菊地成孔 故・佐藤博さんにaiko「くちびる」を捧げる

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菊地成孔さんがTBSラジオ『菊地成孔の粋な夜電波』で亡くなった佐藤博さんに曲を捧げました。リスナーからの『佐藤博さんへコメントをお願いします』というメールに対して、このように語っていました。


※動画37:00あたりからスタートする部分を書き起こしています。

(菊地)えー、そうですね・・・コメントというのもおこがましい話なので、楽曲にかえさせていただきますが。私、このことをですね、オンエアはおろか、何かしら媒体に書いたことも一回もないですし、プライベートですら誰にも言ったことの無いことなんですよ。要するに自分の心のなかにだけ秘め続けていたことなんですけどね、今日言っちゃいますね。ガチなんで、これは心して聞いてほしいんですけど。

あのー、私ですね、この人から仕事の依頼がね、さっき小泉今日子さんとかお話した通り、どなたとだってやりますよ、基本。『あいつは嫌だ。こいつは・・・』なんてありませんから。でも、この人だけは絶対NGなんですよ。プロデュースとかそんなの、もともとあり得ないですけども、まあどんな話でも全部。『ちょっとサックス吹いてくれ』っていうのもダメです。一瞬でも関わりたくないんですよね、この人と。それはどうしてかっていうと、そんなになったら、絶対この人のこと・・・もう今でもそうなんですけど、ガチで好きになってしまって、絶対コクってしまうと思うんですね。直接。それで振られてしまう、からなのね。そんななったら、私立ち直れないんで、夜電波どころじゃなくなっちゃうんでね。

誰だと思います?誰だと思います?曲とか詞とかはぶっちゃけ、全部同じなんですよね、この人。もうデビューの時から『うわー、やっばいの出た!ヤバイの出ちゃったな。』って思ってたんですけども、でも全く変わらないんですよね。で、おんなじなんですけど、優れた音楽ってのはみんなそうで、結局全部おんなじなのね。とはいえ、おんなじおんなじスキスキスーじゃああまりにも能がねぇんで、ちったぁ屁理屈をこねますけども。あの、ブルーノートってあるでしょ?ジャズ・クラブのことじゃなくて、音楽にはブルーノートっていうソウルフルって言いますかね、節回しの音があるのね。

日本でいちばんブルーノートが上手いシンガー

あれ、日本で一番うまいのはさっきの久保田利伸さんと、この人なのよ。久保田さんはまあ、ああいうスタイルだからブルーノート、デフォルトじゃないですか。でも他にも色々ブルージーでソウルフルな人、いっぱいいるんですけどね。おそらくノーマークなんですけどね、いろんな方が。ノーマークのこの人がブルーノート、一番うまいと思うんですよ。上手いっていうか、血肉化しているの。もう身体に入っているっていうやつですね。そういう意味では本物のブルースシンガーとも言えると思うんですよ。OLさんがね、この人のことをカラオケで好き好きなんて歌おうと思っても、正確には歌えないと思うんです。エグいブルーノートが必ず曲の中に入っているんで。

あのー、この間私ね、夜中の2時ぐらいに1人で、日高屋さんってわかりますか?ラーメンとか餃子のね。そんなに夜中にラーメン・餃子喰って〆るっていうタイプじゃないんで、あんま行ったことないんで初めて行ったんですね。で、品書きみると『うわー、いっぱいあるな!何にしようかな?』なんて言って、スタミナラーメンみたいなのがあって適当にたのんだんですよ。腹ペコペコで、もうその時いろいろ疲れてて。で、まあすぐ出てきますよね。箸持って、さあ食おうと、箸をラーメンのスープの水面に今まさに突き刺さんっていう時があるじゃないですか。もう食おうっていう。突き刺すぞっていうところで、店内のJ-POPの有線から、この人の今からかける曲が突然流れてきたのね。そういうタイプの人です。日本全国、どこに行っても流れてくる可能性があるわけ。

そしたらもう、四小節くらい聴いて動けなくなっちゃって。最初の歌詞で100%掴まれちゃいまして。『それは俺がお前にずっと言いたいこと、そのものなんだよ!』っていうね。で、結局曲が終わるまでラーメン食えませんでしたね。なんで、終わって伸びちゃってね、しかも完全にヤラレちゃってるんで、あんなに腹ペコペコだったのに、もう食欲とかそういう感じじゃなくなっちゃってね。生まれて初めてメシ屋で手つけずに残しましたよ。日高屋さん、ごめんなさい。必ずまた、近いうちに伺いますんで。

いや、まあそれはともかくですね、もうね、ケタが違うんですね。私にとってね。もう分かっちゃった?まあ、分かりませんよね?分かるわけないですよね。この人が全部コーラスを終えてアウトロでマイク持ってグルグル回ったり反ったり屈んだりして、体じゅうから歌って・・・もうね、ちょっとおかしいと思いますよ、あの煌めきは。動物に近いっていうかね。あの、人間っていうより。というわけで、今夜のラストに、この曲をお届けいたします。メールにあった通り、先日この番組でオンエアしたことで、多少は、再評価っていっちゃあおこがましいですけども、きっかけになったのかなと僭越ながら思っていたところ、矢先に佐藤博さんがスタジオで亡くなりましたけれども、佐藤博さんの現状のお仕事ぶりを考えれば、絶対にこの方の歌聴いていたと思うんですよね。

で、一番好きだったはずなんですよ。私の考えでは。なのでもう、佐藤博さんにも、藤本義一さんにもね、この人のこと好きにならずにいられないと思うんです。なんで、お二人にも捧げたいと思います。『ああ、あなたのいない世界には、あたしはいない。』聖書の言葉じゃないですよ。日高屋でこれが流れてきたの。まあ、大変な覚悟でね、だって言ったことない、こんなこと言ったら他はどうなっちゃうんだって話になっちゃうからヤバイじゃないですか。だから胸に秘めていたんですけど、まあ言っちゃいましたけどね。ご紹介したいと思いますが、『えー、さんざん引っ張っといてそれかよ!』とか言う奴がいたら殺すぞ!ホントに。(笑)

それでは、本日のラストナンバーです。私が今、『ああ、自分は恋してるな。』と自覚する時間は、この人の歌を聴いている時以外ないですね。というわけで、菊地成孔の粋な夜電波、CBCラジオでお聴きの皆様は来週お休みです。TBSラジオでは通常通り放送がありますので、よろしくお願いします。また来週日曜日の夜にお会いしましょう。お相手は菊地成孔でした。
それでは、ラストです。aikoで『くちびる』。



<追記>
この放送の翌々週、リスナーからのaikoさんネタメールに対して、菊地さん、こんな風に回答していましたw

リスナーから届いたメールの内容はこんな感じ。「aikoがユーミンの『セシルの週末』を歌っている。『そうよ、下着は黒でタバコは14から。』で、菊地先生、イッてしまうかも?」

菊地さんの回答はこんな感じでした。
(菊地)「えー、イッてしまいますね。とにかく、aikoさんのネタはもう止めてください。いっぱい来ているんですけどね、みなさん転校生に群がる在校生じゃないんですから。『aiko、aiko!』って言って冷やかすのは止めてください。もう、とっくに『セシルの週末』、イッてますから、私。これ、ビュロー菊地チャンネルの日記に書いてありますけど、私の最終的な目的は『地上からaikoさんのファンが1人もいなくなること』です。全員がaikoさんから興味を失い、aikoさんに対してなんとも思わなくなり、この世で私だけがaikoさんを愛しているという状況が私の望む状況ですので、どんどんどんどん離脱していただきたく思いますね!」



<追記2>
その後、夜電波第4シーズン最終回の『シーズン4 粋なリクエスト特集』でこのaikoさん話と曲が再放送されました。曲をかけた後に菊池さんがしたコメント、こんな感じでした。

(菊地成孔)はい、もう今鳥肌たってますけどね(笑)。まあ、この歌で言うと、どこがブルーノートかって言うとね、ファンの方とか何回も聴く方はチェックしていただきたいんですが、『くーちびーる』って言ってるところがブルーノートなんですよ。だから、カラオケでaikoを歌いたい派にとっては、『くーちびーる』のところが難しいポイントになっていると思いますね。

このあとしばらくね・・・もう言っちゃったらズルズルですね(笑)。一回言ったらズルズルで。やっぱり胸に秘めてた時の高まりは、言うと減るなと思いましたけども(笑)。ましてやマスメディアに流しちゃうとね。またしばらく黙っていればほとぼりも冷めるでしょうから、また自分だけに大切にしていきたいと思いますけどね。やっぱり、相変わらず、そんなズルズルになった後で聴いても鳥肌たちますね。

<書き起こしおわり>