町山智浩映画解説 『ゼロ・グラビティ』

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アメリカ在住の映画評論家 町山智浩さんがTBSラジオ『赤江珠緒 たまむすび』で、無重力の世界を描いた映画『ゼロ・グラビティ』について語っていました。


(町山智浩)まあそういったことが背景にあるんですが、今回の映画の方の話に行くとですね、いま政府が閉鎖してるんで、NASAがですね、閉鎖されちゃってるんですよ。

(赤江珠緒)NASAも閉鎖中。

(町山)NASAも止まっちゃってるんですけど、ちょうどNASAがらみの映画が先週、3日前に公開されて、これが記録的な大・大・大・大ヒットなんですよ。アメリカで。その話をします。

(赤江)はい。

(町山)これね、『ゼロ・グラビティ』って映画なんですが。ゼロ・グラビティっていうのは、無重力っていう意味です。これね、ストーリーがものすごく単純で。スペースシャトルで船外作業、要するに宇宙空間に出て宇宙服を着て、ハッブル望遠鏡の修理をしていたら、そこに破片が飛んできて、スペースシャトルが木っ端微塵になって。1人の宇宙飛行士、女性なんですけど、が宇宙にたった1人で放り出されるっていう、それだけの話なんですよ。

(赤江)ええっ!?

(町山)それ以外、ストーリーがないんです。この映画。で、彼女は生き残れるのかどうか?だけなんですよ。

(赤江)シンプルといえば本当、シンプルですね。

(町山)ウルトラシンプルな話なんですけど。これがもう大・大・大ヒットで。どうしてこんなにヒットしたか?っていうと、とにかくその無重力の中で何かをするってことはこんなに大変なのかってことなんですよね。宇宙極限状態で、周りに空気がないわけですよ。それで宇宙服に入っている空気っていうのは量が決まってるわけですよね。だからもう、1分1秒を本当に争う状況で。しかも体を動かしても、どこにも行けないわけですよ。

(山里亮太)はあ。

(町山)で、どうやって生き残るか?って。ずーっと見ている間、息が本当に苦しくなっちゃってね。あの、高所恐怖症の人とか閉所恐怖症の人とかは、本当に見れられないぐらいの映画なんですよ。

(赤江・山里)へー!

(町山)徹底的にそれをやり抜くんですよ。それで、どのくらい観客をその映画の中に取り込むか?ってことでもって、この映画はだいたい上映時間90分の映画なんですけど、中で起こる出来事もだいたい90分なんですよ。

(山里)ああ、リアルタイムで。

リアルタイムで宇宙漂流

(町山)リアルタイムなんですよ。だから、本当に起こっていることを体験するっていう、シミュレーションみたいなもんですね。体感ゲームみたいな映画なんですよ。これが、すごいんですよ。大当たりで。もう。アメリカ。でね、元々発端はですね、主人公は医療関係者。お医者さんなんですけど。女医さんで、宇宙に行って。医者いないとならないんで、スペースシャトルに乗ってるんですけども。で、サンドラ・ブロックっていう女優さんが演じてますが。

(赤江)はい。

(町山)その人がハッブル望遠鏡の修復作業を手伝ってたら、近くのロシアの人工衛星をロシアが撃ち落とすんですね。これ、どうしてか?っていうと、中国とかも自分の人工衛星を撃ち落としてるんですけど、敵の軍事衛星を撃ち落とす練習をしてるんですよ。各国は。

(赤江)ええっ?

(町山)ところがですね、宇宙空間で衛星が爆発するとですね、爆発した破片っていうのは爆発した時の速度で永遠に飛んで行くんですよ。

(赤江)あ、無重力だから。

(山里)抵抗がないから。

(町山)そうそうそう。空気抵抗がないから、それと重力がないからなんですよ。で、その速度は音速を突破して、弾丸ぐらいのスピードで破片が飛んでくるんです。何千という破片が。それが来て、スペースシャトルが木っ端微塵になっちゃうんですね。で、もうサンドラ・ブロックがクルクルクルクル回転しながら、宇宙の彼方へ飛んで行くっていうのが冒頭なんですね。これが予告編でやっている通りなんですけど。日本の映画館でもかかってますけど。

(赤江・山里)はい。

(町山)このね、最初のスペースシャトルから放り出されていくまでの13分間、映画始まってからの13分間はワンカットなんですよ。1回もカットを切ってないんですよ。ずーっと撮りっぱなしなんですよ。リアルタイムなんですよ。これ、ものすごい息が苦しくなっていくんですよ。

(赤江)いや、本当ですね。すごくリアルですね。

(町山)しかもその13分のワンカットの終わりの方は、クルクルクルクル回転したまま、回転が止まらないんですよ。

(赤江)あ、そうかそうか。飛ばされた人間も、回転が止まらなくなるんですね。

(町山)そうなんですよ。人間の重心部分を押されない場合、重心じゃないところを押した場合、全て回転につながっていくんですよ。物は。何を押しても、全部回転するんですよ。で、止まらないです。一度回転しだしたら。

(赤江・山里)うわー・・・

(町山)これ、船酔いしやすい人は見てられないですよ。振り回されている状態だから。しかもね、それをカメラがずーっと撮ってて、最初は外側から回転しているサンドラ・ブロック宇宙飛行士を撮っているんですけども。その内にそのカメラがだんだんヘルメットのガラスの部分、ありますよね。バイザーっていうんですけども。そこに近づいていくと、そのままそのバイザーの中に入っちゃうんですよ。カメラが。

(山里)ああ、目線が変わるんだ。

(町山)しかも、サンドラ・ブロックの顔のところでクルッとカメラが回って。小さいカメラですね。それは。で、サンドラ・ブロックの視点になった後、もう1回ヘルメットの中を出るっていう、すごいカットがありますね。

(赤江・山里)はー!

(山里)酔っちゃいそうだ・・・

(町山)もちろん実際のカメラはそんなことできないわけですけど。デカいし。だからこれは要するにCGなわけですね。コンピュータグラフィックスでやってるわけですけども。これね、撮影にものすごい時間がかかってて。まず最初に、無重力だと物がどういう風に動くっていうシミュレーションをコンピュータでやって、その後シミュレーション通りにアニメでもって全部のシーンを作るんですよ。CGで。

(赤江)えっ?1回、アニメで?

(町山)1回アニメで。で、人間の部分だけ人形みたいなものが入ってるんですね。アニメの中で。それに合せて俳優さんをワイヤーで吊って動かすんですよ、今度は。

(赤江)手間暇かかりますねー!

(町山)すごい手間暇かかるんです。それを今度はCGとまた合体させるんですよ。だから撮影だけで何年もかかってるんですよ。この映画。これね、監督がメキシコ人の監督で、アルフォンソ・キュアロンっていう監督なんですけども。この人はこの前に撮った映画が『トゥモロー・ワールド』っていう映画で。それもね、長い長いカットが続くんですよ。

(赤江)ふん。

(町山)それは車に乗っている主人公たちが車の中でふざけていると、向こうから暴徒がやってきて、彼らに襲われて銃撃されてっていう、すっごい長いシークエンスをそのままワンカットで撮るっていう、神業みたいなことをやってたんですけど。それでもね、せいぜい5分前後なんですよ。ワンカットが。今回、13分ですからね。映画史の記録に残るぐらい長いんですよ。

(赤江)あ、やっぱりそのカットを長くすればするほど、難しいんですか?

(町山)カットを長くすればするほど、難しいっていうか見てるほうが息が苦しくなりますよ。やっぱり息、止まっちゃうんですよ。その間。

(赤江)あ、そうなんだ。

(町山)息詰まるとはまさにこのことで、その主人公たちは酸素がない状況っていうものを、本当に体感する感じになりますよ。

(赤江・山里)へー!

(町山)これ、怖いんですよ。その後、どういう風にして脱出するか?って話で、なかなか言えないんですけども(笑)。

(山里)いちばん大事なところですよ!

(赤江)助からないんじゃないか?っていうポスター見てた状況ですけどね。

(町山)これ、どうやって助かるの?みたいな話なんですけど。とにかく怖いのはね、重力がないってことは、全て武器になってくるんですよ。自分を攻撃する。だからもうちょっと何かに触ろうとする、たとえば空中に浮いているペンとかを取ろうとするにしても、ペンを取る時に上と下から人差し指と親指で挟むようにして取らない限り、先に親指が当たるか先に人差し指が触ると、もうそれ飛んでっちゃうんですよ。つかむことも大変なんですよ。

(赤江)あー。そっか。宇宙ってそんな大変なもんなんですね。

(山里)繊細。

(町山)だから何度もいろんなものが飛んでいこうとして、グッとおさえるってシーンがあったりね、するんですけど。

(赤江・山里)はー!

(町山)で、今度いよいよふっ飛ばされて、何かにつかまってキャッチしようとするじゃないですか。キャッチしようとして、キャッチしそこなったら、その時にたとえばハンドルみたいなものを触ろうとしてハンドルをつかむ時に、つかみそこなってハンドルを触った反動で、反作用で反対方向に飛んでいっちゃうんですよ。

(山里)ああ、なるほど。自分が。

(町山)ものすごい怖いですよ、これ。ものすごい恐怖でね。はあっ!とか、ううっ!って声が出ますよ。これ見ていると。いろんな映画とかアニメとかでSFものって宇宙を舞台にしたものがあるんですけど、実は無重力をちゃんと描いた映画とかって、ほとんどないんですよ。

(赤江・山里)ふんふん。

(町山)『2001年宇宙の旅』っていう1968年に作られた映画がはじめて宇宙の中での無重力とか酸素がない状態とか、そういうものを徹底的にリアルに描いたんですね。音がしないとかですね。で、宇宙空間って音がしないから、宇宙飛行士の耳に聞こえてくるのは自分の息の音だけなんですね。

(山里)へー。ふんふん。

(町山)だから、ハー、ハー、ハー、って音しか聞こえないんですよ。この映画。2001年も、このゼロ・グラビティも。だから物が爆発しても、爆発する音は聞こえないんですよ。

(赤江)あっ、そういう音も聞こえないのか。

(町山)聞こえないんですよ。ただ、ハー、ハー、しか聞こえないんですよ。

(赤江)変質者みたいな状態ですけど。町山さん(笑)。

(山里)いまこの状態だけ聞くとね(笑)。

(町山)これね、機動戦士ガンダムの一番最初のシーンがこれで始まるんですよ。

(赤江)ええっ?ガンダム?

(町山)宇宙空間をモビルスーツのザクっていうもが移動している間、パイロットの息の声だけが聞こえるんですよ。ハー、ハー、っていうの。それは、2001年からとっているんですけど。機動戦士ガンダムってすごく移動だったのは、ずっと無重力をちゃんとやってるんですよ。

(山里)ちゃんと?

(町山)宇宙船の中にいる間、無重力ですよ。ちゃんと。ガンダムって。

(赤江)あ、そうですね。宇宙船に乗る時とか、ちゃんと物もって移動してたりしてましたね。

(山里)つたわってね。

(町山)でもね、それ以外のものは基本的に、『スターウォーズ』にしても『宇宙戦艦ヤマト』にしても、みんな重力あるんですよ。宇宙船の中で。

(山里)あ、そうですね。普通にみんな、歩いてる。

(赤江)くつろいでたりしますね。

(町山)そうなんですよ。宇宙戦艦ヤマトなんて、空母があって、空母の滑走路の上を戦闘機が滑走して離陸するっていう・・・宇宙なんだから、そんなことしなくていいのにね(笑)。とんでもないシーンがありますけど。宇宙ってとにかく弾いたら何でも飛んで行くんですから。

(山里)ちょっと力が加わればいいんですよね。本当はね。

(町山)そういうね、バカバカしいシーンがヤマトにあったりね。ヤマトは宇宙に上下があったりして、めちゃくちゃなんですけども(笑)。でも、スターウォーズとかも重力があるんですよ。宇宙船の中にね。で、『エイリアン』シリーズも宇宙船の中に重力があって、エイリアンの血液がポタッて垂れるっていうシーンがあるんですね。エイリアンの。

(赤江)あー!はい。

(町山)ポタッて垂れないですから。本当は。

(山里)そうだ。ぷよーんと浮いてなきゃいけないんだ。

(町山)そうなんですよ。で、エイリアン2の方にもエイリアンの親玉とロボットが戦うシーンで、ロボットとエイリアンがボトーン!って落ちるってシーンがあるんですけど。落ちないですからね。本当はね。

(赤江)本当だ。そう言われたら・・・

(町山)でもね、撮影する際にはその方が楽なわけですよね。無重力に全部するのって、ものすごい大変なわけですよ。『アポロ13』っていうアポロ13号のを扱った映画では、無重力のシーンを表現するのに無重力状態を作り出す飛行機があって。大っきい貨物用の飛行機を墜落させる形でもって急降下させると、中が無重力状態が近くなる。それを何回も繰り返して、アポロ13っていう映画は無重力を撮影してるんですね。

(赤江)ええっ!?でもそれって一瞬ですよね?

(町山)だから何度も何度も急降下して。大変なんですよ。撮影。

(赤江)それは大変!

(町山)大変なんですよ!無重力ってものすごく撮影が難しいんで、あんまりみんな逃げてごまかしてるんですけど。今回のゼロ・グラビティはそれ自体がテーマなんで徹底的にやってみせるんですよ。それがすごいんですけど。で、話はないんですけど。基本的に。でもね、ものすごく感動するんですよ。

(赤江・山里)へー!

(町山)で、これはね、『ライフ・オブ・パイ』っていう映画があって。要するに、たった1人の男が太平洋を漂流するだけの話だったんですけども。

(赤江・山里)はい。

(町山)あれもそうだし、『127時間』って映画があるんですね。それは渓谷に遊びに行った男が岩に腕を挟まれて、127時間そこで挟まれるっていう映画なんですけど。

(赤江)ええー、イヤな話だな・・・

(町山)すごいイヤな話ですよ、それ(笑)。あんまり言いませんけど。でも、そういう映画って、ただ主人公がたった1人で世界に取り残されて、世界の周りが全部敵で、生き残ろうとするだけの話なんですね。で、前に僕が紹介した本で、『縮みゆく男』っていうのもそうでしたね。人間の体がどんどん小さくなっちゃう。それで生き残る方法っていうのを探ろうとするって話なんですけど。それだけで本当に哲学的になっていくんですね。映画っていうのはね。


(赤江・山里)はー!

(町山)人間がただ生きようとする。ただそれだけなんですけど、ものすごい感動を呼ぶんですよ。でね、非常に感動的なシーンがあってネタバレにならないから言いますけど、サンドラ・ブロックが泣くシーンがあるんですよ。で、ウェンウェン泣くんじゃなくて、涙が目のところにたまっていくんですね。だんだん。たまっていくと、ある程度たまると表面張力でもって球体になって浮かんでいくんですよ。で、それがカメラに向かってどんどん近づいていくんですよ。涙の球体が。するとその、涙の粒の向こう側にサンドラ・ブロックが上下逆になって写っているのが見えるんですね。

(赤江・山里)うん。

(町山)こんなものって見たことないですよ、いままで映画で。

(赤江)涙の球体に。へー!

(町山)すごいセンス・オブ・ワンダーというんですけど、もう見たことのないものを見せてくれる映画ですね。はい。でね、これね、やっぱり3Dで見たほうがいいですね。

(赤江)あ、そうですか。

(町山)とにかくいろんなものが浮遊している映画なんで。これは3Dの醍醐味ですよ!涙にしてもそうだし。あと、いろんなものが飛んでくるんで、思わず避けたくなりますね。見てると。

(赤江)そうでしょうね!

(町山)避けながら見てる感じですけど(笑)。

(赤江)えー、でもこの漆黒の、音もなくて真っ暗なところに1人で。わーっ!って放り出されたみたいな。空気もないみたいなね。怖いわー!

(町山)だから映画見た後ね、地球にいてよかった!重力があってよかった!空気があってよかった!と思いますよ。この映画。

(赤江)そうでしょうね(笑)。

(山里)みんな一歩一歩踏みしめながら(笑)。

(町山)本当、この広い宇宙の中でこんな空間っていうのは、本当に限られたところしかないんだ!っていうのをね、ひしと感じる映画ですね。これね、たぶんアカデミー賞に引っかかってくるだろうし、今年のベスト映画の中にもどんどん入ってくる映画だと思います。

(赤江)そうですか。これ、日本でもね、12月13日公開予定ということで、まもなく見ることができるという映画でございます。うわー、俄然楽しみになってまいりました。

(町山)ということでね、ゼロ・グラビティでした。

(赤江)はい。町山さん、ありがとうございました。

(山里)ありがとうございました。

(町山)どうもでした!

<書き起こしおわり>