宇多丸 日本のデモのコールの進化と日本語ラップの影響を語る

宇多丸 国会前安保反対デモに参加した理由を語る 宇多丸のウィークエンド・シャッフル

TBSラジオ『ライムスター宇多丸のウィークエンドシャッフル』が日本のデモ活動や、シュプレヒコールについて特集。ECDさん、UCDさん、磯部涼さんをゲストに招き、その進化の過程や日本語ラップの影響について話していました。

(宇多丸)今夜お送りする特集はこちら。『日本のデモ最前線2015 あるいはデモのリ・デザインに見る日本語ラップの影響とは?』特集!

(宇多丸)今年の夏、安保法制制定にまつわる諸々を受けまして、日本各地でデモが盛んに行われ、メディアでもよく取り上げられていました。そのデモの場で参加者たちが上げているシュプレヒコール。デモね、昔から『○○だー、はんたーい!』みたいな。ありますけど。通称コールが実はいま、興味深い進化を遂げているらしい。

しかもその進化には、日本語ラップが・・・いま聞いてもらってもね、非常に音楽的なのがわかると思いますが。日本語ラップが大きな影響を与えているらしい。っていうか実際、そこんところはどうなのか?また、その進化の裏には社会運動をいまの時代にデザインし直すというような意図があるのではないか?ということで、今夜は3名のゲストにうかがっていきます。

まず、この番組では以前、風営法問題などでお世話になりました、音楽ライターの磯部涼さん。

(磯部涼)はい。よろしくお願いします。

(宇多丸)よろしくお願いします。そして、2人目のゲストは番組初登場。いつ、どのタイミングで呼ぼうか?と待っておりましたが。ベテランラッパーであり、長年、この新しいスタイルのデモに関わってきましたECDさん。ども。いらっしゃいませー。

(ECD)どうも、こんばんは。ECDです。

(宇多丸)ECDさんっていうか、石田さんね。よろしくお願いします。そして3人目のゲストはこちらも番組初登場。いま、なにかと注目を集めております。国会まで行ってしまいました。SEALDs所属でラッパーのUCDさんです。

(ECD)イェイイェイ!よろしくお願いします。

(宇多丸)イェイイェイ!年齢差がね、UCDさんと・・・

(磯部涼)親子ぐらい離れてますね。

(ECD)いや、親子より離れている。

(宇多丸)石田さん、問題なければ今年、お幾つなんですか?

(ECD)55です。

(宇多丸)55。UCDくんは?

(UCD)22です。

(宇多丸)(笑)。そういうことですけど。でも、単純に、UCDくんを磯部くんに、『第三会議室』っていうK DUB SHINEとやっている番組の時に連れて来てもらって。『UCDです』『ああ、そうか。UCDとECDで呼んだらおもしろいかな?』って、単純にその、出オチです。出オチによる企画ということでございます。

(磯部涼)でも、その時から結構士郎さん、気にしてましたもんね。コールの面白さみたいなのとか。

(宇多丸)そうっすね。なんか、うちの番組なりのやり方でこの動きみたいなのを、エンターテイメント化っていうとちょっとね、言葉悪いですけど。なんかできないかな?と思っておりました。ということで、今夜はこのお三方にデモの当事者と取材者として、それぞれの視点からいろいろ解説していただこうと。前半では主に、石田さんにお話を伺っていく。

(ECD)はい。

(宇多丸)デモのリ・デザイン。社会運動、特に僕の世代なんかはやっぱり社会運動っていうものに対するアレルギーがたぶんいちばん強い世代。ずっと続いてましたけど。でもあって、デモに参加するとかっていうのの、まあ『かっこ悪い』って感じちゃうような世代っていうかね。それに対して、どういうような意図でリ・デザインっていうか、デザインし直しをやってきたのか?っていうのをECDさんに伺いつつ。

後半では、現在進行形のいまのデモ、いまのコールがどのように作られていって、どんな感じになっているのか?現在のSEALDs登場に至るまでの流れをUCDさんに伺っていこうかと思います。お二方の曲も聞きつつ・・・ということで。はい。ということで、まずはちょっと石田さんにお話を伺いたいんですけど。石田さん、すごい前からデモ的なものにずっと参加されているじゃないですか。

(ECD)前っていうか、2003年のイラク反戦のデモからですね。

(宇多丸)なるほど。いわゆる、サウンドデモというような?

ECDがデモに参加したきっかけ

(ECD)サウンドデモ・・・最初は、にサウンドデモをやろうっていう目的があったわけではなくて。イラク反戦ということで、なんか新しい形でデモができないか?っていうことを始めようとした人たちが僕の周りに・・・簡単に言うと、キミドリの石黒とかがなんか、そういうことをやろうとしてるぞっていうことで。僕も、呼ばれてっていうか。『石田さんはじゃあ、新しいコールとか考えてくれませんか?』っていう。っていうのが、最初、オファー的にはあって。

(宇多丸)へー。なるほど。なるほど。それはじゃあ、石黒くんたちは、まあキミドリというね、もともとラップグループで。で、デザイナーとしても非常に活躍されている。

(磯部涼)そうですね。石黒景太。

(宇多丸)はい。どういう意図で、まず新しいタイプのそういうデモというか、運動を始めようと思ったんですかね?

(ECD)あのー、意図そのものは、イラク・・・あの時ってブッシュが世界はもうテロリストと反・・・『テロとアメリカの戦いだ!』って言い出して。その時にさすがに僕とかも、『えっ?ってことはアメリカにつかないとテロリストになっちゃうの?』っていう思いがあって。ちょっとな・・・っていう。

(宇多丸)一言いいたいと。

(磯部涼)だからやっぱり、アフター9.11みたいな。

(ECD)そう。完全にアフター9.11ですね。

(宇多丸)という空気があって。でも、なんか言いたいっていう気持ちはあっても、曲として出すっていうのはあっても、社会運動として出すっていうのは僕らの世代、ずーっとなかったわけじゃないですか。

(ECD)うん。僕も、一応『Pico Curie』っていう曲で反原発でデビューしてはいるものの・・・

(宇多丸)それこそ、1980・・・

(ECD)その時ですら、デモとかは参加とかしてなくて。で、実際にデモに参加するのは、やっぱり9.11があって、それで空爆が始まって・・・っていうそういう時。

(宇多丸)その『Pico Curie』を出されたのは80年代末だと思いますけど。それこそチェルノブイリとかがあって。で、広瀬隆さんの本とかで、割と日本でも反原発運動が盛り上がって。で、僕まだ高校生でしただけど。やっぱりそういう時に、運動・・・自分もね、なんかしたい!とは思っても、そういう場所に行こうとしても、『いや、ここにちょっと俺、参加したくねえな』みたいになっちゃって・・・

(ECD)っていうか、情報自体がなかったかな?当時は。

(宇多丸)情報?

(ECD)だから、どこでデモをやっているとかって。

(宇多丸)でも、あとやっぱ昔ながらのデモに参加するのは僕、ちょっと抵抗があったんですよね。『○○だー!』みたいなのに。要は、単純に言えばスタイリッシュじゃないところにすごく引っかかっちゃって。そういうの、なかったですか?

(ECD)そこはね、僕はそんなに・・・よっぽど本当に、イラク反戦の時はそこも乗り越えて参加してみよう!っていう気持ちはあった。だから、あの頃。2003年の初めぐらい。やっぱり、『もう空爆、始まるみたいよ』っていう時に結構いろんなところでデモがあって。ちょこちょこ。そういうのにちょこちょこ顔を出したりはしてたんだけど。たしかに、違和感はあって。

(磯部涼)でも実際ね、石黒くんとかもそういう風に言ってたんですよね。やっぱり旧来型のデモっていうのは、『ダサい』っていう言い方は彼はしなくて。『デザインの余地がある』みたいな話をしてたんですね。

(宇多丸)それ、面白いですね。まさに今回、『デザイン』っていう言葉を使わせてもらったんだけど。

(磯部涼)『いま、デザイナーとしていちばんやりたい仕事は何ですか?』みたいに、何気なく聞いた時に『デモだね。いちばんデザインが足りてないと思うから』っていう言い方を彼はしたんですね。

(宇多丸)これはまさにSEALDsもそういう、『リ・デザインは必要だ』っていうのはありました?

(UCD)すごい思いましたね。やっぱり、『とくてい、ひみつ、ほごほう、はんたーい!』みたいな(笑)。結構お経っぽいやつだとちょっとノリづらいっていうか。僕らのビート感覚に合わないみたいなのはありましたね。

(宇多丸)まあ、特に若い人ね。参加してもらおうと思った時に、『かっこわりーな』って思われちゃうと、もうそこで負け感っていうか。

(ECD)うん。その、なんでかっこよくなきゃいけないか?っていう問題もあると思うんだけど。逆に、たとえばSEALDsのデモとか、かっこいいから敷居が高いと思っちゃう人もいたりはするわけね。たまに。

(宇多丸)ああー。たしかにね。みんな小綺麗だしね。

(ECD)だけど、そこは絶対に越えなきゃいけないのは、そもそもデモに参加すること自体が、見る側から見られる側に。やっぱりデモって可視化することだから。どうしても、そこのハードルだけは越えなきゃいけなくって。で、越えた人しか来ないわけよ。デモには。特に街頭のデモとかは、参加するともうすぐわかるんだけど。

(宇多丸)うんうん。

(ECD)渋谷の公園通りを、車道を下って行くともう、ものすごい視線を浴びるわけ。っていうところを、一線を越えた、そのハードルを越えちゃったらば、やっぱりかっこよくなかったら士気も上がらないし。せっかくこっち来てんのに・・・っていう。

(宇多丸)恥ずかしい思いをしながら歩きたくない。

(ECD)そこはちゃんとデザインしてあげないと。参加する人に失礼っていうのもあるし。

(磯部涼)あとなんか、ルーティン化してるっていうか。『ああ、デモね』みたいな感じに通っている人に見られるんじゃなくて、『こういうデモもあるんだ』とか、そういうまず、『ちょっと意見を聞いてみよう』みたいな風に思わせるっていうのがデザインの力みたいなのもあるのかな?って。

(宇多丸)いや、まったくそうかもしれないですね。で、じゃあさっそくっていうか。2003年に新しいデモのリ・デザインをしてみようっていう時に、石田さんとしては具体的に何かやったみたいなのはあるんですか?

(ECD)具体的には、だから『コール考えてくれ』って言われて、多少考えたんだけど。どんなコールを考えたかもう覚えてないぐらい、特に定着はしなかったんだけど。

(磯部涼)その時って、でもあんまりシュプレヒコールしてなかったですよね。

(ECD)そもそもね、コール自体が、してはいるんだけど。リードコーラーが決まったコールをして、それに応えるっていうよりは、もうめいめい、『戦争反対!』って言ったりとか。『○○するな!』とか。そういうのはあるんだけど。たとえば、いまのSEALDsのデモだと、最初に、出発する前に練習をちゃんとするのね。

(宇多丸)あ、練習してるの?あれ。

(UCD)絶対練習します。

(宇多丸)そうなの?だからあんな、バシッと決っているのもやっぱりあるのかな?へー。

(ECD)そんなことはしなかったし。ただ、いまにつながっているのは、その頃からドラムを持ってきたりとか、楽器を持ってきて。鳴らしながら声をあげるっていうスタイルはその頃に始まって。で、その頃はね、どっちかって言うと、デモの無秩序を表すために音を鳴らしているっていう感じがあって。僕とか、サックス吹いてたし。

(宇多丸)はいはい。そうですね。そういえば。

(磯部涼)当時、石田さんよくアナーキズムみたいなことに言及してましたもんね。

3.11以降のデモの変化

(ECD)そういう感じだったのが、だんだんどっちかって言うと、3.11以降、反原発デモ。『TWIT NO NUKES』っていうデモがあって。それは渋谷で、もう本当にドラムとコールだけ。サウンドカーも無しっていうシンプルなデモが始まって。

(宇多丸)はいはい。

(ECD)それのドラムを叩いていた人たちも、2003年ぐらいからやっている人たちが割と継続してやっているっていうのがあったし。

(磯部涼)まあ、細かいリ・デザインがその都度その都度行われていて。そのサウンドデモみたいなのに対する反省みたいなのもあって。要するにさっきみたいな反権力的なポーズとか、ちょっと享楽型というか。音を鳴らしながら騒いで・・・みたいな。

(宇多丸)まあ実際僕もね、そん時、一緒に歩かせてもらったけど。普通に楽しいからっていう感じのもありましたね。まあ、酒飲んでいる人もいたりとかさ。そういうノリだったけど。

(磯部涼)昔はその、いわゆるサウンドデモで。スピーカーを積んだ車があって。そこから音を鳴らしながら。だからシュプレヒコールっていう感じではなくて。

(宇多丸)マイクを持った人が。

(磯部涼)まあ、ランキンさんとかもやってたけど。

(ECD)いや、マイク持っている人すらいなかった。ランキンさんもやったけど、でも基本的にはサウンドカーは本当にDJがいて。

(磯部涼)小西さんがやったりとかね。

(宇多丸)小西さんがDJやってガン上がりとか、そういう感じではありましたね。

(磯部涼)それでまあ、そういう享楽的なところって、ひとつのメッセージにはなっていたんだけど。やっぱり3.11みたいなことが起こると、もうちょっと幅広く取り込まなきゃいけないというか。それこそ、歳が上の人だったとか。あと、本当に怒っている人とか来るから。そういうスタイルは、違うスタイルをやろうっていう。そこでも、リ・デザインが。

(ECD)幅広いのと同時に、ちゃんと怒っているっていうことを表現しようっていうことで。だから、ドラム隊の意味もぜんぜん変わったの。たぶん。『TWIT NO NUKES』から。

(宇多丸)はい。やっぱり切迫度というか。こちら側の切実度も変わってきてっていう。

(ECD)そこから『怒りのドラムデモ』っていう、そのものズバリのタイトルのデモも生まれたし。

(宇多丸)なるほど。そういうのっていうのは、UCDくんとかは見てたんですか?

(UCD)そうですね。まあ、そこまではぜんぜん見てなかったんですけど。それがなんかすごい、ECDさんのコールの変化っていうか、ECDさんのラップの変化にも表れているなとすごい思っていて。

(磯部涼)アーティストとしての?

(UCD)そうなんですよ。それまでは、前にも伺ったんですけども。『言うこと聞くよな奴らじゃないぞ』っ釣ってたんですよ。反権力で、俺たちは言うことを聞かない。自由奔放な奴らだ。アナーキズム的な感じだったんですけど。

(宇多丸)はい。

(UCD)やっぱり3.11とかそれぐらいの時期から、やっぱり本当に誠実な怒りというか。当事者性が出てくる。つまり、『言うこと聞かせる番だ俺たちが』に変わるんですよね。

(宇多丸)はい。これは石田さん、田我流との共演とかでも、そういう話がありますよね。

(ECD)そうですね。実際に僕がちゃんと言葉として発表したのは田我流からオファーをもらって。田我流からのオファーとしては、『「言うこと聞くよな奴らじゃないぞ」っていうフレーズ、僕好きなんで。一緒にやりませんか?』っていう。

(宇多丸)それこそ、『言うこと聞くよな奴らじゃないぞ』はちょっとスローガン化してたじゃないですか。ちょっぴり。そういうような空気もあってってことですよね。

(磯部涼)まあ、サウンドデモ時代にってことですよね。

(ECD)なんだけど、田我流はそれを気に入ってくれてオファーしてくれたんだけど。『いや、いまちょっともう違うんだ』ってことで。

(宇多丸)そういうモードじゃないんだと。で、『言うこと聞かせる番だ』になってったっていうこと。で、そのデモ自体のあり方とか雰囲気の変化にもなっていったっていう。

(ECD)あり方っていうか、やっぱり3.11。原発、ぶっ壊すわけにはいかないっていう。

(磯部涼)反抗しているだけじゃダメで。権力を是正してかなきゃいけないだろうっていう。

(宇多丸)なるほど。ちなみにそういうところに参加している人たちの面子とかって変化ってあります?サウンドデモ時代から3.11以降とかって。

(ECD)あの、つながっている人もいれば、逆に敵対している人もいるし。様々っすね。そこは。

(宇多丸)なるほど。でもずっと、石田さん見てきてっていうことなんですね。なるほど。なるほど。UCDくん、見ていてああいうことをやろうとか。もしくは、俺ならこうやるみたいなのがあったりしたんですか?

(UCD)いや、ぜんぜん。当時はもう、僕ずーっとデモを批判してたっていう。

(宇多丸)逆にね(笑)。

(UCD)『デモ行ってる奴なんか、考えてねーんだよ!』とか。最低なことをずっと言っていて。

(磯部涼)3.11直後もそんな感じだったんでしょ?

(宇多丸)ああ、そう?それ、変化していったのはなんでなんですか?

(UCD)やっぱり原発の問題って結構複雑じゃないですか。だから、ぜんぜんわかんないんで。『まずみんなで考えよう』って言ってたんですよ。で、僕が『考えよう』っつったら、友達ぜんぜん一緒にやってくれなくて。1人で勉強しまくったんですよ。1年ぐらい。したら、これはどうやら、原発反対が正しいと。どうやら、デモに参加している人たち、結構ちゃんと考えてるっていうのがわかって。『すいませんでした!』みたいな(笑)。

(宇多丸)『俺、不勉強でした!』みたいになったと。

(UCD)そうです(笑)。

(宇多丸)高橋源一郎さんとSEALDsの対談集『民主主義ってなんだ?』って、これを読むとすごい笑うのが、牛田くんがとにかくいろんな人に絡んで面倒くさがられるっていう展開が異常に多いっていう。

(UCD)(笑)

(磯部涼)前半は完全にそうですね。

(UCD)『言いてえこと言うのがヒップホップだろ?』っていう精神が、やっぱ(笑)。

(磯部涼)間違ったヒップホップイメージが(笑)。

(宇多丸)石田さんはたとえばラッパーとしてデモに参加して。それこそコールをラッパーとして革新するとか、そういう意識は別にぜんぜんなかったってことなんですね?

(ECD)うん。というよりは、特に3.11以降、さっきも話した『TWIT NO NUKES』とかが盛んにデモをやったりし始めた頃でも、まだ実はね、そんなにコールに対して声、返ってこない感じが1年ぐらいは続いていたんだよね。

(宇多丸)声出すってやっぱり、参加の中でもいちばんハードルが高いですよね。

声を出すことのハードルがいちばん高い

(ECD)そう。で、だから僕は逆にコーラーが言うコールに対して、参加者として声を出す方。デカい声を出して、最初の頃は参加してた。空気作り。本当にね、最初の頃はみんな声出なくて。で、トラメガでリードしてるでしょ?もう遠くに行くと、それも聞こえなかったりするし。だから僕は地声でリードすることもあったし。そういう感じで、とにかく参加者がちゃんと声を出す感じにしていきたいっていうのは、一応ラッパーとしてっていうか・・・デカい声が出る人として(笑)。

(宇多丸)まあ、ね。声を出すことに抵抗が低いっていう(笑)。

(ECD)そうそう。声を出すことにハードルが低い人としてやろうっていうのは、それはずっとあったかな。

(宇多丸)ああー。さっきのサウンドデモも、音を出して、みんながそういう雰囲気に酔ってっていうか盛り上がってっていうところはまでは行っても、やっぱりシュプレヒコールの改革っていちばんムズいってことじゃないですか。やっぱ。

(ECD)そうだね。それはそう思う。

(宇多丸)だからこそ、ちょっと驚いちゃったんですんですけどね。『あっ、それができるんだ』っていう。これもだから、デモまではわかる、とかさ。ここまではわかるけど、シュプレヒコール新しくってのはすごくないかな?みたいな。その、驚きの一端ではあったんですけど。なるほど、なるほど。それがなんとなく、空気が変わったなって感じるのは?

(ECD)ええとね、2012年になって、大飯原発の再稼働のスケジュールとかが具体的になってくるにつれて、それまでは『原発いらない!原発反対!』っていうコールだったのが、『再稼働反対!』にもう、それだけに統一されるようになって。その時に、急に声が返ってくるようになったの。それはすごいよく覚えていて。

(宇多丸)ほうほうほう。

(ECD)だからやっぱみんな、思っていることはこれなんだなっていう。そういうのがね、コール。みんなが返してくる感じの、わかる感じはあって。そうやってだから作られていくっていうか。

(磯部涼)ルーティンとしてのコールじゃなくて、求められているものっていうのを・・・

(ECD)そうそうそう。求められているものを。

(宇多丸)みんなが言いたがっていることを提示すること。

(ECD)そうそう。そこをどうやって掴むか?っていうのが。それはね、やっぱり・・・

(磯部涼)言わせるんじゃなくて、言いたいことを提示する。

(宇多丸)へー!面白いな、それ。

(ECD)それはね、一応僕、ラッパーだから。もう、ラップを始めた頃から、コール・アンド・レスポンスがやっぱり好きだから。どうやったら返ってくるか?っていうのは。そういう蓄積は、役に立ってはいるかも。ちゃんと聞くっていう。返ってくる声を。

(宇多丸)反応が悪いものは、これはダメだなとか。あ、これのここなんだ!みたいなところを。ああ、なるほど。やっぱコール・アンド・レスポンス。それこそ日本のヒップホップの歴史の中にコール・アンド・レスポンスの進化っていうか・・・進化はどっかで止まったかもしれないけど。工夫の歴史は当然、ありますもんね。

(磯部涼)『さわげー!』っていうのをね、いとうせいこうさんが考えた死ね。

(宇多丸)最初は普通にそう。『セイ・ホー!セイ・ホー!スクリーム!』だったのが、『言えよ、ホー!』になり、『さわげー!』になっていって。前はだって、『セイ・ホー!』っつって『セイ・ホー!』って返ってきちゃって。

(磯部涼)そうそう(笑)。レスポンスの意味がわかってない。

(宇多丸)なんか・・・ぜんぜん関係ないっすけど、石田さん、最近おもしろコール・アンド・レスポンスとか、考えてないっすか?

(ECD)おもしろコール・アンド・レスポンス(笑)。

(磯部涼)あんま石田さん、しないイメージがあるけど。

(宇多丸)あんまレスポンスタイプじゃないか?

(ECD)いや、昔はさんざんしたんだよ。昔のライブのビデオとか見るとね、コール・アンド・レスポンスばっかりしてるもん。

(宇多丸)はいはい。いや、ちょっと俺も、ライブのコール・アンド・レスポンスをもうちょっとブレイクスルーできないのかな?っていうのがあって。いまツアー中だから、投入し放題だから。なんかちょっとね、いいアイデアがほしいんですよね。

(ECD)今日、昼間ライブだったんだけど。札幌で。割と古典的な。(イリシット)ツボイくんの方が『ECD!』ってやって。僕のこっち半分が『イリシットツボイ!』っつって。

(宇多丸)おお、そういう割と古典的な盛り上げもやるんだ。なるほど、なるほど。でも、おもしろいですね。その、みんなが言いたがっている言葉をちゃんとすくい取れば。それって、SEALDsコールにも?

(UCD)もう、バンバンありますね。たとえば、安倍さんが安倍談話を出した時には、完全にこれは嘘だ!と思ったんで。『安倍晋三はっ、う・そ・を・つ・く・なっ!』って。それをもうちょっとリズミカルにやったら、もうその時の『キターッ!』みたいな感じが。

(磯部涼)その日のニュースをちゃんと。

(UCD)そうなんですよ。ニュースを切り取って。すごい声が大きくなるんですよね。

(宇多丸)逆に、UCDくんがやったけど、『あらっ?』っていうのもあるわけ?

(UCD)結構ありますね。中谷さんにムカついた時とかに、『中谷出てこい!』っていうのがあったんですけど。それはちょっと、あんまりウケなかったっす(笑)。でも、なんか絶対にやってほしい!って思って。しつこくやってたら、だんだんできるようになってったっていう。ゴリ押しする(笑)。

(宇多丸)でもね、それって考えると、やっぱSEALDsのあれとかを見に行くと、僕はやっぱりびっくりしちゃったのはすごい、受け答えがすげー複雑化していて。たとえば、言ったことに対して違うのが返ってくるコール・アンド・レスポンスって結構高度じゃないですか。

(ECD)高度っていうか、アメリカとかのデモでのコール・アンド・レスポンス。シュプレヒコールじゃなくて。は、割とそうなんだよね。

海外のデモとコール

(磯部涼)コールって、コール・アンド・レスポンスが基本だから。基本的に違うのが返ってきて。あっちだと、一緒のことを言うのは『チャント』とかって言うらしくて。一斉に『NO WAR!NO WAR!』みたいな風に合唱するのは。だから日本が、シュプレヒコールっていうのは同じことを返すみたいなのが独自の文化なのかはちょっとわかんないですけど。

(宇多丸)ああー。じゃあ、それこそ『ナントカカントカ、ナントカー!』っていうのは、ガラパゴス進化?意外と。

(磯部涼)なのかな?っていう。

(宇多丸)あれ自体は。海外のデモのあり方みたいなのは?

(ECD)あのね、ちょうどっていうか、去年の12月6日に渋谷で、東京に住んでいる外国の方が集まって。ファーガソン事件っていう。警官に射殺されちゃった事件。あれに対する抗議のデモがあって。その時、僕も行ったんですけど。もうほとんど、ケヤキ並木ってあるんですけど。よくデモの集合場所になる、NHKホールの前。

(宇多丸)はい。

(ECD)『ここは日本か?』っていうぐらい、黒人さんばっかりで。その時のコールっていうのが、『Hands Up!』って言ったら『Don’t Shoot!』って応える。

(宇多丸)ああー。

(ECD)あと、エリック・ガーナーっていう人が窒息死させられた事件があったでしょ?あれについては、『Eric Garner!』『I Can’t Breathe!』って応える。あとね、これX-Clanもライブでやっていたんだけども。『No Justice!』『No Peace!』。

(宇多丸)X-Clanというね、説明が大変必要ですけど。90年代初頭に活躍したグループ。へー。でも『No ○○』ってそれこそ、『No Music, No Life』に慣れているかもしれないから、そんぐらいならできるかもしれないけど。やっぱりでも、そういうのを見ると、『こんなのやってみたいな』とか思いますか?

(ECD)思うよね。やっぱり。

(UCD)めちゃめちゃかっこいいんですよ。動画見たら、かっこよすぎるだろ!みたいな。

(宇多丸)っていうか、この写真がもう、『ワシントン?』とかね(笑)。っていう感じですけどもね。

(磯部涼)でもそれこそ、SEALDsは英語でも、やるわけじゃん?

(UCD)そうですね。

(磯部涼)『Tell me What’s DEMOCRACY looks like』ね。

(宇多丸)あれは元のあれがあるわけですよね?

(UCD)そうですね。僕ら、ぜんぜんデモのやり方、わかんなかったんで。『シュプレヒコール、なんかかっこいいの、ないかな?』って。『シュプレヒコール』とかって英語で検索したりとか。

(宇多丸)あ、そういうあれなんだ。もはや。

(UCD)そうです。ぜんぜんデモをやったことがなかったんで。もう、グーグルで『デモ やり方』で検索するみたいな。そしたらいちばん上に在特会のホームページが出てきて。デモのやり方を紹介してて。『ディストピアや!』みたいな(笑)。

(宇多丸)なるほど(笑)。へー。そんな1から作っていると。

(ECD)かっこいいデモって言ったら、やっぱり『Fight The Power』のPV。

(宇多丸)ああー、あのミュージックビデオね。

(UCD)あれ、結構意識したっていうか。

(宇多丸)あのプラカードの感じとか、どうですか?ちょっとSEALDsの・・・

(ECD)あれ、SEALDsかなり影響を受けているっていうか、越えたっていうか。

(UCD)いや、越えたのかどうか、わかんないですけど。

(宇多丸)スパイク・リーが監督した89年の『ドゥ・ザ・ライト・シング』に使われているやつで。ミュージックビデオで、すごい大行進してるんですよね。あれは、ワシントン大行進的なのを模している感じですけど。

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(宇多丸)まあ、我々の世代、すごく憧れましたけどね。それこそ、こういう社会問題みたいなことと音楽的なものがリンクして・・・みたいなのって、それこそ80年代から90年代頭って僕らが日本のヒップホップを考える時にあたって、当時、向こうのラップがすごいコンシャスだったから。なんて言うの?その、日本社会と、あるいは自分の中にあるそういうものの距離感って、結構悩みませんでした?そういうの。

(ECD)そもそもあんなデモが起きるような背景がなかったっていうのが。それがでも、そういう背景ができちゃったっていうことも。そんなこと、喜んでいいのかわかんないけど。

(磯部涼)そう。あとでゆっくり話すと思うんですけど、SEALDsが面白いのは、それこそ日本語ラップと重なっているのは『Tell me What’s DEMOCRACY looks like』っていうコール・アンド・レスポンスをちゃんと翻訳したんですよね。頭にかけましたけど、『民主主義ってなんだ?』『これだ!』っていう。それがまさに、日本語ラップがやってきたことをやってるっていうか。

(宇多丸)おおー。

(磯部涼)『英語のコール、かっこいい』だけじゃなくて、ちゃんと日本語で、それを置き換えて表現するっていうことをやった。

(宇多丸)なるほど。これはちょっと、後ほどですね。後半にUCDさん中心にお話を伺っていこうと思いますが。ここらで、ちょっと曲をですね。せっかくラッパーが来てるんですから。聞いていこうと思うんですけど。まず、UCDさん。なんと、いいですね。作品をちょうどいま作ったタイミングということで。

(UCD)そうなんですよね。ちょうど、はい。

(宇多丸)これはいいじゃないですか。で、こういうSWAGもあるって。ということで、アルバムを作ったってことですか?

(UCD)そうですね。ミニアルバムで6曲、7曲ぐらい録って。12月ぐらいに出そうかなと。

(磯部涼)バンドなんだよね?

(UCD)バンド編成でやってます。

(宇多丸)いつもそのスタイルでやってるんですか?

(UCD)そうですね。単純に、トラックを作れる人がいなかったっていうところでバンドで始めたんですけど。

(宇多丸)いや、でも僕、音源聞かせてもらいましたけど、すごい演奏かっこいいっていうか。演奏力、高いですよね。かっこいいと思います。じゃあちょっと、お蔵出しというか。かけさせてよろしいですか?曲。

(UCD)はい。お願いします。

(宇多丸)いろんな曲、聞かせていただいた中に入っていたけど。あえてちょっと、あんまりポリティカルじゃないやつをちょっと行こうかなと思いまして。この『Stakes is』ですか?じゃあ、曲紹介をお願いします。

(UCD)Tha Bullshitで『Stakes is』という曲です。お願いします。

(宇多丸)UCDさん、これ自分の曲、オンエアー初めてですか?初体験?

(UCD)はい。初体験(笑)。

(宇多丸)初体験、きてしまいました(笑)。いやいや、でもすごいクオリティー高いと思いますよ。いまどきのあれで。

(磯部涼)まだ、一応ラフミックスなんだよね?

(UCD)まだラフミックスです。

(宇多丸)貴重な音源、ありがとうございます。いつ、どこでどんな感じのリリースとか、お知らせごとは?

(UCD)12月までには出したいなみたいな。まだどこから出すかとか決まってなくて。

(磯部涼)だからこれを聞いた、いまいろんなレーベルが・・・

(宇多丸)本当だよ(笑)。ヤバい。サクセス・ストーリーがここから始まるかもしれない(笑)。いま、いろんなことをサクセスしているUCDくんということで(笑)。

(UCD)いろんなことをさせていただいて(笑)。あと、12月にリリパもやりたいなと思って。

(宇多丸)ああ、本当に。ということで、もちろんラッパーとしての活動もされているUCDさん。このTha Bullshitっていうのはグループ名義ですかね。やっぱり、牛から来て?

(UCD)牛田なんで。牛のフンってことです。

(宇多丸)はい。Tha Bullshitの『Stakes is』。お聞きいただきました。お知らせの後、デモのコールの音楽的進化。その裏側にさらに迫っていきます。

(CM明け)

(宇多丸)ライムスター宇多丸のウィークエンドシャッフル。今夜のこの時間は『日本のデモ最前線2015 あるいはデモのリ・デザインに見る日本語ラップの影響とは?』特集をお送りしております。ゲストは10年以上前からデモに関わっているベテランラッパーECDさん。そして、SEALDs所属の若きラッパー。サクセスロードを邁進中のUCDさん。そして、デモを追いかけている音楽ライターの磯部涼さんの3人です。引き続き、みなさんよろしくお願いします。

(ECD・UCD・磯部)よろしくお願いします。

(宇多丸)ということで、後半は主にSEALDs以降というか。まさに現在進行形の事象についてUCDさん中心に聞いていきたいんですけど。さっき言ったことと重なるかもしれませんけど。やっぱり自分たちでやるなら、運動のスタイルっていうのは新しく自分たちで1から作らないとダメだっていうようなのはあったんですか?

SEALDsの運動スタートのきっかけ

(UCD)そうですね。SEALDsの前身はSASPLっていって。特定秘密保護法に反対してたんですけど。それが通った夜に、みんなで終電を逃しちゃって。みんなで10人ぐらいで飲んでたんですけど。その時に『ちょっとこれ、動きたいよね』って言い始めて。その時に、『デモじゃないことをやりたい』。

(宇多丸)ほう。

(UCD)『レベルの高い祭りをやりたい。なんか、かっこいいことをしたい。PVみたいなことをしたい』って。

(宇多丸)(笑)。それこそ、『Fight The Power』じゃないけど。

(UCD)そうです。とにかく作品みたいな感じで、そういう見せ方をしたいみたいなことを言っていて、やったのがきっかけです。

(宇多丸)っていうことはじゃあ、そのSASPLの時はちょっと違ったんですか?スタイルは。

(UCD)いや、SASPLの時から、まあそういう風に。

(宇多丸)そういう意識はあったんだけど。

(UCD)はい。だから、SASPL始める時に、そういう意識があったんです。それまでは、僕ら、一参加者として。デモの一参加者として、主催はしてなかったんです。そこから、主催をするようになった。

(磯部涼)だからまたSASPLがさ、サウンドデモをもう1回、復活させたんだよね。

(UCD)そうですね。

(宇多丸)サウンドデモの影響は、やっぱ受けてる?

(UCD)っていうか僕らが物事つく頃にはもうサウンドデモ、やってたんで。それが普通・・・別になんか、それが普通だろ?っていう。

(宇多丸)おおー。石田さん、これ、やっぱやった意味ありますね。やっぱね。それが普通になっているっていう。

(ECD)なんかね、どこでどう受け継がれたのかよくわかんないけど。あちこちでやるようにはなっていきましたよね。2000年代。

(宇多丸)僕とかこれ見て、『あっ、これアリなんだ』っていちいち驚いてるけど。最初から驚かない世代が出てくると強いっていうのはあるかもしれないですね。

(磯部涼)あと、SASPL・SEALDsのサウンドデモが新しかったのは、やっぱりその上でスピーチをするっていうかさ。いわゆる音楽で騒ぐだけじゃなくて、それをバックにして、音楽のエモさに後押しされながら、みんな学生たちが・・・それも印象的だったんだけど。iPhoneでスピーチを読むっていう。

(宇多丸)新世代感ですね。

(磯部涼)で、『私は・・・』って。学校名を言うんだよね。

(UCD)そうです。学校名とか所属を言った後で。

(宇多丸)レペゼンしてから。

(UCD)そうなんですよ。自分をレペゼンするんです。だから、団体として行動してるんじゃなくて、俺は個人でやっていて。たまたまここに来ちゃったやつなんだっていう。

(宇多丸)これね、聞いている人、あんまり知らない人もいるかもしれないけど、SEALDs、結構、たとえば9条とかに対しての考え方、結構それぞれ違ったりするわけですよね。その、『憲法を守れ!』とか、今回の手続きの話とかに関してはあれだけど。個人個人はいろいろな考えがあるけれども・・・ってことですもんね。

(UCD)そうですね。

(宇多丸)だから、まあそれぞれの立ち位置を明確にしてからしゃべり出す。まあ、ヒップホップっぽいあたりでもある。無理やり言うならば。で、その中で、いまのSEALDs流コールというか、ができていくのっていうのはどういうプロセスだったんですか?

(UCD)そうですね。その時は、とにかく何も音がないのは無理だ、みたいなところで。アガんないし。で、僕らドラムを持ってないんで。これはもう、ヒップホップのトラックをかけるしかない。とりあえず、俺らが知ってる。ヒップホップ、好きだったし、みたいな(笑)。

(宇多丸)ちょっと待って?でもそこで、ヒップホップってなる?

単純にヒップホップが好きだった

(UCD)いや、なんかヒップホップ好きなんで。単純にもう、『ヒップホップしかないっしょ?やっぱヒップホップって言えば、なんか政治的なことっしょ?』みたいな(笑)。

(宇多丸・ECD・磯部)(爆笑)

(UCD)適当な感覚で、はい(笑)。単純に、始めた人たちが好きだったっていうだけで。

(宇多丸)そうだね。好きな人が多かったと。たまたま。

(UCD)で、そん時も僕はデモに対して批判的だったんで。『俺はやんないよ』って言ってたんですけど。『いや、お前ラップやってんだからさ、やれよ!』みたいな。『はい・・・』みたいな感じで、渋々。

(磯部涼)でも、牛田くんが言っているような簡単なメッセージっていうのが、やっぱり新しかったのかな?って思うんですよね。その、たとえば石田さんとか僕とか士郎さんとかだと、『いや、ヒップホップは政治的だって言ってもね・・・』みたいな。そこでまた議論が始まっちゃうけど。

(宇多丸)(笑)。面倒くせー(笑)。

(磯部涼)それが牛田くんだと、『やっぱヒップホップ、政治的でかっこいいっしょ!?』みたいな。それが実は新しかったのかな?って。

(宇多丸)なるほど。なるほど。たしかに、フレッシュな感じがしました。いま。なるほど。で、たとえばいまラップっていうときに、具体的に意識したラップとか、ありますか?

(UCD)そうですね。やっぱり、別に韻を踏まなくていいんだっていうのが。もちろん『東京ブロンクス』っていういとうせいこうさんの曲でも韻、踏んでないんで。

(宇多丸)うんうん。

(UCD)あるんですけど。でも、最近のラッパーで僕、すごい好きな人がPUNPEEさん。

(宇多丸)はいはい。昨日もライブ出てくれました。

(UCD)ライブ、見てましたけど。PUNPEEさんとかって、やっぱりあんまり韻を踏んでない気がするんですね。なんかこう、たとえばいま、目の前にあるレッドブルとかを読んでも、『レッド、ブルは、トップ、アスリート た、ぼうな・・・』とかっていう風にやれば、そのまま普通に文章を読んでもリズムができてラップっぽくなるみたいな。っていう風にしてコールとかも、なんか韻を別に踏んでないけど、『とくてい、ひみつほごほう、はんたい』って言えば、なんかリズム感が・・・

(磯部涼)押韻っていうより、韻律みたいな。

(UCD)そうですね。

(ECD)それ、割と日本語ラップのラップの最初の頃、それだったんだよね。初期でね。

(宇多丸)超初期の試みであり、同時に、まあフリースタイル以降のMCはそのやり方、慣れているかも知れないですね。むしろね、がっちり作るよりは。で、その方が有効だと思ったと。それは、なんで?

(UCD)いや、単純に僕がラプをする時にそういう意識だったんで。『じゃあ、僕にやらせるならこうなるよ』っていう感じでやったら、『いいね!』みたいな。っていうかなんかSEALDsとかSASPLは、やっぱりデモする前に予行練習を何回かやるんですよ。スピーチも予行練習しますし。その時に、なんかトラックに合わせてみんなでコールしてみて。『いいね!』とか。たとえばさっき言っていた、『Tell me What’s DEMOCRACY looks like?』『This is What’s DEMOCRACY looks like』をどう翻訳するか?みたいな。

(宇多丸)ああ、ああ。

(UCD)っていう時も『民主主義ってなんだ?』『民主主義ってこれだ!』ってレスポンスしてると、なんか野暮ったいねみたいな。だから、裏から入って、『民主主義ってなんだ?』『これだ!』っていう風に、『これだ!』だけ返してもらった方がかっこいいよねみたいな。

(宇多丸)ああー。

(UCD)のを、試行錯誤していったみたいな。

(宇多丸)でもやっぱ、ちゃんとデザインしてるっていうか。で、やっぱりやっていてかっこいい方っていうか、気持ちいい方になっていくっていうことですかね?多少、ちょっとさ、高度な要素があった方が、やっていて快感があるかもしれないですね。

(UCD)そうなんですよ。そうなんですよ。だから、ずっと同じことを言うよりも、ちょっと変えていった方がアトラクション感っていうか。たぶん楽しいんだろうな、みたいな。

(宇多丸)SEALDsのコールでね、後ほど聞きますけど。具体的に。いちばん印象深い、二拍三連っていうか。あれとかもやっぱり、たぶんあんまり、もちろんラップやったことがないような人たちも、決まった!みたいな。

(UCD)(笑)。あると思います。ぜったい。

(宇多丸)ドンドンドン!みたいなのがあると思う。はい。ということで具体的に。今日は音楽特集でもありますから。実際にですね、採取したというか、SEALDsコール傑作選の数々を聞いていこうと思いますが。まずは、どれから行きましょうか?DJ磯部は?

SEALDsコール傑作選

(磯部涼)僕が一応選んだのは、ちょうど頭でかけたSEALDsのメンバーの奥田くんのコールを。まあ、流れがどういう風にSEALDsがコールをパパパッて変えていくのか?っていうのがわかりやすいかなと思うんで。ちょっと聞いてみたいと思います。

(宇多丸)はい。

(宇多丸)グイグイ、ドライブしてますね。

(磯部涼)この時、いつの音源なんだろうね?

(ECD)これ、たぶん7月の16とか。あたりでしょう。僕もいて。その時にびっくりしたのが、『女の子が声、返しているわー』っていう。これ、聞いてても返しているの、女の子ばっかでしょ?この感じはね、初めてじゃないかな?

(宇多丸)へー。それまではやぱり野太い声がやっぱり多かった?

(ECD)まあ、そうだし。こんなに声、返ってきている感じって、やっぱり国会前初めてだと思うよ。

(UCD)僕らは声返ってくるの、普通です。

(宇多丸)違い、なんでしょうかね?これはね。それまでの違いっていうのは。

(磯部涼)あとSEALDsに女性のメンバーが結構多いってことも、声出しやすい空気作りにはなっていると思いますね。

(宇多丸)チクショーッ!

(一同)(笑)

(宇多丸)まあ、一部の声を代弁してみました。はい。突然(笑)。ごめんなさい。でも、コールがどんどん変わっていくっていうか。シークエンスが変わっていくのが面白いですよね。あれは事前にやっぱり、用意してるものなんですか?

(UCD)そうですね。もうコール班みたいなのがあって。コールラインみたいな。で、アーカイブしておくんですよ。いままで出てきたコールみたいなのをアーカイブしておいて、慣れてない人はそれを見ながら。まあ、だいたい2回から4回で変えるみたいなのをちゃんと決めて、指導してるんです。ちゃんと。声の出し方の指導とか。

(磯部涼)あといま、『廃案!』『廃案!』ってどんどん早くなっていってましたけど。その後に『あっべっはっ、やっめっろっ!』みたいな。急にスクリューするっていうか。ハードコアのブレイクみたいな感じになったりする。あの構成っていうかね。

(宇多丸)緩急が、メリハリがすごいよね。やっぱね。いままではやっぱり、ノペーッと続くのに慣れていると、もうジェットコースターっていうか。聞いていても飽きないし。だから次に何が起こるのか?で聞いちゃう感じはありますよね。

(UCD)あると思います。音ゲー的な感覚がたぶんあるんじゃないかな?

(宇多丸)あと、譜割りっていうか、レスポンスとの距離がどんどん縮まっていく感じとかも、計算している感じですか?

(ECD)あれはだからやっぱり、参加者が作っているんだよね。一緒にね。たぶんね、奥田くんが最近ツイートしたんだか、何しろ発言していたので。『自分がリードして参加者が応えているはずなのに、参加者の声に自分が応えている風に聞こえてくる時がある』って言っていて。延々やっていると。それはすごいな!と思って。

(宇多丸)コール・アンド・レスポンスの、なんかトランスに入っているっていう感じですね。これね。でもまさにさっき、石田さんがおっしゃった、『みんなが言いたいことを提示しないと』じゃないけど。それともリンクしていることかもしれないですね。グイグイとドライブしていく感じ。はい。じゃあ、続いてのコール。女性のコール。

(磯部涼)そう。いま話にも出たんで。女性のコールっていうのが。

(宇多丸)これは、和香子さん?

(UCD)和香子さん。英語がすごいしゃべれる。ペラペラで。海外行ったことがないのに英語がペラペラ。なんでなんだ?みたいな(笑)。すごい、最高のコールなんで。

(宇多丸)じゃあ和香子さんのコール、聞いてみましょう。

(宇多丸)もういきなり、声の質に度肝を抜かれますね。っていうか、フィメールラッパー力、半端ねえ!みたいな。MCライト的な。

(磯部涼)ルックスもね、フィメールラッパー感がある。

(UCD)そうですね。ヘソ出しでブリンブリンつけて。

(宇多丸)石田さん、これ、90年代ほしかった人材じゃないですか?これは。

(ECD)ねえ。たしかに(笑)。

(宇多丸)しみじみ(笑)。しみじみ、水を飲みながら。でも、パッと一聴してなんかね、違うグルーヴ、ありますよね。かっこいい。

(ECD)見るとね、動きも違うんだよね。やっぱり。

(UCD)そうですね。ノリがもう、グワーッ!みたいな。

(宇多丸)どういうバックボーンなんすかね?これね。世代ナンスか?

(UCD)世代っていうよりも、まあ、和香子さんに関してちょっと、異質な感じも・・・

(磯部涼)ラップ、聞いてるんですか?

(UCD)ラップもそんなに聞かないみたいです。

(宇多丸)これ、そうだ。この間ね、僕も実際に聞きに行って思ったんですけど。同じコールの文言でも、ラップも当然そうだけど。ちょっとしたリズムの揺れでグルーヴがやっぱさ、生まれるタイプと、まあ普通にオンで乗せる人といて。やっぱりいまの和香子さんなんか完全に、言葉の一拍の中でももう、スイングしてるっていうか。跳ねちゃっていて。ヤバいですよね。一ラッパーとして単純に圧倒されてるっていうか(笑)。

(UCD)圧倒される(笑)。強え!みたいな(笑)。

(宇多丸)はい。いいですね。どんどん曲、行きましょう。次はやっぱね、これはUCDさん。

(UCD)これ、僕が失敗した時のやつです。あの、憲法学者の方がスピーチして。そん時に・・・

(磯部涼)まあまあ、コール自体を聞いてみましょう。

(宇多丸)先に聞く?UCDさんのコールでございます。

(宇多丸)ちょっとUCDさんのね、実験精神がね、炸裂したのはいいんだけど、若干失笑が(笑)。これは、なにを言っていたんですか?最初のところは。

(UCD)ええと、『一見極めて明白に違憲無効』と。

(宇多丸)ああ、その直前のスピーチを受けての?

(UCD)そうなんですよね。憲法学者の方が、砂川判決っていうのを安倍さんは根拠にしてるんですけど。砂川判決にこう書いてある。『一見極めて明白に違憲無効なんだ』という風に言っているっていうのを聞いて、『これを覚えてください』って言われたんで。よし、覚えるぞ!と。

(磯部涼)パンチラインだと思って。

(宇多丸)言葉自体はかっこいい。『一見極めて明白に違憲無効』。かっこいいよね。ぜったいに使いたいと思うフレーズだけど、ただそのまま乗せると拍数が。要は4の倍数にならない。非常に音楽的に長いしね。でも、一応がんばって返してった人もいましたね。でも、ああいう感じで、やっぱりトライ・アンド・エラーは毎回やっていると。

(UCD)やってますね。

(ECD)ドラム隊が困ってたよね?

(宇多丸)(笑)

(UCD)ドラム隊はまあ、いつも・・・

(ECD)音、入ってきてないもんね。

(宇多丸)(笑)。面白いですね。じゃあ、続きましてUCDから、やっぱり次は誰だ?ってECD(笑)。石田さんのコールもあるわけですね。

(UCD)はい。お願いして。『してください!』って言って。

(宇多丸)SEALDsの場で石田さんがやったと。これは面白い。じゃあ、フィーチャリングECDで。聞いてみましょう。

(宇多丸)声のやっぱり自力がね、もうキャリアと、やっぱり破壊力っていうかね。圧が違いますね。やっぱりね。途中で、『言うこと聞かせる番だ、俺たちが』から『言うこと聞かせる番だ、国民が』って変えた。あれは、フリースタイルに変えていく感じ?

(ECD)あれは、SEALDsのパクリです。どっちかって言うと。

(宇多丸)あ、そうなんだ。でもやっぱ、このフレーズに関しては石田さん、当然オリジネーターっていうか。

(ECD)はい。それをアレンジしてくれたのがSEALDsで。

(宇多丸)ああ、そうかそうか。

(ECD)『国民が』って。『私たちが』っていうのもあるし。『お前が』っていうのもある。『言うこと聞かせる番だ、お前が』っつって。

(宇多丸)ああ、なるほど。『選ぶのはお前だ!』っていうね。なるほどね。どうでした?石田さん。こっちで、若者たちに囲まれて、パス・ザ・マイクされて?

(ECD)いやー、やっぱね、レスポンスが大きいから、やり甲斐があるっていうのも。

(宇多丸)大会場(笑)。おっきいフェスに出ました、みたいな。

(ECD)いや、マジでそういう感じ。国会前のあそこのステージに立つと、カメラがダーッ!っているし。うわっ、なんじゃこりゃ?っていう感じは。

(宇多丸)はいはい。実際、僕、8月30日の時に行って。人をかき分けて。でも、『SEALDsまでたどり着けねえよ!スーパースター、ちょっと無理だな!』って。でも、フェス感あったよね。あっちこっちで。不謹慎な言い方になりますけど。はい。

(UCD)でも、SEALDsを見に来る人とかもいて。SEALDsを見たら帰るみたいな(笑)

(宇多丸)やっぱライブね、目当てのね。だから目当てのSEALDs、何時から始まるんだよ?みたいな。あってもおかしくないですよね。それこそだから、リ・デザインした甲斐があるわけだからね。ということで、さらにですね、SEALDsよりさらに若い世代でティーンズソウル(T-nsSOWL)。これ、みなさん報道とかあちこちで言われてるんですけど。高校生の。これ、僕ニュースので見て衝撃を受けたんですよね。早い。とにかくBPMが早い。こっちがヒップホップなのに対して、EDMとか。BPMかなり早めのであるという。じゃあ、ちょっと聞いてみましょうか。ティーンズソウルの音源、聞いてください。

(磯部涼)これね、ちょっと音、悪いけども。Aviciiの『Wake Me Up』っていう曲のインストを使っているんですけども。これ、すごいアッパーで。ウーッ!とか言い出して。あんまりね、デモとかで聞いたことないけど。

(宇多丸)なんか、ハッピー感がさ。

(磯部涼)でもね、ただ実はAviciiの『Wake Me Up』っていう曲って、歌詞がもともとあるんですけど。それって、『若い、若いって言われてバカにされるけど、私は私でやっていくんだ』みたいなね。そういうね、若さをレペゼンする曲なんですよ。

(宇多丸)ああ、っていうことはこの曲のチョイスは完全に意図的?

(磯部涼)わかんないんですけど。それ、聞いたことないんで。

(UCD)意図的ではないです。

(磯部涼)でも、それがちゃんとメッセージになっていて。もちろんその歌詞を知らなくても、完全に若さが伝わっているわけじゃない。で、『若い人たちが立ち上がってくるんだ』っていう、ひとつのメッセージになっているわけだから。それはすごくよく出来ているコールだなっていう風に思います。

(宇多丸)だし、もう乗せ方も堂に入ったものっていうかね。当然、SEALDsの影響も受けているだろうけどもっていう。どうですか?牛田さん。

(UCD)いや、もうこれ、ぜんぜん息が続かねえ!っていう。僕だったら(笑)。こっちも出来ねえ、俺も出来ねえっていう。しかも、なんかコールも、いまのは割と普通だったんですけど。コールなんか最近、『I don’t need you, Abe, Abe!』みたいな。『裸の王様誰だ?安倍だ!』みたいな。そういう、どんどん進化して。どれもついて行けない!みたいな。すごいです。

(宇多丸)面白いですね。

(ECD)『とりま、廃案!』『それな!それな!』とか。

(宇多丸)『とりま』ね。はいはい。そのなんか、勝手に進化して。まあちょっと、いい意味で一種遊び的にもさ、楽しんでいる感じも入ってて。そこがなんか・・・

(磯部涼)新宿でSEALDsがやった街宣とかね、ティーンズソウルの子たちが『新しいコール、考えてきたんで。みんなでやってもらっていいですか?』って。発表みたいなのがあって。

(宇多丸)(笑)。なんかさ、さっきちょっとCMの合間にちょろちょろ話している中で、そもそも日本はコール文化。ホストクラブのシャンパンコールとか。ホストクラブのシャンパンコール、YOU THE ROCK☆がすげー興味を持ってさ。いろいろやったりして。やっぱ、あるわけよ。コールそのもののさ、文化みたいな。

(磯部涼)だからシュプレヒコールはルーティン化して停滞しちゃっていたかもしれないけど、実は日本人ってコールは好きで。どんどんどんどん発明してたんだっていうことに気づかされるところもありますね。

(宇多丸)先祖返りでもあるという。というわけでちょっとね、あっという間に時間が過ぎちゃって。ちょっと磯部くんに今回のまとめというか。特集のまとめをお願いしたいんですけど。

(磯部涼)そうですね。今回はまあ、コールっていうところに着目して。音楽的にも聞けるんだっていうことで。デモの外側ですかね。ガワみたいなところに着目していったわけですけど。それに対する批判としてね、『じゃあ、中身はどうなんだ?』みたいに言う人ももちろんいると思うんですけど。

(宇多丸)『中身は何でもいいのかよ?』と。

(磯部涼)もちろんSEALDsはしっかりやっているわけですけど。ただ、新しいメッセージっていうのは絶対に新しいフォーマットっていうのを伴って現れると思うんですよね。という、新しいフォーマットがあるからこそ、新しいメッセージが届くし。そしてSEALDsのコールの開発っていうんは、それをまさにやっていたと思っていて。だからこういう風に、コール。デモの外側っていうところに着目するのもあながち間違っていないのかな?っていう風に思います。

(宇多丸)その社会運動っていうのが停滞したっていうのが、それがたとえばメッセージそのものも硬直化されてくるし・・・っていうことなのかもね。

(UCD)そうやって伝えたい。つまり、それぐらい俺たちは本気なんだぜ!っていうことなんですよ。そういう風にしてでも伝えたいぐらい本気だっていうことです。

(宇多丸)はい。ということでね、あっという間に時間が来てしまったんですけど。最後に石田さんの曲を聞いてお別れなんですけども。じゃあ、お知らせごとをお願いします。

<書き起こしおわり>

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