町山智浩 ハリウッドの未来を描く映画『コングレス未来学会議』を語る

町山智浩 ハリウッド映画の未来を描く映画『コングレス』を語る たまむすび

町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』で『戦場でワルツを』のアリ・フォルマン監督最新作、ハリウッドの未来を描くアニメ映画『コングレス未来学会議(The Congress)』を紹介しました。
※町山さんの紹介時はまだ邦題が決まっていなかったため、『コングレス』というタイトルでお話されています。

(赤江珠緒)さて、町山さん。今日はちょっと変わった映画をご紹介いただけると。

(町山智浩)今日はものすごく変な映画でしたよ、見て(笑)。はい。今日は『コングレス(The Congress)』っていうタイトルの映画なんですけど、これ、日本語タイトルがまだ決まっていないんで、原題なんですけど。コングレスっていうのは『会議・議会』っていう意味ですね。

(赤江・山里)はい。

(町山智浩)だからなんか、難しい政治的な映画かと思うじゃないですか?そうじゃなくて、アニメーションです。これ。

(山里亮太)アニメなんですね。

(町山智浩)アニメ映画なんですよ。で、この映画の監督はアリ・フォルマンっていうイスラエルの人なんですけども。この人は2008年にアカデミー賞候補になっている人ですね。『戦場でワルツを』っていう映画でアカデミー賞候補になったんですけども。あ、そうそう。だからいま、イスラエル大変なことになってますね。

『戦場でワルツを』

(赤江珠緒)そうですね。もう停戦するかと思いきや、しないっていうね。どんどんひどくなってますね。

(町山智浩)ねえ。それでまあ、ガザ地区っていうのはパレスチナの人が住んでいるところですけども。住宅地ですから、すごい、1000人以上亡くなっている。イスラエルの攻撃で亡くなっている人の中に、子どもがかなりいるんですよね。それはまあ、ひどいですけども。このアリ・フォルマンという監督の2008年のアカデミー候補作の戦場でワルツをっていう映画は、彼、僕と同い年なんですけども。彼がですね、1982年にイスラエル軍のレバノン侵攻に従軍した時の記憶が元になっている映画なんですよ。

(赤江珠緒)あ、監督ご本人が。

(町山智浩)監督自身が。イスラエルは国民皆兵制度で。男も女も全員兵隊行くんですけど。で、82年に、彼が19才の時にレバノン侵攻っていうのに参加するんですね。レバノン侵攻っていうのは、レバノンっていうのはイスラエルの北側にある隣の国なんですけども。その時、レバノン内でずっと内戦が続いてたんですよ。で、非常に過激なですね、キリスト教右派の軍団が政権をめぐってイスラム教徒側と非常に戦いを繰り広げていて。国内で。それに対して、イスラエルは自分の隣の国にイスラムじゃない宗教の国ができたら、すごく自分たちが安全じゃないですか。

(赤江・山里)はいはい。

(町山智浩)だから、キリスト教右派の軍団を支援し始めたんですね。イスラエル軍が。で、結局軍隊を送り込んで。国境を越えてレバノン領内に突入したんですよ。で、そこで監督のアリ・フォルマン自身が兵隊として参加したんですけども。それから20何年かたっている現在、戦場でなにを見たか、まったく記憶にない、覚えてないんですね。戦争に一緒に行った戦友たちに次々と会って、記憶をもう1回再構築していくっていう話が戦場でワルツをなんですよ。

(山里亮太)ほうほう。

(町山智浩)記憶が非常に曖昧なところを作り上げていくんで、アニメーションなんです。全部。実写だとほら、確固たるものになっちゃうけど。よくわからないから、グニャグニャとしたアニメーションで表現されるんですよ。で、少しずつ思い出して行って、だんだん形になっていく感じなんですね。で、この映画、最後にですね、アリ・フォルマンがなぜ自分が記憶を失ったか?っていうことに直面するんですけど。それは、サブラー・シャティーラ事件っていうのがあったんですね。それは、レバノン領内に、イスラエルの方から逃げていったパレスチナの難民のキャンプがあったんですけども。そこにレバノンのキリスト教右派が突入してですね、3000人殺してるんですよ。大虐殺。

(山里亮太)うわー、大虐殺。

(町山智浩)で、しかもそれをイスラエル側は黙認していたんですね。だからそれに一種、加担しちゃったんですよ。イスラエル軍が。で、このアリ・フォルマンは兵隊としてその現場にいたんですよ。

(赤江珠緒)その現場に。

(町山智浩)はい。だから忘れたくて忘れたってことが、最後にわかるんですよ。

(山里亮太)あまりにもひどい・・・

(町山智浩)あまりにもひどかったんで。で、この映画ずーっとアニメーションなんですけど、いちばん映画の最後にその虐殺の実写映像が出て終わるんですよ。バーッ!っと。子どもたちが殺されている姿が。で、映画がバーン!と終わるんですけど。ものすごいショッキングな映画だったんですね。

(赤江珠緒)本当ですね。

(町山智浩)はい。で、彼の心の傷がそこで初めてわかると。それはイスラエルの人にとっても心の傷だったんだということを、こう・・・

(赤江珠緒)やっぱり人間ってあまりにもひどい記憶は消そうとするんですね。

(町山智浩)忘れようとするんですね。そういう、非常に厳しい映画だったんですけども。まあ、イスラエルは結構映画、たくさん作られているんですけど。反戦映画が多いですよ。すごく。パレスチナ側の映画っていうのもあるんですけど、それも反戦映画が多いですよ。やっぱり、映画を作っている人たちは。映画の敵ですからね、戦争って。作れなくなっちゃうんだから。だからやっぱり戦っている人と、そうじゃない人がいるんだっていうことはわかっておいた方がいいと思うんですよね。みんなが悪いわけじゃないんでね。

(赤江珠緒)うーん。

『コングレス』はすごく変な映画

(町山智浩)はい。で、そのアリ・フォルマン監督の今回の映画、コングレスっていうのはすっごく変な映画なんですよ。まず最初にですね、ハリウッドの映画女優であるロビン・ライトっていう実在の女優さんがいるんですけども。その人が、彼女自身が入っている芸能プロのマネージャーと話しているシーンから始まるんですね。

(山里亮太)はい。

(町山智浩)で、このロビン・ライトっていう女優さんは、現在44・5才なんですけども。実在する女優さんなんですけども。そのマネージャーの人がこう言うんですよ。『ロビン・ライトのことを私はずっと面倒見てきたけども、君はフォレスト・ガンプでヒロインを演じた時は、大スターになる可能性があったんだ』と。

(赤江珠緒)あ、フォレスト・ガンプのヒロイン。

(町山智浩)フォレスト・ガンプのヒロインですよ。トム・ハンクスのヒロインで、ずっとトム・ハンクスが追いかけ続ける幼なじみがロビン・ライトなんですよ。『だけど君はその後、結婚してから子どもを作って家庭に専念して、子育てに専念して。大スターになるチャンスを逃してきたよね』っていう話をしてるんですよ。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)でも、それ本当の話なんですよ(笑)。で、彼女はショーン・ペンっていう俳優さんと結婚して。ショーン・ペンはアカデミー賞とったり、どんどんスター街道まっしぐらになるんですけど。彼女は子どもを2人つくって、結構家庭にこもって。あんまり映画出なくなったんですね。で、『大スターになるチャンスを逃したじゃないか。気がついてみれば、君はもう40過ぎているだろう。ハリウッドではもう最近は35過ぎた女優のための主演映画っていうのは、ほとんど企画されないんだよ』って言われちゃうんですよ。これ、本当の話なんですよ。全部。

(赤江珠緒)リアルな話。はい。

(町山智浩)リアルな話なんですよ。で、彼女にですね、『だからここで一攫千金のチャンスがあるんだ』っていうんですね。そのマネージャーが。ロビン・ライトに対して。で、『なんですか?』って言うと、『ミラマウントという映画会社が君を所有したがっている』って言うんですね。

(赤江珠緒)なに?なんかあやしい。どういうこと?

(町山智浩)『所有ってな、な、なんですか?』って言うと、『君の全身のコンピューターデータを取って、彼らが20年間、勝手に君が主演の映画を作り続けるという契約をしないかね?』って。

(赤江・山里)えっ?

(町山智浩)だからこれ、いま現在ハリウッドの映画でも、結構俳優が出てると思うと、俳優が出ていない映画ってかなりあるんですよ。俳優が実際に演じてないシーンって、かなりあるんですよ。

(山里亮太)へー!

(町山智浩)で、スキャンしてですね、すごく大量のカメラを体のまわりに置いてですね、全身のスキャンをして、皮膚感までとれるらしいんですけど。現在は。で、それをコンピューターで作った人間の人型に当てはめて動かすっていうのがあるんですね。

(赤江・山里)はー!

(町山智浩)それでもう、かなり映画が作られていて。たとえば、もうかなり昔の事実で。『ウォンテッド』っていう映画でアンジェリーナ・ジョリーが主演のアクション映画があったんですけど。僕、その取材に行ったことがあって。その時にアンジェリーナ・ジョリーに『すごいアクションでしたね。走る列車の上で、命がけのアクションでしたね』って言ったら、『私、やってないわよ』ってその時に言われたんですよ。『あれはコンピューターグラフィックスで動かしている人型に私の顔とか体を貼り付けただけよ』って言われたんですよ。

(赤江珠緒)あ、CGでね。

(山里亮太)できちゃうんだ。そんなもん。本当に。

(町山智浩)そうなんですよ。だからそれ、ずいぶん前のことなんで。いま、もっと発達してると思うんですよね。たとえばスパイダーマンシリーズでスパイダーマンがビルの谷間を飛んで行くシーン、あるじゃないですか。あれは、誰も演じてないんですよ。

(赤江珠緒)あ、じゃあもうスタントマンさんとかでもないわけね。

(町山智浩)スタントマンですらないんですよ。もう完全にコンピューターで作られたスパイダーマンが飛んでるんですよね。そういう時代なんで。『だから君、そのデータをくれないか?』って言われるんですよ。『そしたら私が映画会社の方でいくらでも君をスターにしてあげるよ』と。でも、そんなこと、嫌じゃないですか。普通、女優として。ねえ。でも彼女はそれを引き受けるんですけど。それは息子の方にちょっと障害がありまして。耳と目に。で、すごくお金がかかるし、世話をしてあげなきゃいけないんですね。『全盲になる』って言われてしまったので。で、そこの部分はフィクションなんですよ。

(山里亮太)ああ、なるほど。

(町山智浩)そこの部分は現実じゃないんですよ。子ども2人いて、シングルマザーっていうのは本当なんですよ。ショーン・ペンと離婚しましたので。彼女、いま1人なんですね。子どもを育てているんですよ。まだ10代なのかな?で、映画の中ではその子に障害があるんで、彼女は決心してですね。『じゃあ私、20年契約します。私は映画女優をやめて、あなたに映画女優としての全ての権利を渡しますから、お金ください』っていう方を選ぶんですよ。そのロビン・ライトが。

(赤江珠緒)ええ。

(町山智浩)で、その部分はずっと実写なんですよ。アニメ映画だと思って見に行くと、ずっと実写のハリウッドの内輪話みたいなのが続くんですよ。で、結構変な映画で。『君は知らないだろうが、もうキアヌ・リーブスはすでにこの契約を受けているよ』って言うんですけど。

(山里亮太)へー!

(町山智浩)それを聞いた時、『えっ?キアヌ・リーブスが出ている映画、あれキアヌじゃなくてコンピューターなの?』って思ったりするんですけど。まあ、それはジョークなんですけど。

(赤江・山里)はいはいはい。

(町山智浩)そういうね、ところから始まって。突然そこでですね、ちなみにその映画会社の名前がですね、『ミラマウント』っていうんですよ。

(赤江珠緒)ミラマウント。

(町山智浩)ミラマウントっていうんですね。これはミラマックスっていう映画会社があったんですけども。それとパラマウントっていう映画会社の名前を合体させたものなんですよ。で、ミラマウントっていう会社がそれで契約して所有するんですね。これ、面白いのがね、ハリウッドっていうのは大昔は、実際に俳優たちは映画会社の所有物だったんですよ。

(赤江・山里)ふーん。

(町山智浩)昔は1つの映画会社にしか出れなかったんですよ。俳優は。

(赤江珠緒)ああ、日本でもそうでしたもんね。

(町山智浩)日本でもそうだったんですよ。ずっと契約があってね。まあ、それで維持できなくなったんで、全部自由契約にしたんですけど。それに戻る話なんですね。契約制度に。で、まあ・・・ところがここで映画がですね、ブツッと。突然画面にですね、バーン!と『20年後』って出るんですよ。要するに20年たって契約が切れた時になるんですね。未来の。そこに、その60代のロビン・ライトが出てきてですね。砂漠を車で走っているんですよ。

(山里亮太)ほう。

(町山智浩)で、変なセキュリティーがあって。砂漠の真ん中に。すると、『あ、すいません。どこに行かれるんですか?』『これからミラマウントのコングレスに出るんです』って言うんですね。ここでコングレスっていう言葉が出てくるんですよ。で、20年たって契約が切れたんで、俳優たちを全部集めて会議をするんだ。契約更新のための。で、『それに呼ばれているんです』って言うんですね。

(赤江珠緒)ええ。

(町山智浩)で、そうするとセキュリティーがですね、『でもここから先はアニメーションしか入れません』って言うんですよ。『えっ!?』って思うんですけど。すると、『この薬を・・・』って薬を渡されて、その薬を飲むとアニメーションになっちゃうんですね。ロビン・ライトが。64才かなんかの。そっからこの、アニメーションが始まるんですよ。

(赤江・山里)へー!

(町山智浩)コングレスっていう映画、アニメーションなんですけど。映画の3分の1から後がアニメーションになるんですよ。

(赤江珠緒)面白い。はい。

(町山智浩)その薬を飲むと彼女自身がアニメになっちゃうんですけど。そのまわりの砂漠も突然、大海原になって。大海原を巨大な客船とか鯨とかイルカとかが飛び跳ねるんですよ。

(山里亮太)ファンタジーな!

(町山智浩)すっごい画になっていて。それで、またコングレス、会議の会場になるホテルに行くとですね、そこにいるのはジョン・ウェインとか死んだはずの、マリリン・モンローとかそういう俳優たちがいっぱいいるんですよ。

(赤江珠緒)みんなアニメでね。

(町山智浩)みんなアニメだから。それで、コンピューターで蘇らせているんですね。で、またその動きがですね、みんなクネクネクネクネ、なんて言うか昔おもちゃで、くねくね人形ってあったじゃないですか。

(山里亮太)はいはい。ありました。

(町山智浩)針金が入っていて、いろんなポーズがとれる。あれみたいな感じで、動き続けているんですよ。いろんなものが。そのホテルの中に入ると。で、これは昔、マックス・フライシャーというアニメーターがいたんですね。アニメの巨匠なんですけども。この人、あのポパイのアニメを作った人です。で、スーパーマンとかベティ・ブープとかそういったアニメを。

(赤江珠緒)あ、ベティちゃん。

(町山智浩)ベティちゃん、知ってますよね。お尻みたいな顔している女の子。

(赤江珠緒)そうそう(笑)。ニコちゃん大王みたいでしたけども。

(町山智浩)あれ、マックス・フライシャーという監督なんですけども。1930年代にそういうのを作っていたんですね。20年代、30年代に。その人のタッチなんですよ。そっから先は。で、グニュグニュグニュグニュ動いて、またものすごい人数の、要するにホテルの会場に集まっている映画俳優たちだから人数もすごいんですよ。それがみんな異常な動きをしていて。そこがすごいんですね。

(山里亮太)へー!

(町山智浩)ちなみにマックス・フライシャーという監督は宮﨑駿さんにものすごく影響を与えている人で。宮﨑駿監督の作品には、たとえば『ルパン三世』にはマックス・フライシャーがスーパーマンっていうアニメで作ったロボットが出てきたり、あと『千と千尋の神隠し』ってあったじゃないですか。あれ、お風呂屋さんに行くと、変な奇妙な生き物がグニャグニャグニャグニャ動いているじゃないですか。あれがマックス・フライシャーのタッチなんですよ。

(赤江・山里)へー!

(町山智浩)ベティ・ブープは特にそういうのばっかりやっていたんですよ。

(赤江珠緒)はー。あ、でもたしかにここにそのアニメの映像がありますけども。ちょっと宮﨑駿さんの世界のような。廊下を佇んでいる感じとかね。ちょっと似てますよ。

(町山智浩)原点が同じだからなんですけどもね。でね、このコングレスっていうアニメがね、すごいのはね、だいたい10ヶ国合作映画なんですよ。

(赤江珠緒)えっ、10ヶ国?

(町山智浩)10ヶ国ぐらいが合作しているらしいです、これ。これ、大量に、いろんな国ですね。だからイスラエルはもちろんなんですけど、イスラエル、フランス、ベルギー、ポーランド、ルクセンブルグ、ドイツ、フィリピンとかですね。そういう国全部にですね、アニメーションを発注して、全部同時に作っているんですよ。

(赤江・山里)へー!

(町山智浩)で、いま結構そうなっているんですね。アニメって。要するにコンピューターでつながっているから。少しずついろんな国でバラバラに作って合体させていくらしいんですよ。

(赤江珠緒)ああ、そうなんですね。

(町山智浩)はい。で、しかもこの映画は内容がハリウッドに対する、アンチハリウッド的な映画なんで、ハリウッドからお金を得られなかったので。さっき言ったイスラエル、フランス、ベルギー、ポーランドとかそのへんの国全部から少しずつお金を集めて作っているんですね。だからすごく不思議な映画なんですよ。ハリウッドについての映画なんですけども(笑)。ハリウッド以外のものすごい大量の国が協力して作っているというですね、不思議な不思議な映画なんですね。

(赤江珠緒)で、また内容がどうなっていくのか?興味津々ですね。

(山里亮太)そう。まったく・・・

(町山智浩)僕もね、これね、またもう一つ不思議なのが原作があって。これ、原作はポーランドのSF小説家のですね、スタニスワフ・レムっていう人がですね、書いた小説なんですよ。それは『泰平ヨンの未来学会議』っていうタイトルで小説が出ていまして。日本でね。いま、ちなみにこれ、古本だとですね、1万円から10万円ぐらいするらしいんですよ。

(山里亮太)ええっ!?

(町山智浩)日本では。翻訳書が。早く翻訳出せ、バカ!とか思いますけどね(笑)。復刻した方がいいんですけども。それが原作なんですけども。原作の方はハリウッドがどうこうっていう話じゃなくて。ぜんぜん違う話なんですけども、アリ・フォルマン監督は映画界に入っていろいろやっているうちに、『ハリウッドって変だな』って思いはじめて。で、ハリウッドの話にしたらしいんですよね。

(赤江・山里)へー。

(町山智浩)で、まあそのホテルに入って、ハリウッドの映画界の会議が始まるんですけど。そこで発表されることがですね、とんでもない話で。ここが原作に非常に近いところなんですけども。『我々はもう、映画を作らない!』って言うんですよ。『映画を作らない。映画っていうのはもう古い。ストーリーが最初からあって、それを観客が見るっていう事自体が古い。全くそこには観客の自由意志っていうものが存在しないじゃないか』って言うんですね。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)『これからは、映画は薬になる』って言うんですよ。『薬を飲むことによって、映画の主人公に誰もがなれることになる。その薬を我々は開発した。それを発表する』って言うんですよ。そういう会議だったんですよ。

(赤江・山里)へー!

(町山智浩)で、20年たったからそれに契約しろって言われるんですよ。ロビン・ライト。

(赤江珠緒)えっ、その薬を飲むと、スターになっちゃう?

(町山智浩)誰でも映画の中の主人公になれる。俳優になれるっていう話なんですよ。その薬はなんと日本で開発されたってことになってますね。この映画の中では(笑)。日本はすごい!って話になってますけど。という話で、こっから先がすごいんですけども。要するにその薬を、主人公はここに入る時に飲んじゃっているんで。こっから先、どこまでが幻覚で、どこまでが現実か、ぜんぜんわかんなくなっていくんですよ。

(山里亮太)あー!

(町山智浩)それで、『あっ、幻覚だ』と思って。目が覚めたと思って、『いま、あなたは夢を見ていたのよ』って言われて。また話が進むのか?と思うとまた夢で。また夢を見ていたのよって、どこまでが夢だかわかんなくなっていくんですよ。こういう、こっからどんどんグニャグニャになっていきます。話は。

(赤江珠緒)面白いなー!

(山里亮太)どんな結末が待っているんだろう?全く想像つかない。

(町山智浩)全く想像がつかないんですよ。どこに行くんだろう?と思うんですけど。

(赤江珠緒)実写からアニメに入る時も、目が慣れていないのに、スムーズにいけるわけですか?

(町山智浩)あ、これは結構すごい、ある種の薬物をやっているような感じになってますね(笑)。

(赤江珠緒)だって映画ね、実写のやつ見ててアニメになったらちょっとびっくりしますよね。

(町山智浩)サイケデリックなね。昔、ビートルズが作った『イエローサブマリン』とかそういうのにちょっと近い感じなんですけどね。

(山里亮太)あの、映画の『渇き。』なんかもこの前見たら、急に途中でアニメになったりとか。

(町山智浩)あ、そうそうそうそう。ああいう感じですけどね。こっちの方がもっとカラフルでサイケデリックなポップな感じですけどね。でね、この映画がすごく面白いのは、セリフの中でいちいちハリウッドの批評をするんですよ。たとえば『アニメなんかになりたくないわ』とか言ったり。『アニメになれば、コンピューターグラフィックスになれば、年齢なんていくつにもなれる。君はいま40いくつだけれども、20才にも10代にもなれるんだぞ』みたいな話をするんですね。

(赤江・山里)あー。

(町山智浩)すると、これから映画を見ていく中で、なにを信じたらいいのか、わからなくなるんですよ。観客は。これからのハリウッド映画ってものは一体どこまでが本当なんだろうか?って思うんですよね。

(赤江珠緒)CGがね、どんどん多用されていくとね。

(町山智浩)そうなんですよ。それで、『君は永遠に映画の中で若くいられるんだ』って言ったり、それに対して『いや、で・・・』って言っていると、『なに言ってるんだ!すでにハリウッド女優はさんざん整形して年齢、わけがわからないじゃないか!』ってセリフも出てくるんですよ(笑)。

(赤江・山里)(笑)

(赤江珠緒)それ、ハリウッドからね、協力得られないですね。

(町山智浩)そう。顔、つるっつるになっている人とかいますからね。名前出せないですけど。目が釣り上がるからわかるんですよ。フェイスリフトやるとね。それ、出るんですよ。『演技とかコンピューターに入れられちゃったら、それは演技がなくなっちゃうじゃないですか』みたいな話をすると、『なに言ってるんだ!フェイスリフトで顔つっぱっている女優は悲しみも喜びもぜんぜん顔で表現できないぞ!』とかね(笑)。

(山里亮太)20年後ってことをいいことに、言いたい放題。

(町山智浩)言いたい放題言ってるんですけど。これはすごい、痛烈なハリウッド批判なんですよ。

(山里亮太)あー、でも面白いな。

(町山智浩)面白いですね。これ、すごいのは中でロビン・ライト自身が映画の中で、60代のままなんですよ。ずっと。20才年とって、60代として出てきて。『誰でも若くなれる』って言いながら、60代のままでずーっと画面に出演し続けてるんですね。これはすごいなって思いますよ。それで、彼女自身がボブ・ディランの名曲『Forever Young』っていう歌を歌うんですけども。要するに、60代のままでですね。そこがね、また言えないんですけど。その彼女が歌うシーンっていうのが、歌が聞こえてくるシーンっていうのがですね・・・あ、いま歌、流してもらえますかね?

(町山智浩)まあ非常にね、これ『永遠に若々しく』っていう意味なんですけども。彼女は映画の中でこれが流れてくる時に、60いくつなんですよ。それは、映画をご覧になったらですね、意味がわかる。非常にすごいシーンなんで。お楽しみにという感じですね。

(赤江珠緒)わっ!見たいですねー。

(町山智浩)日本公開はまだ決まってないんですよ。決まったら、お知らせします。

(山里亮太)それまでは、前作をね。

(赤江珠緒)戦場でワルツを。こっちは見れますもんね。

(山里亮太)このアニメの感じをちょっとつかんでおきます。

(町山智浩)DVDになってますからね。

(赤江珠緒)はい。わかりました。また面白い映画ですね。

(町山智浩)これは不思議な映画でしたよ。

(赤江珠緒)ありがとうございます。今日は戦場でワルツをのアリ・フォルマン監督の最新作、コングレスをご紹介いただきました。町山さん、ありがとうございました。

(山里亮太)ありがとうございました。

(町山智浩)どもでした。

<書き起こしおわり>

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