部・・・骨まで灰にして川に捨てるっていうのは、何もかも完全に証拠を隠滅するためなんですね。だからその、ホロコーストの人数に関してはいまだに不明で。いろんな説が飛び交うっていう形になっているんですよ。だからまあ、『なかった』なんていうバカなことを言う人まで出てくるわけですね。完全に消滅させちゃったから。

(赤江珠緒)うーん・・・

(町山智浩)だから彼らは、手紙をなんとか隠すしかなかったんですよ。それでまあ、その手紙はその後、本になっています。現在。『アウシュビッツの巻物』っていうタイトルで。まだ、日本では翻訳されていないですけど、ネットで見れるんですけども。彼ら必死で自分のやったことを書いていったんですよ。

(赤江珠緒)ええ。

(町山智浩)でね、この映画はね、とにかくいま、体感映像的なものが流行ってはいるわけですけども。『レヴェナント』だったり、前のアカデミー賞っていうかアメリカ映画はね。これはもう、ちょっと全部吹っ飛びますね。これはね。

(赤江珠緒)へー!いやー、そうかー。

(町山智浩)強烈すぎるんですよ。

(赤江珠緒)ねえ。もう、町山さんのお話を聞いているだけでね、ちゃんと見れるかな?っていう気がしてくるぐらい・・・

(町山智浩)もちろん、画面にははっきり見えないんですよ。全部ボケボケですよ。ただ、叫び声とかそういったものは聞こえるんですよ。

(赤江珠緒)うわー・・・

(町山智浩)で、まあこの中でそのゾンダーコマンドの、作業をやらされているユダヤ人たちはなんとかですね、火薬を集めて、このアウシュビッツ収容所自体を爆破しようとするんですけどね。

(赤江珠緒)うーん。

ハンガリーで作られた意味

(町山智浩)はい。これも本当にあったことなんですけども。で、この映画はハンガリー映画なんですよ。で、これがまたひとつ、大きな問題なんですね。実はその時に、この映画っていうのはね、1944年の10月6日と10月7日を舞台にしている、2日間の出来事なんですよ。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)っていうのは、ハンガリーっていうのはドイツの味方だったんですよ。ずっと、第二次大戦の時に。

(山里亮太)はい。

(町山智浩)それで、1944年の春にドイツ軍に占領されるんですね。それもまあ、自主的に占領される形をとるんですよ。ハンガリーは。それで、積極的にユダヤ人狩りに協力したんです。ハンガリー政府は。ハンガリー人は。

(赤江珠緒)はー!そっかー。

(町山智浩)それで、それからこの映画の舞台になる10月までのわずか6ヶ月間に44万人のユダヤ人をアウシュビッツに送ったんですよ。ハンガリーは。だからそれをいま、ハンガリーで映画化するっていうのは大変な事態なんですよ。

(赤江珠緒)そうですね。

(町山智浩)『これはナチがやったんだよ』っていう話じゃないんですよ。自分たちが一緒にやったことなんですよ。だからこれは強烈な映画ですよね。で、要するにハンガリーだけで44万人が一箇所のアウシュビッツに半年で送られるって、どういうことだかわかります?

(赤江珠緒)一箇所に?

(町山智浩)処理できないんですよ。これ、アウシュビッツじゃ。どうなるか?っていうと、その収容所の中が全部、人でいっぱいになっちゃうんですよ。送られてきたユダヤ人で。これね、そのゾンダーコマンドの中にカメラを隠し持っていた人がいて。写真を撮っているんですよ。現場で。で、密かに現像して、瓶の中に入れていたらしくて。それ、現在でもネットで探すと出てきますよ。

(山里亮太)へー!

(町山智浩)その、アウシュビッツの土地の中が裸のユダヤ人でいっぱいになっている写真があります。それを元にしています。この映画は。それを再現しようとしています。で、要するにガス室で殺せないものだから、ドイツ兵たちもパニックになっちゃって。もう機関銃乱射して、火炎放射器を撒き散らして、めっちゃくちゃになってくるんですよ。だんだん。

(山里亮太)ええーっ!?

(赤江珠緒)めちゃくちゃですね。

(町山智浩)で、しかもそのゾンダーコマンドたちは反乱を起こそうとしているわけですよね。

(赤江珠緒)そりゃ、そうなるでしょうね。うん。

(町山智浩)後半、もう大変な騒ぎになってきますよ。

(山里亮太)あ、そこももちろん映画の中で描かれているんですね。

(町山智浩)すさまじいですよ。これ、本当に。で、この監督はですね、まだ38才かなんかなんですよね。

(山里亮太)おおっ、同い年。

(町山智浩)ハンガリーの人ですけども。名前がね、これ、難しくて。そっちに書いてありませんか?ちゃんとした名前。ええとね、ネメシュ・ラースローっていう監督なんですけども。

(赤江珠緒)ネメシュ・ラースローさん。はい。

(町山智浩)この人ね、この手法。ピンぼけでもってスタンダードサイズと言われる横に長くないスクリーンで映画を撮るっていうのを、この前に1本撮っているんですね。それはね、2007年に13分の短編で撮っていて。『ちょっとの我慢(With A Little Patience)』っていうタイトルの映画を撮っているんですけど。それはその、ハンガリーがホロコーストに協力している頃の女性事務員の話なんですよ。

With A Little Patience(ちょっとの我慢)



(赤江珠緒)へー。

(町山智浩)で、これはそのハンガリーの女性の事務員がずっとただ働いているだけなんですよ。オフィスで、デスクワークしてるだけなんですよ。で、それをピンぼけの、彼女にだけピントが合ったカメラで彼女のすごいクローズアップだけずっと撮り続けているのがその『ちょっとの我慢』っていうタイトルの短編映画なんですね。この監督がその前に作っている。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)これね、要するに、『ユダヤ人を虐殺するっていうのも、ちょっと我慢していればいつか全部終わってすっきりするんだ』っていう意味なんですよ。

(赤江珠緒)そういうことか。

(町山智浩)ハンガリーの人に限らなくて、まあフランスもそうでしたけども。ユダヤ人の虐殺に協力してますからね。

(赤江珠緒)そうですよね。だって、それまでは本当に隣人だったり隣に住んでいるような人を・・・ってことですもんね。

(町山智浩)そうですよ。それまで仲良くしていた人たちですよ。近所に住んでいる。

(赤江珠緒)ねえ。

(町山智浩)で、その人たちをまあ、貨物列車にブチ込んでいたんですけども。その時にじゃあ、普通のハンガリー人はどうしていたか?っていうと、この『ちょっとの我慢』っていう感じで。目の前のものは見えない。何が起こっているかは見ないふりをしてたんですね。

(赤江珠緒)見ないふりですね。

(町山智浩)それでただ、事務だけに没頭して。現実を見ないでいたってことですね。

(赤江珠緒)その良心の呵責とかをちょっと抑えておくという意味での『ちょっとの我慢』。

(町山智浩)封じ込めるってことですね。そう。『ちょっとの我慢』っていう言葉はね、T・S・エリオットの『荒地』っていう詩の中に出てくるんですけども。これ、注射をする時にお医者さんが『ちょっとの我慢だよ』って言うんですよ。その言葉なんですよ。だからそれが、普通の人たちの感覚だったんで。要するに、ナチだけを断罪している映画じゃないんですよ。

(赤江珠緒)そこが怖いですよね。

(町山智浩)怖いんですよ。これはすっごいなと思いましたね。はい。で、まあこれはアカデミー賞確実だろうと。

(赤江珠緒)はー!

(町山智浩)技術的にも画期的だしね。撮り方とかも。

(赤江珠緒)あ、そうですか。でもそのね、映画として、主人公がバーン!と映って、後ろがボケている状態でも、見ていて物足りないとか気持ち悪いなって感じにはならない映像なんですか?

(町山智浩)逆に集中しますよ。『いま、一体なにが起こっているの?なにが起こっているの?』っていう感じで。でもそこに、時々カメラが振るんですよ。パッ!と。すると、うわっ!っていう感じなんですよ。

(赤江珠緒)はー!なるほど。

(町山智浩)だからすごくコントロールしてますよね。観客が見るべきものを、作る側が。常に見えていて、観客が自由に視線を動かすってことはできない状態になっていますね。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)そういうまあ、すっごい映画で。ただ、やっぱりこれは体験映像ブームの現代に作られた映画なんだなと思いました。

(赤江珠緒)そうですか。これ、ハンガリーとかではどういう評価だったんですか?

(町山智浩)まあ、ハンガリーでも、ハンガリーはだからいま、難民問題でシリアから来た難民を追い出すだの何だのってやっているじゃないですか。いま、ちょうど。

(赤江珠緒)うん、うん。

(町山智浩)で、ハンガリーの右翼女性カメラマンがシリアから来た難民を蹴っ飛ばしたりしてるんですよ。いま。

(赤江珠緒)ああー、見ました。見ました。その映像は。

(町山智浩)まさにいま、ハンガリーの人たちに突きつけられた作品だと思うし、ヨーロッパ全体もそうだし、アメリカでも、そのドナルド・トランプがね、『難民を追い出せ!』とか『移民を追い出せ!』とか言ってる時なんで。まさに世界中がこれを見なきゃならないっていう時に来てると思いますよ。それが『サウルの息子』で。『サウルの息子』の『息子』っていうのはどういう意味なのか?っていう説明をし忘れましたけども(笑)。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)それはまあ、見てください。映画で。すいません(笑)。

(山里亮太)ここが大きく。このストーリーの中で大事な。

(町山智浩)うっかりしました。そのタイトルの意味はご覧になって・・・ということで。はい。

(赤江珠緒)はい。わかりました。『サウルの息子』は1月23日から都内で公開中ということで。これから随時広がっていくということでございます。はい。町山さん、ありがとうございました。

(山里亮太)ありがとうございました。

(町山智浩)どもでした。

<書き起こしおわり>

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