町山智浩映画解説 史上最大のゾンビ映画『ワールド・ウォーZ』

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映画評論家の町山智浩さんがTBSラジオ赤江珠緒たまむすびで、ブラッド・ピット製作・主演のゾンビ映画『ワールド・ウォーZ』について紹介していました。

(町山智浩)今日紹介するのはですね、アメリカで大ヒット中の映画なんですけども、史上最大のゾンビ映画、『ワールド・ウォーZ(WORLD WAR Z)』です。どう史上最大かっていうと、これ写真がいってると思うんですけども。これ、写真ちっちゃくてよく分かんないと思うんですけど、うじゃうじゃうじゃっと虫みたいなものがウワーッ!っと盛り上がってくる写真が・・・

(山里亮太)あります。

(町山智浩)ありますよね?これ、人間なんですよ。

(赤江・山里)えっ!?

(山里亮太)壁になんかね、山みたいになってる・・・

(町山智浩)そうそう。何千人もの人間が、人間の上に人間が折り重なって、ウワーッ!っと塊になって動いてる感じなんですよ。これ、全部ゾンビなんですね。

(山里亮太)えーっ!?

(町山智浩)で、今までのゾンビ映画ってのは、すごくシチュエーションとしては限られたところでゾンビが発生して・・・って話が多かったんですけども、これ、ワールド・ウォーなんで全世界大戦なんです。ゾンビ大戦なんですね。全世界でゾンビが同時発生してグッチャングッチャンになるって話なんですよ。

(赤江珠緒)そうですよね。なんか山の中とかじゃなくて、すごく街の中ですよね。

(町山智浩)もう大都会ばっかりなんですよ。だからスケールがデカくて、これ制作費がゾンビ映画市場最大の200億円ですね。

(山里亮太)ほえー!

(町山智浩)で、ゾンビ映画って昔から安くても出来るのがゾンビ映画のいいところだったんですね。

(山里亮太)あ、そうなんですか?

(町山智浩)だってほら、『桐島、部活やめるってよ』でゾンビ映画撮ってるじゃないですか。

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(赤江珠緒)あ、そうですね。

(町山智浩)神木(隆之介)くんが。ああいうことでゾンビ映画って作れるから良かったんですよ。

(赤江珠緒)高校生でも作れるぞと。

(町山智浩)そうそう。メイクとかいらなくて、血糊があればゾンビになれちゃうじゃないですか。顔、ちょっと白く塗って。

(山里亮太)で、ゆっくり歩いて。

(町山智浩)そうそうそう。ってものだったのが、もうそういうレベルじゃなくなっちゃった。今回。

(赤江珠緒)200億かけたと。

(町山智浩)そう。それでどのくらいすごいかって、まず主演がブラッド・ピットなんですよ。で、ブラッド・ピット、今回製作もしてますね。

(赤江珠緒)えー?

(町山智浩)ブラッド・ピットって実はあんまり知られてないんですけど、この人映画会社の社長さんなんですよ。

(赤江珠緒)あ、そうなんですか。

(町山智浩)自分の映画会社『プランB』っていう会社を持ってて、今まで作った映画結構ヒットしててですね。『キック・アス』っていう映画も彼の・・・

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(山里亮太)えっ!?そうなんですか?

(町山智浩)そうなんですよ。あと、『ディパーテッド』っていう映画は彼、出てないですけど、ディカプリオが出てますけど、あれも彼のプロダクションなんですよ。

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(赤江・山里)へー!

(町山智浩)で、結構傑作が多くて、目利きとしてすごく優れてるんですね。で、『マネーボール』っていう映画ありましたけど。オークランドA’sっていう野球チームがお金がないんで、お金がない中でどうやって勝っていくか?っていうのを、ゼネラルマネージャーのブラッド・ピット自身が演じているビリー・ビーンっていう人がいろいろ苦労するっていう映画が『マネーボール』っていう映画だったんですけど、あれも彼が映画化してるんですね。自分でプロデューサーとして。

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(赤江珠緒)ふーん。

(町山智浩)あれがすごく画期的な映画だったのは、原作は日本で出てるんですけど、ほとんどビジネス書なんですよ。つまり、いかに安いコストで人材を集めて利益をあげていくか?っていうことの本なんですよ。書いた人も経済系の人なんですよ。それを物語にしたんですよ。ブラッド・ピットは『マネーボール』っていう映画で。ビリー・ビーンっていうその苦境に立たされた男ががんばるっていう物語に変えたんですよね。ビジネス書を。

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(山里亮太)ふーん。

(町山智浩)これはすごい大変なことで、今回の『ワールド・ウォーZ』も実は原作は物語じゃないんですよ。

(赤江珠緒)物語じゃない?

(町山智浩)物語じゃないんです。これ。元々ね、ゾンビ対策マニュアルみたいな、ゾンビサバイバルマニュアルっていう冗談本があったんですね。これはゾンビが世界中に発生しちゃったんで、そのゾンビとどうやって戦うか?どうやってゾンビの方がたくさんいる中で生きてくか?っていうマニュアルっていうのをデッチ上げた人がいるんですよ。

(赤江珠緒)武井さんみたいじゃないですか。武井壮さんのね、動物との戦い方ね。

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(町山智浩)あ、そうそうそう。そういう冗談本なんですよ。あるわけないのに。それ、マックス・ブルックスっていうコメディアン、お父さんすごく有名なコメディアンのメル・ブルックスっていう人で、その人の息子さんが書いたんですけども。それの続編で、ゾンビマニュアルが必要な世界っていうのはどうなってるか?ってことを書いたのが、『ワールド・ウォーZ』なんですね。

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(赤江珠緒)ほー!

(町山智浩)これは物語じゃなくて、全世界にゾンビが大量に発生していった状況で、それを目撃した人たちの短い証言がたくさん集まっただけの本なんですよ。

(赤江珠緒)え?目撃した人の証言が・・・

(町山智浩)そう。ゾンビ大戦でいろんな目にあうじゃないですか。世界中の人たちが。それを後からインタビューしてった聞き書きが集まってるだけの本なんですよ。

(山里亮太)はー!

(町山智浩)これをどうやって映画化するの?っていうのがあったんですね。で、すごく苦労してブラッド・ピットはシナリオを何回も何回も書き直して。映画撮影中にも撮影を中断して全部撮り直したりを繰り返して、やっと出来たのが今回の『ワールド・ウォーZ』なんですよ。で、作ってる最中から、これ映画化挫折するんじゃないの?ってずっと言われてたんですね。シナリオ書き直しが続いたから。主人公のブラッド・ピット自身は、今回の映画では国連の職員だった人で、国連で紛争地区、アフリカとかアジアとかにある内戦してるところとかに行って、紛争解決するプロフェッショナルがブラッド・ピットなんです。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)で、子供が出来たんで、その血なまぐさい仕事は辞めて、家で子育て一生懸命してるんですけど。でね、交通渋滞にハマっちゃうんです。家族で車乗って移動してたら。で、おかしいな?って思うと、もうすでにゾンビがあふれてるんですよ。街中に。で、これね、噛まれると12秒でゾンビになっちゃうんです。

(赤江珠緒)12秒?

(山里亮太)あ、そういうのもマニュアルに書いてあるんですね。

(町山智浩)ゾンビに噛まれると。すごい早いんです。しかもゾンビのスピードはすごい早いんですよ。だから死んですぐっていうか、ほとんど死んでない状態ですからね。すぐゾンビになった人って。だから普通の人間のスピードで襲ってくるんですよ。

(山里亮太)うわー・・・

(町山智浩)それで自動車に乗っててもね、体当たりして自動車のフロントガラス割ってくるんですよ。でもう、大変なことになっちゃうんですけど、全世界同時に、伝染病みたいなものとして、感染していくんですね。バーッ!っとものすごいスピードで。で、セリフの中で出てくるんですけど、昔スペイン風邪が流行った時に人類の何%が死んだと。あの頃は船しかなかったのにと。いま、こんな飛行機の時代にそういう病気が流行ったらどのぐらい死ぬと思ってるんだ?みたいなセリフが出てくるんですよ。

(山里亮太)はい。

(町山智浩)これは本当、怖いんで。一種の伝染病の映画に見えるんですね。ゾンビ映画っていうよりは。で、その国連の方から彼らだけヘリコプターで助けられて、アメリカの空母に避難するんですけども。『このゾンビ病をなんとか解決する手段を見つけてほしいから、世界中を回ってくれ』って言われるんですね。ブラピが。国連から。で、『えー、やだ!』って言うと、『そしたらお前の家族も守ってあげないよ』って言われて、娘2人いるんですけど、家族を守るためにゾンビ病の対策に世界中を回るっていう話にしてましたね。ブラピが。

(山里亮太)ふんふんふん。

(町山智浩)で、その時に『俺、医学の専門家じゃないんだけど』って言うと、『大丈夫!すごい優秀な医者つけるから!』っつって、天才医者って言われてる医者と2人で、まず韓国に行くんですけども。着陸してすぐにですね、そのお医者さんがドジって自分で自分を撃って死んじゃうんです。いきなり。

(赤江・山里)えっ!?

(町山智浩)いきなり。映画はじまって数十分で。

(赤江珠緒)お医者さんが重要だったんじゃないんですか?

(町山智浩)お医者さんが重要で、ブラピはただ付いて行っただけなのに、冒頭で死んじゃうんですよ。はじまってすぐに。映画が。『うわー!』っていうね。あとはブラピがなんとかするしかないっていう状況になってくるんですね。

(山里亮太)なるほど。

(町山智浩)で、俺も何にもできないよ!っていうんで国連の方に電話すると、『えっ、家族はどうなってもいいの?』って感じで、嫌々仕事するっていう話になってるんですよ。

(赤江珠緒)えっ、でもこんな大量にゾンビが発生しちゃったら、対抗手段あるんですか?

(町山智浩)対抗手段がないんでね、かなりみんなパニック状態になって、何カ所かでキノコ雲が起こって。要するに核攻撃まで起こってるんですね。都市部を全部ゾンビに占領されて、しょうがないから都市ごと滅ぼすって言って、核落としたりしてる状況なんですよ。

(赤江・山里)はー!

(町山智浩)ただ1カ所だけゾンビから戦い抜いてるところがあるって言われて行ってみると、イスラエルなんですね。イスラエルってパレスチナ自治区を、大きな壁で700kmぐらいの長さの壁で隔離してるんですね。

(赤江珠緒)ああ、そうですね。

(町山智浩)はい。ヨルダン川の西側に住んでるパレスチナ人、元々住んでいた人たちなのに、それを壁で壁の向こう側に閉じ込めて、イスラエルの人たちが住んでいる首都の側には入れないようにしてるんですけども。それが功を奏してですね、病原菌が入ってきてないんです。イスラエル首都部にだけは。そこにブラピが行くんですけども、でも西側の壁の向こう側はゾンビだらけになってて。次第にゾンビの人たちがだんだんバラバラに行動していたのが集団行動するようになるんですよ。

(山里亮太)ふん。

(町山智浩)軍隊アリのように。それで、人間の上に人間がどんどんものすごい勢いで乗っていって、壁を越えちゃうんですよ。

(山里亮太)それがさっき紹介してもらった、あの写真の。

(町山智浩)そう。これが予告編とかポスターに入ってるシーンなんですよ。これがものすごい撮影ですね。やっぱりね。CGも使ってますけども。このシーンが凄まじいですね。でね、これを見てるとやっぱり思うのは、これゾンビの話にしてるけど、現実に起こってる話ですよね。

(赤江珠緒)えっ?現実に起こってる話?

(町山智浩)だって、イスラエルの壁の東側の方はものすごく豊かな、金持ちばっかり住んでいるところですよ。イスラエルの。おしゃれで高層ビルが建って、観光客がいてブティックがあって、レストランがあってね。ところが壁の向こう側、パレスチナの人たちはものすごい貧しい状況におかれてるわけですよ。現在。だからゾンビっていうことになってるけど、まさしくそういった形でその、貧富の差みたいなものが見えてくるんですよね。

(赤江・山里)うーん。

(町山智浩)だって中国も・・・この話、中国出てこないんですけど。原作の方には出てきますけど、中国って都市部は田舎の人、入れないんだもん。自由に。

(赤江珠緒)あ、そうですよね。都市部と田舎の人が結婚することも、禁止されてたりしますもんね。

(町山智浩)貧富の差もものすごいですよ。田舎の人たちは、水もないようなところに住んでいて、都市部の人は金が余って仕方なくてフェラーリ3台持っているとかそういう世界ですからね。この差みたいなね、ものっていうのがだんだん見えてくるんですよ。その『助けてくれ!』って言いながらゾンビが『お前らばっかりいい思いしやがって!』って悠々暮らしてる人たちを襲ってくるっていう感じになってくるわけですね。これって、難民ですよね。一種の。

(赤江・山里)あー!

(町山智浩)で、ブラッド・ピットは奥さんがアンジェリーナ・ジョリーっていう人ですけど。まあ正式に籍入れてないですけど、カミさんですよね。奥さんのアンジェリーナ・ジョリーは国連の難民対策で親善大使をやってるんですね。難民高等弁務官事務所から正式に親善大使として世界各地の紛争地域に行って、難民の人たちを支援してるんですよ。アンジェリーナ・ジョリー氏は。ブラッド・ピットも一緒に付いて行ってるんです。だから本当の話に見えてくるんですよ。だんだん見てるうちに。

(赤江珠緒)ああ、なるほど!

(町山智浩)そう。で、いつもブラッド・ピットは髭とか剃って髪の毛も切って、いわゆる俳優のブラッド・ピットをやってるんですけど、今回の映画はブラッド・ピット、私服なんですよ。状態が。髪型も髭もなんていうか本人の状態で。だからすごくリアルなね、ゾンビ映画を通して、現在の世界状況みたいなのが見えてくる話になってますね。

(赤江珠緒)あ、じゃあただただ恐怖・パニックっていうんじゃなくて、ちょっと風刺してるところがあるんですか?

(町山智浩)はい。やっぱりゾンビ映画っていうのはいつもそうなんです。いつも何かを表現してるんですよ。実際に現実の政治とかで起こってることとかを。だからその伝統には乗ってるんですけど。ただ、この映画200億円になった原因っていうのはね、本当はラストシーンっていうのはロシアでゾンビとの大戦争するはずで、その撮影までしてたんですけども、あまりにも血まみれで、これは公開できない!っつって、ラスト撮り直してるんですよ。全部。

(山里亮太)えー!?あ、その分の・・・

(町山智浩)それでこんなにお金かかっちゃってるんですよ。で、ラスト撮り直してるんですけど、そのシーンがね、お金がやっぱりなくなっちゃったのかね、なんかペプシのコマーシャルみたいになっちゃってるんですよ。

(山里亮太)(笑)どんな感じなんだろ?

(町山智浩)(笑)これはね、どうしてそうなったかっていうのはアレですけど、まあ楽しみに・・・なぜ、ペプシが?っていうところがクライマックスに出てくるんで、これは楽しみにっていう感じなんですけど。

(赤江珠緒)ある程度、スジができてからじゃなくて、撮りながらなんとかして・・・

(町山智浩)もうクライマックス撮ったあとで撮り直してるんです。新しいクライマックスを。

(山里亮太)で、その資金がなくなったからひょっとしたらスポンサー・・・

(町山智浩)たぶんペプシからお金もらったんだと思うんですよね(笑)。ただね、これは当たったら3部作にするそうなんで、そしたらロシア編も復活してモト取ると思いますけど。ブラッド・ピットはなかなか商売人なんですよ。実は。

(山里亮太)へー!

(町山智浩)意外な感じですけどね。はい。でね、本人もね、『早くこんな仕事なんかやってないで、子供の世話だけしてたいよ』って言ってるような人なんですね。ちなみにブラッド・ピット夫婦は難民の子供を引き取って養子にしてるんですけど、この映画の中でも両親を失った男の子を引き取るっていうシーンがあってね。『全くの本人じゃないの?お前』って(笑)。ブラッド・ピット自身の人生みたい。で、いろんなところに旅行するといっぱいファンがキャーッ!って寄ってくるじゃないですか。ゾンビみたいに。パパラッチとか。だからバンバン殺しちゃうみたいなね。パパラッチを。そういう感じにも見えて。

(山里亮太)普段のストレスを。

(町山智浩)そう。なかなかね、虚実が入り乱れて非常に面白い映画でした。

(赤江珠緒)そうですね。で、そのイスラエルとパレスチナのところ行くっていうのも、なんかね。アメリカの映画でっていう。

(町山智浩)非常に象徴的なシーンですね。はい。ということで、『ワールド・ウォーZ』でした。はい。


(山里亮太)これ、日本で見れるんですよね?

(町山智浩)これ、いつ公開かな?

(赤江珠緒)8月10日から公開予定ということですね。

(町山智浩)これ、ゾンビ映画ですけど血がほとんど出ないんです。だからお子様も見れます!

(山里亮太)本当ですか?町山さん!お子様ゾンビ・・・

(赤江珠緒)写真見る限りちょっと、凄まじいですけどね。

(町山智浩)これね、だからレイティングを減らすために、最後の大虐殺シーンを撮り直しちゃったんですよ。観客が広く見れるようにっていうので。ということでした。

(赤江珠緒)じゃあいろんなメッセージがこめられているというね、ブラッド・ピット主演最新作『ワールド・ウォーZ』、ご紹介いただきました。町山さん、ありがとうございました。

(山里亮太)ありがとうございました。

(町山智浩)どうもでした!

<書き起こしおわり>