町山智浩が語る サラ・ポーリー監督作『物語る私たち』

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映画評論家の町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』で、サラ・ポーリーが監督したドキュメンタリー作品『物語る私たち』について紹介していました。


(町山智浩)今日紹介したい映画はですね、前ちょっとだけ話したんでもう1回話すことになっちゃうんですけど。やっと公開が決まったんで。『物語る私たち』というタイトルの映画なんですけど。昔、まだ日本公開はっきりしていない頃に僕が話したんですけども。これ、カナダの映画女優のサラ・ポーリーという人がですね、いま監督に転身して。自分で監督した自分自身のドキュメンタリー映画なんですね。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、『物語る私たち』の物語っていうのは、自分のお母さんの。ダイアンさんっていう女優のお母さんのことをいろいろ調べていくっていうドキュメンタリーなんですよ。これね、サラ・ポーリーさんっていう女優さんはですね、11才の時にお母さんが死んじゃってるんで、お母さんのことをよく知らないんですよ。で、お母さんはいったいどういう人だったんだろう?っていうことを調べていくんですけども。家族が、兄弟が4人いてですね、男2人の女2人で。全部お姉さんとお兄さんなんですけども。サラ・ポーリーだけがですね、子どもの頃、赤毛だったんですね。

(赤江・山里)ふーん。

(町山智浩)ちっちゃい頃って、ぜんぜん関係ない話ですけど、アメリカ人って・・・アメリカ人じゃないか。この人はカナダ人ですけど。白人の子って子どもの頃と大人になってからって髪の毛の色が違うんですよ。

(赤江珠緒)そうですよね。なんか金髪の子も、子どもの時は多いけど、大人になると・・・

(町山智浩)そう。男の子なんかちっちゃい時は金髪で青い目なんだけど、目もどんどん濃くなって、髪の毛とかも茶色くなるんですよ。大人になると。これ面白いなと思ってるんですけど。で、このサラ・ポーリーはいま金髪なんですけど、ちっちゃい時は赤毛だったらしいんですね。でも親戚中を探しても赤毛の人が誰もいないんですって。

(赤江・山里)ほー。

(町山智浩)で、変だなと思っていて。あと、僕このサラ・ポーリーっていう女優さんに1回インタビューで会ってるんですよ。で、昔『ドーン・オブ・ザ・デッド』っていう映画がありまして。ゾンビのリメイクで。ショッピングモールに生き残りの人間たちが籠城してゾンビと戦うっていう映画に出てたんですね。で、そのショッピングモールの撮影現場に僕、行ったんですけど。

(赤江・山里)へー!

(町山智浩)で、彼女と話したら、彼女、写真を見るといわゆる典型的な美人の顔なんですけど。この人、笑うとですね、歯がすごくちっちゃくて、前歯が歯の上に覆いかぶさってるんですよ。そういう人って、ときどきいますよね?歯茎が要するに葉の上にかぶさっちゃって。笑うと歯茎だらけになっちゃう人。

(赤江・山里)あー!

(町山智浩)で、前歯がすごくちっちゃくなっちゃってるんですよ。隠れて。歯茎にね。そういう顔なんで、笑う時、手で口を隠すんですよ。この人。で、女優をやるんだったら治せばいいのにな・・・とかいろいろ思ったんですけど。ただ、その家族全体とか親戚中を探しても、その歯茎の人が1人もいないんですって。

(赤江珠緒)ほー。そういうのは似そうですもんね。たしかに。

(町山智浩)そう。普通誰かいますよね。遺伝的なものだったら。で、いないんでちっちゃい頃から子ども同士で、その兄弟の中で『サラだけお父さん違うんじゃないかな』とか言ってたんですって。ジョークで。お父さんもお母さんもいる状況だから、ケラケラ笑っていたんですけども。『本当は違うんじゃないか?』って本当のお父さんを探していく映画がこの物語る私たちっていうドキュメンタリーなんですよ。

(山里亮太)すごいな、これ。

不思議な女優 サラ・ポーリー

(町山智浩)これ、結構ハードなことですよね。でね、このサラ・ポーリーっていう女優さんはすごく不思議な面白い女優さんなんですね。この人は14才の時に家出して男の家に転がり込んでるんですよ。で、16かなんかの時に保守系の政治家に対する反対デモに言ってですね、警官に殴られて歯を折ってるんですね。奥歯2本。ところがその時すでに女優として結構活躍してるんですよ。4才くらいから子役でずっと出てたんですよ。

(赤江・山里)へー!

(町山智浩)それなのにデモに参加して歯を折られたりしている人でね。すごくいろいろすごいんですけど。で、27才の時に映画監督をして、すでにアカデミー賞にノミネートされているんですよ。だからちょっと天才っていうか、人より早いんですね。結構。で、27才の時に撮った映画っていうのが本当にいい映画でですね、『アウェイ・フロム・ハー』っていうタイトルの映画なんですけど。これ、70才過ぎた夫婦で奥さんが認知症になってしまうっていう映画なんですよ。

(山里亮太)はい。

(町山智浩)これを27才で撮ったんですよ。

(赤江珠緒)たしかに、興味を持つ視点がちょっと違うかもしれない。同年代の人と。

(町山智浩)ものすごくたぶんね、早い人だと思うんですよ。ちなみにそのアウェイ・フロム・ハーの原作小説っていうのは、アリス・マンローっていう人が書いたんですけど。アリス・マンローっていう人は去年のノーベル文学賞受賞者ですよ。これ、日本でも小説出てますから。『イラクサ』っていう短篇集の中に入ってますけど。これ、認知症に奥さんがなっていって、どんどんものを忘れていくんですよ。

(赤江・山里)うん。

(町山智浩)で、旦那のことも忘れていくんですけど、ボソッと言うんですね。『なにもかも忘れてしまうわ。でもあなたの浮気だけは絶対に忘れられないの!』って言うんですよ。

(赤江珠緒)ええっ!?

(町山智浩)『一人ひとり、全員覚えているわ、相手の女!』って言うんですよ。怖っ!っていうね。

(山里亮太)ええっ!?心温まる話じゃないんですか?そういうなんかドロッとした感じの?

(町山智浩)怖いんですよ。いや、本当美しい映画なんですけど。で、しょうがないから老人ホームに入れるんですね。生活ができなくなってくるぐらい認知症がひどくなったんで。奥さんを。で、奥さんを老人ホームに入れたら、奥さんは旦那のことを忘れちゃって。老人ホームにいる別の認知症の老人のことを自分の夫だと思い込むんですよ。で、困ったわけですね。旦那は。で、2人をなんとか引き離そうとするんですけど、その2人は完全に愛し合ってしまって。離れたら、2人とも衰弱していくんですよ。

(赤江・山里)ええー!

(町山智浩)それで旦那が自分の愛する妻であって、昔非常に傷つけてしまった妻に対してどういう形で愛を示せるか?っていう話がアウェイ・フロム・ハーっていう話なんですね。

(赤江珠緒)うわっ、難しい!どうしていいのか・・・難しい。

(町山智浩)これ、あっと驚く解決法を見せるんですけど。この旦那が。ちなみにその解決法に使う、この人75ぐらいの旦那なんですけど、使うテクニック、スキルはですね、この旦那は精力絶倫なんですね。

(赤江・山里)ほう。

(町山智浩)75過ぎてもSEXギンギンの男なんですよ。それがちゃんと伏線になっているという、すごい話でしたけども。

(山里亮太)とんでもない伏線に。

(赤江珠緒)思っていたのとぜんぜん違う・・・

(町山智浩)見てください、映画。アウェイ・フロム・ハー。

(山里亮太)ギンギンが伏線?

(町山智浩)そういう映画をね27才で作ってアカデミー賞にノミネートされている。脚本賞かな?脚色賞かなんかにノミネートされているんですけど。その天才がサラ・ポーリーっていう人なんですけど。まあ結局、お父さんを探しに行くんですね。で、お母さんっていうのが女優だったんですよ。昔。

(赤江珠緒)ええ。

(町山智浩)すごく元気な女優さんで。その頃のテレビかなんかのオーディションを受けているフィルムが出てくるんですけども。すごくハツラツとした明るい美人でですね、もうエネルギーの塊みたいな。元気たっぷりで太陽みたいなお母さんなんですね。

(赤江珠緒)それ、もう実際のお母さんの映像?

(町山智浩)実際のお母さんの女優だった頃のオーディションの映像が出てくるんですけどね。で、すっごい元気なんですけど、調べていくうちにわかったのが、このお母さんは自分たちのお父さんの前に実は家庭があって。お医者さんかなんかの奥さんだったんですけども。そのサラ・ポーリーのお父さんと恋に落ちてしまって、そのためにカナダで初めて離婚裁判で子どもの養育権を失った人なんですよ。

(赤江・山里)えー!

(町山智浩)1960年代終わりだったんで、まだ保守的な時代だったんですね。で、奥さんの方の浮気で離婚したってことでもって、このお母さんは最初の結婚の時の子ども2人の養育権を失ったために、テレビでも報道されて新聞にも載っていたんですよ。それを発見するんですよ。このサラ・ポーリーが。うわっ!みたいな感じで。で、とにかく元気たっぷりで情熱家なんですね。お母さんは。で、そのお父さんは俳優だったんで。で、ファンになって好きになったんですけども。

(赤江・山里)うん。

(町山智浩)お父さんが演劇で演じていた役っていうのはものすごくエネルギッシュでワイルドで。そういうパンクな感じの役だったんで、それに惚れたんですね。お母さんは。で、家族を捨てて転がり込んできたんだけども、結婚してみたら旦那は実は真面目で地味な人だったんですよ。

(赤江・山里)ほう。

(町山智浩)すごく文学青年で。

(赤江珠緒)まあ、役だったりしますからね。それはね。

(町山智浩)そう。役に惚れちゃったんですよ。お母さんは。で、旦那が結婚してみたらとにかく芝居をやめて、すごく真面目に働き出すんですよ。保険会社かなんかに勤めて。で、どうなるか?っていうと、冷めちゃうんですね。このお母さん。

(山里亮太)ああ、そうか。思っていたのと違うと。

(町山智浩)そう。ものすごい、この人にとっては人生はパーティーで、恋愛とか音楽とかそういうのが大好きなんですね。でも旦那さんはそういう人じゃなかったんですよ。で、そのことをサラ・ポーリーがお父さんにインタビューするんですね。『お母さんとの関係はどうだった?』っていう風に追求していくと、お父さんが一言ですね、『まあ、ベッドでの私はウォンバットの死体よりもつまらなかったよね』ってお父さんはボソッと言うんですよ(笑)。

(赤江珠緒)えっ?

(町山智浩)ウォンバットっていうのはオーストラリアに住んでいるネズミみたいな生き物ですけども。

(赤江珠緒)ボテッとしたネズミみたいな。

(町山智浩)そう。それの死体と寝るほうがまだ私とSEXするよりマシだよってことをお父さんがボテッと言うんですよ(笑)。

(赤江珠緒)自虐的な!(笑)。

(山里亮太)すごい自虐的(笑)。

(町山智浩)自虐的(笑)。ぜんぜん役立たずな(笑)。で、これはヤバい!ってことがだんだんわかってくるわけです。このお母さんはたぶん他に男がいただろうってことが。で、いろいろ聞いていくと『いたわよ』って言われるんですね。そのお母さんの友人に。お母さんは近くの、トロントなんですけど。その家族が住んでいるのは。から離れたケベックの方にあるお芝居に出たのと。で、この頃サラ・ポーリーは生まれてないわけですけど、家族を置いて芝居に出に行ったんだと。で、『その時にいた俳優3人のうちの誰かがあなたのお父さんよ』って言われるんですよ。

(山里亮太)ええー!?

(町山智浩)3人とも、結構イケメンなんですよ。それでサラ・ポーリーって女優さんだから、『あ、このうちの誰かが本当の私のパパだ!』って感じにちょっとなるんですよ。『わー、イケメン!』みたいなね。で、まあでもそのへんから先は言いませんけどね。

(赤江・山里)わー!

(町山智浩)そんな甘いもんじゃねーよ!って思いましたけどね。

(赤江珠緒)えっ、そうなの?

(町山智浩)はい。会いに行くんですよ。お父さん候補の人たちに。『私、あなたの娘じゃないの?』って会いに行くんですよ。

(山里亮太)たくましいな、この人!

(町山智浩)すごいですよ、これは。

(山里亮太)で、どっかにたどり着くわけですもんね。絶対。

(町山智浩)まあ、そうなんですけど。それはね、そんなに上手く行かねーよ!って話なんですけどね。

(赤江珠緒)えー、どうなるんだろう?お母さんの過去。

(山里亮太)またしかもこれがさ、とんでもない話なのにドキュメンタリーっていうのがすごいですよね。

(町山智浩)ドキュメンタリーですよ。これ。で、過去のお母さんの映像っていうのは、このお父さんが8ミリが好きで。8ミリでたくさん撮っていたんで、それが使われているんですけどね。で、ただこれでいちばんあれなのは、11才の時にお母さんがガンで亡くなっちゃうんですね。まだ若いのに。サラ・ポーリーが11才の時に。で、そのお父さんとは本当に仲が良くて。子どもたちは結構年が離れているんで、大きくなっちゃってたんで、サラ・ポーリーとお父さん2人だけで、しばらく何年か暮らすんですよ。お母さんが亡くなっているから、本当に心が砕けてるから。そのお父さんは。サラ・ポーリーを自分の妻のように愛してですね。本当に娘と父親がものすごく親密に何年か暮らして。それで映画作りなんかもお父さんから教えてもらっていて。

(山里亮太)へー。

(町山智浩)このサラ・ポーリーにとってはお父さんっていうのは本当にもう、たった1人の本当の親なんですね。それなのに調べていくと、違うんじゃないか?ってことになっていくんですよ。

(山里亮太)悲しい・・・

(町山智浩)で、それをお父さんはぜんぜん知らないんですよ。まったく。

(山里亮太)えっ?お父さんは気づいてないんですか?

(町山智浩)お父さんは気がついてない。サラ・ポーリーのことを本当に自分の娘だと思って、誰よりも愛してるんですよ。ものすごい親密で、普通の親子以上にいまでも親密なんですよ。

(赤江珠緒)えっ、どうするの?

(山里亮太)この映画を見ちゃったら・・・

(町山智浩)そう。でも伝えなきゃなんないんじゃないか?ってことになっていくんですね。お父さんに。っていう、非常に複雑な状況になっていくんですけどもね。まあ、これはすごいですよ。なかなかやれないですよね。

(山里亮太)だって2013年に町山さんがどうしてもこれは紹介したい!って言っていた映画で。やっとですもんね。

(町山智浩)日本公開、こういう映画は遅いんですよ。やっぱりね、トランスフォーマーみたいな映画がいっぱい劇場を取ってますからね!牛乳チューッ!って飲んだりしているような映画なんでね。なかなか難しいんですけどもね。

(赤江珠緒)まあ、でもこれは気になる映画ですね。

(町山智浩)これはね、なかなか面白いところがあってですね。映画の最後にですね、びっくりするんですよ。ええーっ!?っていうオチがあるんですよ、これ。『えっ、それ、有り!?』みたいなオチがついててね。

(山里亮太)えっ、その、それ、有り?の感じってあれですか?園子温さんとかの『TOKYO TRIBE』みたいに『えっ、それ!?』みたいな?

(町山智浩)あ、そういうんじゃなくてね。これね、サラ・ポーリー監督自身がこう言ってるんですけども。『この映画はオーソン・ウェルズ監督のフェイクっていう映画に非常によく似たジャンルの映画である』っていう風に言ってるんですよ。

(赤江・山里)ふん。

(赤江珠緒)ごめんなさい、わかんないや・・・

(町山智浩)映画好きな人はここで『あっ!』と思う人がいるんじゃないかなと思いますけど。

(山里亮太)あ、映画に詳しい人だけへのヒント。いまの。

(赤江珠緒)なるほどね。

(町山智浩)そうなんですね。

(山里亮太)下手に知らないほうがいいよ。

(赤江珠緒)そうか。

(町山智浩)このね、最初お母さんを探る映画だと思って見ていると、最後はサラ・ポーリーと父の愛の物語なんですね。

(山里亮太)はー、なるほど。血はつながってないかもしれない。

(町山智浩)そう。そこもすごいなと思いましたけどね。

(赤江・山里)へー!

(町山智浩)もうすぐ公開なんですよ。

(赤江珠緒)そうですね。8月30日に日本でも公開でございます。

(町山智浩)はい。渋谷ユーロスペースほかで日本でも8月30日から公開です。

(山里亮太)見よう!

(町山智浩)タイトル、もう1回言いますね。『物語る私たち』っていうタイトルです。

(赤江珠緒)ありがとうございます。いや、本当蓮子さん並にこれ気になってくる生き方ですよ。

(町山智浩)もうね、いろいろあるんだってことですね。人生ね。

(赤江珠緒)本当ですね。物語る私たち、ご紹介いただきました。町山さん、来週はどんなお話でしょうか?

(町山智浩)はい。来週は人生いろいろあるおじいさんたちが集まってですね、戦車と戦ったりヘリコプターでですね、ロケット撃ったりする『エクスペンダブルズ3』!

(赤江珠緒)もっと言いようがあるでしょ!(笑)。歴代のアクションスターたちが集まる映画でしょ?

(町山智浩)あ、そっか(笑)。おじいさんたちじゃないですね。

(山里亮太)おじいさんたちが洗車と戦う映画(笑)。見たいけど(笑)。

(町山智浩)はい。取材してきました。スタローンにも会ってきました。

(山里亮太)おー!そのへんの話も。

(町山智浩)はい。来週します。

(赤江珠緒)町山さん、ありがとうございました。

(山里亮太)ありがとうございました。

(町山智浩)はい、どもでした。

<書き起こしおわり>

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