町山智浩 映画『わたしに会うまでの1600キロ』を語る

町山智浩 リース・ウィザースプーン主演映画『ワイルド』を語る たまむすび

町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』に出演。アカデミー賞主演女優賞候補作品、リース・ウィザースプーン主演映画『わたしに会うまでの1600キロ(原題 WILD)』を紹介していました。
町山智浩 ジュリアン・ムーア主演映画『アリスのままで』を語る の続きのトークです。
※この放送の時点では邦題が決まっていなかったため、原題の『ワイルド』で紹介されています。

わたしに会うまでの1600キロ(字幕版)

(町山智浩)で、それ(『アリスのままで』)に対抗している対抗馬が、『ワイルド』っていう映画のリース・ウィザースプーンっていう人なんですね。で、この人はモダンチョキチョキズの濱田マリさんに顔そっくりの人ですよ。

(赤江珠緒)(笑)

(山里亮太)モダンチョキチョキズ、久しぶりに聞きましたね。

(町山智浩)『マッサン』に出てるじゃないですか。

(赤江珠緒)はいはいはい。

(町山智浩)なんかわけのわからない、外国人の名前で出てますけども(笑)。

(赤江珠緒)そうそう。金髪の濱田マリさんっていう感じですね。なるほど。

(町山智浩)そうそうそう。そっくりなんですけど。要するに、ぺちゃっとしてて、しゃくれている感じがそっくりなんですけどね。はい。で、この人が自分で制作して主演している映画が『ワイルド』っていう映画でですね。これはあの、1700キロもあるですね、カリフォルニアの山脈をずーっと南から北に通っている道があるんですね。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)で、それをたった1人で女の人が踏破したっていう事実を、その人が書いたノンフィクションの映画化なんですよ。

(赤江珠緒)こちら、実話。へー。

(町山智浩)はい。これはね、パシフィック・クレスト・トレイルっていう道でね。シェラネバダ山脈っていうのがカリフォルニアの端っこの方にあるんですけども。そこをね、1700キロ以上っていうとね、だいたい青森から鹿児島ぐらいまでの距離ですね。

(赤江珠緒)おー!

(山里亮太)もう日本をほぼ縦断。

(町山智浩)要するにメキシコからカナダまで、アメリカを南から北に抜けちゃうんですよ。で、しかもいちばん高いところは標高が4000メートルくらいなんで、もうすごい険しいところなんですよ。

(赤江珠緒)ええー!?そこをまた、1人で?

(町山智浩)そこをたった1人で、原作者の人が26才かなんかの時に踏破して、そのことを本に書いて、それの映画化なんですね。

(赤江珠緒)冒険家ですか?

(町山智浩)違うんですよ。ただの人なんですよ。ええと、ただの麻薬中毒でセックス中毒の女の人なんですよ。

(赤江珠緒)えっ!?

(山里亮太)なにがきっかけで?

(町山智浩)そう。で、なんで山に登るか?まず、山に登るところから始まるんで。映画が。メキシコとカリフォルニアの境のあたりから山に登り始めるんですけど。なぜ登ったか?っていうのはこの映画の中でだんだん明らかになってくるんですよ。

(赤江・山里)ほう。

(町山智浩)それで登りながら、人間、なにもやることないから・・・僕、山登りよくやるんですけども。中学ぐらいから。登っている間って結局なにも情報が入ってこないじゃないですか。景色以外に。だから、自分のことを考えるんですよ。

(赤江珠緒)うーん。

山を登る理由

(町山智浩)で、ずっとその彼女は、シェリル・ストレイドさんっていう人なんですけども。なぜ山に登ることになっちゃったのか?ってことを観客に見せていくんですね。で、どんどんさかのぼって。この人、山に登る直前まで、いい旦那さんがいたんですよ。ポールさんっていう。

(山里亮太)へー。

(町山智浩)ところが、彼と離婚をするんですね。で、離婚をした原因は、彼女の止まらない浮気癖なんだと。

(赤江珠緒)彼女が浮気?ええ。

(町山智浩)彼女が浮気が止まらなかったと。それがどういったものかは、だんだん少しずつ明らかになっていくんですけども。とにかく、やりまくりだったんですね。そこら中の男と。

(赤江珠緒)あら。

(町山智浩)ウェイトレスで働きながら、来た客と裏のゴミ捨て場でやっちゃうみたいな人だったんですよ。

(山里亮太)ほー!だいぶ奔放な。

(町山智浩)旦那さん、いるんですけど。で、途中でヘロインのジャンキーの男と一緒になっちゃって、それで彼と一緒に旦那のもとから駆け落ちしちゃうんですね。

(赤江珠緒)あらららら。

(山里亮太)どんどん転落していく。

(町山智浩)で、ヘロインを打たれまくって、みたいなことになっちゃうんですよ。しかもその、ヘロイン中毒の状態でもって、男の子どもを妊娠したりしてですね、グチャグチャになっちゃうんですけども。

(山里亮太)めちゃくちゃだ。

(町山智浩)それをね、旦那さんは一生懸命探して、アメリカ中を探して、彼女を連れ戻して治してやるんですよ。

(赤江珠緒)いい旦那さん!ねえ。

(町山智浩)彼女が何をしても、全部許すんですよ。で、『君はおかしいんだから、僕が守ってあげるよ。治してあげるよ』ってもう徹底的に愛するんですよ。優しくして。この旦那さんが。ところが、されればされるほど、彼女は逃げていって、どんどんひどいことをするんですよ。

(山里亮太)えっ?

(赤江珠緒)なぜに?

(町山智浩)だからそれがなぜか、どんどん明らかになっていくんですね。で、彼女ね、名前を『ストレイド(Strayed)』っていう苗字にね、離婚した時に改名するんですけど。『ストレイド』っていうのはね、『ストレイ(Stray)』っていうのは『はぐれた』とかいう意味なんですよ。

(赤江・山里)はい。

(町山智浩)『はぐれ猫・野良猫』のことを『ストレイ・キャッツ(Stray Cats)』って言うんですね。だからこの人、自分のことを要するに『野良』っていう苗字に変えちゃうんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)で、『私はもうどこにも行くところがないの。離婚をして』って。で、山を登り始めるんですけども。山を登ったのも、たまたまそういうガイドを見てですね、思い立っただけなんですけどね。で、完全に初心者なんです。登ったこと、ないんですよ。

(山里亮太)えっ?1700キロも行くのに?

(町山智浩)で、テントの張り方も知らないの。最初は(笑)。僕、登るからわかるんですけど、まず余計なものをたくさん初心者って入れちゃうんですよ。バックパックに。

(赤江珠緒)あれも必要、これも必要ってね。

(町山智浩)あれも必要、これも必要っつって。それで、重くて歩けなくなっちゃうんですけどね。あと、食料とかも良くないものを持っているから、途中で餓死しそうになるんですけどね。

(山里亮太)へー!

(町山智浩)そう。で、水なんかも一気に飲んじゃったりね。水汲み場がないのに。近くに。

(赤江珠緒)ああー・・・山の知識は必要ですもんね。

(町山智浩)だから見てるとイライラしてくるんですよ。僕、高校時代はワンダーフォーゲルやっていて。僕、徒歩部っていうところにいたんですよ。

(赤江珠緒)えっ?

高校時代は徒歩部の町山智浩

(町山智浩)徒歩部っていうのはだから、山岳じゃなくて、ワンダーフォーゲルっていう歩いて山登るところですね。だから飯豊山系とかですね、朝日とか、そういうところ全部踏破してるんですよ、僕。高校時代に。

(山里亮太)ええー!?イメージと違う。

(赤江珠緒)本当。イメージと違う(笑)。

(町山智浩)そういう人だったんですよ。だから、見てるとね、ド素人め!って思ってイライラしてくるんですけど(笑)。この女、わかっちゃいねーな!ってね(笑)。で、いちばん困ったのはね、登山靴を買う時にこの人ね、ぴったりとした登山靴を買っちゃうんですよ。

(赤江珠緒)ああ、はいはい。

(町山智浩)登山靴っていうのはものすごく厚手の靴下を履いてちょうどいいぐらいでいいんですよ。足、パンパンに膨れ上がりますから。歩いているうちに。

(赤江珠緒)そっか、そっか。で、きついとガンガン当たってきますもんね。

(町山智浩)そう。だからこの人ね、ちょうどいい靴を買っちゃったためにね、もう中きつくなっちゃって、爪がもげちゃうんですよ。

(赤江・山里)うわー・・・

(町山智浩)だからもう、しょうがねーな、こいつ!と思いながら見てるんですけど。で、それでも、なんでやろうとしたのか?っていうのがだんだんわかってきて。彼女は自分を愛してくれる男からどんどん逃げていって、どんどん自分をひどい目にあわせていくっていうのは、子どもの頃にずっとひどい目にあっていたからなんですね。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)まずそのお父さんが、シェリル・ストレイドさんのお父さんがアル中でですね、自分の娘とか奥さん。要するに母親ですね。主人公の。を、ボコボコに殴る蹴るしてたんですよ。

(赤江珠緒)ええ、ええ。

(町山智浩)で、あまりにもひどいんで、逃げ出すんですよ。子どもを連れて。お母さんは。彼女を連れてね。すると今度は貧乏で苦労するんですけど。それで彼女がやっと大学に入れたと。働きながら。で、このお母さんっていうのはね、偉くてね。40過ぎて、娘と同じ大学に入るんですよ。

(赤江珠緒)へー!立派ですね。

(町山智浩)すごく前向きなお母さんで。で、やっと幸せになれるか?と思ったら、45才でガンで死んじゃうんですよ。お母さん。

(赤江珠緒)うーん・・・

(町山智浩)で、娘、まだ大学3年かなんかなんですけど。で、もうロクなことないわけですよ。子どもの頃から。

(赤江珠緒)たしかに。ええ。

(町山智浩)それでもって、だから愛されちゃうと、自分が愛されることに耐えられなくて、自分をどんどんひどい目にあわせていくんですよ。この人。

(赤江珠緒)じゃあ幸せになるのが怖いみたいな?

(町山智浩)怖いみたいな。それで、セックスが好きなわけじゃなくて、わざとそういう、行きずりの男に身を任せて、自分を傷つけるみたいな。要するに、リストカットみたいなもんですね。

(赤江・山里)はー!

(町山智浩)それをしてたことがだんだんわかってくるんですよ。でも、自分ではわけがわかんないまま、そうやって流されてきたんだけども。こうやって山に登ることによって、1人になるじゃないですか。他に考えることないですから、ずっと自分のことを、ずっと考え続けるわけです。それで、3ヶ月間、歩き続けるわけですね。ほとんど人ともしゃべらないで。

(赤江珠緒)ええ。

(町山智浩)で、その中で自分を治療していくという話なんですね。当然、ヘロインも打てませんからね。山登っている間はね(笑)。

(赤江珠緒)そうだ、そうだ。うん。

(町山智浩)クスリも抜けるという話で。これがまあ、アメリカでベストセラーになったんで、アメリカでは最近、30%くらいこのパシフィック・クレスト・トレイルの利用客っていうのが増えているらしいんですよ。この本の影響で。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)で、人生なにか失敗したり、上手く行かなかったり、就職に失敗したとか、離婚したとか。そういう人たちがこの山を登ることによって立ち直ろうとするっていうのがいま、流行してるんですよ。

(赤江珠緒)ええっ!?

(山里亮太)じゃあ、とんでもない人たちばっかり、いま(笑)。

(赤江珠緒)それはまた、すごい荒療治ですけど。

(町山智浩)荒療治なんですけど(笑)。ねえ。

(赤江珠緒)誰でも彼でも、できるかしら?

(町山智浩)だからこれは具体的には荒療治なのは、要するに1回死ぬっていうことを擬似的に経験するんですよね。で、生まれ変わるわけですよ。だからまあ、昔からキリストとかブッダとかはね、修行中に死にかけ体験みたいなのをして悟りを開きますからね。ということなんですけどもね。

(赤江珠緒)ええ。そうか。自分と向き合わざると得ないんですもんね。

(町山智浩)向き合わざるを得ない。他になにもないから、自分のことばっかり考えるわけですよ。

(山里亮太)全てを強制的にやるのは、山がいちばんだと。

(町山智浩)そうそう。で、これね、リース・ウィザースプーンさんってね、最近、旦那と一緒に飲酒運転で捕まって。で、捕まった時に警官に対してケンカ売って逮捕されるっていう大恥をかいて。で、ちょっと人気を無くていたんですよ。

(赤江珠緒)あ、この役の人が。はい。

(町山智浩)そう。彼女はいままで、優等生役ばっかりやっていたんですよ。リース・ウィザースプーンっていう女優は。この人、なんと名門スタンフォード大学出ててですね。あと、ヒットした映画は『キューティ・ブロンド』っていう映画で。

(赤江珠緒)『キューティ・ブロンド』。はいはい。

(町山智浩)あの、ギャルなのに実は頭がよくて勉強したら司法試験に受かっちゃった。それで弁護士になっちゃったっていう話ですよ。だから優等生タイプなんですよ。すごく。高校時代チアリーダーだったしね。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)だからそれがその、飲酒運転逮捕でもってガラッと崩れたんですよ。イメージが。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)で、立ち直り作にこの作品を選んだんですよ。彼女は。

(山里亮太)あ、ちょっと自分を重ねてみたり。

(町山智浩)そう。そういうところがやっぱりね、面白いなと思いますね。で、まあこの2つがアカデミー賞を争っているんですけども。すごくいいのは、このお母さん役の人がローラ・ダーンっていう女優さんで。彼女もアカデミー助演女優賞候補にあがっているんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)で、この人は本当に悲惨なお母さんだったわけですね。旦那は暴力で、自分は貧乏で。でも、いつも楽しそうに歌を歌っていたっていって、思い出すんですけど。その歌が、サイモンとガーファンクルの『コンドルは飛んでいく』っていう歌なんですね。

(赤江珠緒)はいはい。

(町山智浩)で、いまちょっとかけてもらいますけども。

(町山智浩)これをいつも歌っているんですよ。このお母さんは、彼女の思い出の中で。で、『私はこんなになっちゃって、麻薬中毒とかになっているのに、お母さんはもっと悲惨な人生だったのに、いつも歌を歌っていたわ』と思い出すんですよ。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、『どうしてかな?』と思い出して。『お母さん、なんでいつもあなたは歌を歌っているの!?』って反抗をしたことがあるんですね。彼女がね。そしたら、『だって、楽しいじゃない』って言うんですよ。お母さん。『楽しくなんかないでしょ!お父さんに殴られて、貧乏で。どこが楽しいの!?』って娘が言うと、思い出の中のお母さんは、『それは結婚は失敗だったけど、でも、こんなに素敵な娘を得られたじゃないの』って言うんですよ。

(赤江珠緒)うわー・・・

(町山智浩)『あなたっていう娘を。世の中、いいことと悪いことがあるけど、よかったことだけを考えなさい』と。

(赤江珠緒)なるほど。そうね。

(町山智浩)『それを、大事にしなさいよ』って。

(赤江珠緒)幸せを感じる人だったんだね。

(町山智浩)そういうお母さんだったんですよ。で、それで立ち直っていくっていう話でね。

(赤江珠緒)で、この歌が山に合うね!

(町山智浩)(笑)。この歌はだって、アンデスの山の、4000メートル以上8000メートルとかの山の歌ですからね。

(赤江珠緒)山歩きにぴったり。

(山里亮太)そりゃ、合うわね。うん。

(町山智浩)そう。これがね、山を登っていく時にかかるんですよ。この曲が。コンドルは飛んでいく。そういう映画が『ワイルド』っていう映画で。これは夏ぐらい公開予定みたいですね。日本では。

(赤江珠緒)ああ、そうですか。はい。どっちがね、とるのでしょうかね?今日はアカデミー賞主演女優賞ノミネートの2作品。映画『ワイルド』と『アリスのままで』をご紹介いただきました。いや、なかなかね、過酷な女性の2人の人生ということでね。

(山里亮太)すっごい役をやんないと無理なんだね。やっぱアカデミー賞って。

(町山智浩)これぐらい強烈なのをやらないと、やっぱりアカデミー賞っていうのはとれないと思いますね。はい。

(山里亮太)大変だな、女優さん(笑)。

<書き起こしおわり>

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