町山智浩『皆殺しのバラッド メキシコ麻薬戦争の光と闇』を語る

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町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でメキシコ麻薬戦争を描いたドキュメンタリー映画『皆殺しのバラッド メキシコ麻薬戦争の光と闇』を紹介していました。

麻薬カルテルが支配する国、メキシコ

(町山智浩)それで、本題に行きます。今日は、怖いタイトルの映画でね、ドキュメンタリーなんですけど。『皆殺しのバラッド メキシコ麻薬戦争の光と闇』っていうタイトルなんですね。で、この映画の皆殺しのバラッドっていうのはどんな音楽か?ちょっと聞いてほしいんで、ちょっとかけてください。



(赤江珠緒)ご陽気ですね。うん。ほー。

(町山智浩)楽しいでしょ?アミーゴ!っていう感じでしょ?

(赤江珠緒)そうですね。パレードでも始まるのかな?っていう

(町山智浩)でもこれ、歌詞はね、どういうことを歌っているか?っていうと、『俺は片手にライフルを持って、肩にはバズーカを背負って。邪魔するやつらの首をバンバンちょん切ってやる!』っていう歌なんですよ。

(赤江珠緒)ええっ!?この曲調で?

(山里亮太)このリズムで?

(町山智浩)このリズムで、この陽気な感じで、歌詞の内容は『テメーら、皆殺しだ!』って歌ってるんですよ。

(赤江・山里)ええーっ!?

(町山智浩)で、こういう歌がですね、ナルコ・コリードっていう歌で。メキシコ系のアメリカ人の人ととかメキシコでいま、流行っている歌なんですよ。で、ナルコ・コリードの・・・『コリード』っていうのは『歌』ですけど。『ナルコ』っていうのは女の子の名前みたいですけど、これはね、『麻薬』っていう意味なんですよ。

(赤江珠緒)へー、麻薬。

(町山智浩)だから『麻薬の歌』っていう歌がナルコ・コリードなんですけど。で、いま、メキシコでは大変な麻薬戦争が続いているんですね。その中で、主題歌みたいな感じでみんなが聞いているのがこの歌なんですよ。で、この映画はですね、皆殺しのバラッドっていうタイトルですけど。原題は『ナルコ・カルチャー(Narco Cultura)』っていってですね、メキシコの麻薬文化、麻薬カルチャーみたいなものをルポしていったドキュメンタリー映画なんですね。はい。

(山里亮太)へー!

(町山智浩)で、いまとにかくメキシコがね、2000年代入ってから、すごいことになっているんですよ。麻薬カルテルと言われている・・・まあ、カルテルっていうのはシンジケートっていうか、組織のことなんですけども。それがどんどん巨大化してですね。で、政府と戦争状態にあるんですね。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、どのぐらいひどいか?っていうと、2006年にですね、メキシコの大統領が麻薬カルテルとの戦争を宣言しまして。それから現在まで、約7年間でどのぐらい死んだか?っていうとですね、まあ最低でも7万人。

(赤江珠緒)えーっ!?

(町山智浩)最悪の場合、12万人は死んでいるって言われているんですよ。

(赤江珠緒)えっ?えっ?だって、特に、麻薬戦争って言っても、海外と戦争しているわけでもないのに?

(町山智浩)国内ですよ。

(赤江珠緒)ねえ。えっ!?

(町山智浩)それでまあ、行方不明がまた3万人ぐらいいるんですけど。

(赤江珠緒)えーっ・・・そんなにですか?

(町山智浩)どうしてそうなっているか?っていうと、まずすごく麻薬カルテルが大金持ちなんですよ。メキシコってあの、石油を輸出しているんですね。石油が出てくるんで。で、それの利益とメキシコにいる麻薬カルテルの利益っていうのは同じぐらいって言われてるんですよ。

(赤江珠緒)あ、その国家予算的なぐらい。

(町山智浩)国家予算なんです(笑)。石油の売上と同じぐらい、麻薬で儲けてるんですよ。

(赤江・山里)へー!

(町山智浩)だからそうなると、国家予算並だから、軍事組織としても国家並なんですよ。国軍並の軍隊を持っているんですよ。で、それだけだったらいいんですけど、要するにただのヤクザがね、ギャングが銃を持っているっていうんじゃなくて、麻薬カルテルの持っている軍隊っていうのは本物の軍人なんですよ。

(赤江珠緒)えっ?正規の軍人?

(町山智浩)あの、本物のメキシコ軍の軍人たちが、そっちの方が儲かるからって、麻薬カルテルの方に入っちゃってるんですよ。

(赤江珠緒)ええーっ!?

(町山智浩)だから本物の特殊部隊とか、そんなやつらなんですよ。みんな。プロなんですよ。完全な。

(赤江珠緒)えっ、じゃあ、争っていても元同僚みたいなことになったり?

(町山智浩)そう。元同僚ですよね。

(赤江珠緒)ええーっ!?

(町山智浩)だから、国が2つにわかれて戦争している状態ですよ。ほとんど。

(山里亮太)そんな状態なんだ。

(町山智浩)だからさっき、メキシコの石油輸出額っていうのは年間300億ドルっていう額なんですけど。それとほとんど同じ額を麻薬で儲かっているんですね。彼らは。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)で、これはどうしようもないと。だって、彼ら、ヘリコプターとか持っているんですよ?ヘリコプターとか、装甲車とか持っているんですよ。

(赤江珠緒)装甲車まで?

(山里亮太)もう、軍だ。

(町山智浩)そう。だから、完全に戦争状態になっちゃうんですよ。で、それこそもう、実際のイラク戦争とかで死亡した人々っていうのは、兵隊とか民間人も含めてですね、10何万人って言われてるんですけど。こっち、12万人だからあんまり変わんないんですよ。戦争と。

(赤江珠緒)そうですよね。

(町山智浩)大変な事態になっているんですけど。これがまたね、非常にその、ギャングっていうと非常になんて言うか、原始的な感じを。日本の感じだと思うんですけど。ものすごく近代化されていて。ものすごく効率のいい、企業みたいになっているんですね。メキシコの麻薬カルテルっていうのは。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、たとえばですけど、いちばん大きい組織でですね、シナロア・カルテル(Sinaloa Cartel)っていうのがあるんですよ。そこのボスは『ボス』って言わないで、『CEO』って言われているんですよ。

(山里亮太)えっ?じゃあ、会社だ。

(赤江珠緒)CEO?

(町山智浩)会社なんですよ(笑)。で、チャポ・グスマン(El Chapo Guzmán)っていう男なんですけど。彼はアメリカの経済誌のフォーブスの世界大富豪ランキングに何度も登場しているんですよ。

(山里亮太)えっ!?

(赤江珠緒)思いっきり、表の世界みたいなところに出てきちゃってるんですね。

(町山智浩)表の世界に出ちゃってる。で、彼はありとあらゆる麻薬を売っているんですね。ヘロインから、コカインから、マリファナから、覚せい剤も売っていて。特に覚せい剤とかもアメリカに入ってくるのはほとんどメキシコで作られているんですけど。『クリスタル』っていうんですね。覚せい剤のことを。スラングでね。だから彼は、『クリスタルキング』って言われてるんですよ。

(山里亮太)えっ!?大都会?

(赤江珠緒)やめてちょうだい!っていう感じですけど(笑)。

(町山智浩)そう。『あーあー、果てしない♪』って。あっ、歌うとマズいですが(笑)。

(赤江・山里)(笑)

(町山智浩)本当、これそうなんですよ。で、あまりにもお金があるんで、そのお金を資金洗浄したり、運営したりするのに、国際的な金融のプロを使っているんですよ。投資とかもしてて。これと戦って、勝てるか!?っていう話ですよね。

(山里亮太)たしかに。

(町山智浩)で、油田とかも乗っ取っちゃってるんですよ。

(赤江珠緒)いやー・・・

(町山智浩)油田の地域を全部押さえちゃえば、その地域は警察も軍隊も入れないわけだから、彼らのもんですからね。

(赤江珠緒)いやー、でもこれ、圧倒的に悪じゃないですか。これ、政府とか市民とかがこれを潰そうとは、動きますよね。当然ね。

(町山智浩)だから普通の国民とか立ち上がったりしてますけど。この間、だから43人の学生が、こういったひどいことに対して意義を唱えて首都に行ってデモをしようとしたら、全員捕まって殺されて。死体までバラバラにされて公開されましたよね。

(赤江珠緒)そうそうそう。あった。あれですよね。

(町山智浩)そう。しかもそれをカルテルに手引きしたのは、その地方の政治家だったりするんですよね。完全にもう、腐敗しきってるんですよ。

(赤江珠緒)いやー、怖いことになってますねー。

(町山智浩)ものすごいことになってるんですけど。これをですね、取材していくんですね。この、皆殺しのバラッドっていうのは。ただ、このドキュメンタリーのポイントっていうのは、メキシコ麻薬戦争を正面から描くっていうよりは、その周りにあるカルチャー、文化なんですね。

(赤江珠緒)ほう。

(町山智浩)それでこの、ナルコ・カルチャーの中には映画があって。たくさんその、麻薬カルテルの人たちを正義の味方として描いた映画がたくさん作られているんですよ。

(山里亮太)へー!

(赤江珠緒)ほう・・・

(町山智浩)要するに彼らは貧しいところから立ち上がって、地元の人を守るために、悪い警察と戦っているみたいな映画を作っているんですよ。いっぱい。

(赤江珠緒)はー!

(町山智浩)自分たちの都合のいいような。だから、フォーク・ヒーローと言われているものになっているんですね。でも、日本も昔、いわゆる任侠映画ってそうでしたからね。

(赤江珠緒)ああ、そうか、そうか。

(町山智浩)そう。そういう人たちをいい人として描くっていうのがありましたが。どこの国にもあるんですが。で、そういうのの主題歌みたいなのが、そのナルコ・コリードって言われている歌なんですよ。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、これがすごく面白いのは、僕、いまアメリカに住んでいるんですけど。アメリカのカリフォルニアっていう僕が住んでいるあたりでは、ラジオでFM局っていうのはメキシコ系の人のためのスペイン語系FM局っていうのが5、6局あるんですね。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)で、そういうところでずっとこれがかかってたらしいんですよ。ナルコ・コリードが。要するに、ライフルとバズーカで皆殺し!っていう歌がかかっていたらしいんですけども。アメリカのそういった放送倫理規定っていうのは、スペイン語が引っかからないんですよ!

(山里亮太)へー!

(町山智浩)だから、ギャングスタ・ラップっていう非常に危険なね、要するにアメリカの、アフリカ系アメリカ人のギャングのカルチャーを歌った歌っていうのは昔からあったんですけど。それは結構歌詞が引っかかって、ラジオでそのまま放送できないんですよ。

(赤江珠緒)うんうんうん。

(町山智浩)ピーが入ったりするんですけど。ただ、スペイン語の方はチェックが入らないんで、垂れ流し状態なんですよ。アメリカでは。

(赤江珠緒)じゃあ、みなさん知らずに、『ああ、ご陽気な曲だな』と思って聞いていたんですか?

(町山智浩)『陽気な曲だな』と思ったり、メキシコ料理屋に行ってメシ食いながらかかっていたりするのが、そういう歌詞だったりするんですよ(笑)。

(赤江珠緒)えっ!?

(町山智浩)とんでもないんですよ。だからアメリカって昔、ゴア副大統領の奥さんがすごくCDの歌詞を規制してですね。歌詞に非常に、問題がある歌詞がある場合とかって、スーパーマーケットとかでは売ってはいけないんですね。CDを。子どもが買うとマズいからっていうことで。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)猥褻だったり、暴力的だったりするとチェックが入るんですけど。スペイン語の歌は引っかからないんで、スーパーでこういうCDが売ってるんですよ。

(山里亮太)へー!

(町山智浩)それで、あまりにも巨大なものになって。アメリカ人の、もうすぐですけども、だいたい30%近くがメキシコ人になるって言われているんですね。もうすぐ。メキシコ系の人になるって言われているんですよ。だから人口が非常に多いんですが、その中で、こういう歌を謳っていると、ものすごく儲かるわけですね。

(山里亮太)あ、なるほど。

(町山智浩)だから、アメリカに住んでいるメキシコ系のアメリカ人の間で、このナルコ・コリードを作って歌うっていうのがいま、流行っているんですよ。

(赤江珠緒)ええーっ!?

(町山智浩)で、さっきかけた、バズーカ持ってブチ殺せ!って歌を歌っている人はですね、この人、映画の中で主役のように出てくるんですけど。エドガー・キンテロ(Edgar Quintero)くんっていう人でですね。この人自身はカリフォルニアのすごく平和なところの中産階級みたいなところに生まれているんですよ。家も出てくるんですけど、普通のいい家なんですよ。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)だからギャングも麻薬もなにも知らないで育っているのに、『すげー!かっこいい!』って憧れて、こういう歌を作って売って。それがアメリカのメキシコ系の人とか、メキシコでも売れている状態なんですよ。

(赤江珠緒)いやー、困ったもんですな。なんか。

(町山智浩)彼はテレビゲームぐらいでしか知らないんですよ。ぜんぜん、そういったものを。で、のんびり育っているんですよ。

(赤江珠緒)いや、ちょっと実態で起きていることと、ねえ。周りの余波の差がありすぎね。ねえ。

(町山智浩)そう。彼は要するにグランド・セフト・オートとかゲームの中でしか暴力を知らないんですけどね。で、そういう歌を作っていたら、なんとそのメキシコのカルテルのボスにね、『お前、いい歌作ってんじゃねーか。俺の誕生日のために、歌ってくれねーか?』ってね、招待されちゃうんですよ。そのエドガー・キンテロくんが。

(山里亮太)普通の子が。はい。

(町山智浩)そう(笑)。ここはね、結構おかしかったですね。

(山里亮太)あ、映画のシーンで出てくるんだ。

(町山智浩)そう。普段、『ギャングだぜ!』ってカッコつけてるんだけど、実際にそのメキシコに呼ばれて、ビクビクしているわけですよ。もう、怖くて。で、一応カッコつけて銃とか撃つんですけど、全く当たらない。撃ったことないんだよ、この人。で、そういうところがおかしかったですけどね。

(赤江珠緒)ふーん。いや、でももう、むちゃくちゃな無法状態担っているんですね。

(町山智浩)大変なことになっていますね。メキシコの方はね。まあだって、ほとんど起訴されないんですよ。

(赤江珠緒)2000年ぐらいから急にそんなに、取引が?

(町山智浩)そうですね。だからやっぱりアメリカからお金が入ってくる。ほとんどの売上はアメリカからなんですよ。

(山里亮太)へー。そうなんだ。自国じゃないんだ。

(町山智浩)で、銃はね、すごく規制があって、メキシコでは銃はなかなか手に入らないんですって。本当は。メキシコのカルテルが持っている銃っていうのは、軍隊がそのまま持ってきたやつと、ほとんどアメリカから入ってくる銃らしいんですよ。

(赤江珠緒)ええ。

(町山智浩)だからアメリカの問題でもあるんで。現在は。で、アメリカで最近どんどんマリファナが解禁になっていますよね?

[関連リンク]町山智浩が語る アメリカ マリファナ(大麻)解禁・合法化の現在

(赤江珠緒)合法化になっている州がありますね。

(町山智浩)合法化されているんですけど。その目的のひとつは、メキシコのギャングたちにマリファナの売上を回さないっていうことも目的のひとつなんですよ。かなり大きな目的なんですよ。

(山里亮太)へー!

(赤江珠緒)ええっ!?なんか、苦肉の策すぎて・・・

(町山智浩)もともとその麻薬カルテルの売上の3割がアメリカにマリファナを売ったものだったんですよ。

(赤江珠緒)えっ?じゃあ、もっと正規のルートで買いましょうって?

(町山智浩)そうそう。だからそれをカットするのは、すごくいいことだったんで。アメリカは現在もどんどんどんどんマリファナ解禁に向かっているのは、メキシコのギャングにマリファナの売上を渡さないためなんですよ。そういう状況になっているっていうね。

(山里亮太)すごいな。

(町山智浩)で、この映画ね、日本語タイトルには『メキシコ麻薬戦争の光と闇』ってなっていて、闇ばっかりなんで、光はどこにあるの?って感じがするんですけど。この映画の中で、そんな状況でも戦い続ける警察官っていうのが、もう1人の主人公として出てきます。

(赤江珠緒)あー。

(町山智浩)もう、起訴できないんですよ。もう、90%以上の殺人は起訴されないまま終わっちゃうんですよ。

(赤江珠緒)いや、とんでもない・・・

(町山智浩)それでも、戦い続けるんですけど。次々と仲間が暗殺されていくんですよ。警察官を暗殺しちゃうんですよ。捜査してると。でも、それでも彼は戦うっていうところに一抹の光が見えるっていう映画が、この『皆殺しのバラッド メキシコ麻薬戦争の光と闇』でした。はい。

(赤江珠緒)これね、日本でももう今週土曜日から、全国で順次公開ということで。すぐに見ることができます。今日は、『皆殺しのバラッド メキシコ麻薬戦争の光と闇』、ご紹介いただきましたけど。なんかちょっと考えられない事態になっているんですね。

(町山智浩)イメージフォーラムかな?いま上映してるの。ということで。

(赤江珠緒)はい。わかりました。そして町山さん。再来週、スペシャルウィークの21日はどんな作品をご紹介いただけるんでしょうか?

(町山智浩)はい。いま、ドキュメンタリーなんですけどアメリカで大変な話題になっている、ジョン・トラボルタとトム・クルーズの大変なスキャンダルのドキュメンタリーを紹介します。

(赤江珠緒)はい。わかりました。楽しみです。町山さん、今週もありがとうございました。

(山里亮太)ありがとうございました。

(町山智浩)どもでした!

<書き起こしおわり>
[関連リンク]宇多丸推薦図書『メキシコ麻薬戦争』を語る

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